「さぁお待たせしました。本物を決めろ!ライブバトル!の後半戦になります」
ステージの準備を終え、私と季乃はステージ上に立つ。衣装も専用のものに着替え、準備完了だ。
アシンメトリーのフリルスカートをフワリと揺らし、季乃は私の耳元に近づいてきた。
「最初のやつ。全力でやってくださいよ」
「わかってるよ」
季乃曰く、最初のインパクトが一番重要。とのことだから、その釘を刺しに来たのだろう。まぁ言われなくてもそのつもりだ。
「あ、後。MCなんですけど、有希ちゃんあまり喋らないようにお願いできますか?」
「いいけど、なんで?」
「インパクトです」
よくわからないけど、理由があるのだろう。元々MC得意じゃないし、従おう。
「季乃もダンス間違えないでね」
「が、頑張ります」
季乃は苦笑いを浮かべながらそう呟いた。こういうときの季乃はちょっとは信用できる。意識的に頑張ろうとしてくれるから。
「YUKINOの準備も完了できたとのことなので、早速ライブを始めさせていただきます。開始の合図まで委ねますので、準備ができましたら合図をお願い致します」
鏡花の言葉と共に、季乃と目配せする。季乃はそれを受けてその口を開いた。
「皆さーん!お待たせしました!可愛い季乃ちゃんの出番ですよー!」
隣から響く大音量に耳がキンキンしながらも、私は表示されているコメント欄をちらりと覗く。
「コメント見てますよ!大盛況ですね!ありがとうございます!そうですよねぇ。今までザ炎!って感じだったから暑苦しかったですよねぇ。私が癒して差し上げましょう!」
チュと投げキッスを飛ばしている季乃を見つつ、私はステージを見渡し、立ち位置を再度頭に入れておく。
「えへへ、なんだか私が照れちゃいますね。恥ずかしいんで忘れてください」
あざとい。素でやっているんだから大したものだと思う。
「さ、さぁ!気を取り直して、ライブやりますよ!ライブ!有希ちゃんからは何かありますか?」
「がんばるぞー」
「おー!じゃないんですよ!なんですかその超絶やる気のない挨拶は!」
あまり喋るなって言われているのに話題を振らないでほしい。とはいえそういった部分も見せるわけにはいかないので、私もわざとらしく小首を傾げておく。
「なんで怒られているんだろう、みたいな顔しないでください!もう、じゃあライブやりますよ!皆を虜にしてあげますからね!覚悟しておいてください!」
その言葉と共に鏡花に合図を飛ばす。季乃も立ち位置を整え、準備完了だ。
私は小さく息を吐き、意識を切り替える。そして会場中に響かせるように声を張り上げた。
『全てを解き放て!』
その声と共に始まったのは王道の四つ打ちドラムとギターが織りなすアップテンポな楽曲。リズムにも乗りやすく、初めての人が聞いてもわかりやすい。アニメのオープニングにでも使われそうな熱くなれる楽曲だ。
『I wonder if this step means anything
I wonder if this fight means anything』
この曲は初めから大ぶりの動きから始まる。叫ぶような言葉とカメラをつかみ取るような動作。そして続けざまに英語の歌詞が続く。
『I've been searching for the meaning of life in this world』
息をつく間もないくらいの怒涛の言葉の羅列。それと同時に織ります動作は、大きく荒々しく。力強さをより引き立てるために多少無理やりに体を動かす。
『地平に見える太陽が 目指す先だと知ってても
わからない 立ち止まるんだ
止まる理由もわからずに』
その言葉と共に私は横にステップを挟み、季乃にセンターを譲る。緩やかなテンポになると同時、私が立っていた位置の背後からやってきた季乃は甘くとろけるような音色で、まるで悪魔が囁くみたいに言葉を紡ぐ。
『A shadow smiles softly
There is no such thing』
サブのポジションに立った私は、そんな季乃の背後で軽やかに踊る。バレエのように、繊細に軽やかに優雅に。
『I should just enjoy myself the way I want to』
やがて私たちは二人で並び立つ。
『全てを壊して見せろ その魂も
夢と希望を語れど 未来は大して変わりはしないさ』
私と季乃のデュエット。お互いの声が混ざり合い、会場中に響き渡っていく。まるでステージが彩られていくような気分だった。
『進むことが正しいなんて
そんな見せかけの言葉 打ち砕け』
この曲は迷い立ち止まった人の背を押してあげるようなそんな楽曲。だから、勇気を出させるように、その元気となれるように私たちが夢を見せる。
『本当に望んだものは何?
そんなこと自分が一番知っているだろ』
荒々しいだけじゃない。力強いだけじゃない。燃やし尽くす炎だけではない。その想いを指先に込めて、私は踊り、歌う。
……いつもとは違う、宙に浮くような感覚がした。
『手に入れろ Victory and hope
描き出せ My own path』
最後の一声は、全てに響くように。人に突き刺すような音色で。
『轟かせ Unlimited World!』
会場に静寂が訪れる。いつものお客さんのいるライブステージじゃないから、こういったときにわかりやすい反応を返してくれないと、少しだけ不安になる。
でも、呆気に取られていた様子のどりきゅんの姿を見て、その不安は笑みに変わった。
「聞いてくれてありがとう。楽しんでくれた?」
「私たちの想いが届いてくれたら嬉しいです!」
私たちは最後にカメラに向かってウィンクを交わすと、後は司会者である鏡花に委ね、ステージを降りた。
できることはやった。後は視聴者投票次第だ。
「皆様、視聴者投票の時間です。これよりアンケートフォームを開きますので、そちらで投票をお願いいたします」
鏡花の言葉の後、カタカタとキーボードが打たれる音が響く。その音を聞きながら、私は季乃の様子を見た。
「今日は疲れてないんだ」
「ふふふ、私も成長したんですよ!これくらいじゃ疲れません!」
「私の分まで頑張って」
「有希ちゃんも頑張るんですよ!」
「えー」
「えーじゃないですよ!」
まぁ、実際のところ、季乃が少しずつ体力をつけていって、ライブ全体を通してパフォーマンスを維持できるようになっているのは事実だ。最初のころとか一曲でへばっていたし、それから考えると成長しているのだろう。でも、まだまだだ。
「サビの合わせるとこ、ちょっと遅れたでしょ」
「な、なんのことでしょうか」
「誤魔化さないの」
「うう、で、でも有希ちゃんも英語のイントネーションずれてるところありましたよ!」
「知らない」
「誤魔化さないの」
真似されたのが悔しくて思わず目じりが下がる。だけど、季乃の笑みを見ると私も思わず笑みが零れた。
「もっと、頑張ろっか」
「ですね!目指せトップです!」
そんな雑談を交わしていると、鏡花に呼ばれ、ステージ上に立たせられる。アンケート結果が出たようだ。
「最終戦。本物を決めろ!ライブバトル!の勝者は……YU☆KI★NO!結果、YUKINO三ポイント、どりきゅん二ポイントで、YU☆KI★NO VS どりきゅん魂の五本勝負の勝者はYUKINOに決まりました!おめでとうございます!」
パンッとクラッカーが鳴らされ、辺りに紙吹雪が舞い散る。
心からの笑みを浮かべている季乃と手を打ち鳴らし、私は祝福してくれている視聴者とあいつの姿を見る。
「もう負けないよ。二番手なんて言わせないから」
私はそう決意を新たにした。
Unlimited World
イメージ 共鳴のTRUE FORCE