星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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凶星の落ちた先

 

 異例のあのライブはSNSによって拡散され、トレンド一位になり、ネットニュースに、挙句にはテレビでも報道される始末となった。

 

 これは後から聞いた話だけど、どうやらYU☆KI★NOはサニピ戦以降炎上していたらしい。SNSでもすごいバッシングを受け、バンプロ社にもクレームが入る始末。

 

 私が気づけなかったのは、お兄ちゃんからスマホの制限を受けていたことと、外部のレッスン室を借りてほぼ籠りっきりでレッスンしていたからだ。だけど、季乃はそんなことはお構いなしにSNSをのぞき込んで一人病んでいたらしい。自業自得だ。

 

 そんな最中だから、ライブでもブーイングを受け、あの出来事があった。お兄ちゃんとしても警戒していたみたいだけど、まさかVenusグランプリのライブでそんなことをしてくるとは思わなかったと言っていた。なんか白々しいなって思ったけど、疑うときりがないので信じることにした。

 

 まぁ、そんなこんなで私たちは一躍時の人となった。Venusグランプリという大規模な祭典での暴言というメディアにとって恰好な餌があったのもあるが、YUKINOとリズノワの混合ライブがアイドル界隈で結構な支持を受けバズっていた。

 

 とはいえ、あれは飛び込みでのライブだ。事前計画にないああいったライブは各所に迷惑を生むし、支障をきたす。

 

 ということで、私たちは今、各所へ謝罪周りを行っていた。

 

「ご迷惑をおかけしました」

 

「はっはっは。大丈夫だよ。むしろ、あの頑張りがあったからこそステージは成功したんだ。誇りに持ってくれ」

 

 だけど、どこに行っても反応は悪くなかった。むしろ、私たちのあのライブが評価されているような印象だった。

 

 ……皆なんだかんだちょろいなぁってなんとなく思った。

 

「これで終わり!季乃ちゃんはもう疲れました」

 

「お偉いさんばかりだから変に緊張するよね」

 

「お詫びはお前の体で払ってもらおうか!ぐへへ!なんて言われたらどうしようってずっと考えてましたよ」

 

「季乃、任せた」

 

「なんでですか!嫌ですよ!」

 

 私たちが仲良く絡んでいると、前を歩いていたお兄ちゃんが申し訳なさそうな表情で振り向いた。

 

「あー、悪いんだがまだ終わりじゃない」

 

「は?」

 

「はいデート」

 

「はいデートってなんだよ……。有希も真顔で、はって言うな怖いから」

 

 そもそもさっきの場所が最後って言ったのはこいつだ。最後じゃないのに最後って言ったのかこいつは。

 

「お偉いさんへの挨拶が最後ってだけだ。次行く場所はそういった場所じゃない」

 

「どこに行くんですか?」

 

「あー、そうだな。正直俺も行きづらい場所なんだが」

 

 お兄ちゃんは一度、言葉を濁し、覚悟を決めるように呟いた。

 

「星見プロだ」

 

「パス」

 

「頼むから来てくれ……。俺一人じゃしんどい」

 

 私はため息をつき、仕方ないのでついていくことにした。

 

 

 

 

 

「星見プロダクション、リズノワール不在!!」

 

「タイミング悪かったね」

 

 迷惑をかけたのは星見プロとLizNoirの面々だ。ということでリズノワにも挨拶しようとしていたが、彼女らは私達より先に各所へ回り終え、すでに休暇に入っているらしい。

 

 私たちの星見プロへの謝罪はそこそこに、後始末はお兄ちゃんに丸投げし、私たちは街に駆り出していた。

 

 置いていかれた子犬のような表情をしていたお兄ちゃんには全力で笑っておいた。ざまぁみろ。

 

「有希ちゃんせっかくですし、星見プロの東京寮行きません?私も今サニピの子たちと顔合わせるの嫌ですし、こそーと挨拶しに行ってこそーと帰りましょう!」

 

「いいけど、あの子たちもあそこに住んでいるんじゃないの?」

 

「ふふふ、さっき星見プロに行ったときにホワイトボードで星見プロの面々のスケジュールは確認済みです。午後からは皆予定入っていたのでモーマンタイです!」

 

「そう。じゃ行こっか」

 

