前回の投稿からひと月以上間が空いてしまいました。思った以上にネタが思い浮かばなかったり、メインストーリーの書き方で迷ってしまってしまいました。申し訳ありません。
今回はアナデン側で新外典が来たのでリハビリがてら思いついたネタを書いただけとなります。キャラの良さを書ききれている自信はあまりありませんが、楽しんでいただけたら幸いです。
夏が終わり始めて、少しずつ緑が減ってきた季節。曇り空の下、私は世話をしている子猫のもとに向かっていた。最近は雨が多かったし少し気温も下がりはじめたから少し心配だった。雨の降る前に子猫のところに行ければいいなと、途中のコンビニで買った猫用の缶詰の入った袋を揺らしながら歩調を早める。
鉄筋コンクリートの古ぼけた建物の間に入り、少しだけ進んだ路地裏に入っていく。ここもあんまり変わらないなと、壁の落書きや薄暗さを感じながら歩いていると、子猫の住処の前に見慣れない男の背中が見えた。紫の髪に鉢巻を巻いていて腰には時代劇で見る刀のようなものをつけている。その格好はまるで異世界から迷い込んだ人間のように思えた。何より、その背中から感じる迫力は普通の人間のものじゃない。
「ねえあんた。そこで何をしてるの?」
少し背中に冷や汗をかきながら問いかける。いつでも応戦できるように銃に手をかけながら間合いを図っていると、ゆっくりと男が立ち上がって鋭い眼光で私のほうを見てきた。
「貴殿の飼っている猫か?」
「たまに面倒みてるだけ。私はカヨコ。あんた名前は?」
「私はシオン。サムライだ」
まっすぐと私のほうを見ながら言い切った。
「なんでここにいたの?」
「鉢巻を猫に取られてしまってな。幸いすぐに取り返すことができたが、追いかけているうちに見知らぬ場所にいたのだ。」
シオンは頭に巻いている鉢巻をなでながら振り返っている。
「それで、そこの子猫に何をしてたの?」
「煮干しをあげていたのだ。猫の好物だからな」
さも当然かのように懐から煮干しの入っている袋を取り出して私のほうに見せてきた。袋を覗いてみると、確かに小魚の干物がいっぱい入っていた。……もしかして、子猫に何かしようとしていたわけじゃなくてただ単に遊んでいただけ? でもあの迫力を出しながらすることではない。なんだかまた癖の強い人にあったなと、ため息が出てしまった。
「邪魔をした」
短くそういうと、私の横を通ってどこかに行こうとする。不思議で少し気になる人だったけど、止める理由もない。少し心に引っ掛かりを感じながらその背中を眺めていると、ぽつりと頬に冷たい感触がした。空を見ると、雨はぽつりぽつりと少しずつ勢いを増していってすぐに土砂降りになってしまった。私はあらかじめ持っていた傘を差しながらシオンのほうを見る。シオンは傘を持っていないのか、雨に打ち付けられながら少し困っているようだった。
「……もしよかったら傘、使う?」
不思議とそんな言葉をかけていた。いつもなら知らない人の世話を焼くなんてこと、するはずないのに。もしかしたら誰かさんのお人よしが移ってしまったのかもしれない。
「……かたじけない」
シオンは表情を一切変えず、でも少しだけ申し訳なさそうな雰囲気を出しながら私の持っている傘に手を伸ばした。
雨が強くなってきて傘をさしていても防げなくなってきてしまったから、近くの公園に避難した。屋根のついているベンチに二人と一匹で横に並んで座る。小猫も少し寒いのか、座っている私に近づいて暖を取っている。その姿は愛らしくて、雨に濡れたストレスもどこかに吹き飛んでしまいそうだ。
打ちつける雨の音を聞きながら、横にいる男、シオンに目を向ける。濡れた髪もそのままにぼんやりと景色を眺めているその姿は、どこか遠くに行ってしまいそうな感じがする。なんだか落ち着かなくなって声をかけてしまった。
「シオンさん、猫好きなんだね」
「シオンでいい。猫は良いものだ。……もっとも、私はなぜか避けられているが」
「あんな迫力を出しながら迫ってたらそうなるでしょ」
つい、思っていたことを口に出してしまった。そもそも、初めて会ったときに警戒してしまったのはただならない雰囲気を感じてしまったからだ。
