会場には無数の光が煌めく。ステージライトの光、ペンライトの光、そして夜空に煌めく星々の光。
それらの光が私たちの立つステージのみに当てられる。けども、不思議と緊張はなかった。あるのはこの光が当てられていることへの優越感と、これから成し遂げるライブへの興奮のみ。
でも、今はまだ。その感情が表に出てこないように必死に抑えながら、私はマイクを取った。
「皆さん、ただいま。御堂有希だよ」
「斎木季乃です★」
「「二人そろって、YU☆KI★NOです!」」
歓声の声が上がる。それが鳴りやむのを待って、言葉を続ける。
「今の挨拶初めてやったけどプリキュイみたいだね」
「ふたりはYUKINO!ファンの皆にラブハート!じゃないんですよ!有希ちゃん準決勝ですよ!ちゃんとしてください!」
「季乃が乗って来たんじゃん」
「有希ちゃんが最初でした!」
「はいはいごめんね」
「雑っ!!」
お客さんの笑い声に合わせて、私は季乃を横目で見る。
白を基調としたアシンメトリーのフリルドレスにイメージカラーである薄い水色の装飾。髪には星を形どった金色の髪留めがキラリと光る。黒と赤の装飾、そして銀の髪留めをした私とは対照的な衣装だ。アシンメトリーの向きも二人で対照的で、重ね合わせれば一つになる。今の私たちに合った最高の衣装だ。
綺麗なベージュの髪から覗いた瞳が、ウィンクを返してきた。
「お話はこれくらいに、そろそろ曲行こうか」
「えー、何かないんですか?ほら意気込みとか」
「MCバトルの時に話したじゃん。それに、そういうのは全部パフォーマンスで語りたいから」
「ふふ、有希ちゃんらしいですね!じゃあ私もそうしましょう!ライブで私たちの想いを覚悟を伝えて見せます!だから」
そう言って季乃は、いじらしく弱気な態度で静かに呟いた。
「私たちの歌、聞いてくださいね?」
相変わらず人を手玉に取るのが巧い。でも今はそれが誇らしくも感じる。
「じゃあ行きましょう!」
季乃の発言と共に、私たちは隣立つ。お互いに背中合わせに立ち、胸にそっと手を当てる。
「I am IDOL」
私の言葉と共にメロディーが響き渡った。
『To acknowledge us
今世界に奏でよう
I am IDOL』
静かなピアノの旋律。そのメロディーに乗せ、私たちの歌を響き渡らせる。力強いドラムサウンドが私たちの背を押して、その歌を会場中に、世界中に轟かす。
背中越しの季乃に一度別れを告げると、私は会場を舞う。再び落ち着いてきたメロディーに合わせて、そっと、口を開いた。
『ねえ 初めて見た景色を
あなたは覚えている?
きっと 忘れているよね』
私がアイドルになろうと思ったきっかけ。それは学校の文化祭で季乃に強引に参加させられたライブだった。合わせも一度もできなくて、ぶっつけ本番のライブ。でもそこで見た景色が私は忘れられなかった。
背を向けて踊っている季乃に向けて、優しく語り掛けるように、自らの想いを手繰り寄せて一つ一つに想いを込めて。
『あなたが教えてくれたから
私はここにいるんだよ』
眩いくらいに輝くステージライト。見たことのない景色が、退屈だった私をアイドルへと導いた。だからそれを教えてくれた季乃への感謝は尽きない。
『でも 続ける理由とは違うかもね』
その言葉と同時に私はターンを踏み、お客さんへの向き直る。私がここで見てきたものをすべて伝えるため、歌を響かす。
『望んだ景色はもっと遠くて
見えないものが 数えきれないほど溢れてさ
そこで笑った日々が 忘れられないから』
アイドルは思っていたよりも綺麗な世界ではなかった。薄汚いものも、誰かの陰謀もいっぱい見てきた。私が楽しいと感じたステージだって、簡単に壊されると知った。
でもそれ以上に、私が本気になっても届かない世界があって、まだまだ見えない景色がたくさんあって、それを望み、挑み、ステージに立った日々がとても楽しかった。私自身の幸福がこれだと思った。だから、私はアイドルを続けたい。季乃というかけがえのない最高の相棒と一緒に、もっともっとステージに立ち続けたい。
サビ前のステップで私は最上に舞う。私が今まで積み重ねてきたものを披露するため、私がここまでやってきた理由を示すため。私が感じるこのステージの喜びを私の全身で表現するため。
そして。
『私がここで舞うこの喜びを
あなたにももっともっと知ってほしいから
迷子の時は導いてあげる
二人で、ユキの音を、世界に響かそう』
季乃と手を結び、前を向く。
世界が私たちの物になった気がした。このまま時が止まってほしいって思った。私が思うがままに舞って季乃がそんな私の踊りを一緒に踊ってくれて、最高の気分だ。だって、こんなに、こんなにも世界は輝かしいのだから!
