アナザーアーカイブ   作:さかみち

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大切な思い出(モモイ)

 シナリオが思いつかない。新しくゲームを作ることになって、いざシナリオを書こうと思っても何も思いつかないし。刺激を求めてあれこれやってみたけど、時間だけが過ぎていって……今私は部室で寝転がっている。みんなが出払っているから部室は静かだし、こんな環境だと逆に集中できないかも。

 

「そうだ! 先生のところに行こう!」

 

 最近はスランプをどうにかするので精一杯でシャーレに遊びに行ってなかった。ちょっと前までおすすめのゲームを貸してあげて一緒に遊んでたんだけど、今回のスランプのせいですっかり間が空いちゃったんだよね。棚から一緒に遊びたいゲームをいくつか引っ張り出してリュックに詰め込む。選んだゲームはシナリオが特に面白いやつだし、先生がどんな反応するか楽しみになってきた! 先生って、毎回ゲームをしてる時に新鮮な反応をしてくれるから勧めがいがあるんだよね。今からその反応を想像してにやけながらモモトークを開く。もし忙しかったら遊べないわけだし、遊べるかは聞いとかないと。

 

「モモトークで連絡してっと……」

 

『先生! 今からシャーレに行ってもいい?』

 

 いつものようにメッセージを打つと、返事はすぐに返ってきた。

 

『別に大丈夫だけど……今はちょっと散らかってるぞ?』

 

『大丈夫だって! 散らかってるのは部室で慣れてるし! じゃあ今から行くね!』

 

『それ、自慢することじゃないよな……?』

 

 最後のツッコミは見なかったことにして部室から飛び出すと、薄暗い部室から出ると全身に日が当たる。ずっと部室にこもってたからか一段と身に染みるのを感じながら、小走りでシャーレに向かった。そういえば、先生って機械に不慣れそうなのにメッセージの返信とかは早いんだよね。裏で結構努力してるのかもしれない。 

 

 

 

 

 

 シャーレの廊下を歩いて執務室に向かうと部屋から物音が聞こえてくる。もしかして仕事してるのかな? 

 

「先生! 来たよー」

 

「モモイか、ちょっと待ってくれ。片づけるのにもう少しかかりそうなんだ」

 

 部屋に入ってみると、いつも座っている机の上には写真とか置物とか、とにかくいろいろなものが置いてあった。

 

「あれ、ユウカ写ってる」

 

 いつも私に会うと二言目には小言を言ってくるくせに、先生相手にはこんなに楽しそうな顔をするんだ。先生も楽しそうだし。ふーん……。

 

「ねー先生。この写真持ってってもいい?」

 

「それ、ユウカと遊んだときの写真だな。持っていってどうするんだ?」

 

「いつも怒られてばっかりだし、たまにはやり返したいじゃん!」

 

「俺と一緒に怒られて終わりだと思うぞ……」

 

「ちぇー」

 

 あきれた感じでツッコミながら、私から写真を取り上げる。アルバムには他にも写真が入っていて、もうほとんど埋まってるみたい。どれもキヴォトスに来てから撮ったものばっかり見たいなんだよね。キヴォトスに来る前の写真とかあったら面白そうだったのに。他に面白そうなものがないかなと、私は散らかってる机の上をのぞき込んだ。

 

「そういえば、なんで荷物の整理してるの? まさか引っ越しとか?」

 

 先生は手を荷物の整理をつづけている。そういえばいつもシャーレに遊びに行ってるから、先生の家ってどんなとこなのか知らないんだよね。

 

「引っ越しじゃないよ。キヴォトスに来てからだいぶ荷物が増えたから、そろそろ整頓しようと思ってさ。もう少しで終わるから待っててくれ」

 

「はーい」

 

 適当に返事をしながらぼんやりと先生のことを眺める。写真も物も、どれも大切に扱ってるのがわかる。多分、あの中には私との思い出も入ってる。私との思い出も同じように大切にしてくれているだってわかって、なんかうれしいかも。とにかく、まだ整頓に時間がかかるみたいだしゲームでもしようかな。そう思って、休憩用に置かれているソファーに向かった。ごろりと寝転んで持ってきた携帯ゲームを取り出す。

 ゲーム画面をぼーっと眺めていると、とりとめのないことが次から次に浮かんでくる。先生は、よく趣味は人助けだなんて言われてるくらいのお人よしだ。それに、意外と押しに弱かったりする。この前なんてウタハ先輩に高い工具セットをお勧めされて買ったって言ってたし。機械のことは分からないからから結局修理を頼むことが多いらしいけど。もしかしたら、昔からそんな性格だったのかな? 

