俺の取り柄は顔しかない。〜キモオタがイケメン転生したら、ハーレムハッピーエンドを目指せるか〜   作:來馬らんぶ

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第9話 “GTO -グレート転校生、俺-”

 

 

 季節外れの転校生が来る。

 

 第一報がもたらされたのは、約30分前の8時2分13秒。新聞部の自称エース、前園(まえぞの)千紗(ちさ)によってだった。

 

 ドッカンと扉を壊す勢いで開け放ち、月曜の朝一発目に登校してきた千紗は、おはよーちさやんとかけられる挨拶に片手を上げ、またか、今日はなんだなんだともはやおなじみといった反応を示すクラス内に、

 

「大ニュース。転校生がうちのクラスに来るらしいよ――っ!!」

 

 その折角、張った声に対し、反応は冷ややかだった。

 

 正確性は常に二の次。速報のみを第一にした結果の通称、『前園飛ばし速報』である。学年が上がりクラス替えから日も浅いが、もう既にクラスメイトは毎日もたらされる大ニュースに対する応対を覚え始めていた。

 

「みんな、反応鈍くなーい? 転校生だよ転校生。珍しくない?」

「……男、女どっちだよ?」

 

 背後から現れた茶髪の男子、生形(うぶかた)進之介(しんのすけ)

 

「うぶちん、聞いてよー」

 道をゆずりながら、千紗は歯切れよく、

 

「それが信頼できる情報筋によると、すっごいイケメンらしいんだよ‼︎」

「イケメンだぁ? 野郎ども、かいさーん」

 

 一応、聞き耳を立てていた男子たちはちぇーっと落胆を隠そうともせずに、各々の行動を再開する。

 

 一方、女子陣はというと魔法の言葉、イケメンに謝肉祭のごとく活気づいていた。キタコレを連呼する者、青春開始のお知らせの告知などなど、ある意味露骨な態度をさらしていた。

 

「物の見事に明暗分かれてるぜ?」

 

 自分の机の横にカバンを引っ掛けると、進之介は机の上に座ってきた千紗に若干のしかめ面を向けつつ、クラス内を手で示す。

 

「うんうん、仕方ないね。報道が照らす真実とは時に残酷であり、光でもあるのだね」

 

 何言ってるんだこいつはという顔をして、進之介は、

「さっき、信頼できる情報筋って言ってたけど、それ誰だ?」

 

 何の気なしに尋ねれば、ぐぐっと身を低くし小声で、

「誰にも言わないと誓えるかね。うぶちん」

 

「あ、それ、僕も興味があるな」

 

 一つの前の席に座る白峰(しろみね)塔矢(とうや)が、耳ざとく会話に加わってきた。

 

「みねくんも気になる? 仕方がないなー。ここからは有料記事の話だぜぇ?」

「じゃ、いいわ。自分の席に帰れ」

 

 課金という冗談に、冷たくあしらう進之介。しょ、しょんなーご無体なーと合わせる千紗に対し、塔矢はいつも笑っているような顔と評される顔のまま、

 

「二人は仲良いよね。幼馴染なんだっけ?」

「違う。単にガキん時から通ってる塾が一緒だっただけだ」

「家が隣とかそういう関係を期待してたら、残念賞だよ。みねくん」

 

 そういう所が仲良いんだけどねと苦笑しつつ塔矢は、

 

「それで教えてもらえる? 情報筋って」

「それはねー。っと、おはよー黒木さん」

 

 しゅたっと片手を上げる千紗に、進之介と塔矢もおはようと続ける。

 

「おはよう」

 涼やかに返し、三人の背後を抜け、黒木(くろき)稚奈(わかな)は教室の窓際の一番後ろという隅の席につく。

 

「珍しいねー黒木さん。いつも来るの早いのに」

「少し、ね」

 

 最低限といった言葉遣いで答えると、稚奈はカバンから文庫本を取り出すと、挟んでいた栞のページから読書を始めてしまう。

 

 気を取り直すように千紗は咳払いをし、

 

「そう、その情報ソースとはっ」

 

「どもども、皆さん、おはようございまーす」

 

 ずばりと立てていた千紗の人差し指がへなっと折れる。

 

