なんだかホシノをデレさせすぎた気がしますが、まあ人たらしのせいということで。
うっすらとですがアビドス3章以降のネタバレがあります。
私がみんなに助けられてから数日がたった。しばらくは後始末とかでいろいろ忙しかったけど、ようやくひと段落ついた。そういうわけで、先生への報告もかねて、対策委員会での定例会議を行うことにしたんだ。会議中のにぎやかなみんなを見ていると、いつもの日常に帰ってこれたんだなって改めて思うよ。
定例会議が終わるころには夕日が校舎を照らしていて少し肌寒くなってきていた。みんなが帰っていく中、私は先生に声をかけた。
「先生、ちょっといい?」
「どうしたんだ? ホシノ」
先生はいつも通りの優しい表情で私のほうを向いてくれた。話はしたかったけど、このまま立ちっぱなしで話すのもどうなんだろう。そう思ってふと窓の外を見ると、うっすらと星が見え始めていた。この学校の周りにはあんまり明るい建物がないからきれいに星が見えるんだよね。……そういえば、前に先生と二人で校舎を歩いたときは星がきれいに見えることに感動してたっけ。
「ちょっと手伝ってくれない?」
先生と一緒に使っていない部屋に放置されていたマットを屋上に運ぶ。おもてなしするつもりで先生を誘ったのに、マットを先生に運んでもらっちゃった。少し申し訳なく思いながら屋上に上がると、冷たい風が優しく髪をなでる。夏は近いけど、夜はまだ冷える。薄着で上がってきたことを少し後悔しながら空を見上げると、空にはきれいな星が広がっていた。
「これは……すごいな!」
先生も気に入ってくれたみたいで、マットを持ったことも忘れて空を見上げている。ここまで喜んでくれてうれしいと思いながら、先生に声をかける。
「マットを敷いてゆっくりしようよー」
「あっ、そうだったな」
マットを敷いて先生と隣り合って座る。一枚しか持ってこなかったせいか、先生との距離が少し近い気がする。内心少し恥ずかしいけど、なんでもないふりをして話しかける。
「……この間は、改めてありがとう、先生」
「ホシノが危険な目にあってたんだ、俺はいつだって力になるよ」
この人は相変わらずお人よしだ。……そんなところが少しあの人に似ているせいか、心配になってきた。ここはしっかりと理由を聞かないと。
「先生はどうしてそんなに助けてくれたの?」
「ホシノやみんなが大切な生徒だからだ。それに、生徒じゃなかったとしても、困っている人がいるなら手を貸してあげたいんだ」
「……最近の先生はすごく忙しいみたいだけど、もしかして人助けしてたから?」
「ああ。いろんなところで騒ぎが起きてるからなぁ……」
なんでもないかのように、それでも少し疲れをにじませながら言う。その姿がひどく気になった私は、少しこわばった声でこんなことを言っていた。
「……助けようとした人が悪党だったらどうするの? 騙されて、そのせいで先生が危険な目に合うかもしれないんだよ」
「それでも、俺は困っている人がいたら手を貸してあげたいんだ。たとえ騙される可能性があっても、放っておいて誰かが悲しむよりはましだ。……やっぱり、放っておけないんだ」
『困っている人がいたら、手を差し伸べるの。お腹を空かせてたり、寒さに凍えてる人がいたら助けてあげるの』
「……」
星を見ながらまっすぐと言い放つ先生の姿が、先輩の姿に重なった。先生も先輩も、人の善意を信じて騙されても、それでも明るく前を向いている。
「先生は危なっかしいなぁ。いつか騙されてコロっと死んじゃうかも……」
「縁起でもないこと言わないでくれよ……」
本当に、すごく心配だ。きっとこの人は誰かが止めようとしても誰かに手を差し伸べるんだろうな。もともといた世界だと仲間の人が居たっていうし、きっと助け合っていたから何とかなってたのかもしれない。でも、ここはキヴォトスで、先生の仲間の人はいない。
「だから、もし悪い大人に騙されて先生が危なくなったら、今度は私が助けてあげるよ」
「ホシノ……。ああ、その時は頼むよ」
……なんだか少し気が抜けちゃった。ぐっと一伸びすると、冷たい風が体を通り抜ける。あったかいからって、上着を持ってこなかったのは失敗だったかな。
「夏までもう少しだけど、まだ夜は冷えるよねぇ」
「俺のでいいなら羽織るか? これは少し小さいけど……」
先生は中世風のなんだかコスプレみたいな服だったり、普通のズボンにジャージを羽織ったような服装だったりするけど、今日は中世の服装のほうだ。今渡してくれたのは先生が肩に羽織っていた赤い肩掛けだ。
「確かにこれじゃ少し小さいかなー。……そうだ! よいしょっと」
「ホ、ホシノ!?」
「えへへ……これなら先生もあったかいでしょー?」
私は先生の胡坐の中にすっぽりと座っている。背もたれ代わりに先生に寄りかかっていると、背中がじんわりと暖かくてなんだか落ち着く。……でも、よくよく考えるとかなり恥ずかしいことしてないかな?
