あの後、鏡花は無事に収録を終え、レッスンへと戻った。
番組も……まぁよくできていたと思う。一人だけずっと外れていること言っていたけどそれも個性だろう。笑い取れていたので良しだ。
俺は事務所に戻り鏡花の収録についてまとめ上げる。ついでに、出くわしたトリエルについての所感もまとめ上げた。
時間を確認すると、そろそろ次の仕事の時間が迫っている。俺は上着を羽織ると、再び外へと出向いた。
「本日はご足労頂きありがとうございます。早速にはなりますが、お手元の資料をご確認いただき――」
有希を連れ出向いた先は、先程とは違うテレビ局。その一部屋で、俺たちは先方との打ち合わせに臨んでいた。
「……」
隣に座っている有希は話は半分に、手元の資料をじっと読み込んでいる。その様子を横目に見つつ俺は視線を正面に向ける。
姿勢よく愛想の良い笑顔を浮かべ目が死にながら話を聞くfranさん、人目のあるときだけおべっかを被り心底嫌そうに資料に目を落としているkanaさん、そしてそんな二人を横目に真剣に話を聞いているmihoさん。
今日は、彼女たちⅢXとYUKINOに降ってきたバラエティーの仕事の打ち合わせだ。この二組には並々ならぬ因縁があることから、バラエティーの企画で対戦させればウケるとのことらしい。
ちなみに季乃は別の仕事で不在だ。あいついると確実に揉めるからいなくて正解かもしれない。
「以上で説明を終わります。何かご質問等ございましたらお気軽にどうぞ」
「じゃあ、一ついいですか?」
担当者による説明も終わり、質疑の時間に移る。するとkanaさんが真っ先に手を上げた。
「このチャンバラなんですけど、番組的にどこまでやってオッケーですか?」
「それはもちろん好きにやってください。皆さんの裁量にお任せします」
「ふーん?」
kanaさんが何かを思いついたのか口元がにやりと歪む。
「わかりました。ありがとうございまーす」
何か企んでいる様子に思わず苦笑いが零れる。kanaさんも季乃もやりすぎないといいけど。
「ほかにありますでしょうか?なければこれにて終わりとさせていただきます」
俺の方からいくつか日程や番組の趣旨についていくつか確認させてもらい、打ち合わせは無事終了した。メモ書きをまとめつつ、俺は有希に声を掛ける。
「有希、打ち合わせは理解できたか?」
「当たり前でしょ」
有希は資料を閉じ、鞄にしまいながらそう答えた。
「それよりも、スリクスの人たち何か言いたそうだけど」
視線を上げると確かにスリクスの面々がこちらを見ていることに気づいた。俺何かしたっけ?
「YUKINOのマネージャーさん、少しお話があります」
……心当たりがないことはないが、見当はつかない。話聞いてみるだけしてみようか。
「単刀直入に聞くわ。何をこそこそ嗅ぎまわっているのかしら?」
「……」
なるほど。そういうことか。
俺は場所を変えて入った喫茶店でスリクスの三人を前にしていた。隣には有希もいるため、女子率が多すぎる。ハーレムだなははは、という余裕はそのセリフで崩れ去った。
サニピ、月スト、リズノワに関しても初回以降でも何度か接触しているし、最近は俺の動向に気づいた季乃が何も言わなくても情報を渡してくるようになった。トリエルに関しても会ったばかりだし、ちょっと急いで動きすぎた感はある。
「何してるの?」
どう言葉を返すか悩んでいると有希からも声が掛かった。有希は味方でいてほしいけど、この子の性格上そういうの嫌がるよな。
「単純な話です。Venusグランプリにバンプロもエントリーするため、敵情視察を行っていた。それだけです」
「ふーん?」
mihoさんの目が険しくなり、kanaさんから見定めするような視線が飛ぶ。
「それは別にいいんです。他の子はどうか知りませんが、私たちは対策されようと負ける気はしないので、ただ」
franさんは自信気にそう呟くと、嫌な記憶を思い出したかのように表情に怒りを滲ませる。
「ライブの邪魔だけはしないでください。私もあの件でうんざりしているので」
あの件……姫野の件か。確かに姫野はⅢXが勝つように対戦相手を散々陥れてきた。その結果、スリクスも被害被ったわけだし、そのやり方自体に嫌悪感を持っているのは理解できる。
「大丈夫です。俺はあいつとは違うしライブが大好きです。ライブステージ自体を壊すような真似なんてしないと誓います」
「なるほど。ライブステージ自体は壊さない、ですか」
mihoさんは俺の目を見て鋭く切り込んできた。まぁ嘘は言ってないが、伝わる相手には伝わるよな。
「この事、星見プロの他の子に伝えても?」
「構わないですよ」
「……」
俺が少々動きづらくなるが、特段問題はない。むしろ俺を中心として動いてくれるならその感情も制御しやすい。そう思っての発言だった。
「あーもうめんど。つまりkanaたちが勝てばいいだけの話でしょ?」
「ま、そのとおりね。mihoも考えすぎる事ないでしょ。私たちはいつも通りやるだけ」
「そのいつも通りがやれれば、の話よ」
mihoさんはずっと俺を警戒しているみたいだ。俺としては俺より季乃を何とかしたほうがいいと思うけどな。今日もさくらちゃんとご飯食べに行ってきますーなんて言っていたし正直何しているかわからない。
「……はぁ、ま、とりあえず聞きたいことは聞けたし次の仕事行くわ。時間作ってくれてありがと。お代ここに置いておくわ」
「俺が奢りますよ」
「そういうの嫌いなので、じゃ」
そう言うと、三人は喫茶店を後にしていく。上品な姿形で後姿さえ様になっているなって思った。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「ん?」
振り向くと有希がじっと俺を見つめていた。
「私も勝ちたい気持ちはあるよ。そのためなら多少の事は目をつむるつもり。でも、誰かを犠牲にしてまで勝ちたいとは思わない。だから危ない事なら止めて」
その言葉に俺は思わず笑みが浮かんだ。
「ありがとう。でも大丈夫だ。今回ばかりは危険なことも何もない。ただ真っ当にやって勝ちを目指すだけだから。だから有希もライブにだけ集中しててほしい」
「……」
有希から疑うような眼差しが飛ぶ。どうやらもう信用されてないらしい。困った。
「前みたいになったら絶対許さないから」
「大丈夫だって」
有希を宥めるためにケーキのおかわりを頼んでおく。なぜか蹴られた。痛い。