アナザーアーカイブ   作:さかみち

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それぞれの選択⭐︎

『……生! 先生!』

 

「くっ……一体何が……」

 

 アロナが俺を呼ぶ声で目が覚めた。調印式の最中に突然明るくなったと思ったら、いつの間にか意識を失っていたみたいだ。

 体が痛む中起き上がってみようとしても、瓦礫が作った隙間に挟まっているみたいで身動きが取れない。

 

「アロナ。何があったんだ?」

 

『どうやら会場にミサイルが撃ち込まれたようです……。何とか先生を守ることはできま……たが……』

 

「アロナ?」

 

 アロナの声に途中からノイズが走り始めて、ついには連絡が取れなくなってしまった。

 アロナのことも心配だけど、身動きが取れない以上今おかれている状況を把握しないと。……聞こえてくるのは何か物が焼ける音、誰かの叫び声……。

 

「くそっ! これじゃまるで……」

 

「そこに誰かいますか⁉」

 

「その声はヒナタか?」

 

「先生! そこにいるんですね……今助けます!」

 

 頭上からヒナタの声が聞こえてきたと思ったら、頭上のがれきが取り除かれて視界が明るくなる。けれど、それと同時に建物が燃えているにおいや周囲の音を鮮明に感じ取れてしまう。

 俺を助けてくれたヒナタも全身が傷だらけになっていて、改めてこの状況の深刻さを実感する。

 

「助かったよヒナタ」

 

「いえ。瓦礫の隙間にいたおかげで救助がスムーズにすみました。この奇跡に感謝しませんと……」

 

「一体何があったんだ?」

 

「いえ、私にも……」

 

 アロナはミサイルが撃ち込まれたって言っていたけど。二校で警備していた場所にこんな簡単に撃ち込めるのか?

 何か情報がないかと周囲を見回してみると見慣れた姿が俺たちのほうに近づいてきていた。

 

「先生! ご無事でしたか!」

 

 そう言って駆け寄ってきたのはハスミとツルギだった。やっぱり二人ともさっきの爆発に巻き込まれたせいで体中が傷だらけだ。

 

「そっちこそ大丈夫なのか?」

 

「ええ、私たちは大丈夫です。ですが、ほかの正義実現委員のほとんどは戦闘不能になってしまいました」

 

「そうか……。何が起きているのか状況を把握したいし、とにかく移動しよう」

 

 そう言って周囲を見渡した時、視界に白い制服の少女たち……アリウスと、その傍らには青白い幽霊のような不気味な存在がいた。

 

「どうしてアリウスがここに……」

 

「ではこれはすべて、あなたたちの仕業ということですか……!」

 

「ハスミ、落ち着け」

 

「……はい」

 

 ツルギが今にも突っ込みそうになっているハスミに向かって声をかける。ハスミもその一言を聞いて冷静になったのか、構えていた銃を下ろして俺の方に向き直る。

 

「……今は先生の安全が最優先ですね。先生、ここから離脱しましょう」

 

「私が道を切り開きます。ハスミ、先生を頼んだぞ」

 

「行きましょう先生!」

 

 ツルギが敵陣に向かって走り出して、俺もハスミに腕を掴まれて引っ張られるように移動を始める。

 ツルギが敵に突っ込んでいき道を切り開いでくれるけれど、その代わりに傷が増えて行っている。

 

「ハスミ! 俺も……」

 

 放っておけなくてツルギに加勢しようとした瞬間、ハスミに腕を引っ張られる。

 

「ダメです! ナギサ様もサクラコさんも見つからない以上、先生にまで何かあっては本当に収集がつかなくなってしまいます!」

 

「それは……」

 

 シャーレとしての立場はキヴォトスにとってかなり特殊で、この混乱を収めるために必要だっていうのは理解しているつもりだ。それに、俺の手をつかんでいるハスミの手も少し震えている。

 

「先生。ツルギなら大丈夫です」

 

「……ああ、そうだな」

 

 ツルギのおかげでアリウスに狙われることなく移動することが出来ている。建物が崩れているせいか、俺は今どこにいるのかが把握できていない。だけど、そんな状況でもハスミのおかげで迷うことなく走り続けていられる。

 

「先生!」

 

 炎上する戦場の中を走っているとヒナの声が聞こえてきた。瓦礫の影から出てきたヒナはツルギやハスミよりもひどい怪我をしていて今にも倒れそうだ。

 

「ヒナ! 大丈夫なのか?」

 

