「さぁようやくやってきました五戦目。皆様最終戦でございます」
「やっとか……ま、ここまで前座みたいなもんだしな」
「えぇ。しっかり休息も取れたし準備万端よ」
「余裕ですねぇ。勝つのは私たちですけどね!」
「うん、負ける気はしないかな」
YUKINOもどりきゅんも準備万端らしく、互いが互いを睨み合い不敵に笑みを浮かべ合う。
「では、最終戦発表いたします。最終戦は、本物を決めろ!ライブバトル!になります。皆様お待ちかねのライブバトルの時間です」
「とはいえルールはいつもより少し違います。ライブを前半後半に分かれ行うのは同じなのですが、今回は採点AIによる採点に追加して視聴者投票によるスコア加算を行います。お二組のライブ終了後に投票アンケートを行いますので、よかったと思う方に投票お願いいたします。なお不正が発覚した時点でそのグループに大幅に減点を行いますのでご注意ください」
「ということなので変なことはしないでくださいねー。まぁそんなことしなくても私たちが勝ちますけどね!」
「言うじゃない。一応通告だけど、私たちのファンにそんなことする人間はいないわよね?いたら絶対に許さないから」
「あ、そうそう。意図的に相手を減点させようとしないでね。企画崩れになっちゃうから」
「はっ、その辺はマネージャーあたりがうまくやってくれるだろ。念入りに準備していた位だしな」
鏡花はコメント欄の統率を確認した後、マネージャーに後は任せましたと目配せを行い、そして改めて声を張り上げる。
「では!これより始めたいと思います。まずはライブ順をコインの裏表で決めようと思います。お二組とも要望をどうぞ」
「表だな」
「じゃあ裏で」
「表がどりきゅん、裏がYUKINOと。では投げます……結果は表。どりきゅんのお二方。順番はどうしますか?」
「決まってるだろ」
「えぇ」
「「先行」」
「先行がどりきゅん、後攻がYUKINOに決まりました。では早速どりきゅんのお二方準備をおねがいします」
どりきゅんのステージの準備中。私は今回の企画の目的について再度考えていた。
あいつ曰く、夢野光は一度どりきゅんと戦い勝っている。その理由をどりきゅんと戦うことで見抜いてほしい。きっとそれが夢野光が見抜いて、そして対策に使った手に繋がるから。らしい。全く持って失礼な話だと思う。どりきゅんにも、私達にも。
第一、それを知ったとして一体どうするのか、といった問題もある。私達が、あいつが夢野光さんのことを知ったとしてそれがライブバトルにどうつながるのか。
……やっぱり馬鹿なんじゃないかな。あいつ。
「有希ちゃん、どりきゅんのライブ見たことあります?」
そんなことを考えていると、隣から季乃が声を掛けてくる。私は率直に言葉を返した。
「ないよ。でもすごいんでしょ?話は聞いたことがある」
「何やら心臓を鷲掴みにしてくるらしいですよ!」
「へー怖いね」
「防弾チョッキ着ますか?」
「いらない」
そうですかと残念そうに防弾チョッキを仕舞っている季乃を横目に、私は改めてどりきゅんの二人を眺める。
ここまで色んな企画で見てきた印象として、世間で言われ続けている問題児のイメージはなかった。むしろ、ちゃんと周りを見て視聴者の事も考えて仕事している人たちだな、と感心させられる点も多かった。季乃よりはよっぽど真面目だった。
まぁそれはどうでもいい。個人的に気になったのは一戦目で見せた二人の身のこなしだ。
重心を低くした動き出しが見づらい滑らかな移動、息をするかのようにしなやかで激しい動き。あまり詳しくはないけど、日本の武道に通ずるものがあるなと私は思った。
ということはつまり、彼女たちのライブも同様。武をイメージさせられるのなら、そのライブでの動きもなんとなく想像がつく。
心臓を鷲掴み、というのももちろん比喩ではあるが、それほど遠くはない表現なのだろう。武道であるのなら、その激しさは理解できる。
「お待たせしました。ステージの準備もできたとのことなので、これよりどりきゅんのライブを始めさせていただきます。どりきゅんのお二方、開始の合図まで委ねますので、準備ができたら合図をお願い致します」
「あら、気が利くわね。でもそんな時間要らないわ」
「あぁ、言葉なんて不要だ。ライブで見せてやるよ。オレたちという姿をな」
二人が開始のポーズを取った後、鏡花が音響スタッフに合図をしているのが目に入る。そしてその曲が流れ始めた。
スピーカーから流れ始めたのは、低音ベースのエレキギター。その音が徐々に高まっていくと同時に、ドラムの音と共にその曲は点火した。
『強くなきゃ意味がない
綺麗事はいらない』
響き始めたのは力強さを兼ね備えた音色。緩やかな曲調にも関わらず、銅鑼を鳴らしたように響く声が全身を駆け巡る。
『本物がみたいなら
