マキから『G.bible』を受け取った後、モモイたちは緊張した表情で机を囲んでいる。
「あらためて、『G.bible』、見よっか」
緊張と期待が混ざった表情でみんながうなずく。
「この中には、「ゲーム開発における秘技。みんなが知っているようで、だれも知らなかった奇跡」があるらしい。私はそれを知りたい」
「うん……最高のゲームを作るために」
「もし失敗したら……ユズは寮に戻って会いたくもないやつらに会わなくちゃいけなくなる。それにアリスは……」
「もしものことは考えたくないけど、その時は先生が助けてくれるよ」
「ああ。その時は任せてくれ。だから、今は目の前のことに集中しよう」
「そうだね。……アリス、始めよう!」
「はい。『G.bible』、起動!」
暗い画面に文字が映し出される。最高のゲームを作る秘訣はたった一つ。『G.bible』にはその真理が秘められている、らしい。みんなが画面を注視する中、文字がゆっくりと並び始めた。
『ゲームを愛しなさい』
「おお……オープニングみたいな感じかな・それっぽい!」
みんな次の文が表示されるのをじっと待っている。でもいくら待ってもこれ以上の情報が出てこない。
「……これだけか?」
「まさか、そんなはずない……よね……?」
「もしかしてバグった!?」
「ちょっと待って! ええっと、設定変更は……」
モモイがあれこれボタンを触ってみると、画面が動き始めた、けど……。
『これはエラーではありません。残念ですがこれが結論です。ゲームを愛しなさい!』
画面に表示されている秘訣はたった一つだけ。エラーでもないらしい……。
「お……終わりだああぁ!!!」
その後、みんなはすっかり落ち込んでしまった。モモイとミドリは落ち込んでしまって何も手につかないみたいだし、ユズはロッカーにこもってしまった。アリスはまだ状況が呑み込めてないのかみんなに声をかけている。
「今のみんなの姿は、正気がログアウトしたみたいです……」
「まだ時間はあるんだ。ゲーム作りの秘技が無くたって、まだできることはあるはずだ」
「でも、『G.bible』もないのにどうやって面白いゲームを作れば……」
「ごめんね、アリスちゃん……。私たちは『G.bible』無しじゃ、いいゲームは作れない……」
「いいえ。否定します」
「アリス?」
さっきまでの戸惑っていた様子とは違って、アリスの声にははっきりとした意思を感じる。
「アリスは『テイルズ・サガ・クロニクル』をやるたびに思います。あのゲームは面白いです」
目をつむって、思い出を振り返るように言葉を紡ぐ。
「感じられるのです。モモイが、ミドリが、ユズが……。このゲームを、どれだけ愛しているのか。そんな、たくさんの想いが込められたあの世界で旅をすると……胸が、高鳴ります。仲間と一緒に新しい世界を旅する、あの感覚は……夢を見るというのが、どういうことなのか……その感覚を、アリスに教えてくれました」
ありったけの思いがあふれ出すような、そんな風に見えた。
「だから、待望のエンディングに近づくほどに、あんなに苦しんだのに、思ってしまうのです……。この夢が、覚めなければいいのに……と」
「……」
「ユズ!? いつの間にそこにいたんだ?」
気配を感じて横を見てみると、ユズがこじんまりと立っていた。
「『テイルズ・サガ・クロニクル』の話が始まった時から……」
(全く気付かなかった……)
「私の夢は、私が作ったゲームを、みんなに面白いって言ってもらうこと。でも、私が初めて作った『テイルズ・サガ・クロニクル』のプロトタイプは、四桁以上の低評価コメントと冷やかしだけで終わっちゃって……それが辛くてゲーム開発部に引きこもってた時……二人が訪ねてきてくれた。一緒に完成させた『テイルズ・サガ・クロニクル』は今年のクソゲーランキング1位になっちゃったけど……」
「うっ……」
モモイとミドリが苦そうに顔をしかめている。……たぶんすごかったんだろうな、低評価コメント。
「そのあと、アリスちゃんが訪ねてきてくれて、面白いって言ってくれた。それで、私の夢は叶ったの。心の通じ合う大事な仲間たちと、一緒にゲームを作って、それを面白いって言ってもらう。ずっと一人で思い描いているだけだった、その夢が」
さっきまでの落ち込んでいたユズは、もうそこにはいなかった。
「これ以上は欲張りかもだけど。叶うなら、私はこの夢が.この先も、終わらないでほしい」
モモイとミドリがゲーム開発部に来た時のことは分からない。それでも、みんなでゲームを作るこの場所が大切だっていうのは俺にも伝わった。
「ねえ、今からミレニアムプライスまで、時間どれくらい残ってる?」
ユズの言葉を聞いてモモイもやる気になったみたいだ。
「お姉ちゃん……!」
「6日と4時間38分です」
「それだけあれば十分! さあ、ゲーム開発部一同! 『テイルズ・サガ・クロニクル2』の開発、始めよう!!」
「「「うん!」」」
「俺もできる限り手伝うよ!」
今度こそ、ゲーム開発が始まるんだな!
