今回はアコについての自己解釈があるので、もしかしたらキャラが違うと思うかもしれません。もしよろしければ感想をいただけると嬉しいです。
先生はよく風紀委員に協力してくれている。そのおかげだろうか、最近の活動は順調に行っていることが多い。温泉開発部や美食研究会が問題を起こしたときは以前よりも早く鎮圧できているし、そもそも先生がいるときは問題を起こさないことも多い。曰く先生がいるとすぐ捕まるから、だそうだ。……私たちはなめられているのでしょうか。
「何もかも先生のおかげ、ですか……」
ふと、ため息と共に独り言をつぶやいてしまう。何が不満なのかもわからないけれど、どこか面白くないと思っている自分がいる。それに、私はアビドスで先生を拘束しようとしたこともあって、少しだけ気まずい。考えを切り替えるように手元に広がっている報告書を見ると、そこには先生の名前が書いてあった。
「おーい、アコ。何か手伝うことはあるか?」
噂をすればなんていうけれど、先生が来てしまった。相変わらず人を疑わない顔で私を見てくる。まあ、ちょうどよく仕事を振れる人が来たと思っておきましょうか。
「先生。ちょうどいいところに来ましたね。事務仕事が大量に残っているんです。手伝ってもらえませんか?」
「えっ。そっちはあんまり力になれないかもしれないぞ……?」
「大丈夫ですよ。書類の種類を分けてくださるだけでも助かりますから」
「そのくらいでいいなら……」
少しホッとした様子で頷くと、私の隣に椅子を持ってきて早速仕事に取り掛かってくれた。本人も言っていたように、事務仕事自体が苦手なのか少したどたどしいが、まじめに仕事をしてくれているようだ。
「そういえば、最近風紀委員会の雰囲気がいいんですよね。以前より連携の練度が上がっているようでして。他にも、ヒナ委員長の負担を気にかけている人が多いようですね」
「ああ、そうみたいだな。この間ヒナから聞いたよ」
「そのおかげか、ヒナ委員長の顔色も少しだけよくなっているんです。最近は上機嫌だったり、笑っていることも増えていますし。そこは先生に感謝しないといけませんね」
改めてお礼を伝えるのは少し恥ずかしいけれど、ヒナ委員長が元気になったのはこの人のおかげでしょう。当の本人は自分のおかげと思っていないのか、心当たりのなさそうな顔をしていますが。
「俺は大したことはしてないよ。全部みんなの頑張りのおかげだって」
「……こうしてお礼を言っているのですから、素直に受け取ってください」
「あ、ああ……」
しまった。お礼を言うはずが怒った感じになってしまった。……とにかく今は仕事に集中しましょう。これ以上変な雰囲気にしたくありませんし。気を取り直して書類をさばいていると、先生は何かに気づいたのかこちらに声をかけてきた。
「なんだか、万魔殿からの苦情が多くないか?」
「ああ、それはとりあえずまとめて置いておいてください。大体は難癖付けてるだけなので、後で処理します」
「そうなのか……。なんだか苦労してるな」
なんだか憐みの目で見られている気がする。書類仕事をしているから表情までは見ていないけれど。
それからしばらくはお互いに集中していたのか、無言で書類をさばいていた。しばらくすると、大きな紙の山はすべてなくなっていた。窓を見てみると、太陽の位置もだいぶ動いていた。どうやら思ったより時間が経っていたようだ。
「やっと終わりました……。先生もありがとうございました」
「ああ……。慣れなかったからちょっと大変だったけど……」
肩が凝ったのだろうか、しきりに肩を回している。……少しは労をねぎらってあげるべきですかね?
「先生、コーヒーでも飲みますか? 私が淹れてきますよ?」
「あっ、いや……。アコは疲れただろうし、俺が淹れてくるよ」
なんだか先生の態度が怪しい。確か以前にも先生に仕事を手伝っていただいたときにコーヒーをふるまったけど、その時はちゃんと飲んでくれたはず。もしかして、私のコーヒーがお気に召さなかったのだろうか?
