ⅢXはライブを終え、再度舞台裏へと戻り、取り付けられているモニターの前に陣取った。
YUKINOのライブはすぐに始まる。そのステージを見るためだ。
「勝ったでしょ」
「よゆーだよねー」
席に着くとfranとkanaは自信気にそう呟いた。YUKINOのライブを見ずにそう言い放つのはどうかとは思うが、mihoも概ね同意見を持っていたことから何も言わなかった。
長年やってくると、自分たちがどれくらいのスコアを稼げたかはなんとなく理解できてくる。すでにmihoの脳内には具体的な数字が浮かび上がっていた。
完成度としてはほぼ百パーセントに近い。観客点という不確定要素はあるものの、そこまで点数は離れていないでしょうね。そして、その点数はYUKINOが今までに獲得したスコアよりも大きい。
勝ちはほぼ間違いない。けれど、ほんの僅かな可能性でも負ける可能性があるのなら、最後まで油断はできない。
実際にそんな僅かな可能性を搔い潜り負けた経験のあるmihoは、警戒した面持ちのままモニターを見つめ続ける。
そして、ようやくそこに待ち望んでいた相手が出てきた。
『皆々様方!お待たせしましたー!あなたのアイドル、斎木季乃登場です★』
「相変わらず鬱陶しいわあいつ」
「……」
季乃のMCを鬱陶し気にしているkanaの声を聞き流しつつ、mihoはYUKINOがどう観客に対しアプローチを掛けているかに注視する。
『有希でーす。よろしく』
『皆様!Venusグランプリですよ!わかります?あの!Venusグランプリですよ!!!すごいですよね!私もここに立っているのが信じられないです!』
『ファンの皆のおかげだね。ありがと』
『あー!それ私が言いたかった奴!有希ちゃんずるいです!』
「……」
普通。季乃の底なしの愛嬌と有希のマイペースさによる観客の反応は確かに目を見張るものはあるが、それは今までも同じであり、特段改めて注視する必要はない。
だからこそ、普通という感想が一番に降ってきた。それ以降も観客に対し誘導するような言動はないか確認していたものの、特段違う動作があるわけではない。
『ではでは!盛り上がってきたところでライブいっちゃいましょーー!!皆、準備はいいですかーー!?』
そうこうしていると、MCの時間が終わりライブに移るみたいだった。結局、YUKINOが何をしていたのかがわからなかったことが不満だったが、ライブにこそ何かをしてくるだろうと、mihoは改めて集中を高めた。
『Star Imitation』
「は?」
思わず、声が出た。StarImitationはI-UNITYで披露して以来YUKINOの代名詞ともなった曲だ。その特徴は何よりも、そのタイトルにもあるように模倣の曲だという事。
季乃が歌う長瀬麻奈の歌声、有希が踊るⅢXの踊り、元BIG4のSTROBOLIGHTSのコンビネーション、他にも数々のアイドルたちのパフォーマンスを取り入れてた楽曲。数々の著名なアイドルのパフォーマンスを真似ているからこそ、この曲は嫌が応にも人目を引くし、そのパフォーマンスに盛り上がる。
だけど、私たちはこの曲を知っている。I-UNITYのあの舞台でも同じ曲を流され、今までに見たことのないパフォーマンスに度肝を抜かれた。
でも、だからこそ、この曲を私達とのライブバトルで選んだということが信じられなかった。StarImitationはすでに分析済みで、そのスコアが私たちのスコアに敵わないことは証明できているから。
それはYUKINOもあのマネージャーも理解できているはずで、違う楽曲で勝負してくると思っていた。想定では新曲のインパクトを使ってくるとばかり思っていた。それ故の声だった。
franとkanaに蔑むような視線を受けながらも、mihoはそのパフォーマンスにこそ何か変化があるのだろうとモニターを食いつくように見つめる。
『輝くだけじゃつまらない』
「……」
同じだ。何もかも映像の中のYUKINOのパフォーマンスと変わらない。
mihoが事前に組み上げたStarImitationにおける歌やダンスの技術点。そして観客点。観客の多さから観客点に対しある程度加算されるものと考えてもその合計スコアが私たちのスコアを上回ることはない。
『私は塗りつぶすだけじゃない』
「……」
モニターを見るにつれて失望に似た想いが体を駆け巡った。YUKINOはⅢXを敵視している。だから様々な策を用い、私たちを陥れようと手を尽くしていた。
