アナザーアーカイブ   作:さかみち

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今回はコタマ視点です。前回よりも少し長くなってしまいましたが、楽しんでいただけたら幸いです。



もっと知りたい(コタマ)

 今日はシャーレの当番の日です。当番制度は仕事が多く不慣れである先生を一人の生徒が手助けしたのがはじめなのだとか。私はその生徒が誰なのかを知りませんが、こうして先生に会えるようになったのですから、その生徒には感謝しないといけませんね。

 

「先生、おはようございます。今日はよろしくお願いします」

 

「おはよう、コタマ。今日もよろしく頼むよ」

 

 シャーレに着くと先生が笑顔で出迎えてくれました。先生の優しい声は落ち着きます。やっぱりいつでも聞けるように先生の声を録音したくなりますね。予定どうりこのプレゼントを渡して盗聴できるようにしてしまいましょう。……もちろん、日ごろの感謝の気持ちもありますが。

 

「先生、こちらをどうぞ。日ごろの感謝の気持ちです」

 

 差し出したのは招き猫の置物。先生は猫好きだ、という噂を聞いて買ったものです。目を細めている顔は愛嬌があってご利益もありそうなので、贈り物によいだろうと買ったものです。先生にも気に入ってもらえるでしょうか。

 

「これは……招き猫? なんだか久しぶりに見た気がするよ。飾ったらいいことありそうだな」

 

「気に入ってくださったのならよかったです。良ければ執務室にでも飾ってください。全体がよく見えるような場所で、周りにあまり物を置かないようにしてくださいね」

 

「……? 分かった、気を付けるよ。ありがとう、コタマ」

 

 少し怪しまれてしまいましたが、招き猫を受け取ってくださいました。しっかりと飾ってくださることに嬉しく思いながら、今日の仕事をするための準備を始めました。

 

 その後は先生と一緒に仕事をこなしました。どうやら先生は飲み込みが早いようで、以前当番だった時よりも仕事を早くこなせているみたいです。

 

「今日はありがとう、コタマ。また今度頼むよ」

 

「はい、また会いましょう。今日は失礼します」

 

 シャーレから足早に自分の部屋に帰ることにしました。早く帰ればその分先生の声を聞けると思うと、足取りは軽く感じました。部屋につくと早速盗聴をしてみます。

 

「先生はまだ執務室にいるでしょうか?」

 

『今日はコタマのおかげでだいぶ片付いたな。もっと自分でできるように頑張らないとな』

 

 どうやら先生のお仕事もだいぶ落ち着いたみたいです。いつものように元気な先生の様子に少しほっこりしつつも、もっと先生の声に集中することにします。

 

『しばらくは人が来ないだろうし、ここで体がなまらないように少し訓練をしようかな。いざというときにみんなを守れないのも嫌だし』

 

 先生が戦っているところは見たことがありませんが、就任初日に剣一つで戦車を破壊したというのは有名な話です。にわかには信じられませんが、戦闘に参加したユウカはその噂を否定していない様でした。そんな先生の訓練ならきっとすごいのかもしれません。期待に胸をふくらませながら動き出すのを待つことにします。

 

『ふっ! はっ!』

 

 少しの準備運動のあと、先生は何かを振り始めました。執務室に立てかけてあった剣を振っているのでしょうか。片方は先生の身長の半分以上はある青い鞘の大剣、もう片方はゲームなどでよく見るような普通の剣でした。どちらかを振っているのかはわかりません。剣を振るたびに出る空気を切る音は鋭くて重量感を感じ、その低い音がとても心地よく感じます。時折聞こえる短く息を吐くような声は真剣に取り組んでいることがうかがえますし、普段では聞けない声なのでとても引き込まれます。何より剣を振っている理由が私たちのため、というのが嬉しいですね。

 

 しばらく先生の訓練を記録しながら聞き入っていました。素振りの音も短い掛け声もお気に入りの音だったので編集していつでも聞けるようにしておきましょう。

 

『ひとまずこれくらいにしておこうかな。気分転換もできたし、もう少し仕事をしようかな』

 

 どうやら先生はまた仕事をするみたいですね。しばらくは先生が書類に文字を書く音やキーボードを打つ音が聞こえるだけになりました。こういった作業音も落ち着きますが先生は集中していて声を出しませんし、あまりしっかりと聞いている必要はなさそうですね。そう思い、いったん盗聴音を聞くためのヘッドフォンを手にかけると。