ここにある』
それだけではない。ただ響かせるだけじゃなく、その方向性を強弱によって揺らがせる。強い音が徐々に収まり、また始まる。まるで前後感覚が無くなったかような衝撃。心臓を揺らがせるとはこのことかと納得できた。
『甘い覚悟は
ぶっつぶしてあげる』
だけど私が一番気になったのはその踊りだった。
ぶっちゃけ、採点AIの無いライブにおけるダンスは、ライブ全体に対して大きな影響はないと思っている。だって、遠目で見ると全く見えないし、見えても細かい動作なんて目に入らない。見ている人なんてそれほどいない。
だけど、近くで見てみるとその認識は改められた。
『後悔しても
知ったこっちゃない』
ステージ全体を縦横無尽に駆け巡るパフォーマンス。その一挙手一投足から感じる激しさは、まるで自らが炎になって燃やしつくさんと言わんばかりの荒々しさを兼ね備えている。だけど、それを思わせるのは、節々に移る計算された繊細さによるものだ。
「へぇ……」
私も思わず声が出る。私の踊り方や魅せ方とはベクトルが違うものの、それでも学べるところはある。
『ぶつかる火花が
二人を包んで』
例えば、今のシーン。二人がステージ中央に揃い左右に伸ばした腕を閉じるシーンでは、上半身の大振りな動きとは裏腹に足の動きを最低限に無駄のないステップを挟んだ。この小さな動きが二人が腕を閉じる大胆な動作を引き立て、全体のパフォーマンスを引き立たせる。そして、その小さな動きは武道特有の目立たない動きに近い。
『目の前に響く衝動』
あの動きは私にはできない。あれはきっとどりきゅんが色んなことにチャレンジし続けた結果身に着いたものなんだろうと思う。それはきっと無自覚ではない。意識的にやっている。だからこそ、どりきゅんは強い。
『Break the limits!
必ず辿り着けるから』
それに、どりきゅんの強さは個々の強さだけではない。二人の息のあったコンビネーション。目配せもなく、合図もなく、完璧に合わせている動作は見ていて感心させられる。率直にすごいなと感じた。
『止まれない 戻る道もない』
どりきゅんの二人が中央へと揃う。そして最後の一言と共にポーズを取った。
『To the world』
音が止む。荒く巻き上がっていた炎が燃え尽きたかのような静けさが辺りを覆う。
その静寂を遮ったのは、これもどりきゅんの二人だった。
「おい、終わったぜ」
「初めて聞いたんでしょ?声が出せなくなるのも無理はないわ」
「失礼いたしました。どりきゅんのステージ、お見事でした。感嘆いたしました」
「心折れたのかと思ったが意外とけろっとしてんな」
「なんだか腹立つわね」
「失礼いたしました。何分、新人故に無学なものですので」
「はっ、そうかよ」
「はい。では、どりきゅんのお二方、視聴者に向けて最後に一言どうぞ」
「私たちが伝えたかったこと、伝わったわよね?……そう、ならもう言うべきことはないわ」
「次はYUKINOのライブだ。どんなものか楽しみにしておこうぜ」
「ありがとうございます。ではお次はYUKINOのライブになります。準備がありますので、今しばらくお待ちください」
その言葉と共にマネージャーから各所に指示が飛び、生放送の映像が一時止まる。それを見計らって私は季乃に声を掛けた。
「季乃、どうだった?何か掴めた?」
「んー、どうでしょうね?どりきゅんの事はよくわかったんですけど、光ちゃんの事はさっぱりです」
「だよね」
「でもでも、どりきゅんへの私たちなりの対処は思いつきましたよ!」
「へぇ?何?」
「どりきゅんのライブって皆で盛り上げるというより、私たちのパフォーマンスを見て、お客さんも虜にするって感じですよね?」
「まぁそうだね」
「なら、その虜になったお客さんを奪い返せばいいと思うんです」
「どうやって?」
「そりゃ、私の色仕掛けで、です!」
「誰が引っかかんのそれ」
「失礼な!……まぁ冗談はともかく、それくらい大きなインパクトを最初に与えるってことですよ。ということであれ歌いましょう」
「えー」
「えーじゃないですよ。慎二さんにも伝えておきますね!」
今回歌う曲は事前に伝えたものとは違う。曲はいくつか準備しているらしいが、それでも直前の変更は大変だろう。
そう思ってあいつを見つめていると、あいつは何気ない顔で言葉を返し、すぐにスタッフに指示を送っていた。……予測されていたようで何か腹立つ。
戻ってきた季乃は自分の意見がすんなり通ったことにご機嫌な様子だった。
「良いそうですよ!」
「季乃」
「なんですか?」
「後でケーキ奢ってね」
「良いですよ!デート行きましょう!」
「うん、あいつの顔を見てたら腹立ってきたから」
「……さすがに可哀想じゃないですか?」
季乃の言葉は聞こえないふりをした。