First Floor Bleaching
境界対策課という環境庁神祓部に属する組織であり、言わば警察や消防の様な組織だ。
主な仕事は「境界異常」なる災害から発生する「異界」なる存在を討伐する事にある。
それらの討伐にあたる職員らは、その現代的な装備を見にしている事から「タクティカル祓魔師」と呼ばれている。
これは、その境界対策課に属するある一特殊部隊員のお話。
東京都内某所上空。
黒い塗装が施された払い下げられた2機の軍用中型多目的ヘリ、UH-60ブラックホークが深夜にも関わらず煌めく都心の夜景を見下ろす。
境界対策課が所有するヘリであり、中は祭具で武装した対策課内の特殊作戦部隊「特別禍災対策即応班」の隊員8名が外の風景を見ている。
その中の一人、篠山漣は自らの手にあるペグ射出用ライフルであるM5A1 mod.0の点検をしていた。
M5A1はタクティカル祓魔師の間で一般的なカラビナORZ90とは違い、米軍で使用されているアメリカ製の封魔ライフルであり、M4カービンのような見た目が特徴的であり、またマガジン差し替えだけで対人戦闘も可能となる。
他の隊員もM5A1を手にしている隊員がチラホラ見受けられる。
ヘリの機内で分隊を率いる分隊長、ソーサラー1-1が人差し指を突き立て、ローターの風切り音に負けない大声を張り上げる。
「降下1分前!!」
「「「1分前!」」」
機内全員が同じように人差し指を突き立てて声を張り上げる。
篠山も同じように声を張り上げた。
同時にブリーフィングで聞いていた内容を思い出していた。
今回はある東京近郊の廃墟ビルに出現した異界の処理と後続の浄化班と神祇官が到着するまでに安全を確保、維持すること。
先に現場へ到着した後、連絡が取れなくなった職員の捜索及び回収。
交戦規定は緩和され祭具使用自由。
これだけ聞けば他のタクティカル祓魔師達に回されそうな仕事ではあるが、どうも今回は違うらしい。
というのも、その廃墟ビルで複数の人骨やら呪具やらが見つかり、4階建てのビル自体がある種の呪詛溜りになりつつあるのだそう。
発見者は肝試しに入った学生グループらしく、唯一脱出に成功した男子学生によって今に至るそうだ。
そんな危険地帯に放り込まれる。
呪詛犯罪だけでなくこういった渦災にも放り込まれるのも仕事だと篠山は自分に言い聞かせた。
いつも通り、死と隣り合わせの仕事をするだけ。
なんてことは無い。
《降下30秒、良い狩りをソーサラーチーム》
「30秒前!!」
パイロット機内無線で全員に告げると、操縦桿を巧みに操って封鎖地域上空でブラックホークをホバリングしながら安定させる。
「レディ!!」
分隊長が吼え、ブラックホークの開け放ったドア近くにいた隊員がロープを下へと垂らす。
「ゴー!ゴー!ゴー!」
そして分隊長の合図で次々と隊員はロープを掴んでファストロープ降下で地面へとおりていく。
3番目に篠山もロープを掴み、素早く降下した。
《CP、こちらクロネコ。ソーサラーチームは地上に降り立った。クロネコは帰投する。送れ》
《こちらCP了解。
ソーサラーチームへ通知する。ドローンが現在離陸。到着後はそちらの情報支援に回る。ETA、3分。送れ。》
「ソーサラーリード了解。ソーサラーチームは5分後に到着。通信終わり」
着地すれば既に周辺域の確保と結界の展開は先発の祓魔師達で完了している。
万一抜け出す事が無いように高等術式が組み込まれた二重結界が張られている辺り、ただ事ではないのだろう。
篠山は大きくため息をついた。
ブリーフィングの時から予想はしていたが、明らかに等級Ⅳクラスの案件だ。
だからこそ、即応班である自分達が呼ばれたのだろうが。
「やれやれだ」
面倒事の予感しかしない。
ぽつりと篠山は呟くと降下した他の隊員達と共に、目標のビルへと駆け足で向かう。
全員が気を張り、それぞれが互いの死角をカバーするようにカラビナやM5A1を構えて前進する。
そして、目の前には目標の廃墟ビルが鎮座しているのが見えてきた。
見るからに何か居そうな雰囲気を醸し出すビルに、篠山はほんの僅かに顔をしかめる。
「嫌な場所だ・・・・・・」
「当たり前だ、誰が好き好んでこんなとこに来るかよ」
隣に位置していたの隊員ソーサラー1-6が肩をすくめる。
篠山はため息を小さく吐いて、ヘルメットに装着されている四つ目の暗視装置を目の前に下ろす。
少し路地に入ったせいか、先程と比べて灯が少なく暗い。
しかし、ヘルメットに装備されている四つ目暗視装置のおかげで暗闇の中でも見える。
この暗視装置は暗視機能だけでなく、赤外線から結界、術式までもが"視る"事が出来る代物だ。
あくまでも視るだけであって、何かほかにできることは無いが。
他の隊員達も暗視装置を下ろし、セーフティを解除した。
ここからが本番だ。
「ソーサラーチーム。これより突入する」
1-1の合図と共に、8名のタクティカル祓魔師はビルへと突入を開始した。
だがこの時、誰もがその先に待っていたものを予想する事が出来なかった。