戦場の小話   作:あおさ海苔

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誰にも需要はないけど書いちゃったので投稿します。


戦場の小話4

 戦争は始める時は簡単だが、終わらせるのはとてつもなく難しい。

 流した血の対価を求める声とはそれほどまでに強いのだから。

 

 終戦まで秒読みだが、乾坤一擲の一撃で少しでも講話を優位に運びたいと思うのは政治家も軍人も民間人もきっと同じなのかもしれない。

 

 

 

 

───1919年 パシフィカ帝国メリトポリ軍港 

帝国連合艦隊旗艦『アルミランテ・ラフォーレ』

アルトゥーロ・グラウ海軍大将

 

 

「なにが『決定的一撃』だ!! この戦争はもう終わりだと誰もがわかっているだろう!!」

 

 

 私はこの軍艦の末端にいたるまで聞こえるぐらいの大声で叫び、指揮卓を叩きつけた。艦橋に居た全員の視線が痛い。

 さて、新聞では連日TOPで講和会議開催か!? との記事ばかりであり、誰もがこの戦争はもうすぐ終わると理解していた。

 陸戦でも、空戦でも、そして我々海軍の海戦も極めて消極的となった。

 そんな中で先日行われた陸軍の大攻勢は、戦後我が国の復興に必要な予算と人命を多数無駄にして、150m戦線を押し上げるだけに終わった。

 その上でさらなる『決定的一撃』を要求されたのでは陸軍の命令拒否騒ぎはさもありなんといったところだ。

 空軍は貴族の嗜みということで多数の高貴なる方々が現代の騎士とばかりに双方制空権を争い、戦後一体どれほどのお家が断絶するかという状況に至り、もはや暗黙の了解として出撃はするものの一発も撃たないし空戦が行われない程だ。

 

 さて、ひるがえって我が海軍だが、海上封鎖をなんとか突破、解除せんと戦い続けた結果、弩級戦艦2、装甲巡洋艦4、巡洋艦8、駆逐艦22隻を残すのみだ。

 一方で敵の封鎖艦隊は弩級戦艦15、装甲巡洋艦22……巡洋艦以下なぞもはや数えるだけ無駄だ。

 

 そして冒頭に戻るわけだが、目の前の命令書にはこう書いてある。

『海上封鎖線の先を掠めて首都上陸を企図した敵大船団が通過する。これに決定的一撃を加え我が国の優勢と首都の安全を確保せよ』

 

 

 ……なるほど、敵も講話目前だからこそ少しでも優位な条件を勝ち取りたいし、なんならこの首都上陸で『決定的一撃』を加える魂胆なんだろう。

 だがそれなら上陸してきたところに我が艦隊の全力と陸上砲台の支援をもって総力戦を行った方がまだ我が艦隊としては勝ち筋はあるのだが、いやはや、今までも成功してこなかった封鎖線突破に敵大輸送船団の撃滅をもって奇跡の大逆転を祖国は必要としているようだ。

 まぁ首都直撃でもされたら勝ち負けに関わらず即敗北に繋がるのもまたわかるが。

 

 

 「……はぁ、なぁヘボン君、この命令を完全にこなさなければきっと我が国は痛み分けどころか惨めな敗戦国になるのだろうなぁ。講和会議の事前交渉が相当旗色悪しといったところかな?」

 

 

 艦隊総参謀長のステファン・ヘボン大佐に命令書が綴じられたバインダーを荒く手渡す。総参謀長もため息しか出ないようだ。

 

 

 「さて、そんなグラウ提督に素敵な朗報です。どうやらこの戦いのために突貫工事で戦力化工事を行っていた四隻の主力艦が配備されるとのことです。良かったですね」

 

 

 全く良くはない。この四隻が戦力化できてしまったため、もしかすると局所的優勢を確保できるのではないか? という淡い期待が首脳部に生まれてしまう。

 しかも問題はその四隻だ!

