星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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そんなあなただからこそ

 

 Venusグランプリの会場、ダイアモンドステージは八年前完成したばかりの新しい建物で、ガラス張りの天井が特徴だ。状況によっては開閉式の屋根で閉じることも可能だが、Venusグランプリにおいての基本的な方針はステージの周りだけ屋根を加え、他はガラス張りのままだ。

 

 けれどもこれはあくまで基本方針であってライブによって任意に調整することも可能。一番わかりやすいのが夢野光のライブのときだろう。

 

 彼女のライブは天然の光を最大限パフォーマンスに生かすため、あえて屋根を全開きにしていた。その結果として、雲が晴れ太陽が姿を現したときに光が差し込むという、神秘的で、奇跡みたいな演出を作り上げることができた。

 

 つまり、こういった演出を使いたいか、それとも偶発的な奇跡に頼らず作り上げたものを出し切りたいか。そういった駆け引きがこの会場には存在する。

 

 私は説明されたことを思い返しつつ、会場のスタッフと話し込んでいる兄の姿を見つめる。

 

 今日の屋根事情に関しては、私たちのライブが全開き。リズノワのライブが半開きらしい。

 

 だからなんだって話だけど。

 

 私は兄から目を離すと、ぎりぎりまで振付を確認していた季乃の傍に寄った。

 

「調子はどう?絶好調?」

 

「びみょーです」

 

「えー」

 

 何やら難しい表情をしている季乃を見るに本当に微妙なんだろう。昨日は元気そうだったのに。

 

「どうしたらいい?叩けば直る?」

 

「私はブラウン管ですか!叩いても季乃ちゃんは直りません!」

 

「困った」

 

 試しに手に持っていた進行用の台本をまるめ、バシバシ叩いてみるがピーピー騒ぎ出すだけだった。内面な問題なのだろう。結構重症っぽい。

 

「あら、有希じゃない。……何してるの?」

 

 季乃が腕に絡みついてきたためそれをはがそうとしていると、近くから聞き覚えのある声が聞こえてくる。顔を向けるとそこには莉央さんの姿があった。その後ろには他の三人のメンバーも見える。

 

「お久しぶりです。ちょっと遊んでました」

 

「へぇー随分と余裕なんだね」

 

 言葉を返すと、葵からそんな棘のある言葉が返ってきた。私としてはそんなつもりはないんだけど、お兄ちゃんや季乃がやってきたことを考えると敵意向けられているのは当然か。

 

「そんなことはないよ。私もこの日のためにレッスン頑張って来たし」

 

「そんなこと言ってまた何か仕掛けているんですよねー?サニピのときみたいに」

 

「期待されているところ悪いけど、今回は何もしてないよ。私たちも思うところがあってね」

 

「こころは騙されませんよ!って愛ちゃんが言ってます!」

 

「言ってないよ!?私が言ってたらおかしくない!?」

 

「三人とも落ち着いて。事前に話していたでしょ?相手が何をしてこようが、私たちはリズノワのライブを突き通すだけ」

 

 莉央さんはそう言ってまとめると、私の目を真っすぐ見て口を開いた。

 

「だからあなたたちも本気で来なさい。何をされようと私たちは負けないわ」

 

 ……ちょっと見ない間に莉央さんも変わった気がする。バンプロに居た時の研ぎ澄まさったようなギラギラした空気を感じた。相手にとって不足なし、というか相手にしたくないよね。でも、まぁ。

 

「勝つのはYU☆KI★NOです。トップを掴むまで私たちは負けません」

 

「……歩む道は違えど、目指す頂は同じってこと、ね。発破を掛けようとしたけど、余計なお世話だったかしら」

 

「えっと、どういう意味ですか?」

 

「なんでもないわ。行きましょ」

 

 背を向けて去っていくリズノワの面々。そのまま全員去っていくのかと思っていたけど、一人だけ残っている人物がいた。

 

「こころ?」

 

「……」

 

 彼女は季乃を見て何かを口にしようとして、すぐさま口を閉ざした。結局彼女は何も言わずに莉央さんに連れられていく。

 

 ……ま、いつも騒がしいのがここまで静かだとそりゃ一言言いたくなるよね。

 

「嫌われてますねー私」

 

「季乃じゃなくてYUKINOでしょ。それにあれは嫌っているんじゃなくて警戒しているだけだよ」

 

「そうでしょうか」

 

「そうだよ。……はぁめんど、最初からこうしときゃよかったか」

 

「え……有希ちゃん!?」

 

 なんだか色々と気を遣うのがめんどくさくなって食い気味に返した後、私は両腕を季乃の背に回す。季乃の驚いた顔が目の前にあった。

 

「誰がどう思おうが関係ないでしょ。季乃には私がついている。辛いなら私に相談して」

 

「わわわ、ゆ、ゆゆ有希ちゃん!周り!皆!皆見てますから!」

 

「ダメ離さない」

 

「あうぅ……」

 

 ずっと抱きしめてると次第に季乃の声が収まっていった。効果覿面みたいだ。

 

「……何してんだ?」

 

 しばらくそのままで居ていると、背後からお兄ちゃんの声が聞こえる。水を差されたことにイラッとしたが、いつまでも抱きしめているわけにはいかないので、季乃を離す。

 

「何も。何?用がないなら話しかけないで」

 

「……もうすぐステージ入りだから。その連絡」

 

「あ、もうそんな時間?」

 

 想像以上に季乃といちゃつきすぎていたみたいだ。私は抱きついて乱れた衣装を軽く整える。

 

「季乃、行くよ」

 

「う、うん。……でも、そんな有希ちゃんだから私は……」

 

「何か言った?」

 

「なんでもないです!行きましょう!」

 

 

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