星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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情熱が感情を燃やす

 

「さぁ!Venusグランプリもいよいよ準々決勝までやって参りました!皆様方!まだまだ元気は余っておりますでしょうか?ここからが更に熱くなって参りますよ!」

 

「早速今日の主役たちに入場していただきましょう!先行!気高さ、美しさを兼ね備えた黒百合の花!最後に咲き誇るは私達だ!LizNoirです!!」

 

 そんな挨拶と共に、反対側の入り口からリズノワの面々がステージに上っていく。そんなキャッチコピーがあるなんて聞いてない。私たちの分もあるのだろうか。

 

 四人の挨拶も終わり、スタッフさんから合図が入る。今度はYUKINOの番だ。

 

「そして後行!このVenusグランプリの台風の目!数多の実力者たちをなぎ倒し、自分たちの名を刻み込んできたダークフォース!そのアイドルはヒールか、それともヒーローか。YU☆KI★NOです!」

 

 ……やめてほしいなって思った。ヒールとかそういった言葉で区別されるのは好きじゃない。

 

 そんなことを思いつつ、態度はおくびに出さないように気を付けつつ、ステージへと上がる。

 

 リズノワに負けない大きな歓声が上がり、同時に同じくらい大きなブーイングが聞こえた。

 

「……うん?」

 

 ライブバトルをしているとブーイングなんて日常茶飯事だ。だからあまり耳にしないようにしていたけど、今日ばかりはしっかり聞こえた気がする。

 

 ま、いいか。

 

 季乃の様子を確認した後、私はステージいっぱいのお客さんに向けて口を開いた。

 

「皆、久しぶり。YU☆KI★NOの有希。今日はよろしくね。楽しんでいって」

 

 自慢じゃないが私はあんまり口が得意な方ではない。でも、淡白さが逆にいいらしいし、好評と聞いた。理由はよくわからないけど、無理したくはないし、これでいいのなら私は変えるつもりはない。

 

 湧いた歓声を耳にしつつ、私は季乃と目配せをし、彼女に出番を渡す。

 

「どうもー!YU☆KI★NOの季乃です!今日も皆さんをハッピーにしていきます!!楽しんでいってくださーい!!」

 

 ……あれ?

 

 歓声は沸いたがいまいち反応が悪い。季乃の挨拶も少しぎこちなく感じた。

 

「さぁここからはMCバトルの時間です!両者お好きにどうぞ!!」

 

「リズノワの方々と戦えるなんて光栄です!私も力いっぱい頑張りますよーー!」

 

「誰だい君。バンプロ時代から見ているけど君そんな子じゃないだろう」

 

「失礼な!?季乃ちゃんは皆を尊敬している健気な少女ですよ!」

 

「ダウト」

 

「聞きました皆さん!?ヒールはあっちですよ!私はヒーローなので成敗してやります!てりゃー!」

 

「はいはい、暴力ダメだからねー」

 

「ぐぬぬ、ライブバトルで決着をつけるしかないようですね」

 

 いつもの季乃っぽさはあるけど、ちょっと無理しているかな。私が出ようか。

 

「莉央さん、今日は負ける気はないですから」

 

「私もよ。お互いに全力を尽くしましょう」

 

「はい。……あぁそれとこころちゃんにも言っておかないといけないことがあった」

 

「あれれ?もしかしてこころの魅力にようやく気付いたとかですかー?」

 

「こころちゃんのキャラが季乃と被っているからその話し方止めてほしいって季乃が言ってた」

 

「言ってないですよ!?」

 

「養成所デビューは私が先なので季乃先輩が止めてほしいって愛ちゃんが言ってました!」

 

「言ってないよ!?」

 

 合わせてくれたこころちゃんにお客さんに見えないようにウィンクしておく。愛ちゃんは慌てた様子で言ってないってことをお客さんに説明していた。素直で可愛いね。

 

 ま、こんなところか。

 

「季乃から最後にガツンと言ってあげて」

 

「リズノワ許すまじ!」

 

「YUKINO許すまじ!」

 

 季乃とこころちゃんがお互いに言い合い、ステージが一度消灯する。次上がるときは曲が始まるときだ。

 

 私はステージ裏に用意されている椅子に座り、モニターを見つめつつ口を開く。

 