「そういえば先生はアクアリウムに行ったことないんだっけ?」
「確かいろんな魚がみられる大きな施設なんだっけ?」
だんだん恥ずかしくなってきて、少し体が熱くなってきちゃった。きっと顔は赤くなってるかもしれないけど、前を向いているおかげできっと先生にはばれてないよね? 熱くなった顔に冷たい風が当たって、少し気持ちいい。このまま落ち着くまでは風にあたりながら先生と話していようかな。
それからしばらくの間、先生となんでもないことを話していた。クジラの話やアクアリウム。アビドスの校舎に眠るお宝の話。先生も向こうの旅の話やその中で見た景色や食べ物。仲間の人との思い出なんかを面白おかしく語ってくれた。
「ふあぁぁ~」
しばらく話し込んでいると、ついあくびが出てしまった。スマホを見てみると、もうすっかり遅い時間になっていた。さすがにもう解散しないとダメかなぁ。楽しかったしもうちょっと話したかったけど。
「そろそろ校舎に戻るか」
「えー。もうこのマットで朝まで寝ない? 先生も一緒にさ」
「さすがに外で寝ると風邪ひくぞ。それにマットが一つだと狭いだろ?」
「でももう眠くて動きたくないよー」
じゃれあいのつもりでゆるく抗議していると、先生は少し困っているみたいだ。まだ私は先生の膝の上に乗っているから、私がどかないと動けないはずだ。困っている先生を少し楽し気に見ていると、いきなり視点が高く上がった。
「うへぇっ!」
「悪いホシノ。少し運ぶぞ」
「せ、先生……。これって……」
すっかり冷めたはずの顔がまた熱くなるのを感じる。先生は私をお姫様だっこで運んでいる。やるとしても一回持ち上げてマットにおろすとか、そのくらいと思ってたのに……! きっと先生は、私が降ろしてっていえばすぐに降ろしてくれるだろうけど、なんだかそれももったいない。
いっそ楽しんでやろうと、先生の服に指を軽くひっかけて空を見上げる。目に飛び込んできたのは空一面に広がる星。一つ一つがきれいに輝く星に、私は目を奪われた。先生をここに誘ったのは私だけど、こんなにきれいな星を見たのは初めてかも。
「先生。星がきれいだね」
「……ああ。そうだな」
これから先も危ないことに巻き込まれに行くだろう先生を守りたい。この気持ちは本当だけど……。今だけは、この人に甘えてもいいよね。先生の服にかけた指に少し力を込めて、少しだけ体を近づける。先生の体温を感じているとだんだんと眠気が大きくなる。歩くリズムが心地よくて、だんだんと瞼が下がってきた。……今日は、いい夢が見れるかもね。
「……お休み、ホシノ」
「ここはどこぉ~。さっきまでアビドスにいたはずなのに……。暑くて干からびそうだよー」
「のどが渇いた……うわーん! だれかー!」
「同じ砂漠のはずなのに見たことない生き物がいるし、なんだか雰囲気も違うし……」
「……とにかく、人に会いたい……」
「おい、あんた! 大丈夫か!?」
「う、うーん……男の人? ……人!? み、水持ってない!?」
「あ、ああ……ほら、水だ」
「あ、ありがとう……! んっ! んっ! んっ!」
「お、おい……そんな急いで飲まなくても……」
「はー……、生き返ったよー。ありがとう! ……でも、この砂漠何か変じゃない? なんだか変な生き物がうろついているし、この辺りは人が住んでる感じがしないし……」
「……? ここはルチャナ砂漠の西側で、魔物がいっぱい生息している場所だからな。ザルボー……町なら東のほうに行けばあるぞ」
「?? ザルボーなんて聞いたことないけど・・・。まぁとにかく! 人のいるほうに行ってみることにするね!」
「って、ちょっと待ってくれ! さっきまで行き倒れてたんだから一人で行くのは危ないぞ! せめて町までは一緒にいくから待ってくれ!」
「えっ! いいの!? 君、優しいね! じゃあいっしょに……っとと、まだ名前を聞いてなかったよね!」
「そういえばそうだったな。俺はアルド、旅の剣士だ」
「アルド君だね! 私は──」
ユメ先輩のセリフを聞いたとき、なんだかアルドと似ているところがあるなと思って、この話を書きました。きっと根っこが似ている二人は一緒にいたら意気投合したり、ユメ先輩に振り回されたりするんだろうなと妄想してました。あとは「アルド君」呼びとかしそうだなと。
アルドは、ゲーム本編ではキャラクエ含めて死んだり死にかけることも多くありますが、仲間の助けがあって障害を乗り越えてきました。でもこの作品ではその仲間はいない。そんな中でアルドの危うさに気づいて助けてくれる「仲間」のような存在に始めてなったのがホシノでした。
これからもそんなアルドならではの関係性を描けるようにしていきたいと思います。ここまで読んでいただきありがとうございました。