「失礼します」
「来たか」
挨拶を交わし社長室に入ると、そこには朝倉社長が資料を片手にソファーでくつろいでいた。
さっきのキャラ弁事件があったからとても気まずい。どうか忘れてくれないだろうか。
俺はそんなことを思いつつも、社長に案内されるまま席に着く。
「例の件……に入る前に御堂、君にいくつか聞くことがある」
朝倉社長の貫くような眼差しが俺に刺さる。本人にそのつもりはないんだろうけど、見られるだけですごい圧だ。
「はい」
もちろん、そんなことはおくびにも出さないように気を付けつつ返事を返す。そんなことをすれば首になるからな。おくびだけに!あっはは!
……季乃の性格が移ったかもしれない。もう二度と言わないようにしよう。
「YU☆KI★NOと古都ことの評価を聞きたい」
世間的なYUKINOの評価は善戦はするが、トップには届かない二番手。古都ことに関しては、すごい新人止まりだ。でも聞きたいことは世間一般的な評価ではなく、ライブパフォーマンスとしての評価だろう。
「データ上って話でもなさそうですね」
「あぁ、君の目から見た評価だ」
俺の目から見たということは、記録云々の話ではなく、もっと表面的なところでの評価ということ。
……なんて言おうか迷う。俺の中で彼女たちの評価は様々あるが、全てを言う時間はない。となれば、今朝倉社長が求めている評価について話すべきだ。
となると、話はやっぱりあの件に繋がってくる。なら言うべきことはライブに関する事か。
「まずはYUKINOですが、個人技の高さは目立ちますが、問題はコンビネーション力、でしょうか」
「ほう。続けてくれ」
「季乃の歌唱力、有希の踊りの技術の高さはご存じの通りだと思います。例え素人が見ても上手いと思え、視線を外せなく魅力があります。実際にソロで活動させた際にもそれぞれの強みで会場を沸かせていました」
「しかし、問題はその個人技の高さにあります。一つ一つが魅力である余りそこに対して注視してしまう。つまりライブ全体に対して意識を奪えていない」
「二人の持ち歌であるStarImitationが評価されているのは、模倣という全体を通したテーマがあるからこそ、全体が引き立っている。つまり二人の技術力の高さが一つのファクターになっているだけだからです」
「StarImitationは少し…いやかなり特殊なライブだと思います。それだけにあの曲に頼るのはよくない。他の楽曲もあれ以上のパフォーマンスを取る必要がある。そうなるとやはり大事になってくるのが、二人の個々を一つのパフォーマンスに落とし込むこと、つまりコンビネーション力です」
「なるほど」
朝倉社長はそれを聞いて手元の資料に何かを書き込む。大方、朝倉社長の方でも色々と纏めているのだろう。
「BIG4への勝率は如何ほどだと思う」
「現時点だと二割あれば高いほどでしょう。しかし、彼女たちの課題が解決すればあの人以外には勝てるかと」
「同意見だ」
そう言って朝倉社長は資料にチェックを入れた。
「古都ことはどうだ?」
「彼女は途上の身です。まだまだこれから、ですが、その上達力は抜きんでています。デビューライブ、そしてその後のライブバトルでのスコアがそれを物語っていると思います」
「一を聞いて十を知る。まさしく彼女のためにある言葉だと思います。知れば知るほど、彼女の実力は上がっていく。初心者だから学べることが多いというのもありますが、それにしても古都ことの才能は異常です」
「けれど、現時点において他のアイドルと比較してという観点で考えると、未だ足りません。技術も観客を沸かせる力もまだまだです」
俺が言葉を終えると、朝倉社長は動かしていたペンを止め、鋭い眼差しで俺と目を合わせる。
「だとすると、君の意見としてはまだ早計ということかね?」
「いえ、それは現時点においてという話です。彼女の成長曲線。そして開催時期、その全てを考慮すればたどり着く。そう思っています」
「となると」
「はい、自分からも出場をお願いしたいです」
「わかった」
朝倉社長が再び資料にチェックを落とす。
「さて、御堂。本題に移ろう」
その声に俺も姿勢を正す。
「君も知っているとは思うが、アイドルの頂点を決める大会…Venusグランプリのエントリーが開始された。我が社から出場するアイドルはこちらで決めるが、少なくともYUKINOは確実に出場させると考えてくれて構わない」
まぁ当然だろう。実力的にもVenusプログラムのランク的にも妥当だ。
「そこで君にはやってほしいことがある。こちらで指定する人物と接触してほしい」
……話が薄汚くなってきたな。
「順を追って説明していこう。前提としてバンプロにはデータ主義な傾向があることは君も把握しているはずだ。YUKINO含め我が社のアイドルを勝たせるための術として十全に使用してもらっていると思う」
「Venusグランプリのデータもすでにあるんですよね?」
「もちろんだ。ただ、あの舞台でのデータ価値が著しく下がることは君も知っているだろう。毎回のように発生するイレギュラー。そして彼女の存在がデータを否定する」
ⅢXといった超新星、どりきゅんの並外れた爆発力、Baroqueのライブ支配力。
俺が知っている限りでも、Venusグランプリでイレギュラーとなった存在は数々存在する。今年で言えばBIG4になったばかりのサニーピースや月のテンペスト、そしてLizNoirやTRINITYAiLEもそうなりえる可能性が高い。
そしてあと一人、今のアイドル業界を語るうえで外せない、彼女の存在も。
――
言わずもがな、奇跡のアイドルと呼ばれているトップアイドル。アイドル業界のみならず、日本中で彼女の名前を知らない人を探す方が難しいだろう。
彼女は俺がアイドルを知ったときからずっとトップを走っている人物だ。BIG4どころか現役のアイドル全てのトップと言っても過言ではない。
そんな彼女のライブは、一言で言って次元が違うと言える。
言葉では表せない感情、見えている光景一つ一つが変わって見えるような、そんな神秘的な体験。何が要因かなんて考えられない、まさしく奇跡。
データ上では捉えられないその奇跡の数々に、数多のアイドルたちが破れていった。
「ならば、どうしたらいいですか?」
「君にはこのイレギュラーとなる現象の数々を解明してもらいたい。我が社のアイドルがトップに立つために」
……あぁなるほど、話が見えてきた。つまるところ、俺に接触してもらいたい人物というのは。
「イレギュラーとなっている彼女たち自身とその支柱となっている人物、その全てにだ」
……なるほどな。確かにそれは俺が適任かもしれない。
「異論があれば聞こう」
拒否権はなし、か。まぁ会社として重要なことだし、当然か。それに俺としても断る理由はない。
「一つだけいいですか?」
「聞こう」
「接触するだけでなく、勝つための布石を打ってきてもいいですか?」
その言葉に、朝倉社長はふっと笑みを浮かべた。
「もちろんだ」
返された言葉に俺も笑みが零れた。
「よろしくお願いします。サポートはお願いします」
「無論だ。ただ、結果は出してもらうぞ」
「任せてください」
俺は朝倉社長と握手を交わす。
YUKINOを、ことを、バンプロのアイドルたちを勝たせるため。
ここが俺の舞台の始まりだ。