「名実ともにトップアイドル。そして最強のアイドルである夢野光に勝つためには対策が必須だ。ということで、第一回夢野光対策会議開幕ー!」
「わー!大体第一回しか行われない対策会議だー。どんどんぱふぱふー」
「ぱふぱふー」
今日はお兄ちゃんの号令のもと、私と季乃、鏡花、お兄ちゃんでバンプロの会議室に来ていた。なんとなく嫌な予感はしていたが、やはりというべきか面倒なノリが始まり、お兄ちゃんの手元にデフォルメの何かが描かれた紙束がある。
「乗ってくれてありがとう。今回の会議はYUKINOが夢野光に勝つために情報共有の他、楽曲決めまでやっていきたいと思っています。ということで、資料作ってきましたので皆に配ります」
「またアナログに変わったんですか?」
「プロジェクター壊れた」
「うわ備品壊し」
「俺が触ったときには動かなくなってたの。だから俺はセーフだ」
「最低だね」
軽く睨んできたので鏡花にその仕草を見せるようにお兄ちゃんを指差す。お兄ちゃんは腕を掴まれ拗られていた。ざまぁみろ。
「というかこれ私たちですか!?」
「ふふ、そうだ。今回の表紙はYUKINOと鏡花のデフォルメだ。頑張って描いた」
「うわぁ」
「えっと、ごめんなさい慎二さん。これは擁護できないです」
「……」
「……なんでこんなに引かれてんの?」
グッズとか作っているし、自分の姿がデフォルメ化されていることに不満はない。季乃とかの見ると可愛いって思うし。だけど、当人の前でそれを使った表題を出すのはさすがに人の心を理解してなさすぎる。しかも本人がこれを描いて出してきたことも問題だ。
「ま、いつものお兄ちゃんでしょ。無視無視」
表紙を千切り、紙飛行機を作り上げる。武器の完成だ。
「あの……ま、いいわ。早速本題入るぞ。まずは夢野光について」
「Venusプログラムの不動の一位であり、国民的アイドル。高貴なスター性と時折見せるお茶目な姿が特徴のアイドルである。テレビやラジオでの活躍はもちろんのこと、特筆すべき点はライブバトルで八年もの間負けなしであり、今でなお連勝記録を更新中であること。衰え知らずの一等星である」
「鏡花、読んでくれてありがとう」
「資料に主観を交えるのは止めてください」
「ごめんなさい」
もっと言ってやってほしい。
「まぁ今更語るまでもないが、夢野光の概要はこんな感じだ。だけど、ここからはもっと深いところまで話していきたいと思ってる」
「深いところってなんですか?」
「立ち振る舞いとかそういったところだ」
「それが対策と関係するってこと?」
「その通りだ。……鏡花」
「はい」
資料を捲ると、夢野光についてとテーマが振られ、紙の中央に鏡花説明ゾーンと記載されていた。これ作ったやつ馬鹿だ。
「夢野光。彼女の振る舞いについて話したいところですが、全てを話すには時間が不足していますので、ライブに限った話のみさせていただきます」
「よろしくー」
「まずライブ中の所作のついて。いくつか資料として写真をお持ちしましたのでご覧ください」
見せられた写真にはMC中、マイクを手に歌っている最中、ダンスを踊っている最中の夢野光の姿があった。背景は一緒だけどライトの当たり方から察するにどれも別のライブの写真なのだろう。どれも素敵な表情でポーズも完璧だ。
「完璧、そう思いませんでしたか?」
「あ、うん。思ったよ」
「こちらの写真の前後を連射した写真も用意しています」
そう言って、見せられたのは夢野光が踊っている最中の写真。そこに映っていたのは。
「……どの写真でも映えるね」
ざっと目を通しただけでも、彼女の魅力が伝わる写真しかなかった。もちろんポージングが変わっているが、それはそれでいいと言える出来しかない。
「もしかして、カメラに向かっていいポーズが出来るようにパフォーマンスしていたとかですか?」
「それは当人に聞かねばわからないことですが、おそらくそうなるかと。そしてその対象はカメラだけじゃない」
「ファンってこと?」