「あらら、あーちゃん、おはよう」

「なるほど。麻倉か」

「ん? どういうこと?」

 

 一人うなずいている進之介に、飲み込めない塔矢は聞き返す。つまりは、情報源ご本人様の登場だと教えられ、なるほどと塔矢も得心がいく。

 

「麻倉、また前園に何か吹き込みやがったな」

「何かとおっしゃいますと?」

「転校生云々の話だよ。またパチ情報じゃないのかよ」

「いえいえ、いつも私は信憑性のある情報しかちーさんにはお教えしてませんよ。ただし、信じるか信じないかは貴方次第というやつです」

 

 それを都市伝説、与太話というんだろーがと進之介がこめかみを押さえていると、

 

「まぁ、今回の転校生に関して言えば、確かですよ。私は実際に目にしましたし、それに」

 

 ちらと、顔を横に向けると、

 

「黒木さんもご覧になってましたよね? というよりかはむしろ、渦中にいらっしゃったと言った方がいいですかね」

 

 いつの間にやら、クラスの注目が葵の周辺に集まっていた。

 

「どういうことだ?」

「いやーなんかですね。さっきうちの生徒が電車で痴漢されたらしく。その犯人が逃げようとしたところを転校生が投げ飛ばして取り押さえたんですよ」

 

 先の発言後にその口ぶりだとまるで稚奈が痴漢の被害にあったかのようで、事実を訂正しなければそれがクラスの共通認識となってしまう。

 

 じろと稚奈は、悪気なしのように見える笑みを浮かべた葵を睨む。

 

 話に加わるのも面倒だが、放置しておくのもまた面倒なことになると稚奈は、栞を挟み、文庫本を閉じる。

 

「1年生の子が下衆(げす)に狙われた。それだけのことよ」

「いやいや、カッコよかったですよ。危険を(かえり)みずに、下手人を告発しようとする様は」

 

 おお、と周囲がどよめく。普段、輪から外れるように一人で自分の世界にこもっている黒木(くろき)稚奈(わかな)といえば、1年の頃から美人で有名であった。しかし、これぞ高嶺の花という近寄りがたいその空気は同性、異性を問わず、遠巻きに眺めることしかできずにいたため、一体どんな人間なのかを周囲は窺い知ることが出来なかったのである。

 

 それが、今の葵の発言で、一端が垣間見えた。黒木さんってそういう人だったんだ。意外。と勝手な感想が口にされる。

 

 案の定、面倒なことになったと稚奈は額に手をやると、

 

「それでも詰めが甘かったわ。あのまま逃していたら恥をさらしてただけだもの。だから、……その、話はあまり広めないで欲しいのだけれど」

「今更じゃないですか。ね、ちーさん?」

「え、あ、うん。で、なんだっけ、犯人が逃げようとしたら、近くにいた例の転校生がすかさず投げ飛ばしたんだよね」

「ええ、それはもう達人の領域でした。綺麗に下手人は一回転して、次の瞬間には地を這ってましたからね」

 

 えいやーと大げさな身振りで葵が語ると、何それ、ドラマみたいじゃーん‼︎ え、ヤバくなーい‼︎ と騒ぎ始める。すごーい。武道とかやってたのかなと。スポーツ系のイケメンとか、胸がドキバクなんですけどぉー。私も守ってもらいたーいとか、そこかしこから甘ったるい声が聞こえてくる。

 

 まったくうちの女子連中はよぉと呆れている進之介と、塔矢は塔矢で相も変わらず困ったように笑っている。

 

「白峰、どう思う」

「転校生のこと?」

 

 ああと首肯する進之介に対し、

「面白いやつだといいなって思うよ。そしたらきっと退屈しない1年になりそうだね」

「退屈しない程度で済むのかね、ほんとうに……」

 

 不安しか感じないでいると、進之介はさっきまで中心で盛り上がりを煽っていた葵の姿が消えていることに気づく。おいおい、もう不二崎(ふじさき)来るぞと黒板上の時計の長針の角度に気を払っていれば、その不二崎が教室に入ってきた。

 

 ご愁傷様と心の中で合掌し、月曜の朝にも変わらずやけにテンションの高い一同に目を丸くしている担任と、すぐに紹介されるであろう転校生にも同じく合掌する。

 

