星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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Polaris

 

「やられたなぁ……」

 

 舞台裏、ステージが見えるモニターの前で私は思わず声が漏れた。

 

 見ていたのは先ほどまでのYU☆KI★NOのライブだ。I am IDOL。初めて披露する楽曲で、パフォーマンスは十分。でも、それ以上にアイドルのライブでもっとも重要なものがそのライブには合った。

 

「光……すまない」

 

「なんで謝るの?」

 

 隣で見ていた神野司が頭を下げた。それを見て私は首を傾げた。

 

「……もしかして私が負けるって思ってる?」

 

「……そうは思ってないけど」

 

「嘘つき」

 

 自分が高校生の時からずっと一緒に居たから神野のことは自分の事以上にわかる。嘘を吐く時の癖もわかっていた。

 

「……」

 

 押し黙ってしまった我がマネージャーに、私はやれやれと大げさに手を振りながら、口を開く。

 

「確かに物凄いライブだった。モニターで見ているだけでも楽しかったし、ずっと見ていたいと思えるライブだった。得点面で考えても結構な高得点だろうね。私の平均スコアを越えるくらいのすごいライブだよ」

 

 長年ライブを続けていると、自身のスコアだけではなく、他のアイドルのスコアまでなんとなく見えてくる。あんまりそういう見方をするのは嫌だけど、私自身が勝つために、トップであり続けるために仕方なく続けてきたことであった。

 

「でも、だからといって負ける気にはならないよ。彼女たちは自分らがアイドルだって言ってたでしょ?ならば私は」

 

 一呼吸置き、言葉を続ける。

 

「トップアイドルだから」

 

 神野の驚く姿に、思わずふふんと鼻が鳴る。我ながらしっかり決めれたと思う。

 

「……そういうところがなければカッコいいんだけどなぁ」

 

「ちょっと、聞こえているからね?」

 

 失礼なやつだという抗議を込めて、私は呟く、彼はそんな私を見て小さく笑みを浮かべた。

 

「ごめんごめん。でもそうだなぁ」

 

 彼はモニター上のYUKINOを一目見つめた後、私と目を合わせる。二人っきりで居る時に見せる子供じみた純粋で真っすぐな瞳だ。

 

「僕は夢野光のライブの方がすごいと思った」

 

「ふふん、そうでしょ?」

 

「あぁ。その通りだ」

 

「……まぁ私はトップアイドルですから!」

 

 真っすぐ言葉を続けられるとさすがの私でも照れる。さっさと切り上げ、私は立ち上がった。

 

「さ、そろそろステージに上がらないと」

 

「そうだね。……光」

 

「何?」

 

「頑張って。応援してる」

 

「うん、任せて」

 

 自然と笑みが浮かび上がった。ぎりぎりまで手を振ってくれている彼を横目に、私はステージへと上がる。

 

 ステージに大きな歓声が上がった。

 

 

 

「皆、ただいまー!夢野光です!」

 

 溢れんばかりの光が私の視界を覆う。興奮と羨望の眼差しが、心臓を高鳴らせる。その期待に応えられるように、私は声を張り上げた。

 

「歓声ありがとー!今日はなんと準決勝です!ファンの皆盛り上がっているかー!?」

 

「「「おおおおおおおお!!!」」」

 

「こんなものじゃないでしょ!もっともっと声を出して―!おーーーー!!」

 

「「「「「おおおおおおおお!!!!!」」」」」

 

「そうそう!それでこそだよ!」

 

 YUKINOのライブ後というのもあって、会場のテンションは十分に高まっている。私は彼らの楽しそうな表情を見て満足した後、続けて口を開く。

 

「私はね。このライブバトルが私にとってターニングポイントになると思ってる。私がトップであり続けれるか、それともこの座から落ちてしまうか。そんな大事な戦いだと思ってる」

 

 我ながら夢野光らしからぬ弱気な発言だと思う。皆の夢ならば、こんな発言はするべきではない。でも、私は知っている。いつも私一人の力で勝ってきたわけじゃないってことを。だから。

 

「皆の力を貸してほしい。皆の声援が私の力になるから。皆の想いを私に届けてほしいの。……お願いできる?」

 

 YUKINOの季乃ちゃんのようにちょっとだけいじらしく甘えるような仕草で。

 

「光ちゃん、頑張れーーーーー!!!!!」

 

「YUKINOに負けるなぁーーーーー!!」

 

「絶対に勝てるよ!!!応援してます!!!!」

 

「うん、うん、ありがと。皆の声援伝わりました!!」

 

 悪いことをしているなぁという自覚はある。でも、私は夢野光である以上負けられないから。私にできることはなんだってしてみせる。

 

「皆の夢を光に変えて!夢野光行きます!」

 

 立ち位置を整え、胸に手を当てる。会場が静まるのを待って、私は口を開く。

 

「Polaris」

 

 ギターとドラムが織りなすエレクトロ染みたロック。そこにピアノの旋律とバイオリンの奏でを組み合わせたSFチックの近未来音楽。

 

 そのBGMを背景に、私は口ずさんだ。小鳥がさえずるように軽く和やかに。

 

How's the mic doing?(マイクの調子はどう?) light?(ライトは?) Yeah, good?(そう、いい感じ?)