 

『しかし……別の世界に来たなんて、仲間のみんなはなんて言うかな? ノーナとかは羨ましがるかもしれないな』

 

 ふと先生が懐かしむような声色で、そんなことを言いました。普段生徒の前でだす声とはまた違った声色で、いつも感じるやさしさとは違ったやさしさを感じました。こんな風に懐かしんでいる声を聞くと、今度先生に会った時には昔のことを聞いてみたくなります。やっぱり昔からあのお人よしっぷりを発揮していたのでしょうか? こうして先生と話したいことがどんどん思いついてくるのは、先生のいろんな声を聞いて身近に感じたことが大きい気がしますね。私は成果に満足しながら今日の盗聴を切り上げました。

 

 

 

「おはようございます、先生。いい朝ですね」

 

「おはよう、コタマ! 今日は遊びに来たのか?」

 

「はい。先生とお話したいと思いまして。今日はお時間ありますか?」

 

「今日は午後から出かける予定だからそこまでなら大丈夫かな」

 

「でしたら、それまでお話しましょう」

 

 それからは先生といろいろなお話をしました。執務室に立てかけてあった剣はどちらも使うのかとか、戦車を破壊したのは本当なのかとか、とても楽しいお話をしてしました。

 

「そういえば先生。ノーナという方はどんな人なんですか?」

 

「あれ? コタマにノーナのことを話したことあったか?」

 

「あっ」

 

 気が緩んでしまったのでしょうか、盗聴した内容まで話してしまいました。なんだかすごく怪しんでいる気がします。

 

「き、気のせいじゃないでしょうか?」

 

「なんだか怪しいな……もしかして何か仕掛けてたりするか?」

 

 ここまで怪しまれてはもう隠せそうもありませんし、素直に白状するべきですね。招き猫に盗聴器を仕掛けたことを先生に伝えると、少し考えた後にこちらを向いて口を開きました。

 

「もらった招き猫に仕掛けてたのか……もう盗聴器を仕掛けないでくれよ? 生活を覗かれるのはいい気がしないからさ。」

 

「わかりました……すいません……」

 

 しっかりと釘を刺されてしまった。それでも、先生は許してくださったのか微笑みながらこうも言いました。

 

「でも贈り物はうれしかったからさ。招き猫は盗聴器を外したら飾らせてもらうよ」 

 

「いいんですか? 私はそれを使って盗聴していたのに」

 

「それでも、この招き猫は俺のことを考えて選んでくれたと思うからさ。しっかりと置いておきたいんだ」

 

 ……この人はずるいですね。素直に気持ちをぶつけてくるからすごく気恥ずかしくなりますし、もっとこの人のことを知りたくなってしまいます。まさか先生は仲間の人にもこんなことを言っていたのでしょうか? 

 

「でもなんで盗聴器なんて仕掛けたんだ?」

 

「声が好き、というのもありますが。もっと先生といろいろなお話をしたかったんです。先生のことを知れば話題が増えますから」

 

「だったら、これからはもっと会って話そう。俺のことも、もっと知ってもらえるように頑張るよ。そうすれば盗聴をしなくても大丈夫だろ?」

 

「はい。私もそうしたいです」

 

 私はもう、先生のことを知りたいからと盗聴しようなんて考えないでしょう。こうして素直に気持ちをぶつけてきてくれる先生を見てると、私も同じようにまっすぐに気持ちをぶつけてお話をしたくなりました。それに、盗聴をして先生のことを知ったとしても今日のように先生が私に向ける気持ちまで知ることはできないのでしょう。なんだか先生にたらしこまれてしまった気がします。もしかして先生の独り言にでてきたノーナさんや仲間の皆さんも、こういうやり取りをしてたらしこまれたのでしょうか?すごく先生から昔のお話を聞きたくなってきました。そんな風に、これから先の先生とのやり取りに思いをはせ、少し浮足立ちながら先生に訊ねました。

 

「アルド先生。今度昔のお話を聞きたいです。ノーナさんのお話とか」




コタマの解釈に自信はありませんが、こうして盗聴をして声を聞く以上の価値をアルドとの会話で見出したという結果自体は少し気に入ってます。
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