「このくらい平気……。それよりも正義実現委員、先生をこっちに!」

 

 ハスミは俺の手を掴んだままヒナから数メートル離れた場所で考え込んでいる。溝が深いのは分かっているつもりだけど、今はそんなことを言っている場合じゃないはずだ。

 

「ハスミ。ここは協力するべきだ」

 

「……わかりました。先生は風紀委員長と一緒に行ってください」

 

「ハスミたちはどうするんだ」

 

 さっきまで俺の手を絶対離そうとしなかったのに、今は銃を構えてツルギのいるほうを向いている。

 

「私たちはここで殿を務めます。不愉快ですが、あの風紀委員長はそうすると信じているのでしょう」

 

「だけど……!」

 

「先ほども言いましたが……先生はもっと自分を大切にしてください。初めて会った時もそうでしたが……、心配だったのですから」

 

 理解は出来る。でも、納得は出来ない。ハスミが心配してくれているように、俺だってみんなのことが心配なんだ。

 ……でもきっと、ハスミが言っていることの方が正しいんだろうな。

 

「……みんなも気を付けてくれ!」

 

 きっと俺が倒れてしまったら状況は悪化してしまうし、勝算が無いのに戦うのは状況を悪化させるだけだ。

 言葉を飲み込んで俺がヒナのもとに走り出すと、後ろからまた戦闘の音が聞こえ始める。

 

「先生、ついてきて!」

 

 いくら走っていても周囲の風景は変わらず、建物の残骸と何かが燃えて煙が立っているだけだ。

 俺の前を走っているヒナは、怪我がひどくて走るだけでもよろけてしまっている。そのうえどこからか侵入してきているアリウスとの戦闘のせいで今にも倒れこみそうになっている。

 

「次から次に……! くっ……」

 

「ヒナ! 大丈夫なのか⁉」

 

 さっきから一人で戦い続けていたヒナにも限界が来てしまったのか、よろめいて膝をついてしまった。心配になって近づこうとしたその時、冷ややかな声が俺たちに降りかかってきた。

 

「ようやく見つけたぞ、シャーレの先生」

 

 瓦礫の陰から現れたのは黒い帽子とマスクをした少女。その近くにいる三人も含めて全員アリウスの制服を着ている。

 

「ゲヘナとトリニティの重要人物は全員倒れた。残りは貴様だけだ」

 

「お前たちは……」

 

「私たちはアリウススクワッド。アズサが世話になったようだな」

 

 彼女たちがアリウススクワッド……。アズサはナギサやセイア襲撃の主犯格だって言っていたな。

 

「どうしてこんなことをしたんだ?」

 

「……アリウスがETOになるため。これは元々私たちの義務だった……だがそれをトリニティが踏みにじったんだ」

 

 話を聞きながらヒナのもとにゆっくりと近づいていく。何かアリウスにも言い分があるのかもしれないけど、こんなことをした以上許すわけにはいかない。

 

「それ以上動くな!」

 

「くそっ!」

 

 もう数歩でヒナのそばに行けるという距離で俺に向かって銃弾が飛んでくる。銃弾ははよけられたけど、気付かれてしまった以上ヒナに近づくことが出来そうにない。

 

「油断も隙も無い。……貴様は何か変わった力を使うと彼女に聞いたな。早く始末しておくべきか」

 

 俺の近くには逃げ込める場所も遮蔽物もない。怪我をしているヒナをかばったまま戦いきれるか……?

 銃口が俺のほうに向いていつ戦闘が始まるか分からない。緊張が場を包んでいる中、どこからかエンジンの音が近づいているのを感じた。

 

「先生。ここは私が何とかするから……」

 

 ヒナもその音を聞いたのか俺に目配せをして、血を流してよろめきながら立ち上がって銃を構える。

 でもその後ろ姿からはいつもの存在感が感じ取れない。いくらヒナが強くても、これ以上の戦闘は命にかかわるはずだ。

 

「……」

 

 俺が考えている間にも車の音が近づいてきている。アリウススクワッドもその音に気が付いたのかリーダー以外が周囲を探し始めた。

 車が止まる隙は無い。俺とヒナの周囲は瓦礫がひどくて車が走れるスペースは無いし、二人で駆け込める時間を奴らがくれるとは思えない。

 俺かヒナ、離脱できるのは一人だけだろうな。

 

「先生走って!」

 

 車が俺たちの視界に入った瞬間、ヒナが敵に突っ込んでいこうとする。

 俺は走り出す前にヒナの腕をつかむ。

 

