「ここは……」
俺は確か、体を銃で撃たれた後にアズサに助けてもらって……。
「そうだ! アズサは……!」
「アズサはここにはいないよ」
立ち上がろうとする俺を制止するように、落ち着いた声が後ろから聞こえた。振り返ってみれば背の低い少女が俺を見下ろしている。
「私はティーパーティーの百合園セイアだ。君が先生だね?」
セイア……ティーパーティーの三人目で、アズサに助言をしたっていう子だよな。
「あ、ああ……。ここはどこなんだ?」
「ここは私の夢、のような場所だ。先生がここにいるほうが不思議だよ」
「夢だって……?」
……そういえば、撃たれた場所が痛くない。それに周りの景色も、さっきまでいた場所と違う。どこかで見たことがあるようで、微妙に違う……なんだか不思議な場所だ。
「……私はアズサに警告していた。何度もこのような結末になるだろうということを」
「警告?」
「私は時折未来を見ることがある。そして、今まで外れたことは一度もない」
「つまり、セイアはこうなることが分かっていたのか?」
セイアは首を縦に振って肯定する。未来を見る……メルピピア以外に出会ったのは初めてだ。だけど、メルピピアと違ってセイアはどこか諦めているように感じてしまう。
「淡い希望を抱き、無駄なあがきをした結果がこれだ。蓄積された憎悪がトリニティだけでなく、キヴォトス全体を巻き込もうとしている」
「まだ全部終わったわけじゃない。できることはあるはずだ」
「さっきも言っただろう。もう結末は決まっているんだ」
どこか人ごとのように、遠くを見ながら俺の言葉を切り捨てる。セイアはそうであると確信していて揺るぎそうにない。
「……先生。君は七つの古則、その五番目を知っているかい?」
「いや、聞いたことないな」
「『楽園にたどり着きし者の真実を、証明することはできるのか』。……楽園にたどり着いた者は楽園から出ることはなく、出てきた者がいるのならそれは楽園ではない。君は、その問いにどう答える?」
どんな方法であっても楽園の存在を証明することができない問いかけ。意地悪で、まともに向き合う必要がない問題……確か前にそんなことを話した気がする。あの時は確か……。
「俺だったら……楽園を探しに行くよ」
そうだった。前にこう答えた時、ものすごく笑われたんだ。真面目に答えたのに、あのリアクションはちょっと傷ついたっけな……。
「楽園を、探しに?」
俺の言葉を飲み込み切れていないのか、目を丸くしながらじっと見つめてきている。
「自分の目で楽園を確かめられたのなら、証明したことと同じなのかと思ったけど……やっぱり駄目なのかな?」
「それでは結局、他人に楽園の存在を証明することは出来ないだろう?」
呆れたようなセイアの表情に、少し恥ずかしくなってくる。こういう問答はいまいち苦手でリイカやヘレナに任せてしまいたいけど……頑張って、もう少し自分で答えてみよう。
「そうだな……なんとなく、楽園があるかどうかよりも、あると信じて行動することが大事だと思ったんだ」
「証明すらできないまま、ただ盲目的に信じると?」
「疑って何もできないくらいなら、俺は信じて前に進みたい。それに……」
さっきセイアは、未来は決まっていると言っていた。確かに、未来が見えるのはセイアだけで、本当に決まっているのか俺達には確かめられない。
セイアにとって未来は変えられないもので、ほかの誰もそれを否定することができなかった。だから俺は、未来が変えられるって信じて、行動しないといけないんだ。
「信じたところで何も変わらない。信じたところで、そこには何の意味もないだろう……!? もう、結末は決まってしまっているのだから!」
「……俺は今まで、何度も未来が変わる瞬間を見てきた。だから、今回だって何とかなるって信じてる」
「未来を……? 先生は未来が見えるわけではないのだろう? 一体……」
セイアが困惑している声がだんだんと遠のいていく。もしかしたら体の意識が戻り始めているのかもしれない。
まだセイアに伝えたいことがあるけど、きっとそれは全部が終わってからでも遅くはない。今はただ、前に進むしかないんだ。
「行ってしまったか……」
「未来は変えることができない。そのはずなのに……先生は、それができると信じていた」
「私は……証明するというのなら、きっと見届ける義務があるのだろう」
「憂鬱で、悲しくて、苦しくて……たとえ最後まで後味の苦い話であったとしても……」