 

 

「一隻目『装甲巡洋艦リヴァダヴィア』、20年前なら最新鋭艦ですね」

 

「『敵側の』『大破着底していた』『20年前のポンコツ』が主力艦扱いとは恐れ入った。あの残骸を引き上げて屑鉄にでもすると思ってたのだがね……機関や武装は?」

 

「機関は石炭炊きから重油混合に、20.3cm連装主砲は『残弾限り』とのことです。」

 

 

 一隻目の『リヴァダヴィア』は開戦劈頭の奇襲攻撃で湾内大破着底していた敵の旧式装甲巡洋艦だ。

 どうやら魚雷で吹き飛んだ機関を交換できるなとこれ幸いと浮揚させ修理したのだろうな。主砲が残弾限りということは武装を我が国の装備に変えず、とにかく主機の交換に浮揚を優先した結果だろう。

 しかし……言語が違う敵艦の、しかも塩水に浸かっていたポンコツがどれほど使えるだろうか。

 

 

「2隻目は『機走戦列艦ハイメ3世』、凄いじゃないですか、68ポンドカロネード砲の2門は発射可能だそうですよ」

 

 

 ……カレンダーの年数を見る。そこには確かに『1919年』と書かれており、『ハイメ3世』の竣工は1860年だ。

確か私の記憶では軍港で学校かつ教材として使われていたはずだが、まさか一部に装甲板が貼ってあるとははいえ半世紀前の木造戦列艦を『主力艦』と呼ぶ日がまた来ようとは思わなかった。

 

 

「凄いじゃないか、13ノットも安定して出せると書いてあるな。コレは頼もしい。1.5倍以上の速度で10倍の射程を持つ装甲艦や弩級戦艦から一方的に粉砕されるだけのただの的という点から目を瞑れば、『ハイメ3世』の現役復帰は我が海軍始まって以来の偉業だろう」

 

「1ミリも気持ちがこもっていないお言葉ありがとうございます」

 

 

 しかも乗組員は学校の生徒達と書かれている。最悪の場合12歳の水兵見習いまで居るだろう。

 未来の海軍と祖国に託さねばならない若者をただの的に乗せて消耗させるとはやはり祖国はもう狂っているのではないだろうか?

 

 

「さて、3隻目は……おお、やっとまともな艦艇ですね。『練習空母カピタン・リベロス』」

 

「乗せる艦載機もない低速の練習空母を配備されてもな、武装も10cm高角砲では砲撃戦でも役に立たん……」

 

 

 3隻目の『カピタン・リベロス』は油槽船改造の我が国初の空母だ。勿論改造空母なだけあって14ノット出れば良い方のまさに練習空母である。

 更に問題は空母はできてもそこに載せる艦載機もなければ陸上機を転用してでも着艦訓練を行うだけの余裕がすでに空軍には無い。

 

 ようするにできたは良いものの使い所がなく放置されていた船なのだ。

 元油槽船なので装甲はなく、低速で僅かな対空高角砲のみでは砲撃戦にも使えない。文字通りの数合わせだろう。

 

 

「最後は本当に主力艦ですよ、『弩級戦艦アルミランテ・コクレーン』、35.6cm連装5基で23.8ノットの快速戦艦です」

 

「あぁ……完成していればな」

 

 

 最後の1隻は文字通り最新鋭の弩級戦艦である。竣工率7割で後部主砲塔や水平装甲の大半が貼り終えておらず、その部分は木板で覆われており雨漏りが激しいが。

 

 しかし前部砲塔や測距儀に主機は既に問題ない。進みながら一撃を加えるだけなら無いよりあったほうが助かる。問題はそんな新しい弩級戦艦を動かすだけの人的資源が我が国にあるとは思えない事だ。

 『ハイメ3世』のようにとんでもないことは確かだろう。

 

 

「それでコクレーンの乗員は?」

 

「水兵達の妻を中心とした志願海兵とのことです。士気だけは天をつく勢いだそうですよ」

 

 

 そうきたか、おそらく海すらド素人の志願兵のお嬢様方というわけだ。せめて砲士官ぐらいは駆逐艦からでもいいから正規の士官を回そう……

 

 

