星見市を巡るならばまずはここ!星見市名物の流星が良く見える高台で、星見まつりやライブ会場としても使われる場所。星見市の高台です!
坂を上った先にある星見市の高台。自然豊かで、星見市が一望できる。俺も好きな場所だ。
そういや鏡花とちょっと前にも来たなと笑みを零しつつ、俺は木々に包まれたその場所をのんびりと歩き、窪地にある石造りのステージにたどり着く。
「デビューステージ……か」
長瀬麻奈、月スト、サニピ。麻奈ちゃんのデビューライブは見たことがないから、俺としては月ストとサニピのデビューライブの思い出が強い。
まだまだ未熟でパフォーマンスもたじたじで、でも皆楽しそうにキラキラしていた。俺もあのときは無邪気にライブを楽しんでいたなぁ……。
少し懐かしい気分になる。同時に俺が不審者になったのもこの近くで、だっけ。
あの頃は長瀬麻奈の死に囚われて、あんな悲劇を起こさないために俺がなんとかしようって躍起になってたっけ。結局空回りしてて、迷惑ばかり掛けていたけど。
今振り返ってみると言動が迂闊すぎた。やるにしてももう少しうまいやり方があったんじゃないかって思う。やるなよって話だけど。
階段を上って風に浸った後、俺は高台を後にした。
次の場所も外せない名所です!星見市の海岸、海の公園です!夜になると星が海に浮かんでいて綺麗ですよ!
この場所も懐かしいな。小さいころから来ていたから、色んな思い出があるけど、直近だと遙子さんがアイドルを辞めようとしていたときに、たまたまその話を聞いてしまったときかな。
『まだまだアイドル、続けるよ』
麻奈ちゃんが好きで、長瀬麻奈というアイドルを追っかけていたけど、それはあくまで麻奈ちゃんだったからというのが大きい。アイドルというものに興味が沸いたのは佐伯遙子というアイドルを見たからだ。
そこで改めてアイドルという職業の大変さを目の当たりにしたから、その輝きの偉大さが、美しさがわかった。だから俺は彼女たちを全力で応援しようって決めたんだ。
だから、そのきっかけを与えてくれた遙子さんが辞めようとしていると聞いて、居ても立っても居られなくなった。結局、これも俺が何もしなくても彼女自身の強さで立ち直ってくれたんだけども。
……そういやあの時俺を引き留めたのってなんだったんだろうなぁ。麻奈ちゃんの幽霊だったりして。そんなわけないか。
でも、もし本当に麻奈ちゃんの幽霊がいるのならば、俺は彼女になんて言うのだろう。ずっと好きでした?困らせてしまうだけだと思うけど。
……あ、一言だけあったわ。
「ありがとう」
麻奈ちゃんがいたから、俺はアイドルが好きになって、そしてYU☆KI★NOや古都ことのマネージャーになれた。彼女のおかげで今、俺はここにいるんだと思う。
だからそのことを感謝したい。君が俺をここまで導いてくれたから。
「……俺が言うのは皮肉か」
Venusグランプリで麻奈ちゃんに思い入れのある子たちを倒している俺が言える言葉じゃなかったなっと一人自虐気味に笑う。
アイドルファンなら外せない名所!なんとサニピと月ストが住んでいたとされる寮、星見寮です!
「プライベートな場所紹介すんな。ダメだろ」
一人突っ込みを入れつつも、俺は徒歩で星見寮まで歩いてきた。
今は誰も住んでいないらしいが、驚くほどに外装は綺麗だ。
さすがに中には入れないため、外からじっと見つめていると背後から足音が聞こえた。
「……御堂?」
「ん?」
その声に振り返ると、きちっとしたスーツの男の姿が目に入る。いかにも真面目といった風貌で清潔感のある身だしなみ。星見プロのマネージャーの牧野航平だった。
「おー牧野。久しぶり……だよな?」
「最近会えてなかったから久しぶりであっているよ。……ところで御堂、何していたんだ?」
「何ってそりゃ……」
観光、と言おうとして、この場所が観光地じゃないことと、俺がここにいる不審さに気づく。おのれ季乃やってくれたな。
「丁度休みでこの辺ぶらぶらしててな。せっかくだし、寄ってみた」
「寄ってみたって……。まぁいいか」
御堂だもんなぁと失礼なことを呟いている牧野を小突いていると、ふと疑問に思った。
「そういやなんで牧野はここに?」
「掃除だな。たまにこっちの寮も使うことがあるから、定期的に掃除しているんだ」
「なるほどな」
だから綺麗なままなのか。俺は一人納得し、言葉を続ける。
「掃除、俺も手伝っていいか?」
「構わないが……」
「何も企んでねぇよ。俺を侮るな」
「侮れないから疑っているんだが……わかった。掃除道具は中にあるから手伝ってくれ」
「任せろ」
それからしばらく、星見寮の掃除を行った。各々の部屋がある場所は出入り禁止らしく掃除できていないが、リビングやキッチン、縁側まで隅々まで掃除し、庭の草むしりまでやらされた。
正直そこそこに掃除するくらいだろうという認識だったため、すごく疲れた。草むしりをさせるな。
縁側でだれていると、牧野がペットボトルの水を渡してくる。大人しくそれを受け取り、口に含んだ。水の冷たさが火照った体に冷ましていく。
「なぁ、御堂」
「ん?」
「ここに来たのは本当に偶然か?」
まだ疑われていたのか。まぁ俺がやってきたことを考えれば当然かもしれないが、そこまで疑われると俺も悲しい気分になる。
「観光だよ。ほら」
そう言って俺は、季乃から貰ったツアーガイドが書かれたメッセージを牧野へ見せる。彼は驚いた表情を見せ、頭を下げた。
「疑って悪かった」
「悪人だな」
「……御堂に言われたくないが」
「そりゃそうだ」
懐かしいやり取りに思わず笑みが浮かんだ。学生時代もこうやって駄弁っていたっけ。
「御堂は、どうしてアイドルのマネージャーになったんだ?」
「有希と季乃に頼まれたからってのが一番の理由だな。ほらI-UNITYのころの姫野の事件知っているだろ?あれでYUKINOも不安がっていたんだ」
バンプロダクションの社長である朝倉恭一が逮捕された一件だ。実際は