無邪気で明るい性格。お調子者の面はあるが、持ち前の愛嬌でカバーしている。
他者の感情に対しての興味がなく、自分に損益が被らない程度に振り回すことから、対人関係には難あり。ただ、人の気持ちがわからないわけではなく、わかったうえでやっていることから、腹黒さと計算高さには必要。
社会性は持ち合わせており、仕事はきちっとこなす。また、正当な理由であれば多少の無理は文句を言いつつもやり遂げる一面はあり。
プライベートには問題あり。よく周囲の人間を誂っているため、大きなトラブルを引き寄せないか注意を払う必要がある。
また過去の出来事からか一人の時間を嫌っている模様。それによるフラストレーションが、周りの人を巻き込んでいる理由にもなっていると思われるので、気を配る必要がある。
「ざっとだが、こんな感じか」
季乃のついてまとめた内容を改めて眺め、俺は一人口を開く。
有希と見比べてみると、見事に正反対の性格しているなと思う。どうやって仲良くなったんだろうなあの二人。
それはともかくだ。二人の性格も何となく理解できた。ここまで理解できれば、何を考えて行けば良いかもリストアップできる。
となると最後は。
「こと……鏡花か」
正直ここが一番難所だと思っている。何せ、風見鏡花という人物について俺はよくわかっていないからだ。
だからこそ理解する時間を設けるのは必要なんだが、どうアプローチを仕掛けるべきか悩むところだ。
「季乃のときのような面談だと、きっと完璧な受け答えされるだけだろうな。もっと素の姿を知るためには普段の鏡花の姿を見るべきか」
とはいえ、普段の鏡花と言われて思いつくものがない。休みの日とか何しているんだろうか。何もしてないって事はあるまいし……。
「休みの日に付き添う……のはさすがに迷惑か」
あれは家族である有希だからこそできたものだ。となると残っている手段は。
「仕事。プロモーション活動の一環で出掛けるのは有りだな」
バンプロのネームバリューと後押しがあるとはいえ、地道にやっておいて損はあるまい。となったら、そこまでたどり着くまでしっかり整えておかないとな。
「実は私はAIです」
「は?」
「元財閥の一角であった風見家。電気を取り扱った事業は隠れ蓑であり、その本業は生ける人工知能の開発。要は自我を持ったAIの開発でした」
プロモーション活動の準備を整え、いざ当日となったある日、鏡花は出会い頭に、まるで全ての真実を話すかのようなトーンで淡々と語り始めた。
「風見家初代当主である風見京間は未来視を持っていた。もちろん比喩表現ではあったものの実際にその先見は鋭く関心を付いていました。そして彼が見たものは自立してまるで人間のように動くコンピューターでした」
「開発が始まったのは正確には不明です。ですが、私の祖父の代にはその設計思想が固まりかけていた。その設計を父が完成させ、そして現代の最新鋭の技術と知能を駆使して作り上げたのが、QK。717番目の個体であり、またの名を鏡花。それが私、風見鏡花なのです」
「…………」
どうしたのだろうか。
確かに最近あまり様子を見れていなかったのはある。レッスンを今まで以上に頑張っていたのは知っているし、鏡花なりに色々と考えていた事も知っている。
もしやそれが原因でおかしくなってしまったのだろうか。俺の知らないところでストレスを蓄積させすぎたのか。
……とまぁ冗談はおいておいて、黒幕を当ててやろう。
「季乃の差し金か?」
「有希です」
何やってんだあいつ。季乃に毒されてるじゃねぇか。
「嫌だったらちゃんと断れるようにならないとだぞ」
「いえ、少し楽しかったです」
ふふ、と鏡花はわずかに笑みを浮かべる。
可愛い。じゃなくて、珍しいものを見れた。
「設定を考える事が、か?」
「いえ、それを聞いて呆然としているあなたの姿を見ることができて、です」
「……」
毒されている。季乃と出会わせたのは失敗かもしれない。
「行きましょう。時間は有限ですので」
「……どこに行くのかわかっているのか?」
「えぇ、AIですので」
そう言って鏡花は再度笑みを浮かべた。
「古都こと、と申します。まだデビューも未定の身ですがお見知りおきを」
俺は鏡花を連れてとある飲食店に来ていた。プロモーション活動をするには少し弱いが、ここは単なる飲食店ではない。
「ことちゃんカッコいいね!ふーふー!」
「クール系歓迎!万歳!」
席の一角には大きめのスペースが取られており、周りには音響設備も整えられている。つまりライブも可能な飲食店だ。
