リズノワは莉央さんと葵もそうだけど、こころちゃんと愛ちゃんの精神的な成長をすごく感じられた。
以前のこころちゃんだと季乃をずっと警戒して言動も怪しくなっていたし、愛ちゃんも皆の空気に当てられずっとあわあわしていたが、今日会ったときはそんな様子が見られなかった。ツアーを通して成長した部分があったのだろう。
ちょっと気になったのが莉央さんが少し丸くなっていて、葵がやけにツンツンしていたところだろうか。嫌な気配ではなかったものの、何かありそうな雰囲気は感じた。これがVenusグランプリにどう影響するか、確認しておかないといけない。
感じたことを資料にまとめ、こちらも継続の文字を書く。
後は資料外で覚えておくことは、季乃がリズノワに警戒されすぎていることだな。今後リズノワ偵察には季乃は連れて行かないようにしよう。可哀想だし。
となると次はトリエルか。
資料を捲る前に、時計を確認する。
鏡花の仕事の付き添いの方が優先だな。
「……なるほど、ご一緒すると」
「え、何その反応」
鏡花の仕事に付き添うことを告げると開口一番そんなことを言われた。
「冗談です。スケジュール表にも記載在りましたので心構えはできておりました」
「心構えするな。自然体でやってくれ」
「冗談です」
「わかりづらいよ」
無表情で冗談ですを繰り返す鏡花の姿に苦笑いが零れる。せめてもうちょっとわかりやすく冗談を言ってほしい。傷つくから。
社用車に二人して乗り込み、エンジンを入れ、走り出す。そこそこ運転はしてきたがまだ緊張する。特に誰かを乗せているときは余計に。
そんな俺の様子とは裏腹に鏡花は口を開く。
「そういえば先日季乃さんとデートに行ったと」
「……誰から聞いた?」
「本人からです」
季乃、お前本当に気を付けろよ?下手に知れ渡ったら燃えるぞ。
「一応弁解しておくがデートじゃないからな」
「はい。わかっています」
それならいいけども。
「ですが、一つだけ気になる点が」
「何か言ってたか?」
「適当にあしらわれたって拗ねていました」
「……」
心当たりしかない。他に目的があったとはいえ、さすがに雑にしすぎたか。
「でも楽しそうでしたよ。彼女は一緒に居られるだけで嬉しいんじゃないでしょうか」
「……あいつは色々あったみたいだからな。鏡花も優しくしてあげてくれ」
「そうしたいのですが、彼女、私に対する当たりが強いので難しいかもしれません」
「……あいつここでも問題起こしているのか」
どこに行っても誰に聞いてもトラブルトラブル。もうあいつは人と関わらせるべきじゃないのかもしれない。
「ですが、私の場合は心当たりがあるのでお構いなく」
「何かやったのか?」
「嫉妬でしょう」
「ん?」
嫉妬?何に対する……?あぁ前に鏡花のアイドルとしての才能云々の話してたからそのことか。
「原因は慎二さんということです」
「俺のせいなのか!?」
「はい」
えぇ、じゃあそのことじゃないのか。俺が何をした。というか、なんで俺のせいで嫉妬になるんだよ。さっぱりわからん。
考えたいが運転中のためそこまで考え込めない。後で考えよう。
「到着、と」
「ご苦労様です」
「エスコートしようか?」
「不要です。止めてください」
「冗談だよ……」
普通に嫌がられたのが傷つく。鏡花と話していると精神ダメージを受けることが多い気がする。
それはともかく、だ。今日やってきたのはとあるテレビ局。深夜の番組だが、地上波で新人アイドルの特集を行う番組の収録だ。特殊な例とはいえ、もう地上波デビューか。早いな。
受付で挨拶し楽屋に向かっていると、その道中気になる文字が見えた。
「トリニティエイル……トリエル?」