「先生? もしかして私の淹れるコーヒーはまずかったんですか!?」
「いや……その……」
「だったら、先生のお手並みを拝見しましょうか!」
さっきまで仕事をしていたストレスだろうか、思った以上に感情が高ぶってしまった。先生も私に気おされてか、少しのけぞっている。
「わ、わかった。淹れてくるから、ちょっと待っていてくれ」
先生は驚いた顔をしたまま、コーヒーを淹れに行った。気分を落ち着けるためぼんやりと先生の後姿を眺めていると、なんだか手馴れている様子が見て取れた。そのままカップにコーヒーを注ぎ、こちらに持ってくる。
「アコ。熱いから気を付けてくれ」
「先生みたいな猫舌じゃないんですから。大丈夫ですよ」
コーヒーのいい香りがするカップを受け取り、そのまま一口。コーヒーの味と香りが生かされていてとても美味しい。いつも自分で淹れているものとは大違いだ。私はさっきまでのけんか腰を忘れて、先生に訊いていた。
「先生、こんなにコーヒー淹れるのが上手かったんですね。てっきり素人かと……」
「まあ、しばらく前まではコーヒーなんて淹れたことなかったんだけどさ。元居た世界でバーをやっている奴から、今の内に身に着けておいた方がいいぞ、なんて言われて特訓させられてな……。それにコーヒー好きの仲間もいて、そいつと一緒に居るうちに自然と興味が湧いてさ」
なんだか懐かしそうに語る先生の表情を見るに、とてもいい思い出の様ですね。なんだかとても……、羨ましい。何に対して羨ましいと思っているのかわからないまま、会話は進んでいく。心休まる時間のはずなのに、何かが心に引っかかっている。
しばらく先生と話していると、部屋のドアが開いて誰かが入ってきた。小さな背、白くて長い髪。入ってきたのはヒナ委員長だった。
「アコ、仕事はどう? ……先生、来てたんだ」
最近の委員長の表情は分かりやすい。先生が来たとわかったとたん表情が明るくなった。そんな委員長の表情も素敵だ。
「お疲れ、ヒナ。アコの仕事を手伝ってたんだ」
「先生のおかげもあって、仕事は終わりました。今は先生の淹れてくださったコーヒーを飲んでいます」
「ヒナも飲んでいくか?」
「うん。一杯いただくね」
ヒナ委員長は椅子に座ると、少し浮かれているような雰囲気を出しながら先生がコーヒーを淹れている姿をじっと見ていた。先生がカップをヒナ委員長に渡すと、慣れた手つきでコーヒーを飲み始めた。
「おいしい……」
「本当か!? そういってもらえてよかったよ」
美味しいと言ってもらって先生は嬉しそうだ。なんだか二人が仲良く話しているのを見ていると、ここに私の居場所が無いんじゃないかと思ってしまうときがある。そんなはずないのに、どうしてこんなことを思ってしまうのだろう。
「それじゃ、私は戻るね」
「また仕事か? 俺も何か……」
「大丈夫、先生。アコの仕事を手伝ってもらったし。それに、私は大丈夫だから。アコのこと、よろしくね」
ヒナ委員長の先生を見る顔は信頼に満ちていて、今までのようなつらそうな表情ではなかった。先生もそれを感じ取ったのだろう、笑顔で頷いてヒナ委員長を見送っていた。
「先生はヒナ委員長と仲良くなりましたね」
「ああ、そうだな」
そう言えば、先生は今の風紀委員会をどう思っているのだろうか。
「……先生は今の風紀委員会をどう思いますか?」
「良くなってるんじゃないか? みんなで力を合わせているって聞いているし」
「そう、なんですけど……。私はなんだか少し疎外感を感じるんです」
ヒナ委員長も、最近は他の風紀委員と一緒に仕事をしている光景を見かけるようになった。ヒナ委員長の横には多くの人が集まるようになって、委員長自身もなんだか楽しそうに見える。
「みんなに置いていかれているような、居場所が無いような、そんな風に感じることがあるんです」
「そんなことないだろ。みんな、アコのことを頼りにしていると思うぞ」
「それに、ヒナ委員長はよく先生のことを考えているみたいですし」
なんだか当てつけのようになってしまった。ヒナ委員長は先生と会ってから、前より楽しそうにしている時間が増えた。昔はあんな表情はめったにしなかったのに。
「アコはどうしたいんだ?」
「そんなの……わかりませんよ! 私はただヒナ委員長の役に立ちたいだけなんです! でも、私じゃなくてもいいんだって、そう考えてしまうんです!」
