アナザーアーカイブ   作:さかみち

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負け戦

 しばらく列車に乗って、アビドスに存在する砂漠までやってきた。目の前に広がるのは砂と打ち捨てられた残骸ばかりだ。ホシノ達がいうように何もなさそうだけど、本当にカイザーは何かをしようとしているのだろうか。

 

「今のところはカイザーに関係ありそうなものは一つもないな」

 

「本当にこの辺りは何もありませんね……。本当にカイザーはここで何かしているのでしょうか?」

 

 周囲を見渡しながら歩いていると、ホシノが立ち止まってある場所を指で指した。そこには他の場所より多くの残骸があり、人が良く来ていたように思える。

 

「今でこそ何もないけど……。この辺りは人のいた形跡が多いでしょ? なんと昔はオアシスがあって、砂祭りなんてやってたんだよー」

 

「なんだか楽しそうな祭りだな。ホシノはその祭りに参加したことあるのか?」

 

「いやー? 私が入学した時には干上がってたからねー。オアシスは船が浮かべられるくらい大きかったらしいけど、見たことないや」

 

 船を浮かべられるほど大きいオアシスも、今は砂に埋もれてしまってその名残はどこにも感じられない。祭りについて語っていたホシノもなんだか残念そうだ。そういえば、あいつも母校には大きな祭りがあって、いつかそれを復活させたいって言ってたな……。

 

「先生! ぼーっとしてないで早く進むわよ!」

 

「ああ! 今行くよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん。前方に何か大きな施設があるようです。おそらくカイザー関係の施設と思われます」

 

 オアシスのあった場所からしばらく移動していると、アヤネが通信越しに教えてくれた。砂煙の中を歩いていくと、大きな施設が見えてきた。

 

「これって……」

 

 前方に見えている建物は周囲に高い壁が立っていて、周囲には戦車や大砲が並んでいる。明らかに普通の施設じゃなさそうだし、おそらくこれが、ヒナの言っていたカイザーの不審な動きの正体だな。

 

「ホシノ、この建物は知っているか?」

 

「ううん、こんなの昔はなかった……」

 

「皆さん! 前方にあるマークを見てください!」

 

「あのマークって……」

 

「カイザーPMC……」

 

「これもカイザー系列の会社なの!?」

 

「しかもPMCですか……。厄介ですね」

 

 ノノミが言うにはPMCは民間軍事会社のことで、プロの傭兵組織のことらしい。なんでアビドスにそんなものが……。

 

「周囲を怪しいやつらがうろついていると聞いたが、まさかアビドスのやつらだったとはな」

 

「誰だ!」

 

「私はカイザーコーポレーションの理事を務めているものだ。アビドスの諸君はよく知っているはずだが?」

 

「カイザーってことはアビドスの借金はこいつたちが……!」

 

「そちらが困っていたから貸したというのに、ずいぶんな態度じゃないか」

 

 いつの間にか周囲を傭兵に取り囲まれてしまった。強引に突破できる状況じゃなさそうだし、今は様子をうかがったほうがいいかもしれない。

 

「何をしに来たのかわからないが、ここはカイザーPMCの土地だ。変なことはしないでいただこう」

 

「しらばっくれないでよ! あんたたちがヘルメット団や便利屋をけしかけてきたことも、借金の代わりに土地を狙っているのも分かっているんだから!」

 

「どこにそんな証拠があるんだ? それに土地は合法的な取引のもとに買収したのだ。文句を言われる筋合いはない。それに、土地を買収した理由を疑っているようだが、学校を手に入れたいわけではない。私たちはアビドスに眠る宝を探すためにここにきているのだ」

 

 俺たちが不正の証拠を何もつかめてないのを確信しているのか、カイザー理事の態度は余裕なままだ。土地を買収した理由も宝探しのためだと言っているが、素直にそれを信じられるわけがない。

 

「この傭兵たちは何なんだ? 宝探しのためにいるとは思えないぞ」

 

「宝探しを邪魔されるかもしれないからな。それとも、たった数人相手にこの戦力を使うとでも? 君たち程度、どうとでもできるのだよ」

 

 そういうとカイザー理事はどこかに連絡をし始めた。そのすぐあと、アヤネの通信越しにカイザーから連絡が聞こえてきた。

 

「そんな!? 借金の利息を上げるなんて……!」

 

「ふざけるな! こんなことが許されていいわけないだろ!」

 

「発言には気を付けることだな。君たちの処遇は私の一存で決まるのだぞ」

 

「くっ……!」

 

 まだ何か切り抜ける方法を探さないと。そう思って考えもまとまらないまま何かを言おうとすると、ホシノに止められてしまった。振り返るとホシノが首を横に振っていた。

 

「……帰ろう。先生、みんな」

 

「ホシノ! でも……!」

 

「熱くなっても向こうにもてあそばれるだけだよ」

 

「ホシノ先輩……」

 

「あのバカな生徒会長と違って、君はやはり賢いようだな」

 

「……」

 

 ホシノはカイザー理事の言葉には反応を示さず、みんなを連れて歩き出した。ホシノが一番悔しいはずなのに、あそこまで我慢しているなんて……。俺がみんなを守らなくちゃいけないはずなのに、何もできないのか……!? 

