星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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黒百合

 

 今のサニピ、月ストと話して感じたのは充実感。月ストは五人全員でBIG4になったからで、サニピは不安定だった月ストを見てきたこその安心感から、だろうか。

 

 ライブ直後だったというのも大きいだろうな。Venusグランプリが近づくにつれてその想いも変わってくるだろうし、ちゃんと見ておかないといけない。

 

 俺は資料に継続の文字を書き連ねると、更に資料を捲る。

 

 星見プロにはサニピ、月ストの他にも実力のあるグループが三つ存在する。LizNoir、TRINITYAiLE、ⅢX。星見プロで気になっているのは、どっちかというとこの三組だったりする。

 

 LizNoirことリズノワはあの長瀬麻奈とライバル関係だったグループだ。そこに新たなメンバーが加わり今がある。NextVenusグランプリで月ストに負けたり、I-UNITYでTRINITYAiLEに負けたりはしているものの、その負けをも自らの力に変えていける人たち。一番油断ならない相手だと思う。

 

 特に最近全国ツアーでその様子が見れていなかったこともあり、そのツアーを通してどう変わったのかが気になる。

 

 TRINITYAiLEことトリエルはNextVenusグランプリ前まで新人トップと呼ばれ、長瀬麻奈の無敗記録にもあと一歩のところまで近づいていたグループだ。I-UNITYの陰謀に巻き込まれ、事務所を転々とさせられたり、利用されたりしたものの、それでも自分たちの信じた道を気高く歩み続けたその姿勢はグループとしても強みになる。

 

 彼女達もここしばらくはツアー等もあって出会えてなかったから今の彼女らの様子は気になっているところだ。ただ、トリエルに関してはどうも不穏な気配を纏っているような気がしてならない。ライブバトルも数えきれないほど立て続けに行っているし、何かあったのかもしれない。

 

 最後にⅢXことスリクスだが、この人等に関しては今更注視するまでもないというか、前も今も注視し続けているからここから新たに何か始める必要はないと思っている。

 

 新人ながら前回のVenusグランプリで勝ち進んだ圧倒的な実力、BIG4になっても慢心せずその力を振るい続ける精神的な成熟性。I-UNITYでBIG4の座を降ろされたとはいえ、その力が無くなるわけではない。実際にYUKINOも二度バトルし両方負けていることから、決して侮れない相手だ。

 

「……うん、まず見るとすれば、リズノワからかな。どう理由付けして会いに行こうか」

 

「私に任せてください!」

 

「うわ」

 

 事務所の椅子にもたれ掛かり考えていると、背後から聞き慣れた声が掛かる。

 

 振り返った先にいたのは季乃だった。……聞かれたか。あんまり皆を巻き込みたくないんだけど。

 

「なんですかうわって!担当アイドル件恋人を目にしてうわって失礼極まりないですよ!罪です。罰です」

 

「勝手に恋人を付け足さないでくれるか?」

 

「あんなに愛を囁き合った仲なのに……酷い!」

 

「はいはい」

 

「雑!」

 

 季乃は今日も元気みたいだ。頭をぽんぽんと宥めつつ、俺は口を開く。

 

「……もしかして聞いていたか?」

 

「リズノワに挨拶しに行きたいんですよね?まぁ目的まではわからないですけど、そこまでの手配は手伝いますよ!」

 

「ありがたいが……その心は?」

 

「遊びたいです!」

 

「……まぁ最近会う暇なかったもんな」

 

 この子の遊びたいは一緒に遊ぶということではなく、自分が揶揄って遊ぶに近しいところがあるから困ったものだ。本人もそれはわかって線引きはしているだろうし、無駄な火種を撒かないようにしているだろうけど、それでも警戒してしまう。

 

「季乃、言っておくが、まだ駄目だからな」

 

「何の事かさっぱりわかりませんが、わかってますよ」

 

「わかっているじゃないか」

 

