黒服と話した次の日、俺はゲヘナ学園に来ていた。敷地内に入ると目の前に大きな建物が建っていて、生徒も周りでそれぞれが思い思いに過ごしているようだ。みんなが話していた通り、ここはかなりのマンモス高みたいだ。IDAみたいな感じを思い浮かべていたけど、あそことは少し違った雰囲気だ。
これじゃあヒナを探すのに時間がかかりそうだし、だれか場所を知ってそうな人を探したほうがいいな。誰か知ってそうな人がいないかあたりを見回してみると、銀髪の長いツインテールが見えた。確かあの子は……。
「おーい! 確かイオリだったよな? ヒナを探してるんだけど、どこにいるか心当たりはないか?」
声をかけながら近づいていくと、こちらに気づいたイオリが胡散臭そうにこっちを見ている。やっぱり、この前は敵対していたせいか、あんまり良い印象じゃないみたいだ……。
「……シャーレの先生か。委員長は忙しいんだ。そんな簡単に会えるわけないだろ」
「何とかならないか? どうしても会って話がしたいんだ!」
「……そんなに会いたいのか?」
イオリは少し考えた後、なんだか少し楽しそうにこう提案してきた。
「そうだな、じゃあ土下座して私の足でも舐めたら考えてやる。それが嫌ならすぐに帰るんだな」
ここはゲヘナの敷地内で、周囲には生徒がたくさんいる。こんなところで土下座なんかしたら一気に注目されてしまうし、普通なら断るだろう。でも、今は迷ってなんかいられない。
「……わかった」
「……えっ? お、おい、まさか本当にやるのか!?」
戸惑うイオリの声を上に聞きながら頭を下げ続ける。表情は見えないけど、イオリはかなり戸惑っているみたいだ。少しづつ俺から離れて行っている。騒ぎを聞きつけた周囲の生徒たちがだんだんとこっちに集まってきている気がする。今は頭を下げているから見えてはいないけど、やけに視線を感じる。周囲のざわめきを聞いているうちに少し後悔してきたけど、後に引くわけにはいかない。
「ちょ、ちょっと待て! ちょっとした冗談だ! 本気でやるなんて思わないだろ!」
「それでも、どうしてもヒナに会う必要があるんだ! 頼む、居場所を教えてくれ!」
パニックになっているのか、イオリは俺の話をあまり聞いていないみたいだ。そのまま騒いでいると、ふと視線の数が減って周囲が静かになっていることに気が付いた。少し不思議に思っていると、ずっと頭を下げている俺の前に小さな足が現れた。さっきまで見ていたイオリの足とは違うみたいだけど、いったい……
「なんだか楽しそうね?」
「い、委員長!?」
冷たい声色で俺とイオリに話しかけてきたのは、俺が探していたヒナだった。どうやら周りのみんなはヒナが来たからどこかに行ったのだろうか。ヒナは少しため息をはくと、俺のほうを見てこういった。
「イオリと誰かが騒いでいるって通報があったから様子を見に来たけど……。先生だったのね。その様子だとなにか大事な用事があるみたいだけど?」
「ああ。実は……」
ヒナには今までのアビドスの事情をほとんど話した。アビドスの所有地がカイザーにほとんど買収されていること、ホシノがカイザーの奴らにつかまっていること、今から取り返しに行くから協力してほしいこと。俺が一通り話し終わるまで、ヒナは静かに話を聞いてくれた。
「そう……小鳥遊ホシノが……でも、アビドスの情報を全部話してよかったの?」
「確かにほかの学校に話すのはいけないことかもしれないけど……。ヒナなら信頼できるからさ」
ホシノはほかの学校に悪さをされるから弱みは見せたらいけないって言っていたけど……。ヒナは自分の利益にならないのに俺にカイザーの情報を教えてくれた。だから俺もヒナに隠し事はしたくなかった。
「……そう」
顔をそらしながら少しそっけなさそうに声を出すヒナ。以前あった時には威厳に満ちていてすごい子なんだと思っていたけど、今の姿を見ていると不思議と普通の子供に見えてくる。
「わかった。私たちは先生に協力するわ。一応、以前の騒動の負い目もあることだし……」
「本当か!? 心強いよ!」
「先生みたいに、他人のために全力で何かをできる人を見たのは初めて。でも、だから信じられる」
自分の気持ちを確かめるように声に出した後、ヒナは近くにいたイオリのほうを向く。イオリはさっきまでの騒動から気持ちを切り替えられていないのか、まだ俺から少し距離をとっている。
「イオリ、準備をして。すぐにアビドスに向かうわよ」
「えっ! 私も行くのか!?」
「アビドスの件の反省文は、手伝ってくれたら許してあげるから」