 

「……ふむ、シャーレの先生。一つ取引をしないか? 君はどうやらそこいらの傭兵や不良より腕がたつようだ。そこで、我がカイザーPMCに入るというのはどうだ」

 

「お前たちに力を貸すわけないだろ!」

 

「ふむ。アビドスの借金について考えてやってもいいのだがな」

 

「なんだと?」

 

 明らかに罠だとわかるけど、すぐにでも飛びついてしまいそうなくらい追い込まれている。俺一人でアビドスの問題が少しでも解決できるのなら、やるしかない。

 

「ダメだよ、先生。そんなことしても誰も喜ばないよ」

 

 ホシノが今までにないくらい真剣な声をにじませながら、手をつかんできた。かなり力が入っているせいかかなり痛い。

 

「でも、もうこれくらいしか方法が無いんじゃ……」

 

「こんな方法で解決しても誰のためにもならないし、納得もしないよ」

 

「そうよ先生! そんなことしなくたって、絶対に何とかして見せるんだから!」

 

「そうですよ! 私たちは運命共同体なんですから、先生を犠牲になんてしません!」

 

「みんな……」

 

「ふん。ここまで啖呵を切ったのだ、増えた利息の分の借金もしっかりと払ってもらおうか」

 

 保証金として一週間以内にカイザーローンに三億円を預託してもらおうか。カイザー理事は少しつまらなそうに吐き捨てた。ホシノの表情は少しも変わらないまま、背を向けて歩き出した。

 

「……みんな、行くよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アビドスに帰ってからは、みんなでどうするかを話し合った。みんなかなり頭に来ていたせいか、話はどんどん過激な方に向かっていったけど、それでもホシノは冷静にみんなをなだめていた。なだめているホシノの様子はいつも通りで、カイザーと対面していた時のような雰囲気は鳴りを潜めていた。

 

「じゃあ、続きは明日にするってことで。今日はもう帰ろうよ」

 

 結局、みんなホシノのいう通りに解散することになった。それぞれが帰っていく中で、シロコは俺に目配せをしてきた。

 

「ホシノ。少し話をしたいんだけど」

 

「どうしたの? シロコちゃんと仲良さげにアイコンタクトとったと思ったら話なんて」

 

「ホシノ先輩。これのことなんだけど……」

 

 シロコが差し出したのは以前見せてくれたホシノの退部届だ。やっぱり、これについて

 聞くために残ったんだな。

 

「それって……。いくら何でもヒトのカバンあさるのはダメでしょー」

 

「うん……ごめんなさい」

 

「もうしちゃだめだよー? 私にもプライベートがあるんだから」

 

 シロコも反省しているのか、頭の上の耳も垂れている。ホシノもそこまで怒っているようには見えないし、揉め事にはならないみたいで安心した。

 

「ホシノ、本題はここからなんだけど……」

 

「やっぱりかぁ。でももう遅いしシロコちゃんは帰ってね。先生にはちゃんと話しておくからさ」

 

「……わかった。先生、よろしくね」

 

 渋々といった感じでシロコは帰っていった。ホシノと二人きりになった部屋はすごく静かで、少しさびしさを感じる。

 

「せっかくだし、少し歩きながら話さない?」

 

 ホシノの提案で、夜の校舎を歩きながら話すことになった。廊下に灯りは無く月明りだけが周囲を照らしている。窓の外を見てみると、建物がなく明かりがついていないせいか星がすごくきれいに見えた。

 

「星がよく見えるでしょ? 実は結構好きなんだよねー」

 

「ああ。旅の先でみた光景を思い出すよ。でもやっぱり、アビドスのことが好きなんだな」

 

「楽しい思い出ばっかりじゃないから正直複雑だけどね?」

 

「ホシノ……」

 

「私が入学したときには何もなかったし、借金も膨れ上がってた。いつも借金に追われてて祭りなんてやる力もなかった」

 

「それでもずっとアビドスに残ってたんだもんな」

 

「うん……。みんなに会えたこの場所が好きなんだろうね」

 

「だったら、なんで退部届なんて書いていたんだ?」

 

「……実は、二年前から変な奴らに勧誘されてたんだ。アビドスを退学して奴らの会社に所属すれば借金の半分を肩代わりするって」

 

「その提案って、今日俺が受けたものと一緒じゃないか? 一体何が目的なんだ?」

 

「奴ら、どうやら傭兵を集めているみたい。勧誘してきた奴は黒服って呼ばれてたくらいしかわからないけど、何か嫌な感じのする奴だった」

 

「一応、どこで会ったのか聞いてもいいか?」

 

「もちろんいいけど……」

 

 何度もホシノを勧誘してきた奴があきらめるとは思えないし、いざというときのために場所は知っておいたほうがいいだろう。

 

「借金のことで悩んでたから退部届なんて書いちゃったけど、そのせいでシロコちゃんを心配させちゃったよね。……うん、もう捨てちゃおうか」

 

 退部届をバラバラにすると、その紙を捨てた。

 

「先生とシロコちゃんには余計な心配かけちゃったよね。話を受けるつもりはなかったから、みんなには話してなかったんだけど、明日ちゃんと話すよ」

 

「ああ。みんな力になってくれるはずだ」

 

「まだほかにいい方法は考えられてないんだけどねー」

 

「自分を犠牲にしても誰のためにもならないって言ったのはホシノだろ? 絶対にほかの方法はあるはずだ」

 

「……うん、そうだよね。いっそ、奇跡でも起きてくれればなぁ」

 

 そうつぶやくホシノにはいつもの余裕そうな雰囲気は感じられない。廊下から星を眺めている顔はどこか遠いところを見ているようで、何か声をかけないとどこかに行ってしまいそうだ。

 

「ホシノ! 俺は最後までアビドスの味方だからな! だから……自分を犠牲にしようなんて考えないでくれ」

 

「今日そうしようとした先生に言われるなんてねー。でも、ありがとう先生」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日朝からアビドスに向かうと、みんなの雰囲気がおかしかった。ホシノ以外のみんなはそろっているけど、何か焦っているようだった。

 

「どうしたんだ? みんな慌てているみたいだけど」

 

「あっ! 先生! これ見てよ!」

 

 セリカが見せてきたものは、昨日ホシノが破いたはずの退部届だった。

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