とは言っても、俺はゲームどころか機械の扱いも怪しい。だから大体は部室から出られないみんなの代わりに買い出しをして、少しだけ出来上がった部分のテストを手伝っただけだ。ほとんどの部分は4人で全部作り上げていた。そうしてどんどん時間は過ぎていって、ついに締め切りの日になってしまった。あと少しで完成するらしいけど、みんなかなり切羽詰まっている。ゲームについては何もできなくて歯がゆいな……。
「お姉ちゃん! まだ!?」
「ま、待って、急かさないで! 後これだけ入力すれば終わりだから……!」
「あと2分だよ!? 急かさずにはいられないって!」
「正確には96秒です。そう言っている間に残り92秒……」
「わ、わかったわかった! もうできたから!」
モモイが急いで仕上げたものをユズが素早く確認していく。
「エラーは出てない! モモイ!」
「オッケー! ファイルをアップロードするよ!」
締め切りまであと数秒というところで、ぎりぎりゲームの登録ができたみたいだ。
「間に合ったぁ!」
ようやく完成したからか、みんなも力が抜けて一息つけたみたいだ。俺も緊張しすぎて寿命が縮まったかもしれない。
「あとは3日後の発表を待つだけだね」
「3日後には私たちが部室に居られるかどうかが決まる……。でも3日って結構長いじゃん? そこで提案なんだけどさ、先にWeb版の『テイルズ・サガ・クロニクル2』をアップロードしてみるのはどう?」
「Web版って?」
「ネットにゲームを出して、審査員以外の人にも遊んでもらうってこと。やっぱりユーザーの反応を見てみたいじゃん!」
「そうだけど……ちょっと怖いかも。低評価コメントも心配だし」
「何言ってるのさ! そもそも、ミレニアムプライスに出品するためだけに作ったゲームじゃないでしょ! 自信をもって、見てもらおうよ! 私たちはベストを尽くしたんだから!」
「それはそうだけど……」
どうしても踏ん切りがつかないのか、ミドリはどうにも浮かない顔をしてるな。
「うん、アップしよう。作品っていうのは、見てくれる人、遊んでくれる人がいてこそ完成されるものだと思うから。私は……私たちのゲームを完成させたい」
「ユズちゃん……」
「もし前みたいに低評価コメントのオンパレードになったとしても……。全力で頑張ったから。それに……みんなが一緒だから、きっと受け止められる。私はもう、大丈夫だから」
「それじゃアップロードー!」
結局、しばらくコメントはつかないだろうってことでしばらく休憩になった。それでもアリスは気になるのか、パソコンの前でコメントが付くのをじっと待っていた。他のみんなも結局評価が気になって休憩なんてできないってことで、みんなでコメントが付くまでパソコンの前で待機することになった。
コメントが付き始めていよいよ評価がわかるかと思っていると、突然部室に置いてあったゲーム機が爆発したみたいに壊れてしまった。
「なんだ……? 爆発したのか?」
ゲーム機が気になって近づこうとする俺の手をミドリが引っ張って止めた。
「待ってください! これは……カリン先輩の砲撃です!」
「なんだって!?」
動揺している間にもう一発部室に撃ち込まれてきた。
「遠距離攻撃を確認、部室正面に対して11時の方角! 距離、約1㎞……!」
「これ以上私たちの部室が壊される前に早く出よう!」
みんなで部室を飛び出して走り出す。とにかく狙撃されないために校舎が死角になるように移動することにした。
(俺たちが部室から出たら狙撃がなくなった……?)
