星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

142 / 195
悪役たちのピロートーク

 

「友情、努力、激闘!そして季乃ちゃん大勝利!!!いぇい!!!」

 

「まだ言ってんのそれ」

 

「何度だって言いますよ!季乃ちゃん大勝利!」

 

「……」

 

 ご機嫌な季乃の言葉に有希はうんざりとでも言いたげな視線を俺に寄越す。サニピとの戦いはすでに三日前だ。そこから聞き続けた身としてはさすがに鬱陶しくなるのも理解できる。でも。

 

「俺は止めないからな。俺だって勝ててうれしいし」

 

 BIG4であるサニーピースとの戦いは一つの関門であった。彼女らの強さとしてはその上限が見つからないことが一番だろう。I-UNITYでのスリクスとの戦いが良い証拠だ。あの大一番で今までに出したことのない点数を叩きだし、あっという間にBIG4入りした。あれをされると、YU☆KI★NOどころか夢野光でも厳しい戦いになる。

 

 だからサニピ戦では間違いなくそれを防ぐ必要があり、その方法として用いたのが、個々の個人技の増強によるコンビネーションの破壊だ。

 

 サニーピースのパフォーマンスとしての特徴は、わかりやすい明るい表現力と、それを目立たせる細やかな技術力にあると思っている。

 

 例えばSUNNY PIACE HARMONYのイントロ部分には曲に合わせて拍手する振付が存在するが、その直前には難易度の高いステップの動作がある。そのステップをいかに軽やかに済ませ、そして拍手の場面へと繋いでいくか。お客さんには全く見せないそういった細かな動作が、全体のサニピのパフォーマンスを仕上げている。

 

 それは並大抵の努力では成し遂げられないことだ。技術はもちろんのこと、精神的な意味でも。

 

 だって、練習したことはやっぱり見てほしいし、難しい動きができることは頑張った証になるのだからもっと目立っていてほしい。そういった自我が出てくるのは当然の感情だ。

 

 それらを挑発や重圧によって湧きたてる。そうして沸き立った自我が全体のコンビネーションを破壊し、自滅に追い込む。それと同時に、周りを見れる相手に対しては情報量を過多にし、自身のパフォーマンスを見れないようにする。それが俺の立てた作戦だった。

 

「まぁ、気持ちわかるし、それはまだいいんだけどさ。ちょっとやりすぎ。サニピ酷いことになっているみたいだよ」

 

 主にさくらちゃんが、と有希はため息交じりに呟いた。

 

 怜ちゃんには有希からの無意識な挑発、雫ちゃんにはYUKINOのライブに来てくれていたのを知っていたからそこで重圧を、遙子さんには俺から連絡し周りへの心配の増長、千紗ちゃんにはそれらの仕掛けがバレたときのためにあえてのスルーをしていたが、さくらちゃんに関しては季乃が色々と手を打っていた。だからこそ、俺も彼女に任せていたんだが、やり過ぎないか見ておくべきだったかもしれない。

 

「季乃、ちなみに具体的に何をやったんだ?」

 

「そこまで大したことはしていませんよ?ただ、私が麻奈ちゃんの真似をして殺されそうになったから、さくらちゃんも気を付けてね、みたいな話です。今の世の中怖い人が多いですからねぇ」

 

「最低だね」

 

「私は被害者でーす」

 

 要はさくらちゃんも一時期麻奈ちゃん歌声で歌っていたから気を付けろ、といった警告を送ったということだろう。……さくらちゃん自身、心臓の移植をする前はいつまで生きられるかわからない状態だったから、死への恐怖というのは人一倍大きい。そこを突き、他人への不信を煽ったか。

 

「季乃」

 

「もう、わかりましたよ。ちゃんとフォローしますよ」

 

「よく頑張ったな」

 

「……こんなのを褒めないでください」

 

「それだけアイドルとして勝ちたいということだろ?気持ちはわかった。後のフォローは俺と有希に任せろ」

 

「……」

 

 季乃は確かに他人に対して遠慮がなく、自身の利益や快楽を優先する人間だ。だけれど、彼女がそれだけの存在ではないということはこれまで接してきてよくわかっている。きっと今回の事例も彼女なりの覚悟を持ってやったことだと思う。

 

 だから今の季乃に掛けるべき言葉は叱りの言葉ではなく、その覚悟に対しての寄り添いだ。決して褒められるべき行動ではないが、その覚悟自体を否定することはできないから。

 

 ……季乃がここまで本気で取り組んでいるんだ。俺も全てを投げ捨てる覚悟を決めないといけないな。

 

「え、ちょっと待って。私?」

 

「頼んだ、うちの仲直り担当」

 

「ふざけんな」

 

 頭を下げると、有希の回し蹴りが頭上を通り過ぎる。有希に丸投げするわけではないが、実際有希の人望が無ければ正直厳しいところはあるからフォローしてもらいたいのは事実だ。

 

「ちっ」

 

 有希はあからさまに舌打ちをすると、これからのことを考えてか露骨にため息をついた。

 

「……とりあえず今はVenusグランプリのことだけ考えよう。フォローはその後でいいでしょ?」

 

「そうだな」

 

 Venusグランプリはまだ終わっていないどころか始まったばかりだ。今後もまだまだ考えないといけないことがたくさんある。

 

 その中でも一番はやっぱり彼女の事だ。

 

 夢野光。古都ことの次の対戦相手。結局、彼女のライブには皆を連れて現地で見ることはできなかった。

 

 映像はいくらでもあったので、それを見て研究はしたが、やっぱり直接見ないとわからないことも多いらしい。

 

「YUKINOはこの後オフにしているから、自主練するなり帰ってのんびりするなり好きにしてくれて構わない」

 

「お兄ちゃんはどうするの?」

 

「鏡花と話してくる」

 

「そっか。あんまり無理しないでねと伝えておいて」

 

「わかった」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。