「だから、もっとリラックスして接してあげないと猫が可哀そうだよ」
「威圧しているつもりはないのだが……」
「ちょうどこの子がいるんだし、ちょっと試してみなよ」
私の横で丸くなっていた子猫をシオンのほうにゆっくり近づける。体が温まって落ち着いたのか、あくびをした後にきょろきょろと周りを見渡している。
子猫をなでながら、シオンのほうに目で合図を送る。いきなり雨が降ってきたせいでまだ子猫にご飯をあげていないし、今ならシオンがご飯をあげても食べてくれるだろう。
「……煮干しは食べるか?」
なれた手つきで懐から煮干しの入っている袋を取り出して子猫の前に差し出す。でもやっぱり、シオンから放たれる威圧のせいか一向に食べようとしない。
「顔が険しいよ」
「難しいものだな……染みついた習慣故、簡単に取り払うこともできぬ」
「……煮干し頂戴。私があげるよ」
シオンから煮干しの袋を受け取って子猫にあげる。煮干しに鼻を近づけてかいだ後、ぱくりと食べ始めた。お腹が減っていたのかすぐに食べきると、ねだるように私のほうを向いて一鳴きする。
「ほら、シオンも」
シオンは袋から煮干しを取り出すと、同じように子猫に近づける。鼻を近づけてにおいをかいだ後、さっき食べたものと一緒だと気づいたのか勢いよくかぶりついた。
「おお……いるのか。たらふく食え」
嬉しそうに袋から煮干しを取り出しては次から次に子猫に与えていく。
「まだ小さいんだから、次から次に食べさせたら太っちゃうでしょ」
「む、そうだな……。すまぬ」
だんだんシオンが何を考えているのかわかってきたかもしれない。表情はほとんど動かないけど、今は少ししょんぼりしている。小猫もそれを感じ取ったのか、シオンのほうに近づいていった。シオンは少し緊張しながらも、やさしい手つきでなでていた。
二人で静かに子猫を愛でていたら、いつの間にか雨が止んでいた。雲の合間から日の光が差し込んで、ほんのり暖かさを感じる。小猫が私の膝からひょいと飛び降りると、私たちのほうを向いて一鳴きしてそのまま走って行ってしまった。
「多分、住処に帰ったんだろうね」
「そうか」
シオンは相変わらず愛想のない返事をするだけ。それでも横から少しだけ見える顔は、口元が少しだけ緩んでいるように見えた。もっとそういう顔をすればもっと猫にも懐かれるんじゃないかと、自分のことを棚にあげながらも思ってしまう。
気持ちを入れ替えるように、立ち上がってから背伸びをする。座りっぱなしで固まっていた体が少しほぐれているのを感じながら、濡れた地面に足をのばす。
「世話になったな。カヨコ殿」
「カヨコでいいよ。私も久しぶりにあの子と遊べて楽しかったから」
「そうか。……むっ!?」
「どうしたの?」
突然シオンが身構えたと思ったら、いきなり公園の茂みのほうを向いた。ガサガサと茂みが揺れた後飛び出してきたのは大きな猫。この辺りでは見たことのない子だけど、いったいどこから来たんだろう。
「こ奴は私の鉢巻を盗んでいった奴だ。姿をくらましていたと思ったら、ここにいたのか」
「案外、シオンに遊んでほしかったのかもね」
その猫はシオンのほうを見ると、飛び出してきた茂みのほうにゆっくりと歩き出した。距離が離れると時折立ち止まってこっちを見ている様子は、私たちをどこかに案内しているように見える。
「私は奴を追う」
「……私も行くよ」
日光を遮る木々の下、水に濡れた茂みを歩いていく。ぬかるんだ地面と雨に濡れた草に少し気分が下がってしまうけど、なぜか途中で帰る気にはならなかった。
「にゃ~ん」
目的地に着いたというかのように、開けた場所で一鳴きする。背の低い植物には花が咲いていて、一帯には木も生えていない。それだけならただの景色のいい穴場という程度だけど、唯一おかしい点がある。緑に光る穴のようなものが宙に浮いている。驚いている私とは別に、シオンは大して動揺している様子はない。・・・もしかしたら表情に出ないだけかもしれないけど。
「あれは『時空の穴』だ。今とは違う時代につながっている」
「そんな……」
