イレギュラーの分析と対策。
口にするのは簡単だが、実際には中々難しい話だと思う。朝倉社長のバックアップがあるから、分析のためのアポイントメントまでは取れるだろうが、そこからどうやって調査していくか。
……実際のところ、夢野光以外のイレギュラーになりえる原因は想定はつく。
I-UNITY決勝のときのサニーピースが一番わかりやすいだろう。
実力的にはⅢXに劣っていたものの、音響トラブルをも力に変え、自分たちだけではなく会場の皆全員でステージを盛り上げた。そしてその後に行ったSUNNY PEACE for You and Me!一体となった会場をさらに高めたそのライブは一つの伝説となった。
実際に目にしたわけではないから推測にはなるが、あれはサニピが、皆に抱く想いが形となって現れた結果だと思っている。そしてその想いを生み出したのは、姫野霧子が生み出したバンプロの事件であり、I-UNITYに関するいざこざの数々。それらすべてを真っすぐに受け止め、そして立ち向かったからこそ生まれた想い。
つまり、あのステージを作り上げたのは当日だけの力じゃない。今まで積み重ねた想いがあったからの爆発力だと思っている。
何を馬鹿な、とは自分でも思う。だけど、そうであることも理解できる。
だって、アイドルがどんなことを想ってステージに立っているのかはファンに伝わるものだから。
舞台裏のドラマが、ステージを輝かせる。
イレギュラーを生み出している理由は、これだ。
ならば俺が調査する内容は一つ。
彼女らが何を見て、何を感じ、何を想ったかを正しく把握する事、そしてそれが齎すステージへの影響力を正しく認識する事。
……だとするならば、俺の調査方法も決まっていたな。悩むまでもなかった。
「星見プロの不審者の実力見せてやる」
次の日。俺は朝からとある会場に出向き、客席からライブバトルを見ていた。
サニピVS月ストのエキシビションマッチ。BIG4に成り立ての二組がバトルするということで、世間的にも話題になっていた一戦だ。
俺自身が二グループのファンということもあり、見ない理由はなかった、と言いたいところだが、残念ながら今日来た理由は仕事によるものだ。
朝倉社長から言われたイレギュラーの分析。その一環としてこのライブバトルを見に来た。のだが、ちょっと失敗したかもしれない。
いや、どちらも素晴らしいパフォーマンスだったのは間違いない。俺も久しぶりにライブを楽しめたし、満足のいくものだった。
だけどイレギュラーの測定という観点では、計れるものがなかった。技術点やら観客点やらはデータとしてあるし、今更体感するまでもない。
これだと俺がライブに来て楽しんだだけだ。仕事の一環で来ている以上、報告は求められるし、朝倉社長になんて報告すればいいんだろう。ライブ楽しかったです!また行きたいです!とでも言っておこうか。クビになる未来しか見えないので止めよう。
ならせめてと俺は考えを張り巡らす。
せっかく目の前に星見プロダクションの子たちがいるんだ。隙を見て挨拶でもしておこう。
ここの会場は俺も把握している。お客さんがいなくなったのを見計らい、俺は関係者出入口付近で待機していると、出入口に影が映り込む。
そしてやってきたのは、サニピと月ストのメンバー、そして彼女らのマネージャーである牧野だった。
いきなり話しかけて警戒されるのもよしたい。ということで、先に皆を先導していた牧野に声を掛けた。
「よっ、牧野」
「うわっ!って御堂か……。驚かせないでくれ……」
牧野とは高校時代の同級生で一緒に遊んでいた仲でもある。だから俺としても気兼ねなく話せる相手だ。
「相変わらずいい反応するよな。大丈夫?事務所でいじめられてないか?」
「そんなはずないだろう。……というか、御堂はなんでここにいたんだ?」
情報収集のため、だが、馬鹿正直に言う必要もない。
「月ストがBIG4になったお祝い言えてなかったからな。ライブついでに来た」
「あ、すまない。俺も忙しくて挨拶できてなかったな……」
「別に気にしてねぇよ。俺もYUKINOもな」