 

 Did I get my tune-up?(私のチューニングはできた?) Huh.(ふふ、)Just kidding(冗談だよ)

 

 Okay, let's get started(じゃあ始めようか)

 

 I'll give you my stage(私のライブを)

 

 歓声に合わせて笑顔を浮かべ、ファンサを送る。パフォーマンスは一切崩さずに、決められた秒数だけコンマに至るまで確実に。

 

『歌は曲に乗せて奏でるように

 

 誰かの胸を打つような美しい調べで

 

 ダンスは皆の視線を外さないように

 

 完璧で素敵な仕草で wink』

 

 私のパフォーマンスのすべては作られたものだ。どうすれば完璧であるかを追求し、そして生まれた回答にそって私を動かす。そうすることで、最高のパフォーマンスが生まれる。ダンスが得意ではなかった私でさえ、ここまでのパフォーマンスができるようになる。

 

 それを悲しいものと、虚しいものと言われたこともある。でも、私にとってはトップアイドルであり続けてきた手段だから、決してそうは思わない。十全たるプライドを持って、私は私のパフォーマンスを行う。

 

『あなたの夢を sing up

 

 果てない光で shining

 

 掲げる pride は

 

 私自身の identity』

 

 だけど、今日の私はいつもと違った。いつもより心臓は高鳴るし、いつもより冷静になれない。

 

 焦りは浮かばない。体のコンディションが不調なことはこれまでにもあった。不調の内容を把握し、それに対応した動きを為すだけだ。そこには問題はない。……けど、今日の感覚はこれまでにない不思議な感覚だった。

 

『夜空に煌めく無数の星々が

 

 私の存在を作り出す

 

 皆の夢が、私の光を輝かせる

 

 何よりも輝くPolaris(一等星)のように』

 

 アイドルのライブでもっとも重要なものは自分をアイドルたらしめるものの証明だ。それがあるからこそ、お客さんはこのアイドルの事を理解でき、そしてアイドル自身の自信とファンによって、ライブは輝く。

 

 だから、腕を長く伸ばし、私という存在を最大に輝かせる。絶対的なアイドルである夢野光という存在を、ここに。

 

 大きな歓声が上がって、思わず笑みが浮かび上がった。そして、その笑みが予定にないことにすぐさま気が付いた。訂正しようと、感情を探って、ようやく私は気が付いた。

 

 私はこのライブを楽しんでいる?

 

『Light to the World

 

 Light to the You

 

 Dreams come true

 

 Absolutely, as long as I'm here』

 

 眩い光が、空に覗く夜空が、全てが美しい。それらすべてが私に向けられていることが嬉しい。そして、私の仕草一つでそれらの光が瞬く間に姿を変えるのがたまらない喜びを生む。

 

 そして何よりも、自分が自分だけの力で、これ以上ない相手に全力で挑んでいるということが、たまらなく楽しかった。

 

 ……そうだったね。忘れてた。私は、ライブが夢中になるくらい大好きなんだ。何も考えずに目の前のお客さんに向けてパフォーマンスする。それが、これ以上ないくらい大好きなんだ。

 

 久しぶりに思い出した感情だった。ならば、私の最後に為すべきことは簡単だ。

 

 誰かの光じゃない。夢野光という存在をここに刻む。

 

『So,ここにあり続ける

 

 青春のすべてを描いたこの地で

 

 夢の光を世界中に届けるため

 

 continue to be』

 

 計算はすでに崩壊した。それが誰かの掌の上なのかは判断がつかない。でも、今の私にとってはそれでも構わない。この一瞬を永遠のものにしたいくらい、最高のライブを送れているのだから。

 

 だから、その全てを込めて、私は最後に叫ぶ。

 

『Polaris!!!』

 

 

 

 

 

 YU☆KI★NO VS 夢野光 互いに死闘を尽くした戦いが終わった。残るはその結果を発表するのみ。

 

 有希はやるべきことはやり遂げたと言わんばかりの表情で無言でモニターを見つめ、季乃はそんな有希の手を握りながら、祈るように目を閉じる。

 

 私は、そんな彼女らを一目見て、自らの胸に手を当てる。

 

 やっぱり興奮している。いやこれは緊張?不安かな?……ううん、なんでもいいや。

 

 自分の感情に首を振った後、モニターに視線を戻した。今はただ、勝敗の結果だけが気になったから。

 

『結果……出ます!!!』

 

 MCの言葉の後、モニターにお互いの姿が映り込み、スコアグラフが表示される。

 

 揺れ動くグラフが、私の鼓動を更に早くさせる。今か今かと待ち続け、そしてようやく結果が表示された。

 

『勝者は――――』

 

 ホワイトアウトが開け、そこに姿を現したのは一組のアイドルだった。

 

 

『――――YU☆KI★NO!!!!!絶対的なアイドル、夢野光!ここに敗れる!!!!!』

 

 

「…………そっか」

 

 ぷちっと何かが切れた音が聞こえた。思わず体が崩れ落ちそうになるのを、ステージ上だからといった理由だけでなんとか押し留める。

 

「負け……かぁ」

 

 目の前ではしゃいでいる二人の姿が、何よりも眩しいものに見えた。それはまるで初めてアイドルを見たあの景色のように。

 

「私にとっても、夢……だったんだなぁ」

 

 瞳から涙が零れ落ちた。

 

 




Polaris
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