「アコ……」
こんなこと言ったって先生を困らせてしまうだけだ。そうわかっていても、このお人好しなら受け止めてくれるんじゃないかって、そう思ってすがってしまう。先生のほうを見ると、心配そうな顔で私を見ていた。
「ヒナはアコのことをすごく大事に思っているよ。ついさっきだって、ヒナはアコのことが心配だから俺にここにいてくれって頼んだんだし」
「……私もいたのでそれは知っています」
「他にも……」
ヒナ委員長が私がいてどれくらい助かっていたのか、先生が聞いた内容を聞かせてくれた。いつも事務仕事で助かっていること、万魔殿への対応が助かっていること、よく気づかっていてくれていること。次々と話してくれていたけれど、先生はずっと楽しそうに話していたのが印象的だった。
「まあ、もう少し落ち着いてほしいとも言っていたけど……」
「今はそこはいいんです! というか、なんで先生が嬉しそうなんですか……」
「アコが褒められているんだ。嬉しいに決まってるだろ?」
「変な人ですね……。ですが、ありがとうございます」
「俺はヒナが言っていたことを伝えただけだよ」
きっと今の私は笑っているだろう。我ながら単純だと思うけれど、ヒナ委員長に頼りにされているってわかったら気が軽くなってしまった。でも、今のままではいけないのだろう。ヒナ委員長は少しずつ変わっているのだから、私がそれに置いていかれるわけにはいかない。深呼吸をして気分を変える。そして先生のほうをまっすぐと見て、声をかける。
「先生。少しお願いしてもいいですか?」
「どうしたんだ? 無茶なことじゃないならいいけど」
「コーヒーの淹れ方を教えてくれませんか? ヒナ委員長には美味しいものを飲んでほしいので」
「そんなことでいいなら、いつでも教えるよ」
先生の淹れたコーヒーを飲んだヒナ委員長の顔は、いつも私が淹れた時の顔とは全く違った。先生にだけあの表情が向けられるのはなんだか悔しい。
「じゃあ早速教えてください。一刻も早く、委員長に美味しいコーヒーを飲んでいただきたいので」
「……そんなに焦らなくてもいいんじゃないか?上達には時間がかかると思うし」
「じゃあ賭けてみますか? 美味しくなかったらなんでも罰ゲームを受けますよ? もし美味しかったら先生が受けてくださいね!」
「えっ!? いや……、やるなんて一言も言ってないぞ!?」
話を聞かなかったことにして強引に勝負を始める。私が準備をし始めたのを見ると、先生も渋々淹れ方についてのアドバイスをくれた。それを基に一つ一つ確認するように丁寧に作業する。先生のほうを見ると、教えるのが楽しいのか、穏やかな顔をしている。その顔を驚きに変えたくて、より一層気合が入る。
「さあ、できましたよ!」
「ああ。いただくよ」
猫舌なのかコーヒーを冷ましながら飲んでいる先生を見ていると、なんだか肩の力が抜けてしまう。この人の前でならもっと素直になってもいいのかもしれないと、そう思ってしまった。
「どうですか? 私の勝ちですよね!」
「……アコも飲んでみてくれ」
先生の表情は浮かないけれど、まさか……。私もコップにコーヒーを注いで一口飲む。以前淹れていたものよりは良くなっている、けれど美味しくはない。そんな微妙な味がする。まだまだ精進が必要なようだ。
「……私の負けですね」
「そんなにあっさり認めるのか!?」
「たまには私も素直に負けを認めますよ。それに、先生は変な罰ゲームなんてしないでしょう?」
先生は困った顔をしながら罰ゲームの内容を考えている。先生のことだから、もしかしたら罰にならないようなものを提案してくるのかもしれない。本当ならそれでもいいけれど、今はもう少し先生と一緒に居たい気分だ。罰ゲームの内容はしっかりと考えてもらうことで時間を稼いで、もう少しここにいてもらうことにしよう。きっとそんな私のことも、先生は受け止めてくれるのだろうから。
「罰ゲーム、楽しみにしてますね?」
定期的にアルドと特訓するアコが見られたとか。
アコがこんなに不安がるかどうかは迷っていましたが、ヒナや風紀委員の状況が変化していることを考えてこんな話になりました。
アルドのコーヒーの描写は、アナザーエデン内での時の物忘れ亭のマスター直伝、ということでお願いします。意外とハイスペックなので習得できているかなと。