カーテンの隙間から入り込んだ日の光で目が覚めた。たしか、昨日はアリスたちと夜遅くまでゲームをしていたはずだ。多分そのまま寝てしまったのだろう。横では昨日と同じ姿勢のままゲームをしているアリスの姿が見えた。
(もしかして、ずっとやっていたのか……?)
テレビの光で照らされた部室をぐるりと見渡すと、ユズとミドリが横になっているのが見えた。規則正しく肩が上下しているし、ただ眠っているだけみたいだ。でもモモイの姿だけは見えない。もしかしたら寝起きが良くてもうどこかに出かけたのかもしれないな。
「ようやく目覚めたか先生よ」
「あ、ああ。おはよう、アリス。もしかしてずっとゲームしてたのか?」
「はい。どのゲームも神ゲーでした」
満足そうに微笑みながら、ゲームのことを少し思い出しているみたいだ。テレビの光で照らされている姿は、ただのゲームの好きな少女だった。
「ちょっと暗いな・・・」
起きてから薄暗い部屋の中にいたせいか、少し日の光を浴びたくなってきた。部室の奥のカーテンを開いて窓を開ける。朝日が部屋に差し込んで一気に部室の中が明るくなったけど、日の光はそのままミドリとユズにも当たってしまった。
「まぶしい……」
日の光が顔に当たったせいか、ミドリとユズも目が覚めてしまったみたいだ。二人ともまだ眠たそうに眼をこすりながら起き上がっている。
「あっ、先生・・・」
ミドリは俺のほうを見ると、なぜか少し慌てたように髪を整え始めた。ユズはのんびりと伸びをしながら俺のほうを見ている。
「おはよう、二人とも。モモイがどこに行ったのか心当たりはないか?」
「おはようございます・・・」
「おはようございます先生。お姉ちゃんは生徒手帳をもらいに行ったのかも……」
「そういえば、今日取りに行くって言ってたな」
ミドリと軽く話をしていると、すっかり目が覚めたユズが俺のほうを見ているのに気が付いた。会った当初は少し距離があったけど、慣れてくれたのかな。今は少しだけ距離が近くなった気がする。
「先生。き、昨日は楽しんでくれましたか?」
「もちろん。いろんなゲームがあって、どれも楽しかったよ」
「本当ですか? よかったです」
窓から注ぐ朝日を浴びながらみんなで昨日のゲームの感想を話す。穏やかな時間を過ごしていると部室の扉が開いて見慣れた姿が目に入った。
「戻ったよー」
「モモイ、どこ行ってたんだ?」
「ちょっとヴェリタスのところに。アリス、これ受け取って!」
モモイはポケットからカードみたいなものを取り出すと、アリスに差し出した。アリスはそれが何なのかわからないみたいで、持ち上げたりしながら全身を見ている。
「アリスは「正体不明の書類」を手に入れた!」
「ますます言葉が洗練されてるね。それはアリスの学生証だよ!」
「ということは、アリスも正式にミレニアムの生徒になったってことか?」
「そう! 生徒名簿にもヴェリタスがハッキ……いや、登録してくれたから、もうアリスも正式に私たちの仲間だよ!」
「! アリスが「仲間」として合流しました!」
アリスは嬉しそうに学生証を両手で掲げて喜んでいる。なんだか不思議と俺のほうまで嬉しくなってきた。やっぱり「仲間」って響きはいいよな。
「はははっ! アリスもうれしそうだな!」
「それよりお姉ちゃん。さっきハッキングって言わなかった?」
「大丈夫大丈夫! 服装と学生証、それに話し方! この辺は全部解決できたから……。あとは武器だね」
「武器って本当に必要なのか? 俺はまだここの感覚があんまりわかってないんだけど……」
「もちろん! 銃を持ってない人はかなり目立つんだよ?」
「そうなのか?」
「キヴォトスでは銃は必需品!だから、アリスも武器は絶対持っておくべきだよ!」
「でも銃ってどこで手に入れるんだ? 銃を売っている店に行くのか?」
「ううん。エンジニア部に行こうと思ってるんだ」
「エンジニア部……ですか?」
「機械を作ったり修理したりする専門家たちのことを、ミレニアムでは「マイスター」って呼んでるんだけど。エンジニア部はそのマイスターが集まってる、ハードウェアに特化した部活なの」
「機械全般に精通しているし、武器の修理とか改造なんかも担当している部活だから。多分使っていない武器とかもいろいろ残ってるんじゃないかなって。ということで、早速行こうか!」
エンジニア部の部室はゲーム開発部のある建物から少し離れた場所にあった。有名な部らしいし、使っている部室はゲーム開発部の何倍も大きい。近づくにつれて少しだけ油や鉄のにおいがしてくるけど、不思議と嫌な感じはしない。熱意と機械に対する愛を感じられる気がして、会うのが楽しみになってきた。
「ウタハ先輩! 少しいいー?」
「モモイじゃないか。どうしたんだい?」