 さて、こんな素晴らしき『主力艦』を四隻も受領した以上、この命令を完璧にこなして講和会議にて祖国の未来を掴むしかもはや選択肢はないのだな。

 

 

「それでは諸君、出撃準備だ。私に少し考えがある、まずは陸軍砲兵隊に繋いでくれたまえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───15日後、深夜・メリトポリ軍港封鎖線海域

帝国連合艦隊旗艦『アルミランテ・ラフォーレ』

アルトゥーロ・グラウ海軍大将

 

 

「陣形複縦陣、敵艦確認! 前方、カイザーライヒ級弩級戦艦3隻、恐らく『フェルディナンド・マックス』、『カイザー』、『オルフェンブルク』、後続に多数の煤煙あり! 側面より単縦陣……あ、あの赤い煙突先!? 弩級戦艦『シュテファン4世』『ヤン4世』『オルクセン4世』『フリードリヒ4世』! ちくしょう、こっちは不死身の第4戦艦戦隊だ!!」

 

 

 高波と夜陰に乗じてギリギリまで封鎖線に隠密で近づいたが、残念ながらここまでか。

 15隻の封鎖艦隊弩級戦艦のうち7隻がこっちに向けられている。残りの弩級戦艦8隻を含めた装甲巡洋艦でいまだ封鎖線の守りは堅いだろう。このまま突破するしかあるまい。それに逃げようにも低速艦艇を従えた本艦隊では大きな犠牲だけ出して戦果なしという最悪の事態に陥る。

 

 しかし数倍の敵相手に一歩も引かず戦った不死身の第4戦艦戦隊がこの海域に配備されていたとは……空軍の偵察もまだまだといったところだな。

 

 さて、我が艦隊は

■前方艦隊

 弩級戦艦『アルミランテ・ラフォーレ』旗艦

 弩級戦艦『アルミランテ・グラウ』

 弩級戦艦『アルミランテ・コクレーン』未成

 

 装甲巡洋艦『リヴァダヴィア』鹵獲

 装甲巡洋艦『グランデ・ワスカル』旧式

 装甲巡洋艦『リベルタート』

 装甲巡洋艦『バルパライソ』

 防護巡洋艦『プレジデンテ・アヒージョ』

 防護巡洋艦『プレジデンテ・パエリア』

 防護巡洋艦『プレジデンテ・ガスパッチョ』

 

■後方艦隊

 練習空母『カピタン・リベロス』

 防護巡洋艦『プレジデンテ・エンパナーダ』

 防護巡洋艦『プレジデンテ・チュペデマリスコス』旧式

 艦隊型駆逐艦『ビオビオ』旧式

 艦隊型駆逐艦『トルテン』旧式

 機走戦列艦『ハイメ3世』

 

■水雷戦隊

 水雷型駆逐艦4隻1個戦隊✕4

 

 以上の編成だ。僅かな哨戒艦を残しほぼ全力での出撃である。

 

 しかし旧式なと言うのも恥ずかしい程の旧式艦や改装艦により1919年とは思えぬ低速での航行であったが、その分煤煙を抑えて機関を労りながら隠密行動したと好意的に捉えよう。

 

 見張りの水兵達とヘボン大佐が正面艦隊の艦型だけでなく艦名も割り出そうと年鑑と双眼鏡を行き来させていると、突然後方から轟音が鳴り響いた。発砲だ、しかも弩級戦艦の。

 

 

「『アルミランテ・コクレーン』発砲!」

 

「まだ命令は出てないぞ!!」

 

「『リヴァダヴィア』戦列から逸れ始めています!!」

 

 

 現状は弩級戦艦の数で2倍以上、しかも少なくとも片方は精鋭部隊ときた。士気だけは高い『アルミランテ・コクレーン』は艦列から突出しその高速を発揮して艦首で波を切りながら当たるはずもない発砲を始める。もしそんな速度で外洋を飛ばしてこの1万メートルで当てられたらきっと守護天使でもついてることだろう。

 

 後続の『リヴァダヴィア』にいたっては急加速した『アルミランテ・コクレーン』の作った波に揉まれてまともに直進すらできていない。練度不足かつ艦に対する理解不足が如実に現れたな。