「……ごめん、ヒナ!」

 

 そしてそのままヒナの手を掴んで思い切り車の通るほうに放り投げる。宙に浮いた瞬間のヒナの顔は……理解できない。そういう風に俺を見ていた。

 

「……えっ?」

 

「行ってくれ! ……ぐっ!」

 

 車から伸びた手がヒナを掴んだのを見た瞬間、腹のあたりが何かを通り抜けていった。

 

「……愚かだな。自らチャンスを捨てるとは」

 

「先生! せんせぇぇぇ!」

 

 無事に車に乗れたのかヒナの声が遠ざかっていく。だけど俺はそのことに安堵している暇はなさそうだ。

 ……腹を撃たれてる。致命傷は避けているけど、血が止まりそうにない……早く手当てをしないとまずいな。

 

「どうやらまだ動けるようだが……すぐ楽にしてやる」

 

 とっさに剣を構えて戦闘の意思を示したけど、この状態でいつまで戦えるか……。敵は四人と、あの幽霊たち。時間がかかるほど俺の状態が悪くなる以上、早く離脱しないと……。

 そんなとき、小柄な体の少女が俺の前に出てきた。

 

「先生! どうしてここに……」

 

「アズサ⁉」

 

 アズサは息を切らせたまま俺をかばうように前に立つ。この燃える戦場の中を一人で走ってきたのか、体中が煤だらけになっている。

 

「アズサ。私たちのような人殺しを受け入れてくれる場所なんて、この世界には無いんだよ」

 

「そんなことはない……げほっ! アズサには補習授業部のみんなや俺がいる……!」

 

「……今までもそう言って嘘を教えてきたんだろう。だがその先生もすぐに片づけてやる」

 

「サオリ……っ!」

 

 アズサは地面を強く踏みしめて一直線にサオリたちの方に向かいかけたけど、一瞬後ろにいる俺を見て踏みとどまった。

 サオリは冷たい目で俺たちをにらんだまま話を続けている。

 

「私たちを止めたいか? ならば私のヘイローを破壊してみろ、白洲アズサ」

 

「……どういう、ことだ?」

 

「アリウスが条約を奪い去り、ユスティナ聖徒会を行使する権利を手に入れた。そして条約の主体である私たちが存在する限り、この戒律は永続していくだろう。……ヘイローでも破壊しない限りな」

 

「だめだ……アズサ……。きっとほかに方法があるはずだ……」

 

 出血のせいか力が入らなくなってきて、寒気まで感じてきた。だけどこんなところで倒れているわけにはいかない。

 これ以上、みんなの居場所を壊させたりするわけにはいかない。

 

「先生……。……サオリなら知っているだろう。私の心を折るのはそう簡単じゃないと」

 

 そう言った瞬間、アズサが見覚えのある白いぬいぐるみをサオリたちに投げつける。警戒していたサオリたちが反射的にぬいぐるみを打ち抜いた瞬間、爆発と共に周囲を煙が覆った。

 

「こっちだ先生!」

 

 

 

 

 

 煙があたりを覆った後、俺はアズサに肩を貸してもらいながら移動した。幸いサオリたちは俺たちを見失ってくれたのか、アズサと一緒に路地裏まで避難することが出来た。

 

「すぐに応急処置をする。服を脱いでくれ、先生」

 

「ああ、頼む……ぐっ」

 

 幸い銃弾は貫通していたのか、アズサの処置で出血は止まってくれた。ただ少し血を流しすぎたのか、体に力が入らないし呼吸も落ち着かない。

 アズサは俺を寝かせた後、自分のスマホでどこかに連絡していた。

 

「救護騎士団に連絡をしておいたから、先生は救助が来るまで休んでいてくれ。私は……少し行くところがある」

 

「アズサ? ……まさか!」

 

 とっさに起き上がろうとしたけど、体に力が入らなくてうつぶせになるのが精いっぱいだった。

 

「これは私が決着をつけないといけないことだから」

 

「どうして……一人で行こうとするんだ」

 

 遠ざかるアズサを引き留めるために立とうとしても力が入らない。

 それでも無理やり立ち上がると傷口が開いて痛みが走る、でもそんなのは今気にすることじゃない。

 

「……ヒフミたちを、巻き込みたくないんだ」

 

「だけど……」

 

「私は、前に進む。……どんな未来に向かうとしても」

 

「アズサ!」

 

 追いかけようとして足がもつれてしまう。アズサを一人にするわけにはいかないのに……俺は結局、アズサを止めることができなかった。

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