今日はサヤの研究室に向かっている。最近よく喧嘩の仲裁や依頼をこなしているうちに怪我をしてしまう俺を見かねたのか、サヤがシャーレに置く薬の相談に乗ってくれることになった。キヴォトスだと薬の効果が思っていたものと違うものが多くて、いまいち使いこなせていなかったから今回のサヤの提案はありがたい。
研究室の扉を開けるとそこには黒い髪と頭についた獣の耳、緑の目が特徴的な小さな女の子が立っていた。この子とは昨日出会ったばかりのはずだ。昨日の今日でもう再会するなんて思わなかったな。この子もあんまり成長していないみたいだし、時空の穴はあんまり遠い時代に飛ぶものじゃなかったようだな。
「ええと……久しぶり、でいいのかな? 前に公園であったはずだけど」
「……えっ? ああ……あの時のお兄さんですね!」
「あの後、友達とは仲直りできたのか?」
「はい! ちゃんと仲直りして、今では無二の親友です!」
「そうか! それならよかったよ」
なんだか昨日会った時よりすごく大人びているように感じるな。やっぱり、日々成長しているってことなのかな? バルオキー村の子供なんかもいつの間にか大きくなってるし、そういうことなのかもしれない。
「そういえば、まだ名前を教えてなかったよな。俺はアルド、今はシャーレで先生をしている」
「私は最近梅花園に来た9歳の……シュ、シュエリンです! シュンお姉ちゃんと山海経を散歩していたらはぐれてしまって……」
「迷子か……ならシュンを探さないとな。きっとシュンもシュエリンを探しているだろうし。……そういえば、サヤを見なかったか? ここで会う予定だったんだけど」
「え、ええと……サヤさんならさっきお出かけしちゃったと聞きましたよ?」
「入れ違いか……それだと戻ってくるまで時間かかるだろうし、先にシュンを探しに行くか」
「ええと、シュンお姉ちゃんなら玄武商会に行っていると思います」
おいしいタンフールーの店で新作が出るからそこに行っているかも、ということらしい。確かに玄武商会は人が多いだろうし、はぐれる可能性は高いか。シュンも心配しているだろうし、早く合流させてあげたいな。
シュエリンはあんまり心配しているわけではないみたいで、なんだかうれしそうに俺のほうを見ている。
「さあ、早く行きましょうお兄さん!」
「っとと、そんなに引っ張らなくてもついていくって!」
シュエリンに手を取られて玄武商会まで向かっていく。ぐいぐいと俺の腕を引っ張っていて、なんだかさっきまでより機嫌がよさそうだ。
「やっぱり、お兄さんの手はあったかいな……」
玄武商会は山海経にある商人の組織の一つで、おいしい料理をいろいろと売っている。最近力をつけてきた組織のようで、最近では山海経の生徒会の玄龍門とは日夜勢力争いをしているなんてうわさもあるらしい。ここに来る途中でシュエリンが教えてくれたけど、何でここまで詳しく知っているんだろう?
