特別禍災対策即応班   作:Ⅵ号鷲型

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Ready to fire
古き衣


 某県某市郊外。

 夕暮れに照らされたのどかな田舎道を黒いセダンがひた走る。明らかに情景の中で浮いて見えるがそれを指摘する者はいない。

 その車に乗るは境界対策課内でも呪詛犯罪の捜査や呪詛テロを未然に防ぐ部署の長が、その後席に座って頬杖をついてその流れていく景色をただ静かに見ていた。

 家を出て時から何も変わっていない。まるで変わることを拒んでいるかのように。

 

「まるで今の当主のようね…………」

 

 ボソッと呟いたスーツ姿の黒く短い髪の女性、賀茂御幸は視線を手に持っていたスマートフォンへと落とす。

 新着メッセージの通知が来ており、ただ一言「完了」の文字だけを見て微笑んだ。今日から全てが変わると。

 

「久々の家族再会。楽しみね」

 

 スマホを胸ポケットに入れ、再び外へと視線を向けその間も車は静かに目的地へとひた走る。

 

 

 ─────────────────────

 

 御幸を乗せた車が停車は高い塀と門に囲まれた広い和風の屋敷の前だった。

 これこそ賀茂家の邸宅であり実家だ。

 

「到着しました。御幸様」

 

 車を停めた運転手が素早い身のこなしで降り、御幸の席のドアを静かに開ける。

 虫の音だけが響く静かな敷地をゆったりとした足取りで屋敷へと向かった。道中、警備の黒服とすれ違う。

 よく見れば植木の脇には紙垂と注連縄、符が貼り付けられて魔除けの結界が張られていた。

 黒服達も武術に秀でているのも相まって物理的にも霊的にも防備に抜かりはない。

 

「ここも相変わらずね。術式も全く変わってない」

 

 結界術に長けた父であり、現当主が直々に張ったものであれば長らくこの屋敷を守ってきたのも頷ける。

 

 玄関に着くと何もせずに扉が開かれ、従者達が一斉に頭を下げる。

 その中から一人の長い髪をまとめた着物と袴を着た女性が現れる。

 

「おかえりなさいませ。御幸様」

「ただいま帰りました。久しぶりね、安田さん」

 

 にこりと微笑む安田と呼んだ老女に御幸も微笑み返す。彼女は御幸直属の侍女だ。

 小さい頃から遊び相手になってくれたりと付き合いはかなり長く、この家で数少ない信頼の置ける人物だ。

 

「またお世話になるわね。そうだ、兄はもう着いているの?」

「はい。幸人様はお昼頃に到着して、もうお部屋に」

「流石は次期当主。早いわね」

 

 玄関を上がった先に話をしていていた兄が見えてきた。

 狩衣と黒いスーツを掛け合わた服を着て、その上に羽織を羽織った一見すれば柔和で温厚そうな黒髪の男性。だがその中身の黒さは誰よりも知っている。

 安田が何かを察して小さくお辞儀してから脇の部屋へと消えた。

 

「久しぶりだね御幸、元気そうで何です」

 

 いつもの様に微笑みを浮かべ、微笑み返すがいつもより何処か機嫌が良さそうだ。

 これから起こる事を考えれば無理もない。

 

「お久しぶりですお兄様。いえ、"御当主"」

 

 

 ─────────────────────

 

 

「各自、装備を確認の上報告」

 

 4WDの車内で境界対策課支給のジャケットの上にプレートキャリアを着込み、軍用ヘルメットに四つ目のゴーグルを取り付けた祓魔師達。

 その手にはそれぞれが使いやすいようにカスタマイズされた銃型祭具であるM5A1を点検。山間部の舗装されていない道路を車体を揺らしながら突き進む。

 その中で助手席に座るこの、班長である女性祓魔師、識別名"VALKYRIE"が班内無線のスイッチを入れた。

 

「全員、目標はブリーフィングの通り。交戦規定は無制限。目撃者は全員消せ。良いな?」

()()

 

 それぞれの手にしたM5A1に初弾を装填し、そして全員が面布で顔を覆い四つ目のゴーグルを下げる。

 この作戦は公式記録には残らない。いわゆる非正規作戦に従事することとなるが、こうした汚れ仕事は班員たちにとってはいつもの仕事に過ぎない。

 

 そうして車の中で揺られること数分、下車ポイントの空き地に到着。エンジンが止まると同時に全員がゾロゾロと車を降りる。

 降りた四人の祓魔師達の先頭に立つVALKYRIEが無線のスイッチをパチッと入れた。

 

「アルファチーム、作戦開始だ」

 

 森の中に佇む屋敷に向けて、全員が足音も立てず幽霊のように行動を開始したのだった。

 

 

 ─────────────────────

 

 

 同時刻。

 車両や大型特殊祭具の運用を主とする対界異装甲機動班、通称機動班の黒く塗装された輸送ヘリとそれを護衛するように攻撃ヘリが、それぞれ二機ずつ編隊を組んで深夜の空を飛行していた。

