星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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企みと準備

 

 スリクスは変わりなし。というより、ここに関してのイレギュラー云々よりも単純な実力の高さが問題だから注意すべきところはそこではないと思っている。

 

 ならばこの高い壁をどう打ち崩すか。これが一番の難題だったりする。

 

 サニピや月スト、リズノワもトリエルは、良くも悪くも優しい子ばかり。人の事を信用から入ってくる子たちだから、裏をかこうと思えばいくらでもできる。それがバレれば手痛い反撃を受けるが、要はその日までバレなければいいだけの話だ。

 

 だけど、スリクスは違う。芸能界歴も長く、酸いも甘いもたくさん知っている人たちだからこっちも中々動きづらい。人としてもできているたちだから、そういった面での仕掛けもしずらい。

 

 ならばどう勝つか。YUKINOの二人を古都ことをどう動かせば勝ちを掴めるか。

 

「んー……」

 

 漠然としたビジョンはなんとなく浮かぶが、具体的な案が降ってこない。

 

「悩んでいるようだな」

 

「しゃ、社長!」

 

 椅子に寄りかかり考えていると、視界に朝倉社長の姿が映り込む。慌てて佇まいを直し立ち上がる。

 

「順調か?」

 

「……正直に話すとまだまだです。色々と情報収集や誘導はしてきましたが、それがどう動き、最終的に何が正解になるかまで見えてません」

 

「ふむ」

 

 そう言うと朝倉社長は手を顎に添え何かを考え始める。

 

「時に御堂、君が斎木と恋仲だと聞いたが本当か?」

 

「いやいや季乃とはそんな関係じゃないですよ。確かに仲はいいかもしれないですが」

 

「そうか。では君はさっきどんな感情が浮かんだ?」

 

「感情……。なんで急にそんなことを聞くんだろうという疑問、変な噂が流れているんじゃないかという焦り、納得してもらえるのだろうかという心配、ですかね?」

 

「そうか。では、この質問に限らずだが同じ類の質問を毎日聞いていたらどう感情は変化する?」

 

「……まず姿が見えた時点で警戒しますかね。警戒したままなので、何か言ってきてもいつもの妄言だと思って聞き流すかと思います。なので感情の変化としては姿が見えた時点での不快感ですかね」

 

「そういうことだ」

 

「何を……ってあぁなるほど」

 

 つまり社長が言っていることはライブという一度っきりの舞台で何かを仕掛けたいのなら、変に動きすぎて警戒させすぎるなということだろうか。いくつかは手遅れな気もするがすごく納得がいく。

 

「次に、だ。御堂が警戒している状態だとしよう。その状態で私が君の妹を誘拐したと言ったらどうする?」

 

「殴ります」

 

「……例え話だ」

 

 警戒している状態でそんなことを言われたら、か。妄言かもしれないが心配にはなるし、有希に連絡もするだろうな。

 

「……警戒されていても使える手段はあるということですね」

 

「姫野みたいになりたくなければ多様しないほうがいい」

 

「しませんよ。最終手段です」

 

 Venusグランプリは確かに大事だがこれっきりで人生が終わるわけではない。罅が入るような禍根は残したくない。

 

「でも、そうですね。誘拐されただと大袈裟ですけど、有希に対する接し方が間違っている、と言われると感情も変わるかもしれませんね」

 

「……ふっ、面白いことを考える」

 

 要は答えのない問いかけで相手を悩ませるということだ。あるいは偽物の解やそれに類似した問いかけを続けてもいいかもしれない。

 

「じゃあ最後だ。質問も大きく変えよう」

 

 そう言うと朝倉社長は一呼吸おき、俺を正面から見つめた。

 

「Venusグランプリ。これに勝つことが間違いだと知ったとき、御堂、君ならどうする?」

 

「……どういうことですか?」

 

「例え話だ」

 

 アイドルの頂点を掴む戦いに勝つことが間違い?なぜ?

 

 ……いや例え話か。例えなら、そうだな。その答えが納得でき、自分の信念を揺るがない選択ならばそれを選ぶかもしれない。俺ならVenusグランプリに勝てば有希や季乃、鏡花を失うことになるとかだろうか。

 

「負けを選ぶと思います。とはいってもファンに無様を見せたくないしそういうライブをすることはプライドが許さない。何か理由をつけて棄権するでしょうね」

 

「だろうな。私も概ね同じ回答をするだろう」

 

 ……この質問だけ気色がおかしい。Venusグランプリに何かあるのか?

 

「御堂、君が考えることじゃない……というべきところだが、私に従ってくれる以上、君にも知っておく権利はある。聞きたいか?」

 

 どういった意味だろうか。Venusグランプリにある真実、それを知ってどうなるのだろうか。……違うな。考えるべきは俺自身の事じゃない。YUKINOや鏡花がどう歩むべきかだ。なら、答えは一択か。

 

「教えてください」

 

「わかった。――――」

 

「……なるほど」

 

 ……これはなんとも聞きたくない話を聞いてしまったものだ。

 

「長くなってしまったな。私はこれで失礼する」

 

 そう言って朝倉社長が背を向ける。その背に俺は改めて頭を下げた。

 

「あぁ最後にだが、夢野光とのアポイントメントが成立した。バンプロに出向かれる予定だから君も同席したまえ」

 

「……まじですか」

 

「まじだ」

 

 まじかぁ……。

 

 

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