少し引っかかりを覚えたけど、とにかく安全を確保するために走り続けた。
「逃げ切れるとでも思ったか?」
俺たちが進んでいる廊下の先に、小さな人影が見えた。その手に持っている物がこちらに向いたような気がして、俺はみんなの前に立って剣を抜いた。
「危ない!」
「せ、先生!」
直後、銃声が響いて飛んできた銃弾を切り落とす。銃声が止むと、人影がこちらに近づいてきて、見覚えのあるメイド服の集団が見えた。・・・たしか、真ん中の小さい子がネルだったか。
「なるほど、あんたが先生か。まさか銃弾を切り落とすなんてな。アカネが調査した例の「先生」……噂は大げさじゃなかったみてえだな」
攻撃を防がれたのになぜか少し嬉しそうに笑っている。というか、噂されてるのか・・・。ちょっと内容が気になるけど後にしよう。
「あんたとも戦ってみてえが、用があるのはそっちの無駄にでかい武器を持ってるやつだ」
「アリスですか?」
「C&Cに一発食らわせてくれたらしいじゃねえか? ちっと面かせや」
「あ、アリス、このパターンは知っています。告白イベントですね。チビメイド様はアリスに惚れていると」
「誰がチビメイド様だ! ぶっ殺されてぇのか!?」
「ひっ……!」
めちゃくちゃすごんでる・・・。身長のことかなり気にしてたんだな……。
「別に、この間の件の復讐をしに来たわけじゃねぇ。ただ、興味が湧いてな」
「だったら何をしに来たんだ?」
「そいつに相手してもらう。あたしと戦って勝てたら、このまま大人しく引き下がってやる。あんたは手ぇ出すなよ、先生」
ここで一緒に戦ってもネルは納得しないよな……。もしそうなったらまた別の日に襲われるかもしれない。一旦様子を見るべきか。
「……わかった」
「わかりました。一騎打ちのイベント戦闘みたいなものですね」
「イベ……なんだ?」
なんだか納得したような感じで、背負っている銃をネルに向ける。アリスが使ってるとあんまり重そうに見えないけど、100㎏以上あるんだよな、あれ。
「いきます、魔力充電100%……! 光よ!」
すごい轟音と轟音があたりを包む。銃口の先にあったはずの壁は消し飛んでいて、床もかなりえぐれている。ただ、立ち込めている煙の中にネルの姿が見当たらない。
「やったか?」
「それはフラグだって!」
「アリス気をつけろ! ネルには当たってないぞ!」
「うぁっ!?」
次の瞬間、煙の中から銃弾がアリスに飛んで行った。
「確かに、並大抵の火力じゃねぇが……ただ、それだけだ」
ネルはもう一度撃とうとするアリスの懐に潜り込み、両手の銃で撃ち始める。アリスはとっさに銃を盾にして防いでいるけど、反撃に出られない。
「その武器は引き金を引いてから発射までコンマ数秒かかる。その上、その強すぎる火力のせいで、相手にある程度の距離まで入られたら撃てねぇ」
今までアリスはロボットや集団しか相手にしたことがない。ネルみたいな素早い敵が相手だとこうも相性が悪いのか。
「だったら……行きます!」
アリスが突然銃身を振り回してネルに攻撃したが、ネルは全部かわしている。銃を盾にしなくなったせいで、ネルの銃弾がアリスに当たり始めた。
「くっ!」
「悪くねぇ判断だが、この距離じゃあたしのほうが圧倒的に有利だ」
アリスは撃たれているのを気にせず銃を振り回し、ネルに距離を詰めていく。アリスが大きく頭上から振り下ろした攻撃もネルには当たらず、銃が床に突き刺さる。
「だから、当たらねぇ……ちょっと待て! まさか床に!?」
「光よ!」
アリスの声と共に、辺りに光と衝撃が広がる。
「アリス! 大丈夫か!」
あんな至近距離で撃ち込んだら、二人とも無事じゃすまないはずだ。煙が少しずつ晴れてきて視界が開けてきた。煙の中で動いている人影はない。
「見つけた! あそこだよ、先生!」
煙が立ち込める中アリスは崩れた床の中心近く、ネルはその奥に倒れていた。ネルは撃たれる直前に後ろに下がったのか、そこまで怪我は酷くなさそうだ。ただ、アリスはもう立ち上がれそうにないほどボロボロだ。
「に、肉体損傷48%……後退を望みます!」
「アリス、俺が背負うからな」
アリスを背中に乗せる。アリス自体は重くないけど、銃を手から放してくれない。
「先生……光の剣も一緒にお願いします!」
「わ、わかった!」
アリスを背に、銃は仕方ないから引きずって移動する。引きずるたびに音が周囲に響くせいで俺たちの位置はばれてるはずだ。それでも背中に銃が撃たれることは無かった。さっきの戦いでネルは納得してくれたのかもしれない。
結局あの日以降、C&Cはゲーム開発部に襲撃をかけることは無かった。しばらくは警戒しながら過ごしていたみんなも、来ないとわかると心配事はミレニアムプライスのことばかりになった。
ミレニアムプライス当日。緊張が隠しきれない雰囲気の中、みんなでディスプレイを囲む。
「もし受賞したらクラッカー鳴らそうか。もしそうじゃなかったら……」
「荷造りしなきゃね……」
「まだ結果が発表されたわけじゃないんだ。俺は信じてるぞ、みんなの作ったゲームが評価されてるって」
「……うん。そうだよね。ユズとアリスのためにも、絶対受賞しないと!」
今回のミレニアムプライスは過去最多の応募数らしい。どうやらセミナーの方針変更があったからだとか。そんな話を挟みつつ、受賞作品の紹介が始まった。どれもどこで使えばいいのかわからないような作品が多くて、反応に困ることが多い。
「ついに一位の発表だよ……!」
みんなが固唾を飲んで見守る中、発表されたものは……。
「待望の一位は、新素材開発部の……」
全てを言い切る前に、モモイが急に銃を取り出してテレビの画面を撃ち抜いてしまった。
「モモイ!?」
「何やってるのお姉ちゃん!?」
「どうせ全部持っていかれちゃうんだし関係ない!」
「……もう他に賞はないのか?」
「あれで全部だよ!」
「じゃあこの部室は……」
それ以上は何も言えなかった。間近で頑張ってきたのを見ていたから、報われて欲しかったし、これからもゲームを作るところを見ていたかった。
「もちろん、全部無駄になったわけじゃない。ネットの評判だって悪くなかったし……」
「でも、ここを追い出されたらユズちゃんもアリスちゃんも……」
「大丈夫だよ、ミドリ。わたし、寮に帰る」
今までみたいに怖がっている表情ではなくて、きちんと受け止めようとしているように見える。
「もうわたしをクソゲー開発者なんて呼ぶ人はいないだろうし……仮にいたとしても大丈夫」
少し照れたふうに服で口元を少し隠してみんなの方を見る。
「この三人と先生がいてくれるから……でも、アリスちゃんは……」
「……アリスに行く場所が無くなったら、シャーレが面倒を見るよ」
「アリスはもう、みんなとはいられないのですか……?」
みんなが悲しみに包まれるなか、突然部室のドアが開いて嬉しそうにユウカが入ってきた。
「モモイ! ミドリ! アリスちゃん! ユズ!」
「ちょっと待って! そんなにすぐなんて……」
「おめでとう!」
「えっ……?」
突然の祝福の言葉に戸惑っていると、ユウカも変に思ったのか、けげんな顔をして聞き返してきた。
「結果、見てなかったの?」
「私たち、七位以内に入れなかったけど……」
「はぁ? 何言ってるの、今も放送中なんだからちゃんと見てみなさいよ」
「お姉ちゃんがディスプレイ吹っ飛ばしちゃって……」
「何やってるのよ……」
さっきの笑顔から一転、あきれたような表情でポケットからスマホを取り出すとみんなの前に差し出してくれた。
「──ーよって、私たちは異例の判断をしました。今回は『特別賞』を設けます。その受賞作品は……ゲーム開発部の『テイルズ・サガ・クロニクル2』です」
『テイルズ・サガ・クロニクル2』の名前が出た瞬間、まだ理解しきれずにみんなで顔を見合わせる。
「ってことは……」
「廃部にはならないんだよね!?」
「ええ、そうよ。でも正式な受賞ではないから、生徒会としては部室の没収および廃部を保留することにしたの。それと……」
思い出すように少し微笑むと、モモイたちに向かってこう言った。
「あなたたちのおかげで思い出したわ。小さいころに遊んでた、いろんなゲームのことを。……ありがとう」
恥ずかしかったのか、今後の申請の連絡を手短に済ますと、そのまま部室から出て行ってしまった。
「や……やったあああ!」
「? つまり、どういうことですか?」
「アリスちゃん! 私たち、特別賞を受賞したんだよ! この場所も、私たちの部室のまま!」
まだ確信が持てないみたいで、恐る恐るみんなのほうを見る。
「アリスはこれからも……みんなと一緒にいて良いのですか?」
「うんっ!」
「これからもずっと一緒だよ!」
うれしさが収まらないみたいでみんなで抱き合っている。俺もみんなが賞を取れたことがうれしくてさっきから顔が緩みっぱなしだ。
「先生も、ありがとね!」
みんなが喜びあっているのを眺めていると、モモイがそう言ってくれた。
「俺は大したことはしてないよ。みんなが頑張った結果だ」
俺はゲーム作りの力になれたわけじゃないしなぁ。
「そんなことないよ。先生だって、危険な場所には一緒に行ってくれたし、いつだって励ましてくれたでしょ。私たちはもう仲間だよ!」
「そうだな……。ありがとう、モモイ」
「そうだ! 先生も『テイルズ・サガ・クロニクル2』やってみてよ!」
「いいな! 俺も気になってたんだ!」
「先生! アリスと一緒にやりましょう!」
アリスに手を引かれて、ディスプレイの前に座る。モモイたちも周りに座って俺とアリスがゲームを始めるのを待ちきれなさそうに見ている。今はただ、みんなが頑張って作ったゲームでどんな冒険に出会えるのか楽しみだな。
一応次はエデン条約編を書くつもりです。できるだけ期間が開かないように頑張ります。