 東京寮には私も何度か遊びに行ったことがある。問題はないはずだ。

 

 

 白亜の壁と木製の柱がうまくマッチしたお洒落な建物。見上げるほど大きく立派な寮が星見プロダクションの東京寮だ。

 

 正午より少し前にたどり着いた私たちは念のため周りの様子を注意してから、入り口のインターフォンを押す。

 

『はーい』

 

 明るい朗らかな声が響いた。

 

 聞き覚えのある声だ。だけど、望んだ子たちの声じゃない。むしろこれは。

 

「なななななんでさくらちゃんががががが」

 

「季乃、動揺しすぎ」

 

「どどどどどどうしましょう?」

 

「会うしかないんじゃない?インターフォン押しちゃったし、私は出るよ。季乃はどうする?」

 

「私は……」

 

 昔の季乃であれば、ここでさくらちゃんに会ってもけろっとしていただろう。でも、アイドル活動を通して季乃も少しずつ性格が変わってきた。

 

「……会いますよ。ちゃんと謝罪しないといけないって思ってましたから」

 

「そっか」

 

 この子も成長してきたってことだろう。私は小さく笑みを浮かべた。

 

『えっと、どちら様でしょうか?』

 

「突然ごめんね。有希だよ。YUKINOの。ちょっと話したいことあってね。……嫌なら別にいいけど」

 

『あ……大丈夫だよ!今ドア開けるね!』

 

 すぐに足音が響き始め、目の前の扉が開かれる。そこにいたのは私服姿のさくらちゃんだった。

 

「おはよう!あ、季乃ちゃんもいたんだ!」

 

「あ、おはようございます……」

 

「おはよう」

 

 彼女は季乃を見て、驚いた表情を浮かべすぐさま言葉を繋いだ。

 

 ……私が出たことである程度季乃がいることは予見していたのだろう。嘘が上手いなって思った。

 

「中入って大丈夫だよ!今私しかいないから!」

 

「じゃあ遠慮なくお邪魔します」

 

「お邪魔しまーす」

 

 綺麗に清掃された玄関と通路。物は少ないが、グッズや思い出の写真も飾ってあり一目で和やかな印象を覚える。

 

 通路を抜けると木製のリビングが目に入った。大きな窓から日差しが入り込み、暖かな空気が心を落ち着かせる。

 

「紅茶持ってくるね!遙子ちゃんのお気に入りの紅茶だよ!」

 

「そんなもてなさなくても大丈夫だよ」

 

「ううん、お客様はちゃんともてなしなさい!って遙子ちゃんに言われているから」

 

 待っててねーとやかんを沸かせながら茶葉の準備しているさくらちゃんを、私は横目に見つめる。手元が怪しいし、普段紅茶なんて淹れなれていないのだろう。

 

「季乃、待ってて。手伝ってくる」

 

「え、あ、はい」

 

 そわそわしている季乃も心配だけど、こっちもこっちで怪我する可能性がある。私はリビングへと足を運ぶ。

 

「手伝うよ」

 

「大丈夫だよ。私一人で……」

 

「茶葉入れすぎ。この銘柄ならこれくらいでいい」

 

「あ、ありがとう」

 

 カップにお湯を注ぎ温めておきつつ、水が沸騰するのを待つ。沸いたら手早く人数分の茶葉を入れたポットにお湯を注ぎ蓋をする。しばらく蒸らし、スプーンで軽くかき混ぜたら完成だ。

 

「おおいい匂いだ!すごいね!」

 

「慣れてるからね」

 

「さすが!女子力ランキングトップスリー!」

 

「なにそれ」

 

 自分の知らないところで謎のランキングに参加させられていたみたいだ。しかも三位って。中途半端な順位だし喜びづらい。

 

「一位は遙子さん?」

 

「正解!」

 

 二位は難しいけど渚ちゃんあたりかなぁって思った。どうでもいいけど。

 

「ミルクとか砂糖はどうする?」

 

「私は大丈夫かな」

 

「りょーかい。季乃はー?」

 

「あ、両方くださーい」

 

「んー」

 

 人数分注ぎ終え、季乃の分だけミルクと砂糖を入れるとそれをリビングへと持っていく。

 

「そうだ!クッキーもあるんだよ!丁度昨日差し入れでもらったんだ!持ってくるね!」

 

