あれから少しして、すずちゃんと怜ちゃんがスーパータケミヤでなぜか呼び込みをしていたり、唐突にすずちゃんの帰りが遅くなったりなどはしたものの、何事もなく平然と時は流れた。
サニーピースも月のテンペストも、徐々にライブパフォーマンスは伸びてきている。目の前で応援してきた俺にとってはそれが間近に感じ取れてうれしい限りだ。
そんなある時だった。
夜も近くなってそろそろ帰らないとまずい時間帯。時間を気にしながらも、俺は新調させた双眼鏡で星見寮を覗いていた。
なんといてもこの双眼鏡、前の古いやつより遠くが見える。調整機能もついておりお値段もお買い得。やっぱ時代は最新モデルよ。安売りされているやつだけど。
……ともかく、以前より遠くから星見寮を観察することができるようになったので、隠れ場所も変更し、さらに見つかりにくい場所に移動することができた。ここなら警戒もされまい。
視界の先では、星見寮が一望できる。古ゆかしい木造の建物も、縁側付きの庭も、庭で育てている野菜だって見ることができる。ほら今だって、星見寮から飛び出して、近くの物置に入っていく芽衣ちゃんの姿だって……。
「ん?」
確かあの物置は今は彼女らのマネージャーが寝泊まりしている場所だったはずだ。なぜこんな夜更けにそこへ?大事な話でもあるのだろうか。
まぁアイドル活動というものは俺の想像以上に大変だということは理解できている。ましてや彼女らはまだまだ学生の身だ。悩みの一つや二つできて当然か。
それだけマネージャーが信頼されているのだろう。と自分を納得させていたが、いつまで経っても芽衣ちゃんが出てくる素振りがない。それだけ長話なのだろうか。
……んー、そろそろ帰らないとまずいか。
先日有希と喧嘩してから、ずっと会話がない。俺もうまいこときっかけを作って謝りたいのだが、強引に謝るだけじゃまた前みたいになるのが落ちだ。時間が解決してくれればいいんだけど。
ちょっと憂鬱になりながらも、俺は家へと帰った。
それからまた少しして、今日も今日とて星見寮を眺めていると、また芽衣ちゃんが星見寮から飛び出し、物置へと入っていくのが見えた。
さすがにこれはおかしい。何か話があるにしても、毎晩物置に向かうのはさすがに変だ。
あいつのことだ。さすがに担当アイドルに手を出している…ってことはないとは思うが、万が一、いや億が一の可能性はある。それにそうじゃなくても、アイドルが男と一対一で毎晩会っているというのは色々と問題だ。
マネージャーに直接話しを聞いてもいいんだが、それだと俺がどうしてそのことを知っているんだって流れになる。観察していることを知られたくない俺にとってはそれはまずい。
とはいえ、他に案は……。
脳裏に盗聴という案が過る。延長コードの中に仕込んだりとか、棚の後ろとかに投げ込んだりとか……いや待て待て。さすがにそれは犯罪だ。よくない。
「でもなぁ…」
あーでもないこーでもないと悩んでいると、星見寮から更に人が出てきた。あれは渚ちゃん?それに他の月ストのメンバーも。
彼女らは芽衣ちゃんが向かった先である物置の前までたどり着くと、そこに耳を当てた。なるほど、聞き耳を立てているわけか。敷地内に入れるならその手あるな。
彼女らはそこで何を聞いたのか、突然挙動がおかしくなる。あんなに慌ててどうしたんだ?皆をまとめるはずの沙希さんも…あれ、沙季さん気絶してない?
それに気がついた月ストメンバーが慌てて沙季を寮に運びこんでいる。様子を見るに、病気とかそういうわけではなさそうだ。もし問題があれば彼女たちが救急車でも呼ぶだろう。
……それにしてもなるほど。直接現地に行く方法もあるか。芽衣ちゃんが入ったのを確認したあと、マネージャーを訪ねる。悪くない手かもしれない。
こうと決まれば作戦会議だ。決行はおそらく明日。頑張ろう。
……芽衣ちゃんがマネージャーの小屋に入らない。それどころか、マネージャーが星見寮を訪ねてから出てこない。
もしかして全員食べちゃうぞ的なあれか!?という冗談は置いておいて、こうなってしまうと作戦が前提から崩れてしまう。
そういえば昨日、月ストのメンバーが聞き耳を立てていたし、それで何かを話し合っている途中なのかもしれない。それで解決するのであれば問題はないのだが…んー。
いまいち釈然としない。まぁ俺が釈然としなくても、彼女たちには関係のない話なんだが……。
そんなことを考えていると、星見寮からマネージャーが一人で出てくる。彼は一人で何かをぼそぼそ言いながら物置小屋へと帰っていった。
「ま、部外者の俺が変に介入するのもよくない、か」
俺が出ていくと、なぜ俺がマネージャーやアイドルである彼女らの寮を知っているんだ、という話になる。終わった問題なら俺は大人しく手を引こう。
うんうんと自分を納得させながら俺も帰路についた。
……帰ったら有希の機嫌直ってるといいなー。