 

 

「グラウ提督!」

「提督、本艦も!」

「提督!!」

 

 

 戦闘艦橋のまだ若い士官達が騒ぎ出す。だがまだはやい、6000mまで一発も撃つなと厳命する。

 こんな夜にこの高波だ。当たるわけがな───「か、『カイザーライヒ級』に命中弾!!」

 

 

 見張り兵の喜びよりも驚きのほうが多い叫び声と共に、先頭を走っていたカイザーライヒ級の1隻が凄まじい音をたてて中央より少し前から一気に船体を上にくの字に曲げた後沈み始める。まさかの、弾薬か何かに誘爆したであろう奇跡の一撃である。

 恐らく敵味方揃って呆然としている(撃った『アルミランテ・コクレーン』の乗組員含めて)まま、突出した『アルミランテ・コクレーン』からみて正面の敵艦隊は距離8500mまで接近している。どうも敵艦隊はこちらが劣勢かつ一方的に狩れる相手と判断して全速で向かってきていたようだ。

 

 

 「『アルミランテ・コクレーン』に艦列に戻るように連絡。また本艦含めて18ノット以上出る前方艦隊は17.5ノットまで増速、敵前方艦隊の頭を丁字で抑える。後方艦隊は前方艦隊より内回りして敵艦隊との距離を維持せよ」

 

 

 前方の敵艦隊は弩級戦艦を先頭に複縦陣で接近していたが、先頭を走っていた『カイザーライヒ級』が爆沈し、舵を切ったが間に合わず後続の『カイザーライヒ級』が爆沈した艦尾に乗り上げている。さらにその『カイザーライヒ級』に後続の装甲巡洋艦が土手っ腹に衝突したようだ。もしあの装甲巡洋艦が衝角持ちだったらひょっとするとひっとするかもしれない。

 

 『カイザーライヒ級』二隻が並んでいた方の単縦陣が崩れ、前方艦隊に唯一残っている『カイザーライヒ級』を先頭とした単縦陣はそのまま針路を変えず一気に距離を詰めてきている。

 こちらの『アルミランテ・コクレーン』が未完成と知ってか知らずかはさておき、弩級戦艦で3対1となった以上、後続の装甲巡洋艦の数で勝負を挑むようだ。

 

 敵は弩級戦艦1、装甲巡洋艦7

 こちらは弩級戦艦3、装甲巡洋艦4

 衝突した弩級戦艦1隻と無事なその後続の装甲巡洋艦4隻が向かってくればまだこちらが不利だろう。

 

 

 「本艦隊側面の第4戦艦戦隊、その他の艦艇なし! 単独です! 戦艦単独4隻!! 距離1万3千メートル!!」

 

 

  敵の第4戦艦戦隊もこちらに最大戦速で向かってきているようだがまだ遠い、目の前の大混乱の渦中にある封鎖艦隊を完膚なきまでに叩き潰す必要があるだろう。

 

 せっかくの好機だ、本来であればひたすらに突破の予定だったが、行きかけの駄賃にもう少し戦果拡張しても問題あるまい。

 

 

 「よろしい、全艦砲撃開始。弩級戦艦は弩級戦艦を、その他は後続の装甲巡洋艦を狙いたまえ。くれぐれも速度と陣形は守るように。」

 

 

 開戦から戦い続けた『アルミランテ・ラフォーレ』の古参兵達はスペック以上の精度と装填速度で目の前の『カイザーライヒ級』をまたたく間に浮かべるスクラップへと変えてゆく。敵艦隊も反撃してくるがまともに狙いすらつけられていないようで、味方艦隊の近くに水柱を多数作るにとどまる。

 

 我が艦隊の弩級戦艦は全くの無傷で、目前の敵艦隊が無力化されていく中、脅威となりうるのは追いすがる敵弩級戦艦4隻のみだ。

 4隻対3隻だか、こちらの装甲巡洋艦4隻を加えれば十分勝機はある。また、敵第4戦艦戦隊は護衛艦を従えていない。弩級戦艦同士の撃ち合いとなればこちらの水雷戦隊のよい攻撃目標となるだろう。