 そう言って、さくらちゃんはドタバタとどこかへ駆け出していく。忙しない子だなぁって思った。

 

「……もしかしてあれですかね?ここで時間稼ぎしておいて皆が帰ってきたらここで村八分にされるとか」

 

「されたらいいんじゃない?」

 

「酷い!?そのときは有希ちゃんと一緒に逃げますよ!」

 

「んー」

 

 適当に返事しつつ、手に持ったカップを口の前で傾ける。うん、やっぱりいい茶葉だ。買った人はセンスある。

 

「お待たせー!」

 

 そうこうしていると、クッキーの箱を片手にしたさくらちゃんが帰ってきた。

 

「いっぱい入っているんだよ。じゃーん!」

 

「おぉ。食べ放題じゃん」

 

「しかもこれ有名店のお高いやつじゃないですか!羨ましいですねぇ。私なんて昨日のマネージャーからの差し入れ、コンビニで買ったお菓子でしたよ。昼食のついでに買ってきたそうです」

 

「ね。あいつまじで何もわかってない。ついでで買ったお菓子に誠意も思いやりも感じないっての」

 

「あはは」

 

 季乃と愚痴っていると苦笑いが聞こえてきた。雑談もこの程度でいいか。

 

「季乃」

 

「もう、わかってますよ。……さくらちゃん、今日は一言言いたいことがあって来ました」

 

「うん」

 

 さくらちゃんは真剣な表情で真っすぐに季乃を見つめる。けれどもその瞳は不安げに揺れ動く。

 

「私はライブバトルが好きです。ライブも大好きですし、誰かと競い合って勝つのも大好きです。それがVenusグランプリなんて大きな大会であれば余計にです。だから何をしても勝ちたいと思っています」

 

「……」

 

「それが誰かを傷つけることがあることも知っています。……だけど、これだけは言わせてください。私は誰かに不幸になってほしいとは思っていません。あくまで勝負事だから、それに勝つために全力を尽くしているだけです。だから……」

 

 季乃は一度言葉を濁す。彼女は自分の手をぐっと握りしめると、頭を下げた。

 

「ごめんなさい。そこまで傷つける気はなかったです」

 

 横から聞いていても我儘な言葉だと思う。勝つために傷つけようとしたのは事実だけど、それはあくまで戦いに勝つためであって、それ以降に引きずってほしいわけじゃない。だから謝らせてほしい。本来の姿に戻ってほしい。自分本位で、自分勝手な言葉だ。

 

 ま、それを知ってなお、知らない振りして、普段通り接している私も私か。

 

「許してなんて言う気はありません。だけど、私の想いだけは伝えておきたかっただけです。それが大切だと学びましたので」

 

 わずかに震えている季乃の手を私はそっと握る。これはあの事件の後、季乃なりにどうあるべきか考えて出した結果なのだろう。相変わらず我儘だけど、私は季乃の味方でいたい。

 

「……」

 

 言葉はすぐに返ってこなかった。こんな言葉言われたらさすがに唖然とするよね。そんなことを思いながらさくらちゃんに視線を寄越すと、彼女は驚いたように目を丸くしていた。

 

「え、えっと……」

 

「ご、ごめんね!ちょっと驚いちゃって」

 

「驚く?」

 

「うん、だって私が泣いたせいでYUKINOはバッシング受けちゃったから……。怒られちゃうと思ってて……」

 

 ……どこまでも優しい子、というより、これはそもそもYUKINOが信用されてないね。困った。これは予想外の反応だ。

 

「怒るなんてしませんよ!悪いのは私なのでバッシング受けたのも自業自得です」

 

「ううん、私もよくなかったよ」

 

「悪いのは私です!」

 

「私も悪かったよ!」

 

 ……なんだか埒が明かなくなってきた。フォローに移ろう。

 

「お互いの悪かった点はわかったよ。さくらちゃん、それで終わりじゃないでしょ?よければちゃんと気持ちを伝えてほしい。どんな言葉でも受け入れるから」

 

「そう、だね」

 

 さくらちゃんは、ぽつりと話し始めた。

 

「えっとね。正直私は季乃ちゃんの気持ちはあんまりわからない。ライブバトルで勝ちたいっていう気持ちもあるし、BIG4として負けちゃいけない気持ちもあるけど、何をしても勝ちたいという気持ちはわからないよ。だってライブはそのためにあるものじゃないから」