そのシュエリンはおいしそうにタンフールーを食べている。あんなに欲しそうな表情をしてたらさすがに断れないけど、幸せそうな顔をするのなら、こうして買ってあげるのも悪くないかな。
「タンフールーおいしいですね! お兄さんはどうですか?」
「初めて食べたけどおいしいな! でも、シュエリンってなんだか山海経のことにやけに詳しいよな。最近来たって聞いたけど……」
「これはその……シュ、シュンお姉ちゃんが時々言っているのを聞いていたんです!」
「なんだかシュンと話しているみたいに感じたからさ」
「えっ! そ、その……あ、あこがれの教官ですから。真似してるんです」
「そうか。確かに、シュンは良い教官だもんな」
「そうですか? ありがとうございます。えへへ……」
あこがれの教官をほめられてうれしいのか、照れ笑いをしながらタンフールーをほおばっている。さっきまではなんだかシュンみたいな雰囲気を感じたけど、やっぱり子供だよな。
タンフールーを食べ終わった後もしばらく歩いていたけど、シュンはどこにもいなかった。はぐれてからほかの場所を探しに行ったのかもしれないな。
「ほかに心当たりはないか?」
「そうですね……シュンお姉さんがよくいっている公園に行ってみましょうか」
シュエリンと一緒にきた公園には誰もいなかった。シーソーやブランコのような遊具は一通りあるけど、あまり遊ばれていないのか綺麗な状態のものばかりだ。ここに来るまでの道が少しわかりにくいせいかな。
「ここは梅花園の近くにある割に人が来ない場所なので、ゆっくり休みたいときにピッタリなんです」
「なんだか穴場って感じだけど、よく知ってるな」
「あっ! いや、シュンお姉ちゃんがそう言っていたので……」
「・・・シュンも大変なんだな」
そのあと、もしかしたらシュンが来るかもしれないからと、少しの間公園で休むことにした。シュエリンは遊びたいようで、シーソーやブランコで遊ぼうと誘ってくれた。俺はこういう遊具で遊んだことがなかったし、興味はあったけど、今はシュンを探している最中だと言って断った。しょんぼりしている姿を見ると申し訳なく思うけど、シュンを探した後でも遅くはないよな。
「あれ、先生? この公園にいるなんて珍しいですね」
「ココナ? 俺たちはシュンを探してるんだけど……どこにいるか知らないか?」
「先生も探しているんですね。急にいなくなっちゃったので、シュン姉さんの分まで園児のおやつの準備をしなきゃいけなくて大変だったんですよ」
ココナがいうには、きっといつも気にしているようなことが原因じゃないかってことらしい。歳を重ねたとか、肌の調子が悪いとか、そういうことらしい。
「きっと今も、タンフールーを食べてて時間のことを忘れているだけかもしれませんし。ちょっと子供っぽいところあるんですよね」
「そうか? 俺はすごく大人っぽいと思ってたけど」
「それは、先生の前だと張り切ってますし。まあ、どこかでタンフールーを食べながら時間のことを忘れているだけかもしれませんけど」
「ココナちゃんも十分子供っぽいですよ!」
「シュエリン!?」
なんだか飛び出してきたシュエリンとココナが言い合いを始めてしまった。なぜかココナのことをかなり知っているシュエリンに言い負かされてしまったココナは捨て台詞をはいてどこかに行ってしまった。
「……ちょっと言いすぎなんじゃないか?」
「……そうですね。次に会ったときはちゃんと謝ります」
「よし。ここにはシュンはいないみたいだし、ほかの場所に行ってみるか」
今度は「桃源郷」という有名な茶屋に来ている。食後のカフェのように利用されていて、生徒はよくお茶を飲みに来るらしい。確かに、周囲を見渡してみるといろんな学校の生徒が来ていてすごくにぎわっている。中にはヴァルキューレの白制服も見えているけど……よく見ると知り合いの生徒だな。
「キリノじゃないか。キリノも結構ここに来るのか?」
「先生。いえ、私は局内でのうわさを聞いてここにきていまして」
その噂とは、山海経自治区内に大量の武器が流れ込んだというものらしい。確かにそれが本当なら放ってはおけないな。もしかしたら大規模な戦闘になるかもしれないし、そうなる前に防ぐために俺も協力したいんだけど……。
「俺も協力したいけど、今は手が空いてなくてな……」
「そうですか。以前のように先生に捜査協力していただけると助かったのですが……。ですが、それでしたらいったいどのような用事で?」
