アナザーアーカイブ   作:さかみち

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エデン条約編
集え!赤点生徒たち!


「先生! トリニティから依頼が届いていますよ!」

 

 シャーレでいつものように資料と格闘していると、アロナがディスプレイに情報を映し出してくれた。

 トリニティで成績の悪い生徒が何人かいるから勉強を教えてあげてほしい、と言うことみたいだ。

 

「先生はキヴォトスとは違う世界から来たんですよね? どれくらい勉強できるんですか?」

 

「……トリニティで教えてる内容は無理だと思う」

 

 バルオキーにいたときは読み書きと計算が出来れば困らなかったし、旅をしてる時も知識のある仲間を頼れば良かったからなぁ。

 

「困ったな、力になれそうにないぞ……」

 

「と、とにかく話を聞きに行ってみませんか? 私も力になりますから!」

 

 アロナが握り拳を作ってこっちに向けている。そうだよな。シャーレを頼ってくれたんだ、とにかく何か出来ることがないか探してみるべきだよな。

 

「ああ。頼りにしてるよ」

 

「はい! じゃあ早速行ってみましょう!」

 

 

 

 

 

 広いベランダに大きなテーブル、上に乗っているティーカップからはよい香りが漂ってくる。貴族が利用していそうな豪華な場所に、少し気圧されながら正面の少女を見る。

 

「初めまして、アルド先生。私はティーパーティーのホスト、桐藤ナギサと申します。こちらは同じくティーパーティーのメンバー、聖園ミカさんです」

 

「二人ともよろしくな」

 

「うん、よろしくね。やっぱり噂通り剣を持ってるんだ。近くで見てもいい?」

 

「ミカさん、はしたないですよ」

 

 ミカに見えるように普段使う剣を持ち上げる。珍しそうに眺めた後、楽しそうに笑っている。

 

「あはは! 物語に出てくる騎士みたいでカッコいいと思うよ!」

 

「俺はそんなガラじゃないけど……ありがとな」

 

「……そろそろ本題を話してもよろしいでしょうか?」

 

「あっ、悪い。そうだったな」

 

 ついついミカと話し込んじゃったけど、ティーパーティーから依頼を受けてここに来たんだった。

 

「もう本題に入るの? もうちょっと雑談してもいいでしょ?」

 

「先生にはティーパーティーの依頼で来ていただいたのです。そういう話は別の時にしてください」

 

「ティーパーティーって基本的には社交場なんだよ? それにこれはあり方の問題でもあるんだから、きちんとしないと!」

 

 二人で言い争いを始めてしまった。ティーパーティーが何を大事にしてるのかわからないけど、喧嘩する前に止めないと。

 

「俺はもう少し二人と話したいんだけど、ダメか?」

 

「……そうですね。先生もそうおっしゃることですし、ミカさんのいう通り少し話の方向を変えましょうか」

 

 どうやらナギサが折れたみたいだ。あんまり納得してる感じじゃないけど。少しホッとしていると、ミカが話題を振ってくれた。

 

「先生はトリニティやティーパーティーについてどれくらい知ってる?」

 

 トリニティに知り合いの生徒がいるけど、どういう学校なのかきちんと聞いたことは無かったな。とりあえず今知っている情報といえば……。

 

「トリニティはすごい大きな学園で、ティーパーティーは学園のトップだってことくらいだな」

 

「そうですね……せっかくですしきちんとお教えしましょうか」

 

 ティーパーティーは代々複数人で担っているものらしい。トリニティ総合学園が生まれる前、各分派の代表たちが紛争を解決するために『ティーパーティー』を開いたことから始まった。パテル、フィリウス、サンクトゥス。その三つの学園の代表を筆頭に『ティーパーティー』を開いたことで分派同士の和解への流れが生み出された。その後からトリニティの生徒会はティーパーティーと呼ばれるようになって、各派閥の代表たちが順番に『ホスト』を務めるようになった、ということらしい。