 機内の照明の一切は切っており、ヘリのキャビンにいる機動班に随伴する為の祓魔師で構成された対界機甲随伴祓魔班、機甲班の祓魔師達が外を見たりタブレットで任務内容を再確認している。

 無論、先に展開している即応班の支援任務の為に彼らは居る。

 

《機甲班、降下一分前!》

《一分前!!》

 

 機甲班の第一分班長が人差し指で一を示し、班員達も復唱するように同じジェスチャーをして見せる。

 そして即応班と似たような装備をした班員達を見ながら分班長は今日の狩りの大きさを感じていた。

 何せ由緒ある神祇官家の当主が獲物だ。

 狩人は即応班のアルファチームだが、その狩場に邪魔者を入れさせない為に機甲班の分班を二班約二十二名と改修されているとはいえ攻撃ヘリを二機。そして夜間訓練と称して対大型界異用に加護と札を封入したミサイルやら爆弾で爆装した戦闘爆撃機二機が待機している。

 

「今夜は派手な狩りになりそうだな」

 

 そう呟いた矢先、ヘリが機首を持ち上げて急制動を掛けた。大きく揺れる機内だが、班員達は顔色一つ変えずに二つ目のゴーグルを下ろす。

 

《降下地点に到着! 仕事の時間だ!》

《降下! 降下! 降下!》

 

 ロープが投げ下ろされ、ホバリングするヘリコブターから次々と班員達が降下していく。

 もう一機の輸送ヘリに目を向ければ、もう一つの封鎖地点に班を投入すべく護衛の攻撃ヘリを従えて飛び去っていった。今のところ予定通り。

 分班長がロープを掴んだ時、機長がこっちを見ながらサムズアップしていた。

 

《班長、幸運を!》

「そっちもな!!」

 

 ロープをしっかりと掴み、訓練通りのロープ降下で地面へと降り立った。

 

 

 ─────────────────────

 

 

 遠くからヘリのローターが風を切る音が通り過ぎて行くのを聞きながら、御幸は兄の幸人と共に自分の部屋へと歩いていく。

 こうして歩くのは小さい頃以来だ。

 しかし、こうして歩いていると元から身長が高い方とはいえ幸人が大きく見える。

 そんな事をぼんやりと頭の片隅で思いながら、今頃は祓魔師達が展開しているのだろうと考えていた。

 仕事に確かな技術と正確さを持っている機密性の高い班を三班も投入している。だが年には年を入れておこう。

 

「お兄様、手筈通り"カンヌキ"の方は抜いてありますか? 万が一、手抜かりがあると面倒ですので」

「あぁ、それなら心配はいりませんよ。既に抜いて裏口から何時でも入れます。それよりも御幸の用意した祓魔師達は?」

「最高の実力を持った班を手配致しました。機密性も高く外部にも漏れる事はないでしょう」

 

 御幸からの言葉に幸人は満足そうに頷いている。あまり表情や感情を見せない兄であるが今日はやはり嬉しそうだ。

 確かにこの賀茂家を継ぐことができると考えれば、少しくらいは心が弾むのだろう。

 

「さて、それでは私は先に父上からお話を伺ってきます。御幸も遅れないようにして下さいね?」

「もちろんです、お兄様。それではまた後ほど…………」

 

 羽織を羽織直して幸人は二人の父である現当主のいる大広間へと向かい、御幸は自分の部屋の障子に手を掛けた。

 

 障子を開けた先には安田が羽毛布団を準備し、いつでも眠れるように支度してくれている。歳をとっているはずなのに、相変わらず仕事が早い。

 静かに障子を閉めて上掛け布団を丁寧に敷く安田の背中を色の失せた目で見ていた。

 

「御幸様。もうすぐ布団の用意が出来ますよ」

「ありがとう安田さん」

 

 背を向けて枕を静かに置く安田を見ながら、御幸は懐のホルスターに仕舞っていた拳銃を取り出す。

 ポケットからはサイレンサーを取り出して拳銃に取り付ける。

 これからやる事に彼女を巻き込む訳にはいかない。

 静かに銃口をその背中に向けた。

 

「御幸様、大事を成すのですか?」

 

 まさかの言葉にトリガーに掛かった人差し指がピクりと反応するが、目の前の侍女は手を止めることなくシーツを整えている。

 口調からして何となく察してはいたのだろう。

 だがその意思が揺らぐことは無い。

 

「そうね。安田さん、長い間のお務め、ありがとうございました」

 

 カチリと安全装置をチラリと確認し、その背中から心臓の辺りに照準を定めた。彼女はこの忌々しい一族から解放される。

 

「こちらこそ、御幸様にお仕え出来て大変光栄でした。私も満足しております。

 ありがとうございました」

 

 最期の一言を聞き終え、御幸の部屋からは金属同士の擦れる作動音と重いものが倒れる音が響いた。

 

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