四方に広がる無数の煌めき。溢れんばかりの光の奔流に、満面の笑みが浮かび上がった。
『いつかきっと終わる日が来るだろうけど
私はその日に抗わないよ
だから決して揺るがない覚悟を持って』
私は世界に向けて腕を突き出し、御堂有希というアイドルを刻み込む。
『今ここに舞う
I am Idol』
世界こそが私のステージ。気ままに舞い、楽しみ続ける。これが御堂有希だ。
心行くまで舞った後、私は、次の出番はあなただよと言葉を込め、季乃の背を押した。
有希ちゃんが歓喜の笑みを浮かべながら、会場を舞う。背中を押してくれた彼女に、私は笑みを浮かべながら静かに紡ぐ。
『ねぇ 忘れないよ
あなたと見た景色を
大切な 宝物だから』
ピアノの静かな音が緊張していた心をそっと和らげる。有希ちゃんにも、慎二さんにも言ってないことだけど、私はライブ前になると緊張してしまうことがある。けれどそれが表に出ないのは有希ちゃんが慎二さんがいつもいつも、私の傍にいてくれるから。二人がいるから、私は頑張ろうって思えて、いつの間にか手の震えも無くなっている。
私は感謝の気持ちを込めて、あなたの背にそっと背を当てる。背中越しに感じる体温が暖かくてずっとそこにいたくなる。
『あなたが隣にいたから
一人じゃないって気づけたんだよ
大切な居場所ができたんだよ』
けれども私はその場所を離れた。一人で迷って私という存在を見失ってしまったあの日を思い返すように。私は一人行き場もなく歩みだす。
『だけど 幼い私は失うことに怯えて
赤い三日月に囚われて迷い込んでしまって』
あの日の事は今でも思い出す。自分が嫌われているという自覚はあった。けども自分を認めてくれる人がいて、傍にいてくれる人がいるから私はアイドルとして頑張れていた。でも、そんな自分のせいで大切な二人がいなくなってしまうかもしれない。そう気づいたとき、私は私という存在が許せなくなった。
でも結局答えが出せなくて曖昧なまま過ごしてきて、そしてディザスターを披露した後、私だけじゃなくて有希ちゃんまでバッシングされているのを見て、私は変わろうって思った。このままだと、有希ちゃんがいなくなってしまうから、私が変わっていい子になろうって思った。
だけど、あなたが、今の私と一緒にアイドルをやりたいって言ってくれた。だからまたわからなくなった。
リズノワのおかげでなんとか情熱を燃やしてライブをやり遂げた。このまま迷い続け生きていくのかなって思った。でも、怒声を浴びせられて、ステージを壊されて、私がどれだけ疎まれているかを知って、もうダメかなって思った。
『でも君が守ってくれたから 決めたんだ』
その言葉と共に私は駆け出し、あなたの隣へ立つ。
私のために叫んでくれて、私を守ってくれたあなたがいたから私は気づくことができた。私は一人じゃない。有希ちゃんと二人でYU☆KI★NOなんだって。そして私はそんなあなただからこそ大好きで、ずっと傍に居たいんだって。
だから。
『この歌を今あなたに届けたい
私の想いを全部あなたに伝えたい
迷ったときに抱きしめてくれた
大好きな あなたが きのうより笑えるよう』
私はアイドルが好きだ。でもそれ以上に、有希ちゃんと一緒の今のYU☆KI★NOが大好きだ。ならずっと今のままで一緒に居ればいい。わからなくなったときは一緒に悩んで、怖いときは一緒に立ち向かえばいい。ずっと一人だったから、そんな当たり前なことを今更気が付いた。
だからずっとずっと一緒だよ。
胸いっぱいの想いを込めて、歌を紡ぐ。全ての想いがあなたに伝わるように。
『終わりなんて言わせてあげないから
ずっとそこに居させてみせるから
だから私は 私のまま今届けよう』
あなたに届くように、精一杯に!
『今ここに歌う
I am Idol』
エピローグに入って私たちは二人で踊る。時に背中合わせに、時に手を繋いで、私たち二人の空間になったようにどこまでも、再度歌いだす瞬間まで、お互いに顔を合わせ、とびっきりの笑顔で。
最後のメロディを奏でよう。
『例え世界に認められなくても
どれだけの人々に責められようとも
私たちは前を向いて歩み続ける』
私たちが歩んできた道は、ずっと誰かに疎まれる道だ。きっとその道はこれからも続くのだろう。でも、私たちはこの道を誇りを持って、プライドを持って歩もう。
だって。
『私が 私たちこそが アイドルだから』
二人で手のひらを握りしめながら、歌を届ける。どこまでも透き通る声で、どこまでも目を引く踊りで、世界中にYU☆KI★NOを知らしめるために。
『ずっと』『その時まで』
『YU☆KI★NOは輝き続ける』
最後は二人で、YU☆KI★NOの全てを込めて。
『To acknowledge us
今世界に奏でよう』
『I am IDOL』
I am IDOL
イメージ My Dearest