イオリも少し迷った後にうなづいた。そのあとはヒナたちにどうやって協力してもらうかを話し合った。カイザーの基地に乗り込むわけだし、しっかりと作戦を練っておきたい。話し合いの結果、ヒナたちには増援が来ないように基地から離れている戦力の足止めをしてくれることになった。
「じゃあ、後は段取り通りにいこう。よろしく頼むよ、ヒナ、イオリ」
「うん。任せて」
みんなももう準備をし終わっている頃だろうし、俺もすぐに戻らないと。もう対策委員会のみんなには悲しい顔をしてほしくない。今日これから、すべてに決着をつける。
準備を整えた後、俺たちは砂漠に向かっていた。基地まではまだ距離があるけど、所々に傭兵たちが配備されていた。カイザーも俺たちが来るのがわかっていたせいか、かなりの戦力を集めているみたいだな。これだと正面から戦ってたらすぐに囲まれてしまう。
「とにかく、ホシノのいる場所まで突っ切るしかないか……。いこう、みんな」
俺の言葉を合図にカイザーの基地に向かって進み始める。しばらくは順調に進んでいたけど、向こうもドンドン増援を呼んでいるせいか終わりが見えない。いくら敵を無視しながら進んでいても、これじゃいつか取り囲まれてしまう。どうするべきかと迷っていると、突然周囲が砲撃され始めた。俺たちを狙ったものじゃないみたいだけど……。
「いったい誰が……?」
「L118、トリニティの牽引式榴弾砲です!」
「あ、あの……私です……」
「あれ!? ヒフ……」
「わ、私はヒフミじゃなくてファウストです!」
(自分で言っちゃったら意味ないんじゃ?)
「と、とにかく! トリニティ総合学園とは一切関係ありません! 射撃を担当している皆さんにも、そう伝えておきましたので……」
すみません、それくらいしかできず……。と少しうつむきながら言葉を締めた。ヒフミ一人でここまでできるのかはわからないけど、きっと俺たちのために頑張ってくれたんだな。
「ファウストさん! ありがとうございます」
「あはは……。えっと、皆さん、頑張ってください!」
そういうとファウストは通信を切った。さっきの砲撃のおかげか傭兵たちもかなり混乱しているみたいだし、今ならかなり奥まで侵入できそうだ。
「火力支援の後に突撃、定石通りだね」
「はい! 敵は砲撃により混乱状態です! 今のうちに突破しましょう!」
またしばらく進んでいくと、大きな建物が砂に埋もれている場所に出た。地面から少し出ている壁や屋根はどこかで見たことのある雰囲気をしている。不思議な感じがして少し周囲を見渡していると、不意に聞きなれた声が聞こえた。
「……ここはかつてのアビドス高等学校の本館だ。ここまで来たか。アビドス対策委員会」
カイザー理事の声を合図に、周囲の建物から傭兵たちがどんどん出てきた。隠れて待ち伏せていたのか、背後にもかなりの人数が銃を構えている。
「周囲を囲まれましたが……。おそらくこれは敵側の動ける全兵力がここに集まっています。ここを突破できれば……!」
「確かに、この先の実験室に小鳥遊ホシノはいる。しかし、この戦力差を振り切れるならの話だがな」
周りを囲まれてうかつに動けない状況の中、突然爆発が起きた。なんだかどこかで見たことのある爆発だったような……。
「やーっと追いついた! けど、もしかして何か大事なシーンに割り込んじゃった感じ?」
「便利屋、なんでここに!?」
ムツキが笑みを浮かべながら俺達とカイザーを見比べている。もしかして俺たちを助けるためにわざわざここまで来てくれたのか!? シロコたちもなんだか期待しているような目で見ているし……なんだかみんな一緒のことを考えてそうだ。
「社長、なんか嫌な予感がするから、まずは情報を整理してから……」
「ふふっ。私たちがここに来た理由なんて、決まってるでしょう?」
アルはいつもの自信のある笑みを浮かべて傭兵たちのほうに銃を向ける。……なんだか少し小刻みに震えている気がするけど。
「私たちに任せて先に行きなさい!」
「はぁ……」
なんだかカヨコはため息ついているし、ムツキも驚いている。もしかして今勢いで決めたのか? つい気になってアルのほうを見ると、アルは笑みを浮かべながらこう言った。
「そんなに心配しないで? 先生。私たちの強さはあなたたちが一番知っているでしょう?」
「そーだよ、ここは任せちゃってよ」
「……アル、後は頼む」
「! ええ! もちろんよ!」
さっきよりも自信に満ちた表情で即答してくれた。アルたちのことも心配だけど、今は信じて前に進むべきだ。そう言い聞かせて前を向く。そのためにここまで来たんだから。
「便利屋……全部終わったら、その時はラーメンでも食べに行くわよ!」
「ホシノ先輩はあのバンカーの地下にいます!」
どうやらさっきの騒動の間にアヤネが場所を特定してくれていたみたい。もうすぐ、ホシノ先輩を助けられる。そう思うと疲労で重くなった体もまだまだ動けそう。