 油断も隙もあったものじゃない。朝倉社長との会話もいずれバレそうで冷や冷やする。

 

「ってことで早速行きましょー!」

 

「ん?今からか?」

 

「当たり前です。偶然会ったことにしないと何か探りに来たってバレちゃうでしょう?」

 

 なんで探りに行くってバレちゃっているんだろうな……。

 

「ということで、お仕事にゴー!です!」

 

 

 

 

 

 

 やってきたのは最近できた東京近郊の大型ショッピングモール。野外には海に面した公園の他、そこそこ大きなイベント会場も設立されている。……調べてみると、確かにここでリズノワがゲスト出演しているらしい。

 

 しかし、場所が場所だ。偶然会うというカバーストーリーにしてはちょっと不自然すぎないだろうか。

 

「知らなかったんですか?私の保証人になってくれている親戚のおばあちゃんはこの辺に住んでいるんですよ」

 

「そうだったのか?」

 

「嘘です」

 

 こいつ。

 

「それにデート行くなら都心部より離れたところの方がやりやすいじゃないですか。私アイドルなので、スキャンダルとか大変ですよね!」

 

「その二つをカバーストーリーにするってことか」

 

「ですです!おばあちゃんに彼氏を紹介に来たってついでにデートしてるってことです!」

 

「なるほどな」

 

 よくまぁ、そんな出まかせがぺらぺら出てくるものだ。さすがだよな。

 

「あ!そうこうしているうちに見えてきましたよ」

 

 木々に囲まれた公園内を進んでいくと、白と水色でデザインされたお洒落なイベント会場が目に入る。そのステージ上に居たのはLizNoirの姿だった。

 

『今日は来てくれてありがとう。設立記念という素敵な日に呼んでもらえて光栄だわ』

 

『会場に来る前にショッピングモール行ってきたんだけど、お洒落で素敵な店が並んでいたよ。莉央の好きなパンケーキの専門店もあったよ』

 

『ちょっと葵!余計な事言わないで頂戴!』

 

『莉央さん莉央さん、後でその店の場所送っておきますね!』

 

『こころ?』

 

『あわわわわ、み、皆さん!今日は空が綺麗ですね!青空です!』

 

『曇っているけどね』

 

『うぅ……』

 

『愛ちゃん安心してください。海は青いですよ!』

 

『ほ、ほんとだ!皆さん海は青いですよ!』

 

『……愛は何を言っているのかしら』

 

『さぁ?』

 

 リズノワのMCがこっちまで聞こえてくる。楽しそうで何よりだ。

 

「いいですねぇ。ちゃんと会場の説明もしながらリズノワの雰囲気も伝えている。さすがはベテランですよ」

 

「な」

 

 リズノワに限らずだけど、星見プロの子たちはMC力がとても高いと思う。素でやっている子もいるだろうけど、色々と考えられているんだろうなって常々思う。

 

「季乃ちゃんに比べればまだまだですけどね!」

 

「季乃ちゃんMCは我が強いのでイベントではもうちょっと抑えてください」

 

「耳にしてもらうために、あれはわざとやっているんですよ!」

 

 そうだったのか。それは知らなかった。

 

 じと目で眺めてくる季乃の視線に謝りつつ、イベント会場の客席あたりまで来る。ここまで来るとリズノワの皆の姿もしっかり見れるな。

 

「……わかっていると思うが」

 

「いやいや邪魔するわけないじゃないですか。私もプロとしての自覚在ります」

 

「それはよかった」

 

「全く、失礼ですよ」

 

「悪い」

 

 なんだかんだ季乃も社交性は持っているし、与えられた仕事に対してはきちんとこなしている。そのやり方がちょっと問題にはなったりするものの、疑うのは失礼だったな。

 

「そうこうしているうちにリズノワ出番終了みたいですよ。最後にライブやるみたいです」

 

「いいね。せっかくだし最後まで聞こう」

 