モモイの声に返事をしながら出てきたのは薄紫の長い髪の少女。モモイとは知り合いなのか、スムーズに話が運んで行っているみたいだ。
「私たちが作った試作品でよければ、どれを持って行っても構わないよ」
そのままモモイたちがアリスの武器を見に行ってしまうと、モモイがウタハと呼んでいた少女が俺のほうに近づいてきた。
「あなたがシャーレの先生かい? 私は白石ウタハ。3年生だよ」
「俺はアルド。今はシャーレで先生をしている。よろしくな」
「こんな格好ですまないね。さっきまで作業していたものだから」
ウタハの恰好は作業の名残か、煤や油でかなり汚れてしまっている。少し恥ずかしそうにしているけど、頑張っている証みたいでかっこいいと思う。それに、なんだか鍛冶仕事をしていた仲間のことを思い出すな。
「俺は大丈夫だ。それに、なんだか鍛冶師をしてた幼馴染を思い出したよ」
「鍛冶師か・・・。キヴォトスには戦闘用の剣を打つような鍛冶師はいないから少し興味があるよ。少し、剣を見せてもらってもいいかい?」
「ああ。いいけど」
ウタハは俺から剣を受け取ると、特に重そうな感じもなく持ち上げる。鞘から剣を抜いて光に当てると、光を反射してウタハを照らす。目を細めながらもじっと剣を見ているその横顔は、やっぱりプロの顔をしていた。
ウタハと一緒に剣を見ていると、しばらくしっかりと手入れできていないことを思い出した。最近切れ味が少し悪いんだよな・・・。
「なあウタハ。剣の手入れをしてくれるような場所を知らないか? 自分で手入れをしていたんだけどそろそろ限界でさ」
「そうだね……。探せば鍛冶屋や砥ぎ師はいるかもしれないけど、戦闘用の剣を扱ってくれる場所には心当たりはないね」
「そうだよな……」
キヴォトスに来てから自分で軽く手入れすることしかできていないせいか、いつもはきれいに光っている青い刃も心なしか少しくすんで見える。
「これは、すごく特殊なものみたいだね。ふむ……先生」
剣を丁寧に鞘に戻した後、ウタハは俺のほうをまっすぐと見た。口元を緩ませている感じからして、何かいいことでも思いついたのか?
「もしよかったら、私に整備させてくれないかい?」
「いいのか!?」
「剣の整備はしたことがないから、準備に少し時間が必要だけど・・・。マイスターの名に懸けて、万全なものに仕上げるよ。・・・預けてくれるかい?」
「もちろん!その時は、よろしく頼むよ!」
「ああ。任せてくれ」
「アリス、これにします!」
「……ん?」
アリスの声がした方を振り向くと、アリスが嬉しそうに大砲みたいなものを指さしていた。床に横たわっているそれはアリスと同じくらいの大きさがありそうで、人が扱うようなものには見えない。
「あれは「光の剣:スーパーノヴァ」だね。宇宙戦艦が大気圏外で戦闘をできるように作成したのだけど……」
「宇宙戦艦・・・スケールが大きくてあんまり凄さが分からないけど……。あんなものも作れるなんて、ウタハたちはすごいんだな」
「ふふっ、ありがとう先生。だけど個人で扱おうとすると問題があってね」
「もしかして、かなりお金がかかってるとかか? なんだかすごそうなものだし……」
「……エンジニア部の下半期の70%を使ったものだし、それもあるんだけど……」
ウタハはアリスの方に歩いて行く。アリスはまだすごく欲しそうな表情をして光の剣を眺めている。
「アリス、それを選んでくれたのは嬉しいんだけど、あげるのは少し難しいね」
「なんで!? この部屋にあるものならなんでも持っていっていいって言ってたじゃん!」
「率直に言うと……単純に、すごく重いんだ」
「基礎重量で140kg、光学標準器とバッテリーを足した上で砲撃を行うと、瞬間的な反動は200kgを超えます!」
すかさずコトリが説明を付け加えてくれる。やっぱり、人が持つ重さを余裕で超えてるよな・・・。持ち運ぶのでさえ何人かで協力しないとダメそうだけど・・・。
「これを選んでくれたのは嬉しいし、本当ならあげたいんだけど……」
「汝、その言葉に一点の曇りもないと誓えるか?」
「ん?この子、またしゃべり方が・・・」
「た、多分ですが、「本当なのか」って聞いているんだと思います」
「つまり、あれを持ち上げるつもり、ということかい?」
アリスは躊躇することなくうなずくと、しゃがみこんで武器に手をかけた。アリスの小さな体よりも大きく見えるようなものを持ち上げられるとは思えないけど、アリスだけは持ち上げられると確信しているように見えた。
「この武器を抜くもの……此の地の覇者になるであろう!」
光の剣はアリスの体と一緒に少しずつ浮き上がっていく。そしてついに、完全に持ち上がってしまった。持ち上がった光の剣は、喜んでいるかのように窓から射す光を全身で反射している。なんだかゲームでもそんなシーンがあったような・・・。
