「おー相変わらず綺麗な建物ですねぇ。お洒落です!私もここに通いたいです!」
「バンプロも綺麗だけど見飽きたよね」
「気持ちはわかるが、外でそんなこと話さないでくれるか?問題になりかねないから」
それからまた時は経つ。鏡花のレッスンの成果も確実に表れ始め、YUKINOは例の配信後も着々と人気を伸ばし続けている。YUKINOに関しては別問題が発生しているが、これは長期的に解決策を打っていく必要があるため、一旦は放置だ。
話は変わり、今日のスケジュールに関してだが、今日はなんと皆で星見プロにやってきていた。
もちろん遊びに来たわけではない。ちゃんと正式に牧野から依頼を受けてやってきた。
「鏡花は星見プロに来るのは初めてだったよな?」
「はい」
「いい子たちばかりだから、あんまり身構えないようにな」
「ご心配には及びません。ですが、配慮いただきありがとうございます」
そう言うと、鏡花は右手の中指と薬指を親指に合わせ、そのまま手首をお辞儀させるように下へ下げた。
……狐のポーズだよな?可愛い。じゃなくて、なんでそれを?
「季乃さんに教えていただきました。感謝するときにこうした方がアイドルらしいと」
季乃をちらりと見ると、褒めてくださいと言わんばかりにウインクしていた。確かにこれは可愛いし、ギャップもあってすごくいいけど、変な事を教えないでくれよ。
「置いてくよ」
そんなこんなしていると、いつの間にかエレベーターが到着、先頭の有希に次いで皆で乗り込み、数秒。俺達は星見プロダクションに到着した。
「星見プロ到着です!エージェントKINO、ステルスミッションを開始します」
ピンポーン
「あー!なんでインターフォン押すんですか!」
「季乃、何度も言うが不法侵入はダメだ」
「ストーキングをしていた人が言っても説得力ないですよ!」
「そんなことしてたの?」
「それは……犯罪では?」
「誤解だ。季乃も誤解されるような事は言わないでくれ」
「大丈夫です。私も慎二さんを追い回していたのでお互い様です!」
「なんのフォローにもなってねぇよ」
多少冷や冷やしつつも、いつものように駄弁っていると、事務所の奥から一人のスーツ姿の男性が現れる。
「お疲れ様です。本日はお忙しい中――」
「よっ、牧野久しぶり」
「……久しぶり。確かに最近会えてなかったな」
牧野から依頼があったが、別に会社として取引しに来たわけではない。堅苦しい挨拶をキャンセルさせると、俺は続けて口を開いた。
「わざわざ紹介するまでもないが、YUKINOの二人と、そして」
「古都ことと申します。以後、お見知りおきください」
「あ、あぁ。星見プロダクションでマネージャーをさせていただいてます。牧野航平と申します。よろしくお願いいたします」
そう言って牧野は名刺を取り出した。
「ご噂は兼ね兼ね伺っております。あの伝説と言われた長瀬麻奈、BIG4まで上り詰めたサニーピース。他にも名だたるアイドルたちを育て上げた敏腕だと」
「いえ、それは全て彼女たちの努力のおかげです」
「努力ができる環境があるのは偏にあなたの力です。謙遜も美徳ではありますが、もっと誇ってもよろしいかと」
「は、はい。善処します……」
「たじたじじゃん」
「……待たせているから、そろそろ中行くぞ」
「逃げたな」
うるさい、とでも言わんばかりの視線を受けながら、俺達は牧野に案内されるがまま、とある一室へ連れて行かれる。
扉を潜ると、そこには見覚えのある子たちがいた。
「え、御堂さん?」
「渚ちゃん久しぶり。すずちゃん、沙季さん、芽衣ちゃんも元気だったか?」
「え、えぇ。元気ではありますけど…」
「もしかしてマネージャーさんが仰っていた援軍というのは」
「あぁ。御堂とYUKINOの二人だ」
「有希ちゃん、季乃ちゃんお久しぶりー!」
「どうも」
「お久です!」
渚ちゃん、すずにゃん、沙季さん、芽衣ちゃん。説明の必要もなく月のテンペストのメンバーだ。琴乃ちゃんは脱退しちゃったから、現メンバーが勢ぞろいだな。