 やけに大きい学園だと思ってたけど、かなり複雑な成り立ちをしてるんだな。……あれ、でもここにいるティーパーティーって二人だけだよな? ナギサの話ならもう一人いることになると思うんだけど……。

 

「ありがとう。少しトリニティのことが分かった気がするよ」

 

「まあ、今回の依頼にはあんまり関係ないんだけどね」

 

「そうなのか?」

 

「先生には、補習授業部の顧問になっていただきたいのです」

 

「補習授業部?」

 

「ええ。事前にお伝えした通り、今落第の危機に陥っている生徒たちを救っていただきたいのです。その生徒たちを部活という名目で一か所に集めることにしたのです。そして先生にはその部活の顧問をしていただきたいのです。まあ、顧問というより担任の先生といったほうが良いかもしれませんが」

 

「トリニティくらい大きい学園なら、シャーレが協力しなくても学園で生徒の勉強を見れるんじゃないのか?」

 

「いまトリニティはエデン条約に向けて大事な時期なのです。そのため、そちらに人員を割くことが出来なくて……」

 

 エデン条約……。ナギサの口ぶりからも、かなり大事なものみたいだな。

 

「そんなとき、新聞でシャーレの活躍っぷりを見たの! 猫探し、街の掃除、宅配便の配達まで、八面六臂の大活躍!」

 

「そんなに大したことはしてないぞ?」

 

「こちらに上がっている報告でも各地で活躍されていると言うことですし、私も異論はありません」

 

「それに先を生きると書いて先生。つまり導いてくれる役割ってことだよね? 尊敬の対象、あるいは生きる指針としてみんなに手を差し伸べ、導く・・・。補習授業部の顧問としてはぴったりだなって思って!」

 

「どうでしょう。引き受けてくださいますか?」

 

 勉強を教えるとなるとかなり不安だけど……アロナも手伝ってくれるわけだし、できる限り力になりたい。

 

「ああ。困ってるなら協力するよ」

 

「ありがとうございます。もう少し補習授業部について説明しますね」

 

「ああ、頼むよ」

 

「この部は常設されているものではなく、特殊な事態に応じて創設し、救済が必要な生徒たちを加入させるものです。少々特殊な形ではありますが、急ぎということもあり、シャーレの超法規的な権限をお借りしつつ……といった形で、ですね」

 

 ナギサは手元に置いていた資料を俺のほうに渡す。資料には補習授業部の部員の情報が載っているみたいだ。

 

「こちらが補習授業部の名簿です」

 

「……あれ?」

 

 もらった名簿を見てみると、以前に会ったことのある生徒がいた。あんまり成績が悪いようには見えなかったけどな。

 

「気になる子でもいた?」

 

「いや、前に会ったことがある子がいただけだよ」

 

「やっぱりあちこちで活動してるだけあって、トリニティでも面識のある子がいるんだねー」

 

「あ、ああ……。まあな」

 

 ヒフミとどこで出会ったかは言わない方がよさそうだ。なんだかもっとややこしい話になりそうだ。

 

「詳しい内容についてはまた追ってご連絡いたします。他に気になる点はございませんか?」

 

「さっきの話に出てたエデン条約ってなんだ?」

 

 俺がそう聞くと、さっきまで楽しそうだったミカも、今まであまり表情を変えなかったナギサも顔を曇らせる。

 

「その説明にはなかなか時間がかかってしまいますので、また後日お話しますね」

 

 ……かなり難しい話題みたいだ。今はあまり深く聞くべきじゃなさそうだな。そういえば、もう一つ引っかかってたことがあるんだった。

 

「あと、ティーパーティーってもう一人いるんじゃないのか? 昔ティーパーティーを開いた時は三つの分派がいたんだろ?」

 

「その……セイアちゃんは、今入院しているの」

 

「本来であれば今のホストはセイアさんだったのですが……」

 

 入院していて不在だからナギサがホストになっているのか。

 