力強く踏み出そうとする私たちの前に、カイザーの理事が立ちはだかる。便利屋の妨害を抜けてきたのか、さっきよりは少ないけど傭兵も集まっている。カイザーの理事は私たちをどこか恨めしそうに見ている。そのしつこさについ心の声が漏れてしまった。
「しつこい……」
「対策委員会……お前たちはどれだけ苦しめてもいつだってしつこく食い下がってきた。毎日楽しそうに!!」
「あんたみたいなやつが何をしたって、私たちの心は折れたりしないわよ!」
セリカの言葉にみんなでうなづく。……ホシノ先輩がいなくなって心が折れそうになって、今まですごくホシノ先輩に支えてもらってたんだって、改めて思った。だから、今度は私たちがホシノ先輩を支える番。
「ホシノ先輩を返してもらうよ」
「お前たちのせいで、私の計画があぁぁ!」
叫びながらカイザー理事がこちらに向かってくるのを合図に他の傭兵も銃を構える。私たちが迎え撃とうとすると、先生が前に出てきた。咄嗟のことでその横顔は見えなかったけど、いつもとは感じが違う。
「みんな、ここは俺に任せてくれないか?」
「先生?」
先生は腰に掛けていた大剣に手をかける。あの剣はよく目についたから覚えているけど、今までどんな時だって振るったことはなかったはず。一体何をするつもりなのかわからないけど、一人で全員を相手にするのは先生でもきついはずだ。危なくなったら助けられるように構えておこう。そう思った瞬間だった。背筋が凍りそうなほどの悪寒を感じた。
「先生! それは一体……?」
ノノミたちもカイザーたちも、みんなあの剣の異常性を感じ取って動くことが出来ない。剣の周りには風が渦巻いていて、まるで何か力を貯めているようにみえる。
「いくぞ!」
先生が剣を抜いたと思った瞬間、鬼を見た。周囲はカイザーの傭兵たちは地面に倒れていて、地面や砂に埋もれた建物も何かにえぐられたみたいになっている。まるで時間が飛んだようなこの現象は先生がやったことだけはわかる。
「せ、先生! 一体何をしたの!?」
「これは……すごいですね……」
「って! そうじゃないわ! 今はホシノ先輩のところに一刻も早く行かないと!」
確かにあれは普通の人が出来ることじゃない。特にあの鬼はきっといいものじゃない。でも、それを持っているのが先生なら私は信じられる。
「アヤネ、ホシノ先輩はこの先だよね?」
「はい! 早く行きましょう!」
「ここにホシノ先輩がいるはずです!」
カイザーとの決着の後、合流したアヤネと一緒に実験室に向かった。実験室には分厚い扉がついていて、鍵がないと簡単には開きそうにない。周囲に人はいないし鍵を入手するのは難しそう。だったらやることは一つ。
「早く破壊しよう」
「こんのっ!」
みんなで扉に向かって攻撃をする。みんな今までの戦いで疲れ果てているけど、それでも振り絞って頑張っている。
「あともうちょっと……!」
大きな音と一緒に扉が破壊される。急いで中に入ると、ホシノ先輩が拘束されていた。扉を破壊した音で私たちに気づいたのか、驚いた顔で私たちのほうを見ている。
「みんな……なんで……」
「もちろん、ホシノ先輩を助けに来たのよ!」
「大丈夫? ホシノ先輩」
「……ありがとう、シロコちゃん」
驚いているホシノ先輩の背後に回って、拘束を外す。ずっと拘束されていたせいかうまく歩けないホシノ先輩に肩を貸して、みんなのほうに歩いていく。肩に感じる体温は暖かくて、しっかりと重さを感じる。ちゃんと、ホシノ先輩はここにいるんだ。少しだけ肩を持つ手に力が入る。
「ホシノ! 大丈夫か?」
「先生、みんなも……」
ホシノ先輩は私の肩から離れると、私たちのほうに向きなおった。ホシノ先輩に言いたいことはいっぱいあるけど、一番最初に言いたいことは決まっている。頬が緩むのを感じながら、私は言った。
「お帰り、ホシノ先輩」
「お、お帰り! ホシノ先輩!」
みんなで思い思いに声をかける。ホシノ先輩は少し照れくさそうにはにかみながら、私たちのほうをぐるりと見渡す。きっと、私たちが求めている言葉も察しているはず。
「……期待しているのは、あの台詞?」
ホシノ先輩は迷いの晴れた表情でまっすぐこっちを見ている。少し照れくさそうに目線を伏せた後、今まで見たことのないくらいうれしそうな笑顔を浮かべて言ってくれた。
「ただいま」
つたない自分の小説を見ていただきありがとうございます。ブルーアーカイブ、アナザーエデンの魅力的なキャラを表現するのは難しく感じていますが、ここまで話を作れたのは楽しく感じています。これからも細々と続けていくつもりなので、よければ応援よろしくお願いします。