そしてそんな店には当然、アイドル好きの連中が集まる。俺がSNSで活動していたときに知った店だが、結構有名なインフルエンサーとかも足を運んでいるらしいからここでの宣伝は馬鹿にならない。
「よ、美人!よ、別嬪!よ、小町!」
とはいえ今日はどうなんだろうか。昼間っからなぜか飲食店に常駐しているおっさん達に絡まれている。小町って使い方違うだろ。
「ポーズお願いします!」
「こうでしょうか?」
「ふーー!!ありがとうございます!!」
カシャカシャとシャッターが切られる。こととの距離感は近いが、一定の距離を保って節度を持って接する。それがこの店のマナーだ。でなければ出禁、そしてアイドルファン界隈から追放されるらしい。怖い。
「悪いな御堂。やかましくて」
「まぁここはいつもそんなもんだろ」
そう話してきたのは、俺と同じくらいの背丈の男性。顔立ちも若く、年齢は俺と同じくらいか少し上程度だろうと思っている。若くしてここの店主でもあるらしい。
彼はそりゃそうだと笑みを浮かべ、再度口を開く。
「それで彼女をここに連れてきた目的は?」
「宣伝のためというのもあるが、ことの対外的反応を見たかった。ここならある程度安心して見れるから」
「なるほどな。相変わらず小賢しい事考えるやつだ」
「やかましい」
軽口を返しながら、俺たちはことを見ながら言葉を続ける。
ことは続けざまにポーズを要求されていた。……バリエーション多いな。アドリブの良さというより、知識量が多いんだろう。
「新人アイドルって言ったか。お前の目から見て彼女はどうなんだ?元アイドルレビュー系インフルエンサーさんよ」
こいつはSNS時代に知り合った友人…というより悪友だ。SNSをきっぱり止めた今でも未だに連絡を取り合っている数少ないうちの一人だ。
「才能はある。というか、地力がとんでもない。まだレッスンを始めて日が浅いが、すでにデビューしてもおかしくない実力は秘めている」
「ほうほう。それで?」
「ただ現状だとあと一歩何かが足りない。たぶんそれがきっと、彼女がアイドルとして輝くには必要なんだと思う」
そしておそらくその足りないものは彼女の自己なんだと思う。色んな人や事柄に関わらせて少しずつ見えてきたが、まだまだ足りない。
「相変わらず理想主義だな」
そう言って彼は席を外した。
……理想ではあると思う。新人アイドルが未完成なのは当然の事だ。欠点が一つや二つあってもデビューさせる事を間違いだとは思わない。それが魅力の一つになることもざらにあるし。
でもこれは、ことが抱えているこの欠点だけは俺はどうしても看過できなかった。
改めて自分の想いを再認識していると、彼は再度席に戻ってきてトンッと俺の前にグラスが置かれた。
「せっかく来たんだ。一曲聴かせてくれないか?」
「……デビュー曲はまだだ。練習曲にはなるがいいか?」
「構わねぇよ」
グラスに氷と飲み物が注がれる。
「こと。一曲歌ってほしいとリクエストが来たがどうする?歌ってみるか?」
「構いません」
ことは表情を変えず言葉を返す。無理している様子は見られないし本当に構わないのだろう。ならば話は早い。
「わかった。準備するからちょっと待ってろ」
「はい」
「おぉ歌聴かせてくれるのか!楽しみだ!」
「お歌!お歌!」
いい年のおっさんがお歌お歌言うな。
「ご清聴いただきありがとうございました」
ことはレッスンと同じように曲を披露し、特に動揺するわけでもなく、平坦に曲は終わった。
曲が終わったにも関わらず、会場はシーンとしていた。まぁ気持ちはわかる。だって。
「すげぇ。本当に新人か?」
「まるでプロの歌手じゃないか」
ことの歌は上手い。担当故の贔屓目抜きにかなり、いやプロ並に上手いと思う。
「凄いじゃないか。デビューしたらすぐ話題になるぞこれ」
その通りだと思う。物覚えが良いなんてものじゃない。一を教えれば十を学ぶ超天才型。それでいて適切な努力を重ねているのだから手が付けられない。
でも、だからこそ惜しいと思う。
「長年アイドルを見てきたお前に聞きたい。アイドルとしてはどう思う?」
そりゃと彼は迷わず口を開く。
「及第点もやれないな」
そうだよなぁと俺は頭を掻いた。
ことの歌は上手い。今日はやってないが、踊りも歌と同じくらいに上手いんだ。だが問題はそこではない。
「すごかったなぁ」
彼女のライブはなんというか、応援しがいがない、見ていてワクワクしない。まるでテレビの中で全く興味のない映像作品が淡々と流れているような感じだ。映像の上手さはわかるが感情が揺れ動かない。だからこそ、すごいという感想しか出てこない。
問題をざっくり一言で表すのならば、観客を沸かせられない。これに尽きるだろう。
アイドルとしては大問題だ。