「そういえば主殿は、忍者にあったことがあるんですよね!」
「そういえばイズナには言ってたな。仲間に忍者がいてさ、一緒に旅をしていたんだ」
初めて会った時、イズナはキヴォトスで一番の忍者になることが夢って言っていた。確かにその時に忍者にあったことがあるって言ったな。あの時はすぐに別れてしまって詳しい話はできなかったから、今聞こうと思ったんだな。
「どんな方だったんですか! 教えていただけませんか? 主殿!」
「そうだな……もしかしたらイズナの夢の参考になるかもしれないし……。少し思い出話に付き合ってもらおうかな」
耳がピンとして、しっぽが嬉しそうに揺れてるな。キヴォトスだと忍者は空想の存在みたいに扱われているし、やっぱり本物の話は気になるんだろうな……。
「仲間の名前はツバメっていうんだ。俺の故郷のあるミグレイナ大陸から東にあるガルレア大陸出身のくノ一でさ。抜け忍としてミグレイナ大陸に来たんだ」
「抜け忍……ですか?」
「詳細は省くけどさ、妹のために掟を破って妹と一緒に里を抜け出したんだ」
「掟よりも愛する者を守る。それもまた忍者の一つの在り方かもしれません! かっこいいです!」
「ああ、俺もそう思うよ」
イズナはすごくうれしそうだ。ツバメの忍者としての在り方も、イズナのあこがれの忍者の在り方と似ているところがあったんだろう。こうしてイズナに喜んでもらえると俺もなんだか鼻が高いな。
「それで、普段はお金を稼ぐために酒場でバイトをしてるんだけど、時々忍者としてのうわさを聞いた人がツバメに依頼をしに来ることもあったな」
「普段酒場でアルバイトをしているのは世を忍ぶ仮の姿……本当の姿は闇に潜み依頼をこなす忍者……!」
(別に忍んではなかったかな……)
それに隠形は苦手だったし……。これは言わないほうがいいかもしれないな。
「主殿! その方はどんな忍術を使っていたのですか!?」
しっぽがはちきれそうなくらいに振られている!? それに、よっぽどこの話が楽しいのかだんだんこっちに近づいている気がするし……。
「土遁の術が得意で、よく砂塵分身の術ってやつを使ってたな。ツバメが何人にも増えるから、情報収集が驚くくらい早く終わるんだよな」
「土遁の術に分身の術……! イズナも見てみたかったです……!」
実際に分身の術を見られないことが少し残念そうだけど、作り話の中だけじゃなくて実在していることが嬉しそうだ。
「ツバメの術もすごかったけど、イズナの術もすごいじゃないか。身代わりの術なんてどうやって入れ替わってるのかわからなかったしさ」
「主殿……! ありがとうございます!」
その後もしばらく話し込んでいたら、結構時間が経っていた。今日見る時代劇は時間が長いらしいし、そろそろ見始めたほうがいいかな。喜んでくれているイズナには悪いけど、いったん話は打ち切ろう。
「そろそろ時代劇見ようか。あんまり話してると全部見きれないだろうし」
「はい! じゃあ準備しますね!」
少しツバメのことについて話し込んでしまったけど、今日イズナに部屋に遊びに来たのはおすすめの時代劇を一緒に見るために来たわけだし。続きの話はまた今度することにしよう。
それから8時間、忍者の時代劇を見ていた。イズナが熱く語っていただけあって、すごく見ごたえがあった。
「すごく面白かったよ! それぞれに譲れない考えを持ってて……。最後までどうなるのかドキドキしたよ……!」
「イズナも、何度も見ているのみドキドキしながら見ていました!」
八時間見ていたけど、ストーリーや展開がよくて全く飽きなかった。出てくる忍者達もそれぞれ個性が立っていたし、なによりその生き様がかっこよかった。
「こうして時代劇を見て、イズナのあこがれている忍者がどういうものなのか少しわかったよ。イズナが本当にあこがれていることも、改めて実感した気がする」
「主殿……!」
イズナはすごくうれしそうに小さく体を揺らしている。こちらを見ては、嬉しそうに笑っていて、今にも飛びついてきそうな気もしてしまう。こうして忍者について語っているときの笑顔を見ていると、
その後も、イズナとゆっくりと時代劇の感想を言い合いながら過ごしていた。ひとしきり言い合ったあと、イズナは少し迷っているような雰囲気で、俺に言ってきた。
「主殿……。一つ、聞いてもいいですか?」
「どうしたんだ?」
だんだんと表情も暗くなっている気がする。狐の耳が倒れていてなんだか自身無さげに見えるけど、どうしたんだろうか。
「イズナも……時代劇に出てくる忍者みたいに……、主殿のお仲間のツバメ殿みたいに……、立派な忍者になれるでしょうか?」
もしかしたらニャン天丸の一件もあって、少し自信がなくなってたり、目標を見失ってしまったりしたのかもしれない。イズナを励ますためにも、素直な気持ちをイズナに伝えるべきだろう。
「もちろんだ! イズナは立派な忍者になれるって、俺は信じてるよ」
「主殿……」
「ツバメは妹のために忍びの里を抜けたって言ったけどさ。そうやって大事な誰かのことを守るために行動できるのは、すごく強いことだと思うんだ。ちょっと気恥ずかしいけど、イズナが俺のことを主って言って慕ってくれていることも、それと同じだと思うんだ」