「迷ってなんかいられない」

 

「お前が歌うな」

 

 始まったのは王道のロックミュージック。リズノワの楽曲はどれも真っすぐに熱くなれるから良い。

 

「~~♪」

 

 音楽に合わせて隣から鼻歌も聞こえてくる。季乃も楽しそうで何よりだ。

 

 

 

「さぁ。出陣です!」

 

 ライブも終わり、リズノワが舞台袖に下がる。人もまばらになっていくそのタイミングで季乃は駆け出していった。

 

「ちょっと待て、どうするつもりだ?舞台袖から出てくるのを待つのか?」

 

「いえいえそんな面倒なことしませんよ。単に呼び出すだけです」

 

「呼び出すってどうやって……」

 

 関係者用っぽい建物に近づいた季乃は、その扉を前にして口を開いた。

 

「うわっ虫!」

 

「ひやっ!!」

 

 扉の中から小さく可愛らしい悲鳴が上がった。止めろよそれ。莉央さんに怒られるぞ。

 

 しばらくしてから、建物の窓のカーテンが僅かに開き、そこからグレーの髪が姿を現す。目が合った。

 

「……何の用かしら」

 

 扉が少しだけ開きそこから姿を見せたのは莉央さんの姿。彼女は胡散気な眼差しでこちらを見ていた。

 

「偶然近くに居たのでご挨拶をしに来ました!」

 

「結構よ」

 

 バタン

 

 扉が勢いよく締められる。

 

「駄目じゃん」

 

「大丈夫です。魔法の呪文はまだあります」

 

 そう言うと季乃は再度扉に近づく。

 

「ワンワン、ワン!」

 

「ひっ!」

 

 またも扉の中から可愛らしい悲鳴が上がった。こいつ、人が嫌がること熟知しすぎだろ。動物の真似もうまいのも腹立つ。

 

「……何の用?」

 

 扉から姿を現したのは葵の姿だ。彼女は心底嫌そうな瞳で季乃を見つめていた。

 

「ちょっとお話に来ただけですよ!」

 

「僕は君と話す事はない」

 

 バタン

 

 扉が締められた。

 

「駄目じゃん」

 

「困りました。取り付く島もありませんね。優しかったリズノワはどこに行ったんでしょうか」

 

「お前の普段の行いのせいじゃないかな……」

 

「むむむ」

 

 そういや以前、地方で開催されたリズノワの握手会に行って彼女たちを揶揄ったと聞いたことがある。警戒されているのだろう。

 

「こうなったら仕方ありません。私のお友達を呼びましょう!」

 

「あ、こころちゃんと愛ちゃんに絡むの禁止な」

 

「なんでですか!お友達ですよ!」

 

「悪影響を及ぼすから。莉央さんからも直談判されてる」

 

「えぇ!?」

 

 当たり前の処置だ。俺が莉央さんの立場でも同じ処理はするだろう。

 

「じゃあどうするんですか?慎二さんの目的も果たせないじゃないですか」

 

「ん?問題はないぞ。簡単にできる方法がある」

 

 

 

 

 

「しつこいわね。いい加減に…って、あら」

 

 扉をノックすると、莉央さんが姿を現す。彼女は怒ったような様子だったが、周囲に俺以外いないことを確認すると不思議そうな声を上げた。

 

「何度もすみません。季乃は追い返しました」

 

「そう。ここじゃ目立つし、中にどうぞ」

 

「すみません、失礼します」

 

 俺は莉央さんに案内されるまま、建物の中に入る。玄関付近は小さい小部屋になっているみたいで、そこには莉央さんの他、リズノワのメンバーが勢ぞろいしていた。

 

 リズノワは季乃を警戒している。なら、俺の目的を果たす方法は一つ。季乃を追い返すことだ。何も難しいことはない。

 

 ただ、案の定、季乃にはピーピー騒がれたので、後でパンケーキ専門店に連れていってやろうと思う。

 