「あの、そちらの人は?」
「申し遅れました。私は古都ことと申します。以後、お見知りおきを」
「は、はい。あ、私は月のテンペストの…」
「伊吹渚さん。他の方々も把握しておりますので挨拶は不要です」
……鏡花を連れてきたのは今回の件とは全く関係がなく、色んな経験を積ませるために同行させているに過ぎない。とはいえ向こうはそれを知らないだろうしフォローは必要か。
「ことは今回の件とは別件で連れてきているだけだから気にしなくていいぞ。本人もそのつもりで話しているだろうから」
「置物ことことちゃんです!」
「ことこと?……あぁ古都でことって事ですわね」
「ことことちゃん…なんか可愛いかも!」
挨拶はこれくらいにして、そろそろ本題に入ろうか。
俺は牧野に目配せすると、彼は一つ頷いた後に口を開いた。
「今日彼女らに来てもらった理由は一つ。どりきゅんへの対策を聞くためだ」
「確かYUKINOは私たちの前にどりきゅんに指名されていたユニットでしたよね?」
「あぁそうだ。そしてその指名を…」
「私たちの宣伝に利用しました!いぇい★」
「……」
「私もその配信は見ましたわ。どりきゅんの知名度を活かし配信に誘導し、YUKINOというアイドルを知らしめる舞台にする。……見事なものでしたわ」
「でしょうでしょう!さすがは季乃ちゃんです!」
「ですが、あのような真似は私たちにはできませんわ……」
「だろうね。別に真似しろ、という気はないよ。だからこそ」
「慎二さん、やっちゃってください!」
「任せとけ。……ってことで、どりきゅん対策会議うぃず星見プロ編ー!ぱちぱちー!」
「わー、どんどんぱふぱふー!」
「ぱふぱふ……?」
「……ま、そういうことだから」
何やら混乱している様子の月ストを見ながら、俺は早速この日のために仕上げてきた資料を取り出す。
今回の資料は今までとは違い、デジタル式だ。紙で資料を見せる時代は終わったのだよ。
牧野にディスプレイを付けてもらい、ノートPCに持ち込んだUSBをつなぐ、資料をディスプレイに映しこめば準備完了だ。
「うわ、また変なのいるし……」
「失礼ですよ有希ちゃん!あれは琴乃ちゃんですよ!」
「ちげぇよ。ワンダナーさんだ」
「犬なので琴乃ちゃんです!」
「お前の犬イコール琴乃ちゃん判定はなんなんだよ……」
季乃の余計な発言にツッコミを返しつつ、横目で月ストの子たちを見る。苦笑いを浮かべているものの怒っている様子はない。よかった、今琴乃ちゃんの名前を出すのは地雷っぽいからな。
「気を取り直して、早速やっていきましょう。まず、どりきゅんとはどういうアイドルなのか……これは皆知っているだろう」
「はい、BIG4の一角であり、確かな実力を持っているアイドル……先日のバトルではそれを実感させられましたね」
「それだけじゃなくて、なんというか圧を感じました。自分たちの振る舞いに絶対の自信を持っているかのような……」
「概ねその通りだ。付け加えるならそこに問題児、という言葉もついてくる」
「あはは、確かに配信での活動とか、すごいですもんね」
「本当は業界として対応すべき問題なんだが……」
どりきゅんの他のアイドルを壊す言動ややり口はアイドル業界では多く広まっている。彼女たちが無名であれば問題ではないのだが、BIG4である彼女らの知名度でそれをやられるのはアイドル業界全体の印象に繋がりかねない。
……話が逸れたな。
「……まぁそんなどりきゅんだが、彼女らのライブにおける強みってなんだと思う?」
「すずにゃんどうぞ!」
「わ、私ですか!?……どりきゅんの強みは、いつの間にか憑りつかれてしまったかのように熱中してしまう、歌とダンス……でしょうか?」
「概ね正解だ。要は観客の盛り上がらせ方がうまいんだ。だからライブパフォーマンスが良く見えるし、スコアも稼げる。技術も確かなものではあるんだけどな」
「ⅢXとは真逆のタイプだね」
「そうだな。……ちなみにだが、VENUSプログラムのスコアの稼ぎ方、というのは聞いたことがあるか?」