 そうだ、そうすれば封鎖艦隊を完膚なきまでに粉砕し、さらに返す刀で輸送船団を攻撃すれば───「後続艦隊が遅れています! このままでは第4戦艦戦隊に艦列を分断されます!!」

 

 

 ぬかった! 後続艦隊は低速艦が中心のため戦闘を開始しても11ノットで進んでいた。『ハイメ3世』なんぞ13ノットしか最大でも出ないため、余計に遅れている。

 

 正面の敵艦隊に対して丁字を取るため本艦隊は面舵をとった。そして後続艦隊は距離を保つためにさらに手前で面舵をとったのだ。

 すると右舷側側面より接近していた敵の第4戦艦戦隊から見ると前方と後方で私が想定した以上の隙間があき、見かけ上複縦陣に移行しかけているように見える。

 合流させぬようにその隙間に突入し距離7500m程度で一気に後続艦隊を屠ったのち、そのまま離脱するつもりなのだろう。

 

 

「後続艦隊だけでは無理だ、一旦取舵を取らせて第4戦艦戦隊からの距離をとらせろ」

 

「しかしそれでは正面の敵艦隊に突っ込む事になります、またはそのまま正面の敵艦隊によって我が前方艦隊と後方艦隊が分断される恐れがあります! 後方艦隊はこの後に必要な───」

 

「ヘボン君、わかっている。第4戦艦戦隊まで狩ろうというのは思い上がりだったな。まずは正面の敵艦隊粉砕を優先しよう」

 

 

 後方艦隊には戦力にもならない練習空母『カピタン・リベロス』を先頭に巡洋艦2、艦隊型駆逐艦2,戦列艦『ハイメ3世』と続き、両側面に駆逐艦4隻の2個駆逐隊が護衛している。

 この艦隊に単独で4隻の弩級戦艦とやり合わせるのは明らかに酷であろう。

 

 

「前方『カイザーライヒ級』沈黙! 後続の装甲巡洋艦2隻も同じく沈黙! 残りは反転します! 爆沈した『カイザーライヒ級』とその後続の艦、及び衝突した装甲巡洋艦は揃って傾斜中!!」

 

「その後続は!?」

 

「後続の装甲巡洋艦3隻は煙幕を焚いて逃走を計る模様! 敵駆逐隊も同じく!」

 

 

 どうやら敵正面艦隊は完全に戦意を失ったようだ。『アルミランテ・コクレーン』が未成艦である事を知らなければ、最初に爆沈した側の戦力が全く使い物にならないと悟った以上、一撃で味方弩級戦艦を屠った未確認戦艦含む3隻の弩級戦艦を相手に戦おうとは思わないだろう。昼間であれば後部砲塔が存在しない事や塗装の一部がないことから未成艦なのはすぐわかってしまうが、幸い初接敵がこの夜で助かった。

 

 となれば本艦隊がとれる選択肢は3つ

 一つ、前方の敗走する装甲巡洋艦を完膚なきまでに粉砕して、後方艦隊を見捨てる。キルレートだけを見ればいい選択肢にも見える。

 

 二つ、反転し全艦隊で敵第4戦艦戦隊を叩く。ただし敵艦隊が乗ってくれず逃げに徹した場合は後方艦隊のお守りをしつつ敵輸送艦隊に向かわねばならない。敵輸送艦隊についている護衛艦と挟み撃ちという展開も考えられる。それに最悪の場合後方艦隊が敵輸送船団に会敵できない可能性もある。

 

 

 

「提督、ここはやはり……」

 

「そうだなヘボン君、ここはやはり───」

 

 

 ヘボン大佐がうなづく。通信兵はすでにこちらの一言一句を余すことなく送信する準備を整えていた。

 やはりこの艦と乗組員は我が海軍の宝である。だが祖国の勝利のため、栄光ある和平のため、本艦と乗組員を死地に向かわせねばならない。

 一度深く深呼吸をする。腹はくくった。艦橋内の空気もさらに引き締まる。

 

