チームが全滅してから丸3日が経った。
帰投後からは装備品類の浄化から身体検査。
そして戦闘報告書の作成に追われ、神祇官からは得た情報やあの廃ビルに関しての尋問まがいの聞き取り調査を受けたり。
非常に濃厚な3日間だった。
まともな睡眠なんてありゃしない。
そして、今日は中臣千萱に呼ばれて彼女のオフィスの前に俺はいる。
今度はどんな尋問が待っているのか。
「全く楽しみだな。
・・・・・・クソが」
あの時、現場にいてチームが命と引き換えに得た情報の全てを持ち去った神祇官だ。
今更、俺に一体なんの用があるのか。
陰鬱な気持ちをため息と共に吐き出し、オフィスへの扉をノックする。
「どうぞ」
落ち着いた彼女の声を聞いて、ドアノブを捻る。
飾りっけ皆無の執務室に千萱はいた。
時間通りだね、と彼女は僅かに微笑むが相変わらず何を考えているのか分からない。
「お呼びでしょうか。中臣千萱参事官補佐」
「呼び立ててすまないね。
今回の"敵"について君にも知っておいて貰った方が良いと思ったのでね。
まぁ、立っていても仕方がない。まずは座ろう」
そういって部屋の隅を占領しているソファを指し示す。
特に拒否する理由もなく、俺はその見るからに座り心地の良さそうなソファに腰掛ける。
見た目通りの座り心地の良さを感じながら、目の前にあるテーブルの上にあるファイルに目を向けた。
だが、直ぐに目線を上げて千萱の方を見つめる。
底知れぬ目の前の女の考えることはよく分からない。
俺のような下っ端が知る必要も、理解する必要もないのだろうが。
「テロリストに関してのファイルですか。俺にこれを読ませるだけに呼び出したのですかね?」
「まぁまぁ、そう慌てないでくれ。それとそんな目を向けられては話がしにくいじゃないか」
「・・・・・・失礼しました」
知らず知らずに彼女を鋭い目付きで見ていたらしい。
全く自覚は無いが、無意識にそういう目で見ていたのだろう。
だが、彼女の足元にはチームの亡骸が横たわっているのかと思うとそういう目を向けてしまう。
「チームの事は残念だと思う。生存者は君だけだ」
「知っています。その犠牲を踏み台にして、貴方が何を得たのかまでは知りませんが」
「近くまた再編成が行われるだろう。だが、吾がいま話したいのはそれではない。
その君の前にあるファイルについてさ」
「これか・・・・・・」
手にしたファイルには『穢血教について』と題されていた。
穢血教。
この名前については聞き覚えがあった。
穢れによって"浄化"された血を崇拝するとかいうイカれたカルト教団だ。
噂だが、禁域となっている八咫ノ川市を根城に各地で散発的にだがテロ行為を続けているという。
俺も何度かこの教団に対する強襲任務も参加している。
この穢血教の信者を何人も手に掛けたか、もう正確な数は覚えていない。
「散々叩いているのに・・・・・・ 懲りない連中だ」
「その穢血教のまたテロを計画している。その資料が君の手元にあるファイルになる」
ファイルを開けば、彼女が作成したであろう資料には攻撃対象となる施設や都市のリストから投入予定兵力、果てには使う呪具の入手先まで記載されている。
あの作戦に彼女が現場にまで出てきた理由か。
それにテロ計画の全貌が手に入る絶好の機会となれば、現場に出てくるのも納得できる。
彼女の得た情報にチーム7人分の価値があるかどうかは分からないが。
少なくとも彼女にとってはあるのだろう。
だが、俺に見せる理由にはならない。
俺は最初に問いかけた疑問をもう一度投げかけた。
すると彼女はその瞳でまるで俺の目の奥を見透かすかのように見ている。
「君たち即応班にとってもある意味では因縁のある相手のはず」
「まぁ・・・・・・ そうですが・・・・・・」
この教団のことはよく知っている。
コイツらとの戦闘で何人もの戦友が殉職している事も。
「ファイルの件は有難いですが、今は結構です。
また必要になれば拝見させていただきます」
「まぁ、君がそう言うのなら吾は止めはしないよ」
「話がこれだけであるのなら、俺は失礼させてもらいます」
そういって俺はソファから立ち上がると、彼女は微笑みながら、頑張り給えよとだけ告げてきた。
俺は何も言わずに彼女の執務室を後にする。
応援する前に、せめてゆっくりと寝かせてくれ。
そのまま俺は寮にある自分の部屋に戻る事にしよう。
自室の中に入ると一気に疲れが津波のように押し寄せてきた。
3日も寝てこなかったツケが回ってきたらしい
記憶が正しければ今日は何も無い。
「寝ちまっても良いよな・・・・・・」
自分に睡眠しても良い免罪符を適当に探しながら、俺は死んだように狩衣を着たままベッドに倒れ込んだ。
そして俺はそのまま意識を手放した。
また、数時間後に叩き起こされるだろうと思いながら。