「この子……シュエリンが迷子になっていてさ。梅花園のシュンを探しているんだ。どこかで見かけてないか?」
「背の高い教官をされている生徒さんですよね。申し訳ないのですが、この辺りでは見かけていませんね」
「そうか……そういえば、もう一つ用事があったんだ」
「私にですか?」
「実は山海経内で少し異変が起きててな」
昨日時空の穴が出現して、どこかの時代に飛ばされたことを説明した。誰かが巻き込まれたら帰ってくることができない可能性もあるし、そもそもどこに飛ばされるのかもわからない。だからヴァルキューレに協力してもらおうと思っているということを伝えた。
「一応ヴァルキューレや連邦生徒会にも話してはいるんだけど、すぐに動いてくれるかはわからないからな。いつも見回りをしているキリノにも協力してほしいんだ」
「……わかりました。市民の方の安全を守るのが私の役目ですから! こちらでも気を付けてみますね!」
そのあとも時空の穴の特徴や今までにあったことなど、いろいろと話をしていたら、シュエリンが少し遠慮がちに声をかけてきた。
「あのー。警察のお姉ちゃん。あっちで悪いお姉ちゃんたちが、店員さんをいじめてます」
シュエリンが指をさしたほうには、不良生徒が店員に何かいちゃもんを付けている様子が見えた。あのままだと客に迷惑がかかるし、早く止めないと。
「お兄さん……私怖いです……」
騒ぎを抑えに行こうとすると、服の袖が引っ張られる感覚がして後ろを見てみる。後ろではシュエリンが不安そうな表情で俺のほうを見ていた。確かに、ここでシュエリンを一人にするのは危ないな。申し訳ないけど、ここはキリノに任せよう。
「キリノ、任せてもいいか?」
「はい! シュエリンちゃんをちゃんと守ってあげてくださいね!」
そのあと、無事に騒ぎが収まったのを見てから店を後にした。キリノとは、後始末があるからということですぐに別れた。公園で少し休んでいる間に、さっきまで不安そうにしていたシュエリンも元気になったみたいだ。
「次はどこに行きましょうか! まだまだお兄さんと一緒に行きたい場所があるんです!」
「なんだか、シュンを探すことが二の次になってないか?」
「だって、次にお兄さんと会ったらしたいことをずっと考えてたんですから!」
シュンとはぐれて不安になっていないのは良いことかもしれないけど、このままじゃいつまでたってもシュンと会えないな……。これからどうするかを考えようとしても、俺はまだそこまで山海経に詳しくないし……。
「シュン! 待たせたのだ!」
「サヤさん!?」
「若返りの薬の解毒薬を持ってきたのだ!」
「……若返りの薬?」
ついシュエリンのほうを見てしまうと、気まずそうな表情で俺のほうを見ていた。確かに、見た目は前に会った時から変わっていないのに振る舞いや言葉遣いがすごく大人っぽくなっているのは不思議だったけど……。それに、よく見てみるとシュンとシュエリンはなんだか似ているような……。
「なあ……もしかして……」
「ひ……人違いですー!」
シュエリンは叫んだあと、そのまま走り去って行ってしまった。まだ頭の中が混乱しているけど、もしかして本当に……?
「じゃあ、本当にシュエリンはシュンだったのか!?」
「そうなのだ。しかし、戻った当初はあんなに子供っぽくなかった気がするが……。先生、何か心あたりはないか?」
「実は……シュンが小さいころに一度あったことがあるんだけど……」
「先生がキヴォトスに来たのは最近のはずだが……。詳しいことは今度聞くとして、それが原因の可能性はあるのだ」
体が幼くなって、性格とかの内面まで幼くなったのかもしれない。それに加えて昔の思い出が後押しをしているかもしれない、ということらしい。このままだと、体がもとに戻っても、内面まで元に戻るかはわからないらしい。
「だったら、早くもとに戻さないと! この解毒薬があれば体はもとに戻るんだよな?」
「しかし、肝心のシュンがどこにいるのかわからないのだ……」
「さっき、思い出が幼さの後押しをしているかもって言っていたよな。だったら、一つ心当たりがあるんだ」
「本当か? だったら、早くそこに行くのだ!」
「……ごめん、今回は俺に任せてくれないか? 俺が小さくなったシュンのことを気づけなかったから、こんなことになったんだと思うし」
「先生……わかったのだ。でも、次はぼく様に一日付き合ってもらうから!」
