最終章です。原作の星空編ではなく、オリジナル展開にはなります。
最後まで彼女たちの物語を見届けてくれると幸いです。
※予約投稿ミスって投稿してしまった分は忘れてください。
長月
「みんなー!今日は来てくれてありがとうー!」
アイドルのライブってなんでこんなに楽しいのかって考えたことがあった。
ステージ上のアイドルたちの一挙手一投足に視線が奪われ、会場中に響く歌声に全身が包まれる。
曲が始まる僅かな時、ほんの一幕。だけど、その一幕で、俺という存在は彼女たちのライブに熱中させられる。
じゃあなぜ熱中させられるのか。これは個人的な愛と一種の集団心理と会場効果だと思う。
愛というのはわかりやすいだろう。アイドルを推しているその姿そのものだ。能動的であり、相手の喜びを実現させようとする行為であり、自らの愛情表現の一種でもある。いつも俺がやっていたことだ。
集団心理になると少し難しくなる。
前提として、ライブに足を運ぶ人は少なくともそのアイドルや曲が好きで足を運んでいる。人間の習性として同じものが好きなもの同士には一体感が募るとされている。
一体感が生まれると人間は自発的に協調性を持つ。仲間意識と言い換えてもいいかもしれないが、誰かが全力で何かに取り組んでいる姿を見ると自分も協力してあげたくなる。ましてや、それが自分と同じものを好きになっている相手だったらなおさらだ。
こうした一体感が会場の熱気を生み出し、人間の感情を操作しているのだろう。
もちろん、こういった一体感ではなく、愛によって自発的に応援している人もいる。むしろ、こういった人間がいないと一体感は生まれないものだ。だけど、比率的にはこうした一体感が全体を包み、熱気を生み出しているように思える。
そしてその熱気は会場にも影響を及ぼす。
耳や目に入る情報量とその刺激の増大、会場の酸素量低下等々、上げれば切りはないが、熱気が発生させる影響は多々存在する。
そしてそれらは人間に思考力の低下という重要な影響を及ぼす。
人間がモノを考えるサイクルは諸々あるが、思考力が低下しているさいの人間の行動は少なからず収束するものだと思っている。それは本能への帰属。つまり、愛と一体感の増強。
他にも要因はあるとは思うが、ライブにおける熱中というのはこういったことだと思っている。
「来てくれたみんなのために!今日がかけがえのない一日になるように!精一杯歌います!」
となると、ライブにおけるアイドルの役目というものが段々と明らかになってくる。
愛が一体感を生み出し、会場がそれらを増強させているならば求められていることは一つだ。
愛の供給。すなわち、相手が求めていることをすればいいのだ。
それは歌い方であり、踊り。曲自体やMCかもしれない。あるいはアイドルが歩んできた物語かもしれない。
つまるところ、アイドルとは、ライブとは――――
「聞いてください!」
そこまで考えて俺は考えるのを止めた。
俺が好きなアイドルはそんなものじゃない。俺はアイドルが好きで、ライブが楽しくて好きだ。それだけで十分だと思えたから。
でも、ここにきて改めてそれを考える必要があるのかもしれないと思った。
『担当アイドルを勝たせるためにはなんでもする。それがマネージャーの仕事だろう?』
彼女に、そしてあいつに勝つために。
俺は、YU☆KI★NOのマネージャーなのだから。
「ねぇいい加減仲直りしてよ」
あくる日の晩。仕事から帰ってきてリビングでのんびりしているとき、背後から声がかかる。
振り向いた先に居たのは長い黒髪を遊ばせている一人の少女。自宅だからかキャミソールにショートパンツというラフな格好をしている彼女は、どこか不満げな表情で俺に問いかけてきた。
「そうしたいんだけどなぁ……」
「じゃあしてよ。間持つのいい加減鬱陶しいんだけど」
彼女、
有希が言っていることは、俺と季乃の件だ。
地方のライブで発生した事件の後、俺たちはすれ違いを起こした。いや、俺が発言した言葉が良くなくて季乃を悩ませてしまったというのが正しいだろう。
それ以降、なんとなく季乃と会話しづらくて結果的に気まずい空気を作ってしまっている。
妹である有希はYU☆KI★NOというアイドルグループで季乃と同じメンバーのため、その影響を諸に受けているが故の文句だろう。俺がマネジメントしているし、有希の文句はよくわかる。
「……俺も悪いと思っているし、何か話せるきっかけがあればいいんだけど」
「……」
有希の視線が痛い。女々しいこと言ってないでさっさと謝ってこいと語られている気分になる。全く持って正論だ。
「……きっかけがあればいいの?」
「……まぁうん、そうしたら俺も話さざるを得ないだろうし」
「わかった」
そう言うと有希はスマホを触り始める。しばらくすると、俺にスマホを画面を見せてきた。
「季乃に話したいことがあるって連絡した。星見市の高台で話そうって言っておいたから」
「え、今?」
「そう。わかったって連絡来たからさっさと行って来たら?」
「これ俺が行くって伝えてないよな?」
「当たり前でしょ。私が連絡したんだから」
「きっかけって言ったけど心の準備が……」
「うるさいな。女々しいこと言ってないでさっさと行く」
有希に鍵を投げつけられた。えぇまじで今から話すの?こういうのって心の準備とかそういうのがあって適切なシチュエーションで……。
……いや、そんなことを考えているから引き延ばしてしまうんだろうな。こうやって急の事だからこそ、話せるきっかけになるのかもしれない。
俺は自省しつつ、出かける用の服に着替える。
家の扉を開ける前、有希に向けて声を掛けた。
「そんなに時間は掛からないだろうけど、遅くなるようだったら連絡する」
「んー」
「……ありがとな」
「んー」
気の抜けた返事に苦笑しつつ、俺は家の扉を開けた。
外は真っ暗で、月明かりと街灯が辺りを照らしている。
「……少し肌寒くなってきたな」
緑の時が過ぎ、紅葉が少しずつ芽生えてくる。そんな季節だった。