オカルトみたいな。ついそう言いたくなった。でも、私は今までに見てきたはずだ。あの先生の周りでは不思議な出来事がたくさん起きて、私も何回かそれに立ち会っていることを。もしかしたら先生はこの異常な穴についても知っているかもしれない。先生と話したいことがまた一つ増えたな、そんなことを思いながらシオンに問いかける。
「もしかして、シオンはここを通ってきたの?」
「ああ。おそらくは。ここを通れば帰ることができるだろう」
シオンは足元に近寄ってきた猫を優しくなでながら時空の穴に目を向ける。気持ちよさそうに撫でられた後満足したのか、猫はシオンの手からするりと抜け出して時空の穴に飛び込んでいった。シオンは少し名残惜しそうに時空の穴のほうを見た後、私のほうに振り返った。
「世話になった、カヨコ。この恩は必ず返す」
「大げさだよ。最初はシオンのことを疑っていたんだし、気にしないで」
「ならば、なぜここまで世話を焼いてくれたのだ」
どうして、か。普段の私なら積極的に他人に絡んでいこうとは思わない。だから気まぐれ、その一言で済ませてもいいんだけど。ふと、先生が私に言った言葉を思い出した。
「猫好きには悪人はいないんだって。私の先生が、昔仲間にそう言われたらしい」
先生がキヴォトスに来てすぐのころ、この顔立ちのせいで補導されかけたことがあった。警官は話を聞いてくれなくて、私が困っているところに先生が来て助けてくれた。あの人はいつも誰かを助けている人だから、きっと損得勘定無しに助けてくれたって素直に思えた。でもどうしてわたしを助けたのかが気になって聞いてしまった。あえて言うなら、猫好きに悪人はいないからだって楽しそうに話してくれた。キヴォトスに来る前に旅をしていた時の仲間がすごい猫好きで、仲間の人が困っている人を助けた時にそんなことを言っていたと。
その後自分の顔立ちのことを可愛いだとか、カヨコは仲間思いの優しい子だとか、真剣な顔でいきなり言ってきたせいで今まですっかり記憶の奥底に眠ってたけど。今となっては先生と仲良くなったいい思い出なのかもしれない。
「そういえば、その人もサムライだって言ってたっけ……。まあとにかく、同じ猫好きのよしみってことにしておいてよ」
「その言葉は……いや、それより。それでは義が立たん」
「……じゃあ、これを受け取ってよ」
シオンの強情さに少しあきれながら、懐の名刺入れから便利屋68の名刺を取り出す。以前アルが、会社なんだから名刺は必要よね! なんて言ってみんなで作ったものだ。私が誰かに渡すことなんてほとんどなかったから、少し新鮮に思いながらシオンに差し出す。
「今度キヴォトスに来た時に、私たちに何か依頼をしてくれたらいいよ。依頼はいつでも歓迎してる」
思い出すのは公園での遠くを見るような目。きっとこの人は何かを抱え込んでいるのだろう。でも、私はそこに踏み込むほどお人よしではないし、踏み込めるほど深い関係でもない。だから、いつかこの人が頼ってくれる時が来るのならその時は全力で助ける。……多分、これが私にできる精一杯だ。
「かたじけない」
シオンは私に一礼をした後、時空の穴のほうに歩いて行った。このまま振り返らずに別れるのかと思っていたけど、シオンは何かを思い出したように立ち止まって振り返った。
「アルドによろしくと伝えておいてくれないか」
「えっ?」
シオンはそれだけ言うと、戸惑っている私を放ったまま去って行ってしまった。私はシオンとの会話で先生の名前を言ったことはないはずだけど……。
「もしかして……」
すっかり晴れた空の下、静かな茂みの中でぽつりとつぶやいた。
シャーレの当番の日。先生と一緒に面倒を見ている猫用の餌を整理していると、手に持っている煮干しを珍しそうに見ていた。
「カヨコが持ってるのって煮干しか?なんだか珍しいな」
「これは猫用。最近こういうものも悪くないって思ってさ」
「へえ、何かきっかけでもあったのか?」
先生が不思議そうにしている表情が少し面白くて、つい口元が緩んでしまう。仕事もひと段落ついたことだし、不思議なサムライに出会った話をしてみてもいいかもしれない。きっと、先生からも何か面白い話を聞けるだろう。
「少し前に、猫好きのサムライに会ったんだ」
これからもこつこつ書いていきたいのでよければ応援よろしくお願いします。