「莉央さん!なんで敵を招き入れているんですか!」

 

「彼なら大丈夫だと判断したわ」

 

「一緒ですよ!何なら黒幕ポジですよその人!」

 

「こころ失礼だよ!」

 

 その発言に苦笑いを返す。否定はできないよな。

 

「それで、どうしたの?わざわざ僕らのスケジュール追って来たわけは何?」

 

「すまない、信じてもらえないと思うが完全に偶然だな。今日はあいつがオフだったんで、遊びに来ていただけなんだよ」

 

「へぇ、それで偶然僕らを見つけて楽屋裏まで来たってわけか。出来過ぎてるね」

 

「あはは、まぁ信じてというつもりはないよ」

 

 険悪な空気が漂う。そういうつもりはなかったんだけど、まぁ仕方ないか。

 

「季乃が迷惑かけて申し訳ない。お詫びに色々買ってきたから皆で食べてくれ」

 

「わぁ!ケーキにプリンにパンケーキも!色々とありますよ!」

 

「好きなの食べていいぞ」

 

「やった!あ、でもカロリーが……」

 

 喜んだのは一瞬、愛ちゃんはすぐにカロリーのことを考えだしたようだ。さすがだよな。季乃なんて何も考えず食べに行くぞ。

 

「買収……!こころは引っかかりませんからね?」

 

「疑ってもらって構わない。何もする気はないよ」

 

「……」

 

 じーと本心を探るように見つめられる。照れるから止めてくれ。

 

「ありがとう。頂くわ」

 

「そうしてもらえると助かります」

 

 莉央さんは素直に受け取ってくれると、こちらに感謝を伝えてきた。パンケーキを見て小さく頬を緩めていたし、その姿が見れただけでも買ってきたかいがあったってものだ。

 

「それにしても意外だね。君と莉央は仲が良いんだ」

 

「有希つながりで話す事があっただけよ」

 

「なるほど。納得だよ」

 

 何を考えているのかわからない瞳で葵は呟く。鏡花も無表情だが、葵の無表情とはタイプが違うからどういう視線なのかがあんまりわからないだよな。……でも、警戒されているというのはわかる。まぁ別にいいけども。

 

「あんまり邪魔しても悪いので、俺はここで失礼します。後は皆でゆっくりしてください」

 

「あれ?何もしないのかい?」

 

「挨拶とお詫びに来ただけだからな」

 

「ふぅん?」

 

 まぁ見たいものは見れたしあんまり警戒されるのもよしたい。今日の目的は話せればオッケーだからな。

 

「あ、でも最後に一つだけ」

 

 俺は出ていく寸前、もう一度リズノワ側に体を向け頭を下げた。

 

「こころちゃん、愛ちゃん、季乃の事、本当に申し訳ない。あいつに何かされたらすぐに連絡してくれ。対処するから」

 

「……まぁ本人にも謝られたので大丈夫ですよ。こころは寛大なので季乃先輩の言うことくらい許してあげましょう」

 

「えっと、何の話ですか?」

 

 愛ちゃんは無自覚だけど、こころちゃんはそういうの過敏そうだからわかるよな。本当に悪いことをさせてしまった。

 

「莉央さんと葵もすみません。季乃の普段の言動はきつく言っておきます」

 

「私は大丈夫だけど、二人はちょっとね……。有希にも言っているけど頼むわね」

 

「君の影響もあると思うよ」

 

「あはは、すみません」

 

 完全にその通りだ。

 

「じゃあこれで」

 

 そう言って俺は扉をくぐってその場を後にする。背後から聞こえた、また、という声が嬉しかった。

 

 

 

 

 

「ねぇ慎二さん」

 

「どうした?」

 

「私の事、そんなに悪い子だと思ってます?」

 

「うん」

 

「少しは躊躇してくださいよ」

 

 建物の窓のそばで聞き耳を立てていた季乃は、不満そうだった。

 

 

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