 この空気の中で、自己紹介とはかわいそうに……、と。

 

 

 

 

 ×   ×   ×   ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

 私が呼ぶまでここで待っていてくださいと、不二崎先生に言われ、俺は2−5と書かれたプレートの下でスタンバッていた。

 

 驚愕の事実に気づきながら、である。

 

「やばい、やばいぞ……」

 

 今後のスクールライフを送るにあたり、どんなキャラでいくかを決めていなかったのである。その驚き具合といえば、ぶひょひょと昔の笑い方をしてしまうぐらいである。もぉー俺ってば、うっかりさん。

 

 爽やか王子様キャラとか全身がかゆみで死ぬ。熱血系はテンションがもたなくて死ぬ。厨二病クール系はエターナルフォースブリザードで相手は死ぬ。ショタ系は羞恥プレイで死ぬ。

 

 どうあがいても、死。そんな言葉がよぎる。マストダイとかご勘弁ください。

 

 どうすれば、受け入れてもらえるのか。そんな打算的な考えしか浮かばない。薄っぺらい俺である。

 

 古今東西問わず、転校生はこの困難をどうやってくぐり抜けてきたというのか。尊敬する他ない。

 

 もがく間に、とうとうその瞬間は訪れる。

 

「突然ですが、みんなに転校生を紹介します。それでは真条くん、入ってください」

 

 終わった。もうやるしかない。

 だ、大丈夫。意識を切り替えろ。俺はイケメン大王。そしてハンサム大将軍だ。

 

 いざ、鎌倉。

 

 

 スッと扉を開けて、教室内へと一歩踏み込む。

 

 出来るだけクラスメイトたちへと視線を向けず、ひとまず教卓に立つ不二崎先生だけを見据える。

 

 しかし、耳は息を呑む音とか小声でキタァァとか言って誰かがじたばたしているのを拾いあげてしまう。どうしても、昔の経験でよからぬことを言われてるのではないかと被害妄想が膨らみかけるが一心に足だけを動かす。

 

 平常心平常心。よし、不二崎先生の前まで来た、そして、まず、えー、黒板に名前を書く。

 

 真条 基っと、

 

 よし、ルビも振っとくか。親切心、大事ね。

 

 さて、ここからくるっと180度回るぞ。いくぞ、いきますからね、いっちゃっていいんすよね?

 

 が、緊張とは筋肉も硬くなるわけでして、軸となる左足がコキっという小気味いい音を発すると同時に、右腕を突き出してしまい、犯人はお前だみたいなポーズになっていた。

 

 当然、頭は真っ白になり、

 

「今日から、お前らのクラスメイトになる、真条基(しんじょうはじめ)だ。何か文句あるヤツいるか」

 

 次の瞬間、完全なパクり台詞を口走っていた。

 いやいやグレートなティーチャーじゃないんだぞ。ゴミクズ(G)転校生(T)(O)ですはい。

 

 ポカンとしている皆さんに、光の速さでスクールライフが終わったことを悟る。それはそれは恥ずかしい生涯を送ってきました。

 

 しかし、しかしである。

 

 その時、俺は一条のクモの糸を見つけるに至った。

 

 突き出した指の示す先に、見たことのある黒髪ロングがいたのである。

 

「あぁっ⁉︎ あんたは今朝の⁉︎」

 

 強引でもいい、無理やりでもいい。とにかく意識をそちらに向けて、先ほどのことをなかったことにする。ついでに食パンくわえて曲がり角でぶつかったツンデレみたいな言い方になったのは捨て置く。

 

 当然のように、教室最後部からこちらをまじまじと見つめ返してくるロングに内心、ホントにごめんと謝りつつ、

 

「今朝のあんた、カッコよかったよ」

 

 親指を立てる。さぁこれで、何あの二人もしかして知り合いなの? どこでかしら? みたいに疑問が広がっていくに違いない。そうであってください。

 

「ほら、やっぱり嘘じゃなかったでしょーっ⁉︎」

 

 と思ったのですが。

 威勢良く立ち上がった女子はクラス中を見回すと、間違いではなかったとしきりに連呼している。

 

 まぁ前園にしては、珍しく正しいスクープだったな、だなー、などなど、そこから会話が波及していく。

 