「……そうか。セイアにもよろしく伝えてくれ」

 

「ありがとうございます。……では、これからよろしくお願いいたしますね、先生」

 

 

 

 

 

 とりあえず、補習授業部の活動場所に行ってみることにした。誰かいてくれればいいけど……。ナギサに教えてもらった場所に行って教室のドアを開ける。中にいたのは見覚えのある姿の少女。トレードマークのリュックも近くに置いてある。向こうも俺に気づいたようで少し気まずそうに近づいてきた。

 

「やっぱりヒフミだったのか」

 

「あはは……お久しぶりです、先生。その、これにはやむを得ない事情がありまして……」

 

「事情?」

 

「その……ペロロ様のゲリラ公演に参加するために、テストをさぼってしまって……」

 

「……」

 

 てっきり普通にテストの点が悪いだけだと思ってたけど、ヒフミって結構大胆なんだな……。いや、ブラックマーケットにいた時点で分かってたことだよな……。

 

「そんなあきれた顔で見ないでください……」

 

「わ、悪い。ヒフミが試験をさぼるなんて思ってなかったからさ。とにかく、よろしく頼むよ」

 

「は、はい。それで……実はナギサ様から部長と先生のサポートを頼まれていまして」

 

「そっか。俺はトリニティに詳しくないから頼りにしてるよ」

 

「はい! 私も、担当の方が先生で良かったです。そういえば、ほかのメンバーにはまだ会われてないんですよね?」

 

「ああ。名簿はもらったからこれから会いに行くつもりだ」

 

 ナギサからもらった名簿をヒフミにも見せる。名簿にはあと三人のメンバーの情報が載っている。ついでに一緒に今どこにいるかも書かれているから、探す手間がはぶけそうだ。

 

「では、とりあえず会いに行きましょうか」

 

 

 

 

 

「どうやらメンバーの一人がここにいるらしいのですが……」

 

「ここって正義実現委員会の教室だよな?」

 

「はい。あまりここに来たくはなかったのですが……」

 

 ヒフミが恐る恐るドアを開けると、中には小柄な生徒が一人だけいた。

 

「あ、あの……こんにちは……」

 

「……」

 

 ヒフミが声をかけても警戒したように俺たちのほうを見るだけで、返事をしてくれなさそうだ。無視してるというより、なんか警戒されてるような……。

 

「あの、私、何かしてしまったんでしょうか……」

 

「えっと、まあ……。単に人見知りなだけじゃないか?」

 

「誰が人見知りよ! ただ単純に知らない相手だったから、警戒してるだけなんだけど!?」

 

「そ、そうか……。俺たち、人を探しに来たんだけど……」

 

「はぁ? 正義実現委員に人探しを依頼しに来たの!?」

 

「い、いえ! そうではなくて、ここに閉じ込められてるって聞いてきたんですが……」

 

「えっ、それってもしかして……」

 

「こんにちは。もしかして、私のことをお探しですか?」

 

 突然、聞き覚えのない声が聞こえてきた。声のほうを向いてみると、ピンク色の長い髪の子がなぜか水着を着て立っていた。

 

「なんで水着を着てるんだ!?」

 

「学校の敷地内であるプールでは皆さん水着を着ますよね? ここもあくまで学校の敷地内ですし……」

 

「……いや! それはおかしいだろ!」

 

 ハナコは自分が間違っていないといった風に、堂々としている。キヴォトスの常識が俺の常識と違うのかと思ったけど、二人ともビックリしてるから俺は間違ってない……はずだ。なぜか堂々としてるせいで分からなくなってきた……。

 

「というか、なんで出歩いてるのよ! 牢屋の鍵は閉まってるはずでしょ!」

 

「いえ、開いてましたよ? 私のことを話されていたようだったので、こちらに来てみたのですが」

 

 突然のことでびっくりしてしまったけど、とにかく当初の目的を果たさないと。

 

「ええと……浦和ハナコ、だよな? 俺はシャーレで先生をしているアルドだ」

 