「それもあるでしょう。でも一番はおそらく、採点AIのセンサーに向けてではないでしょうか」
「……」
採点AIに向けて、その採点AIが最高点を叩き出すパフォーマンスをするということだと思う。でもそれは。
「採点AIって新しいのに変わったんでしょ?以前までの話?」
「いえ現時点での話です。この写真も私とのライブバトルでの写真です」
「あぁ確かに。よく見たら背景ってあそこの会場だね」
「ほんとだぁじゃないですよ有希ちゃん!それってつまりもう新しい採点AIが解析されきっているってことじゃないですか!」
「その通りだな。まぁ鏡花とのライブで最高点取ってたしそれは想定していた」
採点AIが変わったとの話はお兄ちゃんからすでに聞いていた。新しいシステムによって一番ダメージを受けるのは夢野光ということも。でも、彼女はその採点AIで最高点を取った。だからこそ解析されつくしたと考えるのが妥当なのだろう。
「でも、解析したとしてもその解析結果に沿った動きをしないといけないわけでしょ?そんなこと可能なの?」
「有希の言う通りです。私もそこに絡繰りがあるのではと思い彼女のライブを夜通し確認しました。ですが、いくら探してもその証拠は見当たらず、とある推測だけが生まれました」
「それは?」
「夢野光のパフォーマンスはコンマ一に至るまで計算されている」
「…………」
言葉が出なかった。あまりにも現実離れしすぎていて理解が追いつかなかった。
「勿論、厳密にそこまで徹底することは人の身では不可能なので、無意識下で行っていることもあるのでしょう。だけどある程度は意識的に行っていると考えるのが妥当です」
「俺も同意見だ。俺も一緒に見ていたが、自然な動作であそこまで完璧になるとは思えない」
「へぇ……ってちょっと待った。お兄ちゃんも一緒に見てたの?」
「ん?うん、見てたぞ」
「夜通し?」
「あ」
途端お兄ちゃんは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、視線を彷徨わせる。
「うそですよね?」
隣を向けば泣きそうな表情の季乃の姿があった。
「先に言っておくが何にもなかったからな?ただの解析と実験していただけだからな?」
「ほんとうですか?」
「本当だ。俺の全てを賭けていい。本当だ」
「そ、そうですか。ま、まぁ慎二さんはヘタレですからね!そんなことできないですからね!」
「……まぁ信用してくれたんなら助かる。というかアイドルに手を出す気なんて一切ないからそこだけは信用してくれ」
私は手元にあった紙飛行機をお兄ちゃんに投げた。首にぶつかって痛がってた。
「話を戻して」
「次に――」
そこからいくつか話し合いが進んだ。夢野光は歌もダンスも最高峰。けども、最高峰といわれる技術も紐解いていけばその種が少しずつ見えてくる。特にダンスは、一つだけ確実に見えてくるものがあった。
「負けてないと、思いますね」
彼女の技術をひとしきり話した後、鏡花はぽつりとつぶやいた。
「うん?何が?」
「お二人の技術です。歌では季乃さん、そしてダンスでは有希。それぞれの分野においては負けていない。……いえ言葉を間違えましたね」
鏡花は私と季乃を真っすぐに見据えた。
「勝ってます。二人の得意分野であれば確実に」
「俺も同意だな。だからこそ、二人の課題はコンビネーションだ。二人の最高峰のパフォーマンスをそれぞれで発揮するんじゃない。掛け合わせないといけない。そのためにもだ」
お兄ちゃんがページを進め、そして最後のページを開く。
「新曲を作ろう。外部への委託じゃない。二人で考えた最高のパフォーマンスを見せよう。それがYUKINOが勝つためのラストピースだ」
その言葉に嘘は感じられない。本気の言葉だった。
私は季乃と目を合わせ、頷き合う。ここまで考えてくれたのなら、もう選択肢なんてない。
「わかった。やろうか」
「私たちの真の姿見せてやりましょう!」
お兄ちゃんは僅かに笑みを浮かべた。