 

 ライブへの取り組み方の違い、それは私にも理解できる話だ。勝ちに執着したアイドルとそうでないアイドルなんてこれまでもたくさん見てきた。

 

「皆を明るく照らしたい。皆をもっともっと笑顔にしたい。それが私のやりたいことで、ライブを通してそれを皆に伝えたい。だから、季乃ちゃんの気持ちはわからないよ。でもね」

 

 さくらちゃんは季乃と私を見つめた。

 

「StarImitation、ディザスター、What is Me。二人のライブを見ていて、二人の勝ちたい気持ちが本気だっていうことはわかったよ。そして本気でアイドルとしてトップを目指していることもあのライブで伝わったよ。だから、えっと」

 

 そこで間を置くと、さくらちゃんは言葉を探すように頭を揺らし、そして言葉が見つかったのか口を開く。

 

「謝らないでほしい、かな。本気でぶつかり合った結果を、悪いなんて言ってほしくないよ」

 

「え……」

 

 季乃は驚いた表情でさくらちゃんを見つめていた。謝らないでほしい、か。

 

『アイドルのプライド。舐めんな』

 

 リズノワとのライブバトルの日で自分が言った言葉を思い出す。理解できてなかったのは私たちもか。

 

「えっと、謝られたのが嫌だったとかそういったわけじゃないよ!えっと、なんというか、その……」

 

「ううん、大丈夫だよ。ちゃんと伝わった。でも、そっか。謝らないでほしい、か」

 

 その言葉が少しだけ引っかかった。私たちがYUKINOがやっていくうえで大事なことが僅かに見えた気がした。

 

「さくらちゃん、ありがとう。想いを伝えてくれて」

 

「私からもお礼です。ありがとうございます」

 

「ううん、私は何もしてないよ」

 

「それでもだよ。ありがとう」

 

「……うーん、ちょっとこそばゆいよー」

 

 もぞもぞしているさくらちゃんを微笑ましく見つめていると、横からそっと袖を引っ張られる。横を向けば不満げな様子の季乃がそこにいた。

 

「何?」

 

「なんでもないです」

 

 なんだこいつ。

 

 というのは冗談で、大方私にもフォローしてほしかったとかそういったことだろう。まぁそれは後でも構わない。

 

 無視してすっかり冷え切った紅茶を飲んでいると、扉が開く音が聞こえてきた。誰か帰って来たのだろう。

 

「長居するのも悪いからそろそろ帰るね。今日はありがとう」

 

「うん、今日はありがとうね。私も頑張らないとねって思ったよ」

 

「……何か困ったことがあったら連絡してね。勝負事以外の内容であれば手伝うよ」

 

「あ、それなら一つだけあるかも」

 

「何?」

 

 帰り支度の手を止め、さくらちゃんを見つめる。すると、さくらちゃんは言いにくそうにもじもじしつつ、口を開いた。

 

「実は私、今日病院の検査で早めに仕事帰らせてもらってたんだ。それでね」

 

「うん」

 

「せっかくだし、皆早めに帰って、星見プロで唯一残った月ストの決起回をしようって話になってたんだ」

 

「うん?」

 

「マネージャーにも話を通して、ホワイトボードの皆の午後の予定の欄に書いてもらってたの」

 

「……」

 

 凄まじく嫌な予感がした。その予感が的中するかのように、リビングへの扉が開かれ、そこに人影が映り込む。

 

 足音から、話し声からして、一人じゃないのはわかっていた。でもこれは。

 

「なななななんでYUKINOがここにいますの!」

 

「玄関に見覚えのある靴があると思ってたんやけど、やっぱりYUKINOやったんやね」

 

「ま、まさか東京寮に侵入者が現れるとは!?愛ちゃんやっちゃってください!」

 

「東京寮への侵入者!?」

 

「きゃー!」

 

 驚き、警戒、悪ノリ。多種多様な反応をしてくるサニピ、月スト、リズノワ、トリエルの全員の姿。さくらちゃんはそんな皆の様子を見て困った様子で口を開いた。

 

「説明、手伝ってもらってもいいかな?」

 

 思わずため息が零れた。

 

 

 

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