星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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戦いの前夜

 

「〜〜♪」

 

 季乃のソロの後、すぐさま私も前へ。そして最後は息を合わせ声を上げる。

 

「「〜〜♪」」

 

 ……うん、自視点ではあるが、完成度としては申し分ない。スコアがどうとかは私にはわからないけど、悪くはないと思う。

 

 鏡を見ながら先ほどまで踊っていた曲について振り返っていると、ふと隣で一緒に踊っていた季乃が静かな事に気づく。

 

「どうしたの?」

 

 横を向けば不思議そうな表情で鏡をじっと見つめている季乃の姿があった。

 

「……」

 

「……?」

 

 声を掛けても反応なし。仕方ないので彼女の顔の前で大袈裟に手を振った。

 

「季乃ー。起きてるー?」

 

「わわっ。どうしたんですか有希ちゃん」

 

「こっちの台詞だよ。さっきから声掛けても反応なかったじゃん」

 

「あ、ごめんなさい。ちょっとぼーとしてました」

 

「……大丈夫?何かあれば相談乗るけど」

 

 明日はVenusグランプリの準々決勝。リズノワとの戦いだ。季乃がこんな調子だと正直困る。

 

 そんな思惑半分、心配半分で私が尋ねると、季乃は困ったような表情を浮かべた。

 

「ごめんなさい。さっきの曲について考えてました。もっとうまくできそうな気がして」

 

「へぇ?」

 

 季乃は完全に感覚派の人間だ。その感覚はかなり鋭いし、ステージにおいても、その感覚とやらから生まれたアドリブにかなり助けられて来た部分もある。だから私もそれは信用していた。

 

「どんなの?」

 

「えっとですね。もうちょっと熱量を上げて?感情を出す?みたいな感じです。なんかニュアンスが違いますけど」

 

「わかんない」

 

「えへへ、私もわかんないです」

 

 見た感じ嘘を言っている様子やはぐらかされた感じはない。さっきの曲について考えていたことは事実みたいだ。安心した。

 

「じゃあ一緒に考えよっか」

 

「はい!」

 

 

 

 

「ここの振り付け箇所ですかね?この振り付けが何のためにあるかピンと来ないんですよねぇ」

 

「……ってかそもそも間違っているし、足はこうだよ」

 

「えぇ!?」

 

 

 

「サビ前の踊りってどう思います?こんな感じなんですけど」

 

「うーん、季乃らしさはあるんだけど、この曲なら定石踏んだ方がいいかな。こんな感じ」

 

「なるほど」

 

 

 

「ちなみに私の歌はどう?サビ前のこことか不安なんだよね」

 

「暗くするのはいいんですけどちょっと聞き取りづらいですかね。〜〜♪みたいな感じで声ははっきり出しましょう」

 

「りょーかい」

 

「後、有希ちゃんはここのイントネーションおかしいです」

 

「そうなの?修正する」

 

 

 

 

「じゃあある程度纏めれたし、一回通しでやってみよっか」

 

「です!」

 

 

 

 それから何度か通しで試し、お互いのパフォーマンスは更に向上したと思える。私自身も不安だった箇所や、気づいていなかったところを指摘されて更によくなったと思えた。

 

「季乃はどう?感覚とやらは納得できた?」

 

「なんとなく見えてきました」

 

「もう少し練習する?」

 

「いえいえ、さすがに明日本番なのにこれ以上は体に差し支えます。それに――」

 

 季乃は胸に手を置き、想いを確かめるようにそっと呟く。

 

「これはステージに立たないと表現できないものだと思いますので」

 

「……そっか」

 

 結局私にはわからなかったけど、季乃がそれを理解することができたのならそれでいい。

 

 安堵しつつ、帰り支度を進めていると、私のバッグがわずかに振動していることに気づく。見てみると、携帯に着信が入りそのバイブレーションのようだ。

 

 なんで着信音が鳴ってないのか考えて、すぐに思い浮かんだ。そういや、ちょっと前にお兄ちゃんから電話と仕事の連絡以外の通知切っておけって言われたんだっけ。グランプリ中は連絡以外で携帯触るなって言われたし、まじで面倒くさい。

 

「誰からですか?」

 

「お兄ちゃんから」

 

 出ようか迷ったけど、出ない方が厄介なことになるのは目に見えているので仕方なく出ることにする。

 

「もしもし?」

 

『有希か?今日の自主練の件だが、最後まで切り詰めるのは悪いとは言わないけど、明日は本番だ。ほどほどにしておけよ』

 

「切るね」

 

『なんで!?ちょっと待った』

 

「ほかに何かあるの?」

 

 明日が本番で前日に張り詰めすぎるのはよくないことは私も季乃もわかっているし、今帰ろうとしていたところだ。いつまでも子ども扱いしてくるのが本当にウザい。

 

『伝えるかどうか迷ったが、夢野光の件でわかったことがあった。……今、聞くか?』

 

 季乃に聞いてみようと一目見て、何か考えながらスマホを見ている彼女を見て止めた。今の季乃にあんまり考え込ませるのはよくない。

 

「……今はいいかな。明日のライブに集中したい」

 

『そっか。わかった。余計な話をして悪かった。忘れてくれ』

 

「一生恨む」

 

『悪かったって。今度何か奢るからゆる』

 

 言葉の最中に通話を切る。あいつ謝ってお詫びすれば許してもらえると思っている節があるから本当にダメ。お兄ちゃんなんだから、もっとちゃんとしてほしい。

 

 まぁそれはともかくだ。

 

「季乃、帰ろ」

 

「はーい」

 

「何見てたの?」

 

「YUKINOアンチスレです。有希ちゃんの悪口言っているやつを粉砕してました」

 

「……あんま見ない方がいいよそういうの」

 

「立ち回りの研究ですよ。どれが悪かったのかとか。今の私にとっては大事なので!」

 

「病まないでよ」

 

「私は皆の嫌われ者……いなくなったほうがいいんだ!」

 

「さよならー」

 

「有希ちゃん置いてかないでー!」

 

 

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