星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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章入れ忘れてました。
原作の星空編ではなく、オリジナル展開にはなります。

最終章 星光編です。よろしくお願いします。


常夜に寄り添う

 

 星見市の高台に行くには勾配の大きい坂を上る必要がある。

 

 夜だから足元は慎重に、それでいて頭は、なんて切り出そうか、謝るのが先か、そんなことを考えつつ俺は足を進めていく。

 

 歩く速度がゆっくりになっているのは坂道のせいに違いない。

 

 そんな言い訳をしていると、いつの間にか高台の下までたどり着いた。

 

「……」

 

 下からこっそり高台を覗いてみたが、人影らしきものは見えない。道中にも人一人見かけなかったから、まだ来ていないのかもしれない。

 

 それでも、見えていない箇所に隠れているだけかもしれないので、高台の周りをくるくる回ってみる。人影はなし。

 

 季乃はまだ来ていないのだろう、そう決定づけると俺は高台への階段に足を踏み入れた。

 

 トントンと自分の足音が響く。夜で誰もいないから自分が立てる音がやけに聞こえる。

 

 高台へと登り切ると、やはりというべきかそこには誰一人いなかった。そのことに少しだけ安堵した。

 

「わっ!」

 

「おおぉっ!!!」

 

 その時突然耳元で声がした。いきなりの事で素っ頓狂な声が出る。

 

 慌てて振り返ると、そこにはベージュ髪の一人の少女がいた。白のワンピースにデニムジャケット、彼女は悪戯気な笑みを浮かべ口を開く。

 

「ふふ、なんですかその声。面白いです」

 

 彼女、季乃(きの)は口に手を当ててくすくすと笑みを浮かべる。……こっちがどう話しかけるか悩んでいたのにこいつは本当に。……でもありがたい。

 

「どこに隠れてたんだ?」

 

「慎二さんの後ろです。高台の前の坂からずっとつけてましたよ」

 

「ストーカーはダメだぞ」

 

「不審者に言われても説得力皆無です」

 

 高台の周りぐるぐるしてたのも十分不審でしたよ、と季乃が続く。全部見られていたのか。恥ずかしい。

 

 ……というか、季乃が俺が来ていることに気づいたのなら、有希からの連絡が嘘だったってのはバレているのか。

 

「どうしました?」

 

「いや……」

 

 俺から話を切り出すべきだ。季乃も俺がここにいたことを知っていて何も言わないってことは、俺から話し出すのを待っているのだろう。

 

 でも、もうちょっとだけ待ってほしい。

 

「……少しだけ座らないか?」

 

「いいですよ」

 

 季乃と一緒に高台のベンチに座る。目の前には街頭や遠目に映るテーマパークの光と共に、真っ暗な海岸や星々が見える。雲一つない綺麗な光景だ。

 

「季乃……あのときは悪かった。申し訳ない」

 

 なんて言おうか一通り悩んで、ようやく口に出てきたのはそんな言葉だった。

 

「アイドルとしてどう考えるべきか、なんて一度も考えた事がなかったから、正直答えが出なかったんだ」

 

 あの事件、ライブからの帰り道にYU☆KI★NOが刃物を持った男に襲われた事件は全国的に広まった。

 

 結果的に誰も怪我することはなかったものの、それでも刃物を向けられ強い殺意を向けられたという事実は精神的外傷を及ぼす。

 

 ましてや有希や季乃はまだ子供だ。酷くショックを覚えたに違いない。

 

 そんな中で、季乃から告げられたアイドルとしてどう考えるべきかという質問は、決して無難に、深く考えず答えるべき言葉ではなかった。

 

 きっと彼女はアイドルとして伝えるべき言葉を伝えきれなく、自分の言動のせいであんな事件が起きてしまったと考えていたからこそ、あの質問をしてきたのだろう。

 

 ……今考えればそのことが理解できる。でも、あのときの俺には考えることすらできなかった。その事実がとても申し訳なくて、自己嫌悪が止まらなくなる。

 

「考えなく言ってしまって、ごめん。季乃の気持ちを全く考えきれてなかった」

 

 俺は立ち上がり頭を下げる。こんな言葉で、こんな態度で許してもらえるとは思わないが、それでもこうしなければ自分が許せなかった。

 

「わ、別にそんな頭を下げなくていいですよ。悪かったのは私もなんで」

 

 季乃は一瞬、驚いたような表情を見せると、バツが悪そうに顔を歪ませる。

 

「あのとき、慎二さんに助けてもらって、心配までしてもらったのに、お礼の一つもなしに逃げちゃって……。自分でもほんと何してんだろーって思ってました」

 

 だから、と続けて季乃は立ち上がる。

 

「私の方こそごめんなさい。こんなに悩ませちゃって、本当に悪かったって思ってます」

 

 季乃の頭が下がる。そのことに俺は思わず驚いてしまった。

 

「季乃……」

 

 まさか季乃の口から謝罪の言葉が飛んでくるとは思っていなかった。こいつ謝れたのか。いやそうじゃない。

 

「悪いのは俺だ。頭を上げてくれ」

 

「わかりました」

 

「え、早」

 

 季乃は俺の言葉を聞くや否やすぐさま頭を上げた。……なんかそれは違くないか?いや、頭を上げてくれって言ったのは俺だけど。

 

「む、文句あるんですか?しんみりした空気が好きならまたやりますよ?」

 

「そういうわけじゃないが……」

 

 困っている俺の様子を見てか、彼女は再び笑みを浮かべた。こいつからかってるな。

 

「私ってあんまりこういう空気似合わないじゃないですか?だからこれまで通りやりましょう?」

 

「……」

 

 なんか、解せない。うまいこと季乃の空気に乗せられたような気がする。

 

 でも、そんな流れを断ち切ってでも、これだけは言っておかないといけない。

 

「季乃、思い詰める前に相談しろよ。俺は……頼りないかもしれないが、有希でも鏡花でも誰でもいい。一人で考え込まないでくれ」

 

 季乃はそれを聞いて、小さく笑みを浮かべる。

 

「……相変わらず変なところで鋭いですよねぇ。でも、だからこそ慎二さんでよかったなって思います」

 

「……何の話だ?」

 

「なんでもありませんよ!さ、さ、しんみりタイムは終わりです!デートしましょ!」

 

「もう時間も遅いから家に帰ろう。俺も疲れた」

 

「なーに言ってんですか。夜はこれからですよ!シーパラにゴー!」

 

「もう閉島してるよ」

 

 いつものような軽口が自然と出てくる。これでしばらくは気まずい空気を作ってしまうことは無くなるだろう。

 

 でも。

 

『ねぇ……慎二さん。教えてください。私のこの考え方は間違っていますか?』

 

 彼女に生まれた悩みが消えるわけではない。きっとまたどこかで向き合う必要が出てくる。

 

「どうしました?」

 

「いやなんでもない」

 

 その時がいつになるかわからないけど、

 

「海公園でも歩くか」

 

「いいですね!夜の砂浜を男女で歩くってロマンチックじゃないですか?」

 

「そうだな。相手がもっといい子だったら最高だったな」

 

「あー!季乃季乃カウンター上昇です!もう許しません」

 

「ごめんって」

 

 拗ねたような季乃の言葉に思わず笑みが溢れる。

 

 できることならば、その時に俺が側についてあげたいと、そう思えた。

 

 

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