YUKINO対どりきゅんのライブ放送は大盛況で終わった。二組に特にこれといった問題は起きなかったし、それぞれのファンにも、興味本位で新規にやってきた人にとっても楽しんでくれたみたいだった。
ただ問題があるとすれば。
「鏡花」
「どうしました?」
「お前燃えてるぞ」
「なぜでしょう」
鏡花はこてんと首をかしげた。鏡花、それわざとやってんだろ。可愛いけど。
「確かに爪痕残してこいって言ったけども、ちょっと目立ちすぎだ」
「爪痕を残すのであれば派手であったほうがいいかと。それに、これはVenusグランプリのための策でしょう?」
「……そうだが」
「ならば、この炎上も問題はありません。古都ことの名を知ってもらうチャンスですので」
鏡花も鏡花なりに考えた結果らしい。確かに言わんとしていることは理解できるが、もうちょっと違うやり方はなかったものか。
まぁ、過ぎたことを言っても仕方ない。
「Venusグランプリまでに後一度ライブはやれるはずだ。そこで今回広まった知名度で観客を集め、味方につけるぞ」
「悪い言い方ですが、わかりました。私は皆に喜んでいただけるのであればそれで構いません」
相変わらず立派な信念だ。それを尊敬に思いつつ、手元のバインダーに目を落とす。
Venusグランプリ トーナメント表。
簡素な言葉が描かれた表紙。今日社長から直々に渡されたこの紙に、Venusグランプリのトーナメント表が記載されているらしい。
ちなみに、バンプロからエントリーしているのはYU☆KI★NO、古都こと、DayDreamの三組だ。ことに関しては親御さんとのやり取りがあったりと諸々のトラブルがあったものの、何とか説得してきた。責任は取れと言われたからしっかり責任を取って古都ことを立派にしようと思う。
話が逸れた。今日、鏡花を呼んだのはこれを一緒に見ようと思っての事だ。YUKINOも同様に呼んでいるのでもうすぐ来るだろう。
「季乃ちゃん登場です★」
「有希ちゃん登場です☆」
噂をすればなんとやら、扉から変なポーズを取りながら滑り込んできた季乃と、無表情で声だけそれっぽく出して有希がやってくる。何やってんだこいつら。
「★鏡花ちゃん登場です☆」
「鏡花、乗らなくていいぞ。季乃も止めてくれ」
鏡花も悪乗りしだしたため止めておく。まじで悪影響しか与えないから止めてほしい。
「有希ちゃんも注意してください!」
「だって有希の目死んでるし」
今にも倒れそうな瞳を浮かべている有希の姿を見るに、さっきのノリは心底嫌だったのだろう。可哀想に。
「ってことで季乃が悪い」
「きしゃー!!」
「はいはい、ごめんな。皆悪いよ」
季乃の機嫌を損ねそうだったので、とりあえず頭を撫でておく。ムッとした表情を浮かべながらも季乃はされるがままだった。
「で、私たち呼んだ理由はVenusグランプリのトーナメント表が発表されたからでしょ?何かあったの?」
「知ってたのか。……もしかしてトーナメント表も見た?」
「まだ」
「よかった」
せっかくだし、皆で集まってみたいと思ってたから安心した。それを見て色々と相談もしたいしな。
「どうなりますかね?せっかくならば、楽して決勝まで行きたいですね!」
「上に同じー」
「おいおい……」
出場アイドルはすでに公表されているから知っているが、皆実力者揃いだった。特に今回のVenusグランプリではBIG4全員出場。ランキングも上位のグループや、元BIG4まで勢ぞろいだ。どこと当たろうと油断はできないと思う。
「まぁいいか。ってことで早速見ていくぞ。準備はいいか?」
「です!」
「うん」
「問題ありません」
三人の顔を一目見た後、俺も覚悟を決めて紙を捲る。
「……」
「……」
「……」
静寂が続いた。俺もそこに書かれていることに絶句していたし、それは皆も同様だったからだろう。
しばらくして、ようやく鏡花が口を開いた。
「酷いですねこれ」
「うん……」
「酷いなんてもんじゃないですよ!なんですかこれ!不正ですよ!操作されてます!」
「……俺もそう見えるな。作為的なものを感じる」
YUKINOの一回戦の相手がⅢX。二回戦目にはシードで上がってきたサニーピース。そして順当にいくならば三回戦目LizNoir。そして準決勝で夢野光。決勝で月スト。明らかにおかしい。百歩譲ってBIG4と決勝までにBIG4と二組当たることは問題ない。だけど、三組当たるとなるとそれはトーナメント表を疑いたくなる。
だって、BIG4はシード枠を与えられているのだから。それが決勝までの二グループの内、片方に寄っているのはさすがに意図的なものを感じる。
『担当アイドルを勝たせるためにはなんでもする』
神野さんが言っていたことを思いだす。もしかしてこういったことだったのだろうか。
「慎二さんなんとかしてください!」
「そうしたいところだが……」
今この紙が俺の手元にあるということは、世間でも公表されているということだ。ここまで進んでいるとさすがにもう手の入れようがない。
「ま、やるしかないってことでしょ。それに、これを勝ち進んで優勝出来たら誰も文句は言えないでしょ?」
有希の言う通りだ。BIG4全員に勝って優勝したとなると名実ともにトップと言える。それに文句なんて言えるはずがない。
「むむ、仕方ないですねぇ。私だってやってやりますよ。だから、今回は慎二さん止めないでくださいね?」
季乃が口元を歪ませる。相変わらず悪い笑みを浮かべる。
「止める気はないし、むしろ俺も手伝うわ」
正々堂々、なんて今更言う気はない。俺もこいつらのマネージャーだ。今回ばかりは本気で勝たせに行く。二番手なんて評判はもう懲り懲りだ。
「なるほど。つまり私は捨て置かれると」
「あ、悪い。そういうわけではなく」
鏡花を見ると、じとっとした目で見つめられていることに気づいた。申し訳ない。
「鏡花は一回戦目がトリエルで、二回戦目に夢野光ね。私たちと当たるなら準決勝だね」
「こっちもこっちで難関ですねぇ」
夢野光は言わずもがなだが、トリエルもかなりの実力者…というか、Venusプログラム五位のグループだからほぼBIG4に近しいものがある。
「鏡花、勝つぞ。全力でサポートする」
「はい、私は誰が相手であろうと、私のライブを貫くだけです」
それでこそ古都ことだ。彼女の言葉を誇らしく感じつつ、俺は三人に向けて声を掛けた。
「じゃあ、考えようか。どうやって勝つかを、ね」