鏡花が出演する番組に新人以外のアイドルは出ることはない。ということは、別の収録で来ているのか。タイミングによっては鉢合わせることもあるかもしれない。
チャンスだ、と言いたいけど、さすがに鏡花の収録が優先だ。偶然会えたらラッキー程度に考えておこう。
と思っていたのだが。
「あ」
「あ、御堂さん。お久しぶりです」
楽屋に行く道中、見覚えのある三つの影が映り込む。言うまでもないトリエルだ。
俺は軽く頭を下げ挨拶を交わす。
「久しぶり、元気そうで何よりだ」
「御堂さんこそ、元気そうで安心やわ。怪我ももう完治したん?」
「もう問題ないな。経過観察は続けているけど、走っても大丈夫なほどだ」
そういやトリエルと最後に会ったのは俺が骨折していたときだったか。結構日が経っていたのな。
「それはよかったです!……えっと」
すみれちゃんは俺の回復に喜んでくれた後、何か言いづらそうに言葉を濁らせる。……まぁ言わんとしていることはわかる。
「……俺もYUKINOも元気だよ。あの事件は気にしないでくれ」
「はい……あの、すみません」
すみれちゃんは申し訳なさそうに頭を下げた。相変わらずよくできた子だ。
「それで、そちらの方は?」
「そういや初対面か。挨拶を頼む」
「はい」
返事を返すと鏡花は喉を整えるようにごほんとわざとらしく咳払いして言葉を続ける。
「宇宙の果てより参りました!銀河系アイドル、銀河慶です★あなたの心にビッグバン☆」
俺は頭を抱えた。鏡花はどうしたんだ。季乃と関わらせたのが駄目だったのか。
「こと」
「失礼を。私は古都こと。バンプロダクション所属のアイドルです。以後お見知り置きを」
「えっと、天動瑠依です。よろしくお願いします」
「おもろい子やなぁ。鈴村優言います。よろしゅうな」
「奥山すみれです!もしかしてですけど、古都さんって最近話題になっている?」
鏡花のデビューライブは素晴らしいものだった。その後のスコアも新人の域を遥かに超えている。それ故に最近の彼女の話題も多くなっていた。
「はい。その古都かと」
「やっぱり!ライブ映像で見ましたけどすごかったです!」
「ありがとうございます。喜んでもらえたならば嬉しいです」
鏡花はすみれちゃんの笑顔を受け、満更でも無さそうだ。人を喜ばせる事が好き、というのは紛れもない事実なんだろうな。
「あ、私も見たことあります。アイドルやる前に何かやっていたんです?」
「帝王学を少々」
「て、帝王学……。それは大層なものがでてきたなぁ」
俺も初耳だった。だから人を沸かせる方法は知っていたのか。
「いつか戦える日を楽しみにしておくわ。優、すみれ、行きましょう」
「また会いましょ」
「失礼します!」
「えぇ。共演できる日を楽しみにしてます」
こちらに背を向けトリエルの面々が去っていく。
それを見届けて、俺は鏡花に声を掛けた。
「あれがTRINITYAiLE。Venusプログラムの五位のグループだな」
「なるほど。独特なオーラがありました。気高くそれでいて眩しく。ですが……」
「俺も感じたよ。何か様子が変だよな」
特に瑠依ちゃんが。ちょっと前の、I-UNITY後の琴乃ちゃんを見ているような気分になった。あれほど張り詰めてはいないが、なんというか、自分を見失っている。ざっくりだけどそんな印象を受けた。
「解決させたほうがよろしいでしょうか?」
「いや……それは俺たちの役目じゃない」
「そうですね。彼女たちも彼女たちのプライドを持っている。変に関わるのもプライドを刺激するだけでしょう」
鏡花の言う通りだ。その言葉が俺にも刺さっているような気がするが気にしないでおこう。
「じゃ、切り替えて仕事の話に移ろう。楽屋もすぐそこだ」
「えぇ。よろしくお願いします」