 

 そんなことを考えながら寝返りをうつと、体に何かがぶつかった。

 

「なんだろう、これ。カバンかな」

 

 シャーレに置いてあるんだし多分先生のものなんだろうけど、このカバンは初めて見た。革製の大きめのそれは、よく見てみると何度も補修されているように見える。先生がキヴォトスに来てからそこまで経ってるわけじゃないし、昔から使い続けてるものなのかな。表面少し古ぼけていて、所々に擦り傷なんかもみえる。そういえば、先生がキヴォトスに来る前に何をしてたかってあんまり聞いたことなかったっけ。

 

「ちょっとくらいなら、見たっていいよね……?」

 

 ふと、そんな考えが口をついた。勝手にのぞくのはダメだってわかってるけど、どうしても気になっちゃう。そうだ! もしかしたらシナリオ作りの参考になるかもしれないし……一回気になってしまったらもう止められない。ダンジョンの奥で宝箱を見つけたような気持ちでカバンに手をかける。

 

「何してるんだ? モモイ」

 

「うわぁ! 驚かせないでよ!」

 

「いや、驚いたのは俺のほうなんだけど……声をかけても返事がないし」

 

「あ、あはは……」

 

 あきれた顔で私のほうを見ていたけど、私がカバンを持っているのに気づいた。

 

「俺のカバンなんか持ってどうしたんだ?」

 

「やっぱり先生のなんだ。ごめん、なんか気になっちゃって」

 

「別にいいよ。でもモモイが興味を引くようなものなんてあったかな?」

 

「ねぇ、これってキヴォトスに来る前から使ってるの? 中身を見てもいい?」

 

 怒ってなさそうな先生にほっとしながら、カバンを突き出す。やっぱり、一度湧き出た興味は簡単にはなくなりそうもない。

 

 キヴォトスに来る前は旅をしてたって言ってたし、何か面白そうなものがあるはず! よくわからないお土産とか、なんかそんな感じのが! 

 

「別に構わないけど、いいのか? 今日は遊びに来たんだろ?」

 

「このままゲームなんて、気になって楽しめないよ!」

 

 カバンの口を開いて中を覗き込む。中は意外と整理されていて、しまっている物は大切にされているみたい。とりあえずひっくり返して全部出してみよう。どさりと中身が床に落ちて広がった。……これ、後片付けが大変かも。

 

「せっかく片づけたのに……モモイ、後で片づけるの手伝ってくれよ?」

 

「わ、わかってるってば……」

 

 とりあえず後で考えよう。ごまかすように荷物に目を向けると、旅で使ってた小物ばっかりが目に入る。あとは本とか地図とかが多いかな。

 

「地図はともかく本かぁ……なんかちょっと意外かも」

 

「ちぇっ。俺だってちょっとは読むんだぞ?」

 

「あはは! 冗談だって!」

 

 すねたように眉を顰める先生がなんだかおかしくて笑っちゃった。試しに手に取った本を読んでみると、中身は小説みたいだった。ある少女が主人公の話で、何巻か書かれてるみたい。続きはあとで読ませてもらおうと脇に置いて引き続き荷物をあさる。だんだんと宝探しをしてるような気分になって荷物を掻き分けていると、ある本に目が向いた。本っていうより冊子かな? さっきまでの本と比べて厚さは少し薄くて、表紙も簡素だった。

 

「『伐竜姫譚』? なんだろ、これ」

 

 竜、なんて書いてあったら気になっちゃうよね。名前的には英雄譚とか、そんな感じかな? ゲームで培ったアンテナが反応しているのを感じながら、手に取ってパラパラとめくってみる。

 

「あれ、台本なんだ、これ」

 

 内容は、仲間と力を合わせて巨大な竜を倒す話、かな? 仲間はみんな個性的な感じだけど、さっきの小説とは毛色が違う感じだ。読み物ってわけじゃないし、なんで先生が持ってるんだろ? 