「沙季さん!」
「技術点と観客点が存在し、その総合によってスコアが決まることは把握しています。……ただ詳しくは私も理解できてはいません」
「さすが沙季さん。改めて説明すると、VENUSプログラムの採点基準は大きく分けて二つ、技術点と観客点だ。そのうちの観客点は、文字通りお客さんの反応によってスコアが加算されていく」
「つまり、どりきゅんのライブは観客点が高い、ということでしょうか?」
「その通り。そしてこの観客点というのがVENUSバトルにおける問題となりやすいところなんだが……」
「じゃあ芽衣ちゃん!」
「えぇ!?芽衣にはよくわかんないよー」
「例えを見せたほうがわかりやすいかもな。季乃、何か歌ってみてくれ」
「強くなくちゃいけない」
「……」
「優しさには甘えられない」
「……まぁこんな感じにライブしてたとして、だ。そこで俺という観客がさっきみたいに無反応だったら、観客点はどうなると思う?」
「あ!低くなるってことだね!でも、なんで琴乃ちゃんの歌なの?」
「季乃、クレーム入ったから止めてくれ」
「もうこれ以上何を望むの?」
「有希、止めてくれ」
「季乃」
「季乃です★」
「なんだこいつ」
琴乃ちゃんの歌を歌うのは色々と傷つけてしまう可能性があるから止めてほしい。そういった意味を込めて季乃にアイコンタクトを送ったが、ウインクして返してきた。本当になんなんだこいつ。
「つまり、俺が言いたいのはその時の観客によってスコアが前後してしまう可能性がある、ということだ。そしてライブバトルにおいてのその時の観客というのは、自分たちのファンがどれだけいるかに関わってくる」
「えっと、芽衣たちのファンが会場にいっぱい来てくれたらいいってこと?」
「その通りだ。芽衣ちゃん大正解。花丸だ」
「わーい!」
有希から向けられる視線が痛いが、気にしないことにする。いつものことだ。
「でもそれがどりきゅんと何の関係が?」
「最後に渚ちゃん!」
「えっと、私が質問したんだけど……でも、そうですね。話の流れからどりきゅんのファンが会場に多く集まっている、ってことですか?」
「大正解。渚ちゃんにも花丸だ」
「あはは、ありがとうございます」
「頑張った季乃ちゃんにも花丸ください!」
「赤点。出直してこい」
「なんでですか!」
ぴーぴー騒ぎ出した季乃を無視しつつ、俺は話をまとめる。
「つまるところ、だ。BIG4チャレンジ自体、どりきゅんが企画したものであることから、どりきゅんのファンが集まりやすい。そしてどりきゅんはファンを熱狂させること、つまり観客点の取り方がうまい。最後に対戦相手のファンが多いとこちらの点数に不利が入る。BIG4チャレンジ自体がどりきゅんに有利なフィールドってわけだな」
「なるほどな……」
ずっと黙って聞いていた牧野が口を開く。こいつはこういうこと考えるのが苦手そうだよな。でもぶっちゃけ星見プロはそれでいいと思っている。だって点数とかどうとか考えてライブするサニピとか月ストは彼女たちらしくないから。そんなことをすると、強さが無くなってしまう。
「ってことで、だ。その対策の一環として、これから月ストの子たちにはとあるライブバトルをしてもらう」
「え、今からですか?」
「そうだ。場所はすでに用意してある。スケジュールも問題ないだろ?」
「あぁ、今日から明後日まで確保してある」
「だ、そうだ」
「い、いきなりすぎますわ!」
「そういうのはきちんと相談をしてください」
「ぷんぷんだよ!」
「マネージャー?」
「ごめん。御堂に口止めされてたんだ」
「何のことかわからないな」
「お、おい!」
実際のとこ口止めしていたのは事実だ。あんまり考える時間を与えたくなかったからな。
「ってことで有希、季乃、こと、行くぞ」
「はいはい、ってか私たちは最初からそっち行っておけばよかったじゃん」
「寂しがりやなんですよ。一緒に居てあげないと泣き出してしまう生き物です」
「ウサギのような習性でしょうか」
「バニー慎二です!」
「はいはい、行くぞ」