 

「本艦『アルミランテ・ラフォーレ』と装甲巡洋艦『リベルダート』防護巡洋艦『プレジデンテ・アヒージョ』、そして第一水雷戦隊には悪いが付き合ってもらう。

 この7隻をもって敵第4戦艦戦隊を足止めする。その間に前方艦隊は装甲巡洋艦『グランデ・ワスカル』を旗艦にし後方艦隊と共同でそのまま輸送船団へ突入せよ」

 

「『グランデ・ワスカル』のモレノ艦長ならやってくれるでしょう。水兵達も古参ばかりです」

 

 

 敵第4戦艦戦隊について全艦隊で向かっても撃破できず、かといって全艦隊で無視しても挟撃される、もしくは敵輸送船団に会敵できない危険があるのなら、いっそのこと『勝てないがそう簡単には負けない』程度の戦力で誘引し時間を稼ぐしかない。

 

 そういう機微ができるのは本艦と『リベルダート』『プレジデンテ・アヒージョ』ぐらいだろう。特に防護巡洋艦『プレジデンテ・アヒージョ』には水上魚雷発射管が複数搭載されている。一個水雷戦隊と共にこれで敵戦艦に対し大きく揺さぶりをかけることができるだろう。戦艦のみでの単独編成で来た事を後悔させてやろう。

 

 

「『グランデ・ワスカル』より発光信号! 『貴艦の検討を祈る』!」

 

「返答、『味方は家へ、敵は海へ』だ」

 

 

 事前に取り決めていた敵輸送船団への突撃命令兼攻撃任務の指揮権委譲の合言葉を送信する。

 さて、それでは戦略目標を達成しつつ、奥様達と学生達を無事に港に帰すための戦いを始めよう。

 歴史に帝国海軍と私達の名前を刻もうじゃないか!

 

 

「グラウ提督、『プレジデンテ・アヒージョ』より入電───『水雷戦隊を指揮し敵第4戦艦戦隊の接近を阻止する。なお夜間水雷戦により撃沈しても良いか』とのことです」

 

「『プレジデンテ・アヒージョ』へ返信せよ───『水雷戦隊の任務は本艦他への敵脅威排除にある。あとは現場指揮に一任する』以上だ」

 

「承知しました、追伸『お土産はいらない』を付け加えておきますね」

 

 

 艦橋内がどっと笑い声に包まれる。ああ、本当に、もったいない。やはりこの兵達はこの国の何よりの宝だ。どうにかして返してやりたいものだ。

 

 

「グラウ提督、本艦を先頭に単縦陣完了しました。水雷戦隊は本艦右舷側1000mにて同じく単縦陣に」

 

 

 ヘボン大佐が優しく笑いながら報告する。よろしい、それではこの夜が明けたら全世界をあっと驚かせてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■戦闘詳報

 大戦末期に行われたこの海戦には多くの不明点がある。

 まず第1に歴史家達を悩ませるのはパシフィカ帝国海軍側の出撃理由だ。グラウ提督がどのような命令を受けて出撃したかは帝国海軍省の焼失により、残余の資料は四散してしまっている。

 ただ、少なくとも戦力的な差や攻撃目標に関して説明することがかなり困難である。

 未成の弩級戦艦『アルミランテ・コクレーン』を含めてさえ弩級戦艦が3隻である中、封鎖線艦隊の15隻全体と相対しはしないとはいえ、練習空母含めて出撃し勝てると思っていたのだろうか。

 

 しかし初戦の封鎖艦隊からの迎撃戦ではミラクルヒットを起点とした大戦果を上げており、その後の船団虐殺を無視しても海戦史に残る大戦果であるのは間違いない。

 惜しむらくは第4戦艦戦隊と交戦したグラウ提督含めパシフィカ帝国艦隊司令部の記録が残っていない事だろう。

 グラウ提督は偉大なる英雄か稀代の大殺戮者か、未だ歴史は答えを出せていない。

 

 

次回、船団襲撃艦隊に関する戦闘詳報に続く

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