 

「なんで先生が台本なんて持ってるの?」

 

「旅をしてた頃に劇場の手伝いをしたことがあるんだ。それで、『伐竜姫譚』も演目の一つだったんだ」

 

「先生が劇場……舞台に出たりしたの?」

 

「はまり役の人がいないときは出たりしたけど、そんなに得意じゃないぞ?」

 

「えー? 先生の演技、見てみたいけどな」

 

 改めて台本を読み返してみるけど、ラストの盛り上がる部分しか書いてないせいで、どんな冒険だったのかさっぱりわからないや。

 

「ねえ先生。この台本って物語の最初の部分とかないの? 結構気になるんだけど」

 

「うーん。これ以外は無いんだよな。劇でやったのはこの部分だけだったし。でも、そうだな……俺が話すことならできるけど」

 

「物語の内容を全部覚えてるってこと?」

 

 先生がそんなに熱心にこの物語を読んでたとは思わなかったけど。結構有名な話なのかな? 

 

「そうじゃないんだ。実は俺もアルカディアのみんなと一緒に戦ったんだ。だから……」

 

「えっ!? ちょ、ちょっと待って! このお話っておとぎ話なんでしょ!?」

 

「うーん……ちょっと説明が難しいんだけど……」

 

 先生が言うには、『伐竜姫譚』は二万年前の時代で起きた出来事で、先生は時空を超えて旅をしてたからそれに立ち会ったと。何そのゲームの主人公みたいな出来事!? 時空を超えるってタイムスリップってこと!? 簡単には信じられないかも……いやでも、先生はそういう嘘をつく人じゃないし……それに、先生は剣一本で戦うような人だし……頭の中で考えがぐるぐると回ってる。あれ、でも……

 

「先生ってこの劇だと登場してないよね?」

 

「ああ。想定してた舞台だと六人までしか立てないから、俺の役はなくしてもらったんだ」

 

「なにそれ! 先生はそれでよかったの?」

 

「ああ。俺はみんながずっと先まで語り継がれてるだけで満足だよ」

 

「……」

 

 ほんとに満足なんだと、気にしてないって感じでそう言ってる。お話の登場人物になるなんて、すごいことなのに。私は、先生の活躍も一緒に書いてあってほしかった。

 この台本に書いてないんだったら……思い立った私は、シャーレに置いてあるメモ帳とペンを手に取ってから先生の前に座る。

 

「先生! 私、先生がどんな旅をしてきたのか知りたい!」

 

「ははっ。いいぞ。どこから話そうかな……」

 

 

 

 

 

 先生の話し方は意外とわかりやすくて、所々で自分が感じたこととかを付け加えながら詳しく話してくれた。一つの目的のために集まったアルカディアの人たちのこととか、竜がどれだけ危険だったかとか。アルカディアのリーダーがリュゼをかばって……亡くなったこととか。楽しいことだけじゃなくて辛いこともあったけど、全部乗り越えてきたんだ。それでも先生はどれも大切な思い出なのか、懐かしそうに、楽しそうに話してた。

 未知の世界とそこに生きる人たちの力強さに、気づけば夢中で聞いていた。先生が私の知ってる外の世界とは違うところから来たっていうのはわかってたけど、少しだけどんな場所なのかなのが分かった気がした。

 

「今日はここまでにしとこう」

 

「えー! まだ続きが気になるんだけど!」

 

「でももう外も暗くなってきたぞ?」

 

「ほんとだ。いつの間にこんなに時間が経ったんだろ」

 

 外はすっかり夕焼け色で、少し星も見え始めてた。夢中で話を聞いてたから、そんなに時間が経ってたなんて気づかなかった。

 

「そういえば、熱心にメモを取ってたよな。もしかしてゲームのシナリオに使うのか?」

 

「うん。だからもっと話を聞きたいんだ!」

 

「そうか。でも、続きはまた明日にしよう」

 

 もしかしたら勝手に話を使うなって注意されるかもって身構えたけど……全然そんなことなかったな。むしろ、なんだか先生はちょっと嬉しそうに笑ってる。なんでだろ? 