「季乃、ちゃんと見ててよ。今のリズノワのライブはすごいから」

 

「はい」

 

「……」

 

 言葉もないまま時は流れ、そしてその曲は始まった。

 

『全てをぶつけるよ!』

 

 "情熱だけで生きてみろ"。莉央さんの感情的な一言から始まるその歌は、四人の心からの叫びによって会場を一息に燃え上がらせる。

 

 王道のロックテイスト。ギターとドラムの音を前面に押し出し、会場中に熱いギラギラとした感情を響き渡らせる。

 

 舞台横から吹き出す炎と赤いライトアップが、四人を照らし出した。

 

『Shouting my song ただ届けたい

 

 Shouting my soul 高まれ my soul

 

 本当の私と 本当の君と

 

 Fight on, fight on!ぶっつけ合うんだ』

 

 莉央さんが、葵が、こころちゃんが、愛ちゃんが、交互にセンターに立ち、そのパフォーマンスでお客さんを盛り上げる。映像でも解析したけど、この曲は誰かが主役の曲じゃない。リズノワ全員が中心の曲だ。

 

『嘘じゃ無いんなら痛みだって

 

 受け取るよ それは覚悟なんだよ

 

 隠せない野望でいいんだ

 

 誰よりも輝いていたいって?Yes!』

 

 愛ちゃんの力強く一生懸命な真っすぐな動き、こころちゃんの愛嬌と悪戯心も合わさった遊び、葵の天才的な才から織りなす高度なダンス。そして、絶対的なセンターである莉央さんの他とは一線を越す圧倒的なカリスマ。誰もが、一級品の、絶対的なパフォーマンスを持っている。

 

『信じる信じないも自分次第

 

 罠だったり本心だったり 判別不能

 

 それでも心は前に前に

 

 だって本気で もっともっとが止まらないんだ』

 

 でもそれは個々のパフォーマンスがすごいってだけじゃない。莉央さんと葵の関係、こころちゃんと愛ちゃんの関係、色んな関係性がパフォーマンスに繋がりを生み出し、新たな一つのパフォーマンスを作り上げている。それは今まで一緒に歩んで、絆を育んできた彼女たちだからこそ、できるものだ。

 

 この曲は誰が欠けても作り上げられない。奇跡のような巡り合わせが、このステージを生み出している。

 

「やっぱりすごいね。リズノワは」

 

『なんで辛いの?そうだ……辛いね

 

 これからの険しい道さ

 

 でももっと凄いこと 見せつけてやるのさ……そうだろ?』

 

 一瞬の静けさの後、眩い炎がステージに打ちあがる。灼熱の炎の中に、四つの黒百合が気高く咲き誇った。

 

「あ……」

 

「季乃……?」

 

 わずかな声に横を向くと、何かに気づいたようにモニターを見つめる季乃の姿があった。声を掛けようとして、止めた。このライブに集中しているようだったから、邪魔したくない。

 

『Star shine strong

 

 負けたくないのは ずっと変わらない 変われない

 

 迷いながらも描き続けるのさ 熱い想いを』

 

 揺るがない情熱的な歌詞。歌声は自らの想いを乗せて、ただひたむきに叫ぶ。

 

 技術もそうだけど、リズノワは燃え上がるような熱い気持ちがステージに込められているからこそ、強い。決して誰にも負けないという覚悟が、パフォーマンスの一つ一つから伝わってくる。

 

「……そっか。そうだよね」

 

「……」

 

 ……なんとなく、今の季乃の気持ちがわかったような気がする。

 

 だって、この曲を聞いて、感情が燃え上がらないはずがないから。

 

『星は眩い夢 空に流して人を試しているのか

 

 もう抑えたりしない 我が儘だらけ

 

 情熱こそが生きてる証』

 

 ガタンと音を立て、季乃が立ち上がる。不安げだったその表情はどこか吹っ切れたように晴れやかに。そしてその白い手を私へと向けた。

 

『全てをぶつけたら

 

 全てをうけとめて

 

 情熱で生きてる証』

 

「有希ちゃん、勝ちましょう」

 

「当たり前だよ」

 

 その手をぐっと握りしめる。温かな体温が手のひらに広がる。

 

 ステージ上に大きな歓声が上がった。

 

 

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