「ただいま」
シロコに案内してもらいアビドスの校舎の一部屋に入る。部屋の中にはシロコ除いて三人の生徒がいた。ここに来るまでに生徒を見かけなかったけどこれだけなのだろうか。
「お帰り、シロコ先輩……って、その人は?」
「この人はシャーレの先生。アビドスに用があるみたいだから案内したの」
「シャーレで先生をしているアルドだ。今日はアビドスからの支援要請を見てきたんだ」
「シャーレの先生だったのね!」
「支援要請が受理されたのですね! よかったですね、アヤネちゃん!」
「はい! これで弾薬や補給品の援助が受けられます」
「手紙の通り、物資の残りは厳しかったんだな。補給が間に合ってよかったよ。顔合わせもしたいし、他の人もいるなら会っておきたいけど……」
「三年生のホシノ先輩がいるわ。隣の部屋で寝てるし、私が呼んで来るわ」
その瞬間、外から銃声が聞こえた。外を覗くとヘルメットをかぶった不良たちが集団で学校に近づいていた。どうやらあいつらはアビドスの物資が尽きかけていることを気づいているみたいで、一気に占領しようとしているみたいだ。
「あいつらは……?」
「武装集団のカタカタヘルメット団です!」
(そのまんまの名前だな……)
そんな感想を思ってしまったけど、名前とは裏腹に何度も襲撃してきているようで油断はできなそうだ。気を引き締めているとピンク色の長髪をしている小柄な子がセリカと一緒に部屋に入ってきた。さっきまで寝ていたみたいでまだ眠たげだ。
「ホシノ先輩を連れてきたよ! 先輩! 寝ぼけてないで起きて!」
「むにゃ……まだ起きる時間じゃないよ……」
「ホシノ先輩! ヘルメット団が再び襲撃を! こちらの方はシャーレの先生です」
「ありゃ~そりゃ大変だね……あ、先生? よろしくー」
まだ寝ぼけているのかおざなりに返事をしている。こうも眠たげな表情と雰囲気を見せていると、マイティを思い出すな。マイティはよく睡眠不足で寝てるところをみかけたな。……とにかく、彼女がそうなのかはわからないけど、他のみんなに慕われているみたいだ。
「よろしく、ホシノ。俺はアルドだ」
ホシノと顔を合わせている間にほかのみんなは準備が出来ていたみたいだ。シロコ達四人はすぐに外に飛び出していった。残った俺はアヤネと一緒に後方支援をしよう。
「作戦を始めよう。みんな行くぞ!」
ホシノたちはみんな思った以上に強かった。カタカタヘルメット団の人数はこちらの何倍もいるのにみんな難なく立ち回っていた。ホシノは敵の注意をひいてシロコ達に攻撃が飛ばないようにしているし、シロコやセリカ、ノノミも的確に相手を攻撃して数を減らしている。戦況は終始有利なままだった。
結局、カタカタヘルメット団の襲撃は、最後までこちらの優勢で終わった。敵を撤退させたみんなは一度部室のほうまで戻ってきた。補給ができて気兼ねなく銃を撃てたことや、長い間悩ませていた問題を解決できたからなのか、みんなハレバレした顔をしている。
「お疲れ様。みんなすごかったよ」
「まさか勝っちゃうなんてね。ヘルメット団も結構な賭けで仕掛けてきたみたいだけど」
ホシノは飄々としているけど、撤退させたことを素直に喜んでいるみたいだ。アヤネはホシノの言葉にあきれているようにツッコミを入れている。やり取りがこなれているし、いつもの調子なんだろう。
「先生の指揮がよかった。いつもと全然違った」
「みんなが強かったから、俺も指示を出しやすかったよ」
シロコが目を輝かせている気がする。最初は物静かな子に思えたけど、結構感情の動きが分かりやすいし活発な子みたいだ。
対策委員会のみんなが喜び合うのを見守っていると、一区切りついたのか改めてこちらに自己紹介をしてくれた。そして対策委員会がどういう部活なのかを話してくれた。
対策委員会は危機に瀕しているアビドスを復活させることを目的としている部活で、全校生徒で構成されているらしい。生徒数が少なくなり今回のように武装集団に襲われても解決が難しかったらしい。
「でも一度退けたとは言っても、こちらに消耗戦を続けている余裕はありません……。ヘルメット団以外にもたくさん問題を抱えているのに……」
「それについては、ちょっと計画を練ってみたんだー」
ホシノの計画は、こうして今装備や物資が整っているうちにこちらから前哨基地を襲撃する、ということらしい。一気に攻めれば向こうも戦力を整える時間が無くなって一気に決着をつけられるだろう。俺も作戦に賛成した。
「先生の指揮にも期待してるからねー」
「ああ、任せてくれ」
ホシノは緩く笑いながら声をかけてきた。みんなはすぐに出発するためにあわただしく準備をしている。俺もアヤネと一緒にしっかりサポートできるように準備しておこう。