 

 

 

 

 

 夕暮れの空の下で、先生と一緒に歩く。毎日見ているはずなのに、どうしてだろう、普段よりきれいに見える。もしかしたら、さっきまで話を聞いてた時の興奮が収まってないのかも。

 

「夕焼け、綺麗だね」

 

 ふと、そんな言葉が出てきた。多分先生はいろんな場所で、綺麗な景色を見てきたんだよね。それでも、どうしてかな。私が見た景色を先生にも綺麗だって思ってほしい。

 

「ああ。いい景色だな」

 

 先生は少し目を細めて景色を眺めてる。夕焼けのせいか、横顔は少し赤くみえて、いつもよりちょっとだけ凛々しく見える。

 ふと、今日の話を思い出す。未開の島、竜との闘い、かけがえのない仲間との冒険。そんなものに比べると、今見ているのはただの日常の一幕。この夕焼けが本当に先生にとっても『いい景色』なのかな? そんな気持ちがなぜか口から出てしまった。

 

「でも、先生はいろんなところに行って、いろんな景色を見てきたんでしょ?」

 

「そうだな。確かに、今まで旅をしてきた場所には絶景だって言える場所はあったよ。それでも、今見ているこの景色だって今まで見てきたものと同じくらい綺麗だって思うよ」

 

「どうして?」

 

「うーん、そうだな……モモイと一緒だからかな」

 

「えっ!?」

 

 なんか先生が恋愛ゲームの主人公みたいなこと言い始めた!? ま、まさか先生って私のことが……。

 

「一人で見てたら、きっとこんな風に思わなかったかもしれないけど……。やっぱり、大切な人と見るといつもより綺麗に見えるよな」

 

「た、大切な人!? そ、それって……」

 

 なんだかだんだん心臓の鼓動が大きくなってきてる。なんか先生と目が合わせられないかも……! 

 

「大切な生徒と一緒なんだ。どんな景色だって大切な思い出だ」

 

「せ、生徒……?」

 

 急に力が抜けた気がした。そ、そうだよね、いきなりこんな場所で告白するワケないよね……。少し火照った体も、この時間ならすぐ冷めるはずだ。でも、そっか。大切なんだ……。

 

「私も! 先生と一緒なら、どんなことだって楽しいよ!」

 

 先生も、私と同じことを考えてたんだ。それが嬉しくて、つい私もそうなんだって言い返してた。溢れる思いのままに、私は続けて言い放った。

 

「私頑張るね! 先生に、みんなに面白いって言ってもらえるゲーム作りを!」

 

 

 

 

 

 それからしばらくの間、私は先生のところに通ってシナリオを書き続けた。存在するお話を元に書いてるからか、いつもよりシナリオを書くスピードは早かった気がする。

 完成したシナリオはミドリたちにも好評だった。先生から聞いた話を元に書いたって言ったらみんな驚いてたっけ。でも、ミドリは気合いが入ってたみたいで、イラストを描くために先生に頻繁に会いに行ってたみたい。そのせいか、なんか先生のイラストだけ数が多かった気がするけど。

 ユズは世界観に合うようにって、先生の話を元に忠実に再現した難易度にしたいって言ってたけど……。結局先生はほぼ編成必須みたいになっちゃったんだよね。いつも身に着けてる大剣ってすごかったんだね……。正直、変なおしゃれか何かかと思ってた。

 アリスは私が先生から話を聞いたって知って残念そうにしてたっけ。結局その後先生のところに話を聞きに行ったみたい。先生の冒険話がすごく楽しかったみたいで、他の話も聞きたいって言ってたな。……その時は私も一緒に聞きにいこっと。

 そんな感じでみんな一丸になってゲーム製作が進んでいって.そして私は今、完成したゲームをもって先生に会いにシャーレに向かっている。

 

「先生! ついにできたよ、『伐竜姫譚』!」

 

「ついにできたのか! 頑張ったんだな、モモイ」

 

 先生が自分のことのように喜んでくれるのが嬉しくて、ちょっと頬が緩む。

 

「えへへ……先生に遊んでほしくて持ってきたんだ。ほら、早くいこ!」

 

 私たちの伐竜姫譚はアルカディアのみんなと先生の物語。……いつか、アルカディアの人たちにも遊んでもらいたいな。先生を通して、あなたたちの伝説はここまで伝わったんだって。




夢見(アナデンガチャ)妄想

「あれ…ここどこだろ?さっきまで部室でゲームしてたはずなのに」

「えっと、あなたは?旅人で…剣士?…もしかしてここは夢の中なのかな。ゲームしてるうちに寝落ちしちゃったとか…」

「まあいっか!私はモモイ。ゲーム開発部のシナリオライターだよ。私もあなたの旅に連れて行ってよ!」

「これから、私たちの物語が始まるよ!」
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