「サヤ……ああ! ちゃんと埋め合わせするよ!」
「楽しみに待ってるのだ。だから、僕様たち山海経の時々頼りない教官を、よろしく頼むのだ」
昨日小さいシュンにあった公園に来ている。そろそろ外は日が落ちてきていて、周囲に人気もない。なんだか過去で会った時のことを思い出すな。公園の中を見渡してみると、過去で見た時とほとんど変わっていない。何年かたったせいか、古臭い感じがする程度だ。
「もしかして……」
ふと目に入ったのは、古くなった土管だ。前のときはそこで隠れて泣いていたけど……。土管の中を覗いてみると、体を丸めている小さい子が目に入った。
「……こんなところにいたのか」
「おに……先生。やっぱり見つかっちゃいましたね」
昨日と同じように、俺も土管の中に背を丸めながら入っていく。シュンは逃げる気がないみたいで、すんなり横に座らせてくれた。
「ごめん。すぐにシュンだって気づいてやれなくて。……前に会った時からかなり時間が経ってたんだよな」
「……先生にとっては、私とはいつぶりに会ったんですか?」
「……昨日だ」
「時空の穴、でしたっけ? だったら、今まで私に気づかなくてもしょうがないですよね……。でも、今日はすごく楽しかったんです。お兄さんとまた出会えて一緒に遊んで。昔に戻ったような気がして」
「シュンにとっては何年も前のことだもんな」
「だから、もとに戻りたくないなって思ったこともあったんです。だからさっきはつい逃げてしまったんですけど……」
シュンは土管の壁にある文字を懐かしそうになでる。そこには前にも見たシュンの夢が書いてあった。俺とシュンは、ここで一緒に約束をしたんだ。
「久しぶりにここにきて、あの時先生と約束したこと、なんで教官を志したのかってことを思い出したんです」
「俺は立派な先生に、シュンは教官になるって約束したよな」
「はい。最近は忙しくて、嫌なことも多くて、忘れかけていたんです。でもここにきて、子供の笑顔が好きで、すごく大切だってことを思い出したんです」
「……そっか」
「先生。解毒薬をもらえますか? 子供に戻れて楽しかったし、まだ遊び足りないですけど、今の私は教官ですから」
「だったら、また一緒にどこかに出かけよう。今日山海経を案内してもらったのも、すごく楽しかったしさ」
「楽しみにしていますね?私もまた先生のお話が聞きたいですから」
クスクスと笑うシュンに解毒薬を渡すと、シュンはすぐにそれを口に入れた。するとすぐに体が元の大きさに戻り始めて、すぐにいつものシュンに戻った。どうやら体に異常はないみたいだし、これで一件落着かな。
「みんなのところに戻りましょうか。心配しているでしょうし」
いつかのときと同じように、梅花園に向かって二人で並んで歩く。ふと横を見ると、横にいるシュンと目線があった。視線に気づいたのか、少し照れくさそうに俺のほうを向いてこう言った。
「私、昔は早く大きくなりたかったんです。あこがれのお兄さんと同じ目線で歩きたくて。だから、大変なことも多いこの体も、今は嫌いじゃないんです」
「確かにすごく背が高くなったけど、それだけじゃなくて今は立派な教官だもんな」
「あの時の約束を胸にずっと頑張っていましたから」
「俺はまだ立派になれてないから、シュンを見習ってもっと頑張らないとな……」
「……私にとっては、もう立派な先生ですよ」
「え? 何か言ったか?」
「いえ! これからは私と一緒に頑張りましょう! 私も新しい目標ができましたし」
「どんな目標なんだ?」
握っていた手をぱっと放して俺の前に立つと、月の光をシュンの瞳がきれいに反射していた。あの時とは違って、大人のような落ち着いた笑みを浮かべているけど、どこかで小さいときの面影も感じる。どれだけ成長して変わっていっても、変わらない良さもある。なんだかそんなことを思ってしまった。
「それは……秘密です! ねえ、先生。これからも二人きりの時はお兄さんって呼んでもいいですか?」
「もちろん構わないけど……。今はそんなに歳は変わらないんじゃないか?」
「いいえ! 今でもずっとあこがれのお兄さんですから。だから、これからも時々甘えさせてくださいね?」
キャラに過去をはやすのってどうなんだろうと思いながら書いていましたが、こうして書ききれてよかったです。
小説説明では出さないと言っていたのですが、アナデンのキャラを短編のほうに出そうかと思ってます。(ちょっと嘘ついた感じになって申し訳ないのですが・・・)