「……持ち上がりました!」
「まさか、本当にできるなんて……」
「えーと、これがBボタンですか?」
「ま、まって!」
「……光よ!」
アリスが何かのボタンを押すと、ずっと上向きになっていた光の剣がひかりはじめた。轟音と共に光が天井に向かって伸びて行って……後に残ったのは、さらに明るくなった部室と、風通しが良くなった天井だけだった。
「ぶ、部室の天井がぁ!」
「アリス、この武器にします!」
思い描いていた以上の武器だったのか、アリスはすごくうれしそうだ。・・・エンジニア部のみんなはいまだに驚いていて慌てているけど。
「ええっと……できればそれだけは、その……! 予算とか諸々の問題で他のをお願いしたく……」
「いや、構わないさ、持って行ってくれ。ヒビキ、後でアリスが使いやすいように肩紐と取っ手の部分を作ってあげてくれ」
「わかった。まあ、実戦データを取れるようになると考えればありがたいかも」
そう言ってくれたウタハの声はちょっと嬉しそうで、少し口元が緩んでいる。アリスも自分だけの武器を手に入れられたことが嬉しいのか両手で武器を抱きしめたままウタハにお礼を言っている。
「さて……ヒビキ、処分要請を受けたドローンとロボットを全部出してくれるかい?」
「そんなの出してどうするんだ?」
「まさか、「そう簡単に武器は持って行かせない!」みたいなパターンなんじゃ!?」
「その通りさ。その武器に関しては少し確認が必要だと思ってね」
「確認ですか?」
ウタハはさっきまでの嬉しそうな表情を引き締めてアリスを見ている。確かにあんなに破壊力がある武器を渡すなら、実際に使いこなせるのか見ておきたいかもな。・・・それにかなりお金がかかっているみたいだし。
「あと、できれば先生も参加してくれないかい?」
「俺もか?」
「剣のメンテナンスをするにあたって、どんな風に使っているのか知っておきたいからね」
「そういうことなら、俺は構わないよ」
「準備できたよ」
部室の奥を見るとヒビキが起動したたくさんの機械が俺たちのほうを向いていた。光を鈍く反射しながらただずんでいる姿からは、当然だけど感情なんてものは感じない。
「前方に戦闘型ドローン及びロボットを確認。来ます!」
「みんな! アリスのためにも頑張ろう!」
「モモイ、ミドリ! アリスのほうにロボットが向かわないように援護してくれ! アリスはドローンを頼む!」
「先生はどうするの?」
「俺は残りのロボットを引き付けるよ」
「わかった、気を付けてね!」
二人は迷いなく動き始めました。息ぴったりのコンビネーションで、アリスにロボットが近づかないようにしてくれています。その姿に頼もしさと高揚感を感じながら、ロボットたちを見据えます。武器を構えてボタンを押す。少しずつ体にかかる負荷を全身で感じながら標準を合わせて。
「……撃ちます! 光よ!」
衝撃と共に光が視界を覆う。床を削りながら進んで、光に飲み込まれたロボットはすべてガラクタに変わってしまいました。
「やっぱりすごいよアリス!」
「すごい威力だね……!」
さっきの一撃で、私たちに向かってきていたロボットやドローンはすべて片付けました。先生のほうはどうなったんでしょうか? きっと援護が必要なはずです。そう思って戦闘の音がする方を見てみると、戦っている先生の姿が見えました。
「おちろ!」
たった一振り。それでドローンは真っ二つになって地面に落ちていきます。大したことではないように、次から次に切り伏せています。そんな姿は、まるで今まで見てきたゲームの主人公みたいで。
「これで、終わりだ!」
飛び上がって一閃。きれいな軌跡がロボットを通り抜けると、同じように真っ二つになりました。もう援護のことなんて忘れて、じっと先生のことを見てしまいました。
「相変わらずすごかったねー。あっという間に終わっちゃった」
「あんなにすごいのに、なんで先生してるのかはちょっと気になるけど……」
「私も気になるけど……とにかく! これであの武器はアリスのものになるってことだよね、ウタハ先輩!」
「ああ。もちろんだよ」
「わあっ・・・!」
ウタハ先輩は満足そうに頷いています。これでアリスは光の剣の持ち主になれたんですね! 光を反射して輝いているアリスの剣を見て、思わず抱きしめてしまいました。
「アリス。このまま使い方をもう少し教えてあげる。それから取っ手の部分をもう少し補強しようか」
ヒビキに教えてもらっている中で、ウタハ先輩と話している先生の方に目線が向いてしまいます。戦っている先生の姿はゲームの主人公のようで、思い出すと今でも胸の奥から熱がこみ上げてきます。どうして、こんなに気になってしまうのでしょうか?なんだか、もっと先生のことも知りたくなってしまいました。