YUKINOは月ストがBIG4チャレンジに挑んでいる間にちょっとしたサポートを行った事がある。それ故の挨拶だろう。相変わらず律儀だなって思う。まぁこの業界だとそういうのも大切になるからわかるけども。
「マネージャーさん、誰と話して……あっ!御堂さんだ!」
二人で話していると、そんな声と共にぞろぞろと人が寄ってくる。
というより、サニピと月ストのメンバーだな。こうも大勢に集まられるとなんだか詰められている気分になる。こっちも対抗してYUKINOと鏡花連れてくるべきだったか。
「久しぶり、さくらちゃん。今日のライブバトル最高だった」
「えへへ、ありがとうございます!」
はにかむような笑顔を見せるさくらちゃん。可愛い。同じような事を考えていそうな雫ちゃんに先んじてグッドしておく。引かれた。なぜだ。
「それでどうして御堂さんがここに?」
「月ストにお祝いの言葉を伝えてなかったと思ってな。月のテンペスト、BIG4就任おめでとう。ライブ最高だった」
「あ、ありがとうございます」
慌てたように頭を下げる琴乃ちゃん。可愛い。同じようなことを考えていそうな渚ちゃんに先んじてグッド。訝しげな視線を向けられた。なぜだ。
「すみません、YUKINOのお二方には支援しただいた経緯もありますし、もっと早くご挨拶するべきでした」
「大丈夫だよ。牧野にもさっき話したがあんまり気にするやつらじゃないからな。でも、暇があったらYUKINOに一言伝えてやってくれ」
「はい、わかりました。……御堂さんもあの時はご助力いただきありがとうございます」
「どういたしまして」
沙季さんは相変わらず丁寧だ。この姿勢があればどこに行っても好感もたれそうだよな。俺はさすがお姉ちゃんという想いを抱いて静かに千紗ちゃんに向かって頷いておく。怖がられた。
「というか、さっきから何しているんですの?変なところでグッドサイン出したり頷いたり奇妙ですわよ」
「ねーねー芽衣にもグッドしてー」
要望通り芽衣ちゃんにグッドしておく。腕をピンと伸ばしたグッドで返された。しかもウインク付き。俺の負けだ。
すずちゃんに冷たい目で見られているのを気にしない振りしていると、懐疑が籠ったような声が耳に入る。
「……本当に挨拶しに来ただけ?何か目的があるんじゃないの?」
「怜ちゃんさすがにそれは……」
「遙子さん、大丈夫です」
怜ちゃんの言っていることは最もだ。YUKINOは月ストに対して前科がある以上、警戒しておく必要がある。そのマネージャーである俺もな。実際に目的があって近づいているわけだし。
止めようとした遙子さんを止め、俺は言葉を返す。
「今回の目的は皆と話す事だから、そう警戒しないでくれ」
嘘は言ってない。分析も何も、皆と話す必要があるからな。間違いではない。
「あぁでも、もう一つだけ言うことがあったのは事実かな」
怜ちゃんの疑いの眼差しが大きくなる。その視線を真っすぐ受け止めつつ、俺は口を開いた。
「YUKINOはVenusグランプリに出場する。これを伝えに来た」
「Venusグランプリ……」
二年に一度開かれる全アイドルの頂点を決める大会。現状におけるアイドルの頂上決戦であるそれは全アイドルにとっての夢の舞台ともいえる。
というのも、Venusグランプリ自体がVenusプログラムの上位しか参加できないシステムになっているからだ。実力と人気を兼ね備えたアイドルたちが、全力で競い合いトップを争う。アイドルとしても、ファンとしても、見過ごせないステージだ。
……星見プロの子たちの反応としては上々か。知ってはいるけど、まだエントリーの可否は決めてないって感じだな。色々とごたごたしているし、当たり前か。
「……まぁ伝えてどうこうするって話でもないから、あんまり考え込まないでくれ」
これは一種の宣戦布告だ。彼女らがエントリーするのは目に見えている。それならば、その熱意を向ける先の一つにYUKINOを上げてほしい。その方がYUKINOのマネージャーとしても嬉しいし、何よりそっちの方がやりやすい。
「突然邪魔して悪かった。じゃあな。またどこかで会おう」
俺は手を上げてその場を後にする。バイバーイと背後から声が聞こえて思わず笑みが浮かんだ。
星見プロの子たちはやっぱり可愛い。