それは確かに厄介ではあったものの、同時に一種のモチベーションになっていたのは事実だ。油断できない相手が全力で挑んでくるからこそ、潰しがいがある。挑戦を受ける者としての楽しさがそこにあった。
だけど、今日のこれはなんだ。
いつもと全く変わらないステージ。策も見られない。
Venusグランプリというアイドルの最高峰を掴む戦いだからこそ、今まで以上に策を巡らせ、想定外のパフォーマンスをしてくると思っていた。だから油断できないと判断していたし、最後の最後まで警戒していた。
なのに、これはあまりにも普通すぎる。
ライブが進むと同時に徐々に気持ちが冷めていくのを感じる。こんな相手に、こんなものに、私は警戒していたのか。
……もう見る価値はない。
mihoはモニターから目を離し、その場から離れる。長机に置いていた対戦相手についてまとめた用紙を手に取ると、その中からYUKINOについての情報を乱雑に破りゴミ箱へと投げ捨てる。
『例え光舞い散るとしても私は』
大音量で流れてくる音さえ不快だ。舌打ちを堪えつつ、冷静さを取り戻すために次の対戦相手であるサニーピースについてまとめた用紙に目を通し始める。
なぜ、という考えが何度も脳裏に過る。なぜこの舞台で諦めたのか、なぜ挑むことを止めたのか。考えるたびにmihoの心に怒りの感情が渦巻いた。
だけど、それもやっと終わりそうだ。
『模倣じゃない。本当の私を!』
「はっ」
曲が終わる。同時に鳴り響いた歓声に、小馬鹿にするような声が漏れ出た。
その在り方を否定するつもりはない。だけど、ここで諦めた者にこれ以上付き合う道理はない。
mihoは冷たい感情で自分の考えを整理し、franとkanaの元へ戻ってくる。二人はmihoの様子に気づいている様子だったが、絡まれるのも嫌なので意図的に無視していた。
「行きましょう」
互いのスコアの発表は二組のライブが終わった後、お互いにステージに立った状態で公表される。そのため、ⅢXもステージへと出る必要があった。
さすがに観客の前でまでこの感情を持ち込むわけにはいかない。アイドルとしての笑みを浮かべ、mihoはステージに上がった。
「因縁の戦い!お互いに白熱したステージでした!集計も終わり、結果が出るようです!」
ステージ中央のモニターにお互いの姿と、スコアを示すグラフが表示される。グラフは徐々に増えていき互いのスコアを競い合うように揺れ動く。そして、大きな光と共に結果が映し出された。
「……は?」
思わず、声が漏れ出した。見間違いかと思い、目を擦り、再度モニターを覗く。
YU☆KI★NO WIN!
映し出されていたのはそんな文字とYUKINOの姿。同時に表示されていたグラフは、YUKINOに大きく傾いていた。
わけがわからない。
そんな想いと共に視線を落としていくと、呆気に取られているfranとkanaの先に、YUKINOの姿が映り込んだ。
観客に向け喜びを露わに手を振っている様子の季乃の姿。彼女の視線が徐々に横にずれ、目が合った。
嘲るような瞳。そして口元には大きな三日月。
「……そういう、ことね」
その笑みを見て、mihoは自分たちが掌の上で踊らされていたことにようやく気付いた。
ステージを離れたmihoは、動揺を露わにしていたfranとkanaを置いたまま、急いで楽屋へと向かっていた。
星見プロダクションで過ごしてきて純粋無垢と言ってもいいくらい真っすぐなアイドルたちを目にしてきて、mihoも少しだけ情が移っていた。だからこそ、今回のこのライブバトルについて、いち早く彼に伝えないといけないと思っていた。
「あ、mihoさん」
楽屋に戻る途中、その通路に彼はいた。星見プロダクションのマネージャーでもある牧野は、急いでいる様子だったmihoの姿を見て驚いた表情を浮かべた後、途端、暗い表情を浮かべた。
「ライブ見てました。その……悪くないライブだったと思います。きっと次」
「慰めならやめてください。それよりも」
mihoは牧野の言葉を防ぐと、言葉を整理し口を開く。
「気をつけてください。今回のステージ何かが違います」
そのまま、言葉を続けた。
「このままだと星見プロダクションは全員負けます」
その言葉に牧野は目を丸くした後、覚悟を決めるように強く頷いた。
Star Imitation
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