みんながヘルメット団を襲撃して、少し経った。無事にヘルメット団を退け、補給地や弾薬庫を破壊したみたいだ。ホシノの目論見どうり前哨基地を破壊できた。これでしばらくの間は襲撃を受けないだろう。
「お帰りなさい。皆さん、お疲れさまでした」
襲撃から帰ってきた四人をアヤネと俺が出迎える。ようやく頭を悩ませていた問題を解決したと、みんなで喜んでいる。俺としても救援要請に無事に答えられてよかった。
「カタカタヘルメット団の件も片付きましたし、一息つけそうですね」
「うん。これで重要な問題に集中できる」
「これも先生のおかげだね! これで心置きなく全力で借金返済に取り掛かれるわ!」
みんなすごく喜んでいるけど、気になる言葉があったな。アヤネからもらった手紙には暴力集団に襲われていることが問題だと書いてあった気がする。つまり、今はなしている内容は俺には相談するつもりはなかったのだろう。……借金問題がどんな内容で俺が力になれるのかはわからないけど、放っておくことはできない。
「良ければ、借金問題についても教えてくれないか?」
そう聞いてみると、やっぱり話す気が無かったみたいで、アヤネとセリカの二人は少し言いにくそうにしている。セリカは特に言いたくないように感じる。
「いいんじゃない、セリカちゃん。隠すようなことじゃあるまいし」
「ホシノ先輩の言う通りだよ。先生は信頼してもいいと思う」
ホシノがセリカをたしなめてくれた。ホシノやシロコは相談してもいいんじゃないかと思ってくれているみたいだ。
「何ができるかわからないけどさ。できる限り力になるつもりだ。だから、相談してくれないか」
「でも! あんたはさっき来たばかりの大人でしょ! 今まで大人が私たちの問題を気にしたことなんてなかった! 今まで私たちで何とかしてきていたんだから! なのに今更、大人が首を突っ込んで来るなんて……私は認めない!」
セリカはそう言って部室から飛び出して行ってしまった。いままで外部の人間や大人は誰も助けてくれなかったのだろう。そのせいで大人を信じられなくなっているみたいだった。……俺は今までの人生や冒険の中で、いろいろな人に助けられてここまでやってこれたと思ってる。でもアビドスのみんなにはそんな人が現れなかったのだろう。全部自分たちでやっていくことが、どれだけ辛いことなのかは分からない。それでも、今俺がキヴォトスで何をするべきなのかは少しわかってきた気がする。この子たちの味方になって、安心して笑えるように助けることなんだろう。
「……できれば、借金のことを聞かせてくれないか?」
「えーと、……実はこの学校、借金があるんだー」
ノノミがセリカを追いかけて出ていったあと、ホシノが事情を説明してくれた。借金の金額は9億円以上もあるらしい。どのくらいの規模なのか想像がつかないけど、対策委員会はこの金額をすべて返済しなければならない。返済できなければ学校は銀行に没収されてしまい、廃校になってしまう。しかもその借金のせいで住民や生徒もみんな離れてしまったために、さらに問題への対処が困難になってしまったらしい。
「そもそも、なんで借金をすることになったんだ……?」
「実は数十年前に、この学区の郊外にある砂漠で、砂嵐が起きたのです」
アヤネが言うには、その砂嵐の規模はいつも起きているものとは規模が桁違いだったらしい。その自然災害の克服、復興のために借金をしてしまった。お金は借りられたけど、その借金をした銀行がタチの悪い銀行だったらしい。さらに、砂嵐による被害も毎年起こってしまい、借金は膨れ上がってしまった……。今では利息を返済するだけで手いっぱいになってしまっている。今回シャーレに支援要請をしたのも、弾薬や補給品を自分たちでそろえることが出来なくなってしまったからだろう。
「セリカがあそこまで神経質になっているのは、今まで誰もこの問題にまともに向き合わなかったから」
「……まあ、そういうつまらない話だよ」
シロコとホシノの声にも元気がない。それでも、これからは厄介な問題が片付いたから借金返済に全力投球できる、とホシノは軽い声色で言っている。だから対策委員会の顧問になるとしても借金のことは気にしないで、とも。
俺の気持ちはもう決まっている。それをしっかりと伝えるべきだ。
「俺も最後まで対策委員会のみんなの力になるよ。きっと、俺にもできることはあると思うからさ」
「もしかして先生ってすごい変わり者? こんな面倒ごとに首突っ込もうなんて、普通は思わないんじゃない?」
「……俺は、大人は子供を助けるものだとおもう。それに、困っているなら助けるのは当然だろ?」
「……すごいお人よしなんだね? そんなこと言う大人に初めて会ったよー」
「ホシノ先輩……と、とにかく、シャーレが力になってくれることになりましたし、これで状況が好転するかもしれません!一緒に頑張りましょう、先生!」
「ああ!一緒に頑張ろう!」