星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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鏡の花

 

「……はい…はい……スタジオの変更。古都ことの……なるほど。承知いたしました。ではそのように……はい。よろしくお願いします」

 

 電話を起き、すぐさま先程の内容を整理し、予定に書き加える。こちらでやるべきことは会社への報告と、諸々の手配。後は鏡花への連絡か。

 

 やるべきことをリストアップし一つ一つし、必要事項をまとめていく。一段落すると、俺は一つぐっと伸びをした。

 

 時刻を見ると午後二時。鏡花は今自主練中だから、連絡する時間に迷う。

 

 ……そういや昼飯食ってないなって思った。

 

「お疲れ様です」

 

 近くで凛とした声が響く。その声に振り向くと、ベージュのニットを着た少女が立っていた。

 

「お疲れ、こと」

 

 彼女は綺麗にまとめたライトグレーの髪少しだけ揺らし、空色の目を不満げに窄め口を開く。

 

「……鏡花で良いのでは?」

 

「事務所だから勘弁してくれ」

 

 彼女、古都(ふるみや)ことはYU☆KI★NOに続き俺の担当アイドルだ。本名は風見(かざみ)鏡花(きょうか)といい、かなり格式高い御家のご令嬢だったりする。

 

「事務所だから言っているのですが」

 

 芸名と本名が違うのは、彼女の御家の影響が大きい。御家が原因で余計な火種を作らないように、芸名を名乗るようにしているし、俺も人前ではそう呼ぶようにしている。とはいえ、事務所内なら皆知っているし特段問題ないか。

 

「……なんというか、鏡花、前より厚かましくなったよな」

 

「自己が成長したということでしょう」

 

「育て方間違ったかなぁ……」

 

 彼女の周りの人物を考えてみたが、俺も季乃もお世辞にも性格が良いとは言えない。有希は大丈夫だろうけど、あいつはあいつでドライだし、身内にはすっごい毒舌だし、変な影響を受けることはあり得る。

 

 これは、あれだな。皆が悪い。もっといい子になろう。

 

「ところで、先程の電話は何だったのでしょうか?私の名前が出ているようでしたが」

 

「あぁ来週にある撮影の件だが、急遽スタジオが変更になったとのことだ。トラブルがあって前のスタジオが使えなくなったみたいだ」

 

「なるほど、承知いたしました。詳細は文書にて纏めて戴ければ」

 

「了解。後で送る」

 

 リストアップ事項にまた一つ書き加えながら、俺はふと疑問に思った。

 

「そういや鏡花はどうしてここに?」

 

「こちらを」

 

 そう言って鏡花は机の上にそれを置く。

 

 風呂敷に綺麗に包まれた直方体だ。なんだろう。

 

「開けてもいいのか?」

 

「はい」

 

 結び目を施き風呂敷を開いていくと、そこにはおせちでも入っていそうな立派な和箱があった。

 

「……もしかして弁当箱か?」

 

「はい」

 

「俺のために?」

 

「はい。お昼はまだかと思いまして」

 

「鏡花……!」

 

 天使だ。天使がここにいる。まさかこんな日が来るとは思ってなかった。

 

 俺は鏡花を手を両手で包み、頭を下げた。

 

「ありがとう。あなたが天使だ」

 

「掴まないでください」

 

「ごめんなさい」

 

 天使様の機嫌を損ねてしまった。申し訳ない。

 

「私はこれからレッスンなので失礼します。お弁当箱は余裕を見て返していただければ」

 

「わかった。しっかり洗って返す」

 

「……それでも構いません。では」

 

 鏡花は頭を下げ、丁寧な足取りで去っていく。

 

 ……さて、弁当箱の中に何が入っているやら。

 

 鏡花の料理スキルは知らないが、鏡花の完璧主義なところを見るとかなり期待させられる。無論、そうでなくてもお弁当を作って持ってきてくれるという行為が堪らなく嬉しい。

 

 俺は楽しみにしつつ、それでいて手元は慎重に、ゆっくりと弁当箱を開ける。

 

「おぉ、え?」

 

 卵焼きや唐揚げ、おひたしに焼き魚と、いかにもお弁当っぽいレパートリーがいくつか並ぶ。おかずの種類が多く、手間暇かけてくれたことが目に見えて理解できる。

 

 そこまではよかった。だけど問題はご飯側にある。

 

 真っ白なご飯の上には、海苔が切り貼りされて配置されており、ご飯の白と合わさって一枚の絵を作り出している。

 

 和服のステージ衣装を着たアイドルの姿。というかこれ鏡花じゃん。

 

「…………」

 

 キャラ弁なのは百歩譲っていいとしよう。だけど待ってほしい。鏡花は自分で自分のキャラ弁を作って俺に渡してきたんだぞ?鏡花、お前どういった心境だよそれ。

 

 考え出すとなんだか恐ろしくなってきた。もしかしてこれは何かのメッセージかもしれない。だとすれば何の……。

 

「御堂、例の件だが……」

 

 俺が悩み込んでいると背後から声が掛かる。

 

 慌てて振り返った先には、スーツを着て髪をオールバックにしている強面の男性がいた。

 

 ってか朝倉社長じゃん!

 

 って待った!!

 

「違うんです!これは俺が作ったわけじゃなく……」

 

 我がバンプロダクションの社長である朝倉社長は俺の目の前に置かれた古都ことのキャラ弁を目にして、表情一つ変えず俺を見つめた。

 

「御堂、君がアイドルを大切に想う気持ちは称賛したい。だが何事にも節度がある」

 

「違うんです!これはこと自身から貰ったもので……」

 

「君はマネージャーだ。弁えたまえ」

 

 話は昼食の後で構わないと、社長は自らの部屋に去っていく。

 

 なぜよりによって社長に見られなければならない。俺が何したって言うんだ。ポエマー社長って言ったのが悪いのか。俺が悪いわ。

 

 ……落ち込んでいても仕方ない。食べよう。

 

 箸で卵焼きを摘み口へ運ぶ。

 

 甘さが抑えられたしょっぱ目の卵焼きで、とても美味しかった。

 

 

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