 こ、これはいい感じじゃないか。なかったことに出来るんじゃないか。よ、よし、取り戻す、取り戻して見せるぞ。

 

「はい、はーい、てんこーせいの真条くんに質問タイムを敢行したいでーす」

 

 女子生徒は、エアマイクを握ってるような手つきでこっちまでやってくると、勝手にそれを向けてくる。

 

 は? え、ちょ、先生、これいいんすかと窺うも、やれやれといった感じに苦笑いを浮かべている。なるほど止める気配はないですか、そうですか。

 

「では、では、まずは私から、あ、あたし、前園(まえぞの)千紗(ちさ)、よろしくねっ」

 

 近い。近いぞ。あなた、元気だけが取り柄ですタイプっぽいですねと評したくなる。俺、しかも質問のある方どうぞなんて言ってないからね。

 

「ずばり、今朝、痴漢を投げ飛ばしたというのは本当ですかっ」

 

 げぇーっ。まずそこから聞くのかよ。いきなり痛い所をつくのは芸能リポーターの才能があるのではと思う。

 

 いや、あれはそもそも事故だから、不可抗力だから、責任は確かに俺にもあるけど、三割負担ぐらいだから。

 

 しかし、ここからはもうミスは許されんぞ。どう答えるべきかと逡巡すれば、手首に振動を感じる。

 

 そっと視線を落とすと、腕時計の画面にメッセージが浮かんでいた。

 

 

 あさくら『指示します。そのまま読んでください』

 

 

 きたこれ。どこにいるのか知らないが、今までの流れがわかったうえで、麻倉さんがサポートしてくれるらしい。これで鬼に金棒、虎に翼、へそにピアスだ。

 

 これはもうもらったも同然だと、腕時計に表示された文とアクションを読み取り、

 

「あー、」

 参ったなといわんばかりにぼりぼりと頭をかく、と。次、

 

「誰から聞いたんだそれ?」

「え? あ、それはえっとぉ……」

 

 もう一度、大きくため息をつく。

 

「はぁ――おおかた、(あおい)から聞いたんだろ」

 

 どよめきがはしる。いや俺もそっち側の立場なら確実にどよめいてるよ。なんか下の名前口にしちゃったよ麻倉さんの。許可取ってないんだけど、これ大丈夫ですか。いや、本人からだけどさ。

 

「葵……って、えー、えぇーっ!! 真条くんなんで、あーちゃんの名前知ってんの!?」

 

 いや、そのあだ名っぽいのは知らんけど、あーちゃんて呼んでるのこの子。さんをつけろよこのデコ助野……デコ助ちゃん。

 

 もの凄い指摘したいのをどうにか我慢すれば、

 

「も、もしかしてそういうゴカンケイ……?」

 

 両手で口を覆うという、大げさな驚きようを披露した前園さんはとんでもないことを言い始めた。

 

 ゴ、ゴカンケイってどういうこと、そういうこと? お、大人ってこと? え、え、誰が、誰と?

 

 再び、メッセージ受信の振動を感じて、

 

「違う。ただの幼馴染だっての。あるだろ、よく勘違いされる存在なの。無駄に付き合いが長いだけなのに」

 

 付き合いが長いも何も、昨日初めてお会いしたはずなんすけど。だが、前園さんには思い当たるフシがあるのか、

 

「それホッントよくあるよね‼︎ わかるー‼︎」

「お前、よくわかってんなーっ!!」

 

 超納得していた。窓際で急に立ち上がって同感と叫んだ男子もいるが何この人。急に恥ずかしそうに座り直してるんだけど。窓の外向いちゃってるんだけど。

 

「幼馴染の距離感と彼女彼氏の距離感を履き違えんでもらいたいわけですよ」

 

 知らんがな。こちとら幼馴染なんて年上しかいませんわ。しかも結構、歳離れてるし。

 

「まぁなるほどねー、でも転校だよね? 引越してきたの? なんでまたウチに?」

 

 本題に立ち返った前園さんは、再びエアマイクを構える。同時に届く、新たな文章。はいはい、言いますから。

 

 

 ろくに見もせず、目に入ったものを反射的に読み上げる。

 

 

 

 

婚約者(フィアンセ)、探しに来たんだよ」

 

 

 

 

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