ちゃんとイズナに言いたいことを伝えられるように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。まっすぐと夢に向かって進む彼女の姿を、ずっと見ていたいから。
「忍者にはきっとほかにも大事なことがいっぱいあって、俺はそれを知らないけどさ。それでも、イズナのその心は大事だと思うんだ。だから、イズナはキヴォトス一の忍者になれるって俺は信じてるよ!」
「主殿……!」
そういった瞬間、いきなりイズナが胸に飛び込んできた。頭を胸につけていて表情は見えなくて、視界で動いているのはイズナの頭と狐の耳だけだ。耳はぺたんと倒れているし、体全体も小刻みに震えている。
イズナが動くたびに胸に息がかかって少しくすぐったい。胸に体温と吐息の熱を感じながら、落ち着くようにゆっくりとイズナの頭を撫でた。
「ありがとうございました! 主殿! これからも、立派な忍者になるために頑張ります!」
しばらく時間が経った後、落ち着いたイズナは嬉しそうに、そして少し照れ臭そうに離れていった。イズナの表情は晴れやかで、もう迷いはなさそうだ。元気が出たようでよかった。
「気を取り直して……主殿! ほかにも一緒に見たい新シリーズがあるのですが……」
「もうだいぶ遅いし、帰ろうかと思うんだけど……」
「そうですよね……もう遅いですし、だめですよね……」
せっかく元気になったイズナの耳としっぽが、元気なさそうに垂れている……。この姿を見てしまったらもう断れないな。感情をまっすぐに表現してくる姿は愛嬌があって、すごく甘やかしてしまいそうになるな。
「……いや、やっぱり見るよ。ただ、あんまり遅くまで起きてられないかもしれないけど……」
「大丈夫です! その時はイズナがお守りします!」
何から守るのかはわからないけど、元気になってくれたみたいでよかった。何とか時代劇を見終われるように、元気に揺れているしっぽを見ながら気合を入れた。
キヴォトスでは忍者は架空の存在だってことは、ずっと前からわかっていました。それでも時代劇の忍者はかっこよくて、イズナはずっと憧れていました。キヴォトス一の忍者になるという夢を周りに語っても、帰ってくる反応はあきれた顔か笑い声。イズナはどんな反応をされても夢をあきらめませんでしたが、どこかで理解してくれる人を探していたのだと思います。あの日先生がイズナの夢を真剣に聞いてくださったから、イズナは今も夢を追い続けることができています。
「ん……」
「あ、主殿!?」
時代劇の新シリーズを一緒にみてしばらく経ったころ、右肩に重みを感じました。どうやら主殿が寝てしまったみたいです。主殿と一緒に映画を見ていると、どうしても近くで一緒に居たくなってしまってしまいます。時代劇を見ている間に少しずつ身を寄せていたから、主殿が眠ってしまった時に肩に頭が乗ってしまったみたいですね。主殿の呼吸と体温が伝わってきて、すごくドキドキします……! このままでも幸せですが、この体勢だときっと辛いですよね。起こさないようにゆっくりとイズナの太ももに頭を乗せます。寝ている主殿の顔はいつものような頼りになる雰囲気は無くて、少し幼いように見えます。なんだかかわいく思ってしまって、つい撫でてしまいました。主殿の髪はフワフワしていて触り心地がいいです。頭に感じる重さも心地よくて、なんだか胸がギュッとします。
「えへへ……主殿」
しばらく顔を見ながら撫でているとふと、ツバメ殿のことを思い出しました。今までは時代劇の忍者にあこがれて、立派な忍者になることを思い描いていました。ですが今は、話に聞いたツバメ殿のような、大切な人のためにすべてをかけられる姿や忍術の腕、仁義を通す強さにもあこがれています。なにより、本当にそんな忍者がいることがうれしくて勇気をもらえます! もっとお話を聞きたいし、いつかツバメ殿にも会ってみたいです……!
ふと時計を見ると、かなり遅い時間を指していました。主殿は気持ちよく寝ていますし、起こさないほうがいいですよね……。主殿と新シリーズを見られなかったことは残念ですが、またお誘いすることにします! まだ撫でていたい気持ちもありますけど、ちゃんとしたところで寝ないと体を痛めてしまいますよね。
「主殿~。運びますよ~」
起こさないように小声で声をかけてから、体をゆっくりと持ち上げます。持ち上げることは簡単でしたが、イズナとは違う体の重さと大きさに少しドキドキしました。そのままイズナのベッドに降ろして、その横にイズナも入り込みます。
「こ、これは護衛のためですから……!」
だれに言っているのかわからない言い訳を言いながらゆっくりと寝そべります。温かくて、落ち着くにおいがします。なんだか恥ずかしいことをしている気がしますが、主殿のお側は落ち着くのですから仕方ありません!
主殿は優しい方ですから、あの時のイズナの様に多くの人を助るために動くと思います。だからその分危険なことに巻き込まれることが多くなると思います。主殿から危険を遠ざけて、この温もりを守るためにイズナはもっと頑張ります!
「おやすみなさい。主殿! 大好きです……!」