星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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やりのこしたこと

 

 グランプリ前最後の古都ことのライブも無事盛況に終わり、いよいよVenusグランプリの日程が近づいてきた。

 

 YUKINOはVenusグランプリの開幕戦を務めることになり、相手がⅢXということもあり、今まで以上に練習を重ねている。

 

 特に有希はどりきゅんとの一戦で何かを掴めたようで、その感覚を更に研ぎ澄ますために今まで以上にダンスに取り組んでいた。それが何なのかは俺にはわからないが、日々熱心にレッスン室に入り込んでいく有希を見て、あいつももう立派なアイドルなんだなと改めて感じた。

 

 それはともかくだ。

 

 俺はVenusグランプリ前にやり残したことがあることを思い出し、とある場所を訪れようとしていた。いたのだが。

 

「あ……」

 

 そこに向かう道中。星見市の駅前で見覚えのある黒髪の子と目が合う。

 

 つり目の青い瞳、長い黒髪にスレンダー気味の体躯。マスクを付けて変装しているが、間違いない。琴乃ちゃんだ。彼女も駅から降りてきたってことは同じ電車に乗っていたということだろう。

 

 俺は周りを見渡し、彼女の変装が見破られてないことを確認してから声を返した。

 

「久しぶり。元気にしてたか?」

 

「えぇ。BIG4になって忙しくはなりましたけど、私も皆も元気にやっています」

 

「そっか。それはよかった」

 

 会話を続けてもいいが、俺が予定があってここに来たように彼女も何かしらの用事はあるのだろう。そう思って別れを告げようとしたが、それよりも先に彼女が口を開いた。

 

「えっと、御堂さんはどこに?」

 

「……ちょっと墓参りに行こうと思ってな」

 

「あ、やっぱり。私もそうなんです」

 

 俺の手に持っているバッグからはビニールに包まれた花弁が覗いている。それで察したのだろう。

 

「一緒に行きませんか?」

 

「いいのか?気を使ってくれたのなら全然大丈夫だぞ」

 

「違います。ただ、学生時代のお姉ちゃんの話を聞きたくて……駄目でしょうか?」

 

 言っている途中で自信が無くなって上目遣いになっていくのはずるだと思う。俺としては琴乃ちゃんが良いなら断る理由はない。

 

「じゃあ一緒に行こうか」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 それから霊園に向かうまでの間。麻奈ちゃんの学生時代の話とついでに牧野が学生時代の話をした。

 

 麻奈ちゃんはお転婆で先生を困らせながらの皆を笑顔にしていたことや、牧野は彼女に振り回されながらも陰ながらバックアップしていたこと。

 

 学校でも変わらないですね、と琴乃ちゃんは笑みを浮かべてくれた。

 

 そんなこんな話しているといつの間にか麻奈ちゃんのお墓の前まで来ていたので、二人してお墓を綺麗にし、持ってきた花とお供え物を飾り付けた。

 

「そういえばどうして御堂さんはお墓参りに?」

 

 俺が線香の準備をしていると、琴乃ちゃんは不思議そうに聞いてきた。

 

 答えるか悩んだが、彼女に嘘はつきたくなくて正直に話すことにした。

 

「もうすぐVenusグランプリだからな。皆の勇姿を見て欲しいって伝えたくて」

 

「そうだったんですね」

 

「うん、でもそれだけじゃない」

 

 俺は麻奈ちゃんの墓を真っ直ぐに見据えて口を開いた。

 

「越えてみせると。サニピも月ストもトリエルもリズノワもスリクスも夢野光も、そして長瀬麻奈も。皆越えて、YUKINOと古都ことをトップに立たせるとそう宣言したかった」

 

「っ!」

 

 琴乃ちゃんが息を呑む音が聞こえる。彼女からしたらあまり聞き覚えのいい話ではないよな。だから話すかどうか悩んだ。

 

 俺は黙ったままライターを取り出し、蝋燭に火を付けようとする。ライターの調子が悪く何度かトリガーを引いていると、琴乃ちゃんがぼそりと呟いた。

 

「……私も、お姉ちゃんにVenusグランプリについて話そうとしていました。絶対に勝って、私達がトップを掴み取ってみせるって」

 

「そうか」

 

「でも、そうですよね。トップを掴むということは、誰かを越えないといけない。皆を越えていかないといけない。そして自分らを越えさせてはいけない」

 

 視線を上げると、琴乃ちゃんは真っ直ぐに俺を見据えていた。

 

「だったら、私達が壁になります。絶対に越えさせないように私達自身も歩み続け、トップを目指していきます」

 

 強気な発言に驚き、俺はその瞳を改めて見た。

 

 未熟な瞳でも、これからを見据えた瞳でも、迷いのある瞳でもない。トップアイドルの一角としての覚悟の籠もった瞳がそこにあった。

 

「だから、越えさせません」

 

 その発言に俺は思わず、笑みが浮かび上がる。

 

「勝つのはうちのアイドルたちだ」

 

「いいえ、私達です」

 

 一歩も引かない様子の琴乃ちゃんの姿は頼もしくもあり、そして同時にかなり厄介だ。でも、だからこそ嬉しい。

 

 俺は成長した彼女の姿に満足すると、手に持っていた線香を持ち上げた。

 

「……とりあえずライター貸してくれない?」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

 借りたライターでカチッと蝋燭に火を灯すと、その火を線香に移し、香炉にそっと置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 麻奈ちゃん。

 

 君が亡くなってからもう随分と月日が経った。俺もすっかり大人になって、毎日仕事に明け暮れる日々だよ。

 

 前にも言ったと思うけど、俺はアイドルのマネージャーになったんだ。あのリズノワとかが所属してたバンプロでだぞ?信じられるか?俺も今でもびっくりだよ。

 

 そこで担当しているアイドルたちがさ。これまた曲者揃いでさ。YU☆KI★NOと古都ことって言うんだけどな?つい最近も生放送でやらかして炎上しているんだ。全く勘弁してほしいものだよ。

 

 愚痴になってしまったな。悪い。今日来たのはVenusグランプリ出場に関して報告したかった。

 

 なんとな、YUKINOも古都こともVenusグランプリに出場することが決まったんだ。すごくないか?あのVenusグランプリだぜ?ほんと立派だよあいつら。

 

 でも、麻奈ちゃんにとってはあんまり良い話じゃないかもな。だって、月ストも、リズノワも、あの夢野光も。皆、俺たちが倒してしまうんだからさ。でも、あいつらを恨まないでくれよ。恨むなら俺だけにしてくれ。いくらでも話は聞くからさ。

 

 まーた話が逸れたな。俺の悪い癖だよ。それでさ、麻奈ちゃんには皆を見守ってあげていてほしい。皆の戦いをしっかりと見ていてあげてほしい。例え、戦いにならなかったとしても、自分の悩みを、頑張りを見ていてくれる人がいるだけで違うと思うから。だから、お願い。誰も折らせないでくれ。

 

 ……こんなことを頼んでごめん。でもこんなこと誰にも頼めないからさ。神様仏様麻奈様、様々ってやつだよ。……俺もあいつらの口調が移ったのかもしれんな。

 

 まぁ俺からはそんなところだ。俺の話なんかより、琴乃ちゃんの話の方が聞きたいだろ?長々と話して悪いな。

 

 Venusグランプリが終わったくらいにまた来るよ。できれば今度は俺の担当も連れてくる。たぶん一人は来ると思うから。麻奈ちゃんも知っている子だからびっくりすると思うぞ?

 

 じゃ、またな麻奈ちゃん。

 

 

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