「シャーレの……。大人の方ですね。ということは補習授業部の件ですか?」

 

「ああ。俺たち補習授業部のメンバーを集めに来たんだけど……とりあえず、着替えてきてくれないか?」

 

 さっきから正義実現委員会の子がすごい目でハナコのことをにらんでいる。それに俺も集中して話せそうにないし。

 

「うふふ……そうですね。どうやらいろいろと混乱している状況のようですので、また後程お会いしましょう」

 

「とにかく早く戻って! もうすぐ先輩たちが来ちゃうから!」

 

 ハナコは背を押されたまま別の部屋に連れていかれた。……なんか人を探しに来ただけなのにすごく疲れたな。

 

「ハナコは捕まってるけど、補習授業部に参加できるのか?」

 

「そんなのダメに決まってるわ! エッチなのはダメ! 死罪!」

 

「そんなにひどい罪なのか!?」

 

「いえ、そんなはずないと思いますが……」

 

「そ、そうか……。気を取り直して、先にほかの子に会いに行くか」

 

「はい。えっと、もう一人は……白洲アズサさん、ですね」

 

 名簿の写真には白い髪と白い羽の女の子が写っている。この写真を見る限りは変なことをするようには見えないな。

 ……なんて思っていたのに、その気持ちは教室のドアが開いた瞬間に打ち砕かれた。

 

「任務完了です! 現行犯で白洲アズサさんを確保しました!」

 

「はい? ……はいぃっ!?」

 

「あっ、ハスミ先輩、マシロ。お帰りなさい」

 

「アルド先生? どうされたのですか、そんなに驚いた顔をされて」

 

 ハスミたちと一緒に入ってきた子は、白い髪に白い羽。そしてなぜか顔に変な仮面をしていた。

 

「惜しかった。弾丸さえ足りていれば、もう少し道連れにできたのに」

 

「……」

 

 

 

 

 

 アズサは校内で暴力行為の疑いで正義実現委員会から追われていたところ、逃げ込んだ先の倉庫で三時間も立てこもって抵抗をしてたらしい。ついでに、ハナコはあの格好のまま学園内をうろついていたから捕まったらしい……。

 

「なるほど、先生が補習授業部の担任の先生になられると」

 

 あの後正気を取り戻した俺はハスミに補習授業部について説明した。俺たちが話している間、アズサはずっと仮面をつけたまま俺のほうをじっと見ていた。

 

「残念です。できればお手伝いをしたかったのですが」

 

「気持ちだけでもうれしいよ。それで、アズサと、後ハナコも。連れて行ってもいいか?」

 

「ダメに決まってるでしょ!? 絶対ダメ! 凶悪犯なのよ!?」

 

 俺も言っててちょっと無理な気がしてきた。いやでも、ここで引くわけにはいかないよな。

 

「コハル。先生はシャーレの方として、ティーパーティーからの依頼を受けてこちらにいらっしゃったのです。規定上は何の問題もありません」

 

「いいのか?」

 

「ええ。二人の身柄を開放しますね」

 

「えぇ……まあでも、先輩がそういうなら……」

 

「助かるよ、ハスミ。えっと、あと一人は……」

 

 残りの一人が誰だったかを見るために名簿をめくっていると、すごく見覚えのある顔の生徒が写っていた。

 

「まあでも良いざまよ! こっちはこんな凶悪犯たちと一緒にいなくて済むし、そもそも補習授業部だなんて! 恥ずかしい!」

 

「ふぅ・・・コハル・・・」

 

 事前に名簿を見ていたヒフミと目を合わせる。ヒフミもどうやって言い出すか迷っているみたいで、苦笑いしている。思い切って俺が声をかける。

 

「その、補習授業部の最後のメンバーなんだけど……」

 

「下江コハルさんなんです……」

 

「……えっ! 私!?」

 

 凍り付いた空気の中、俺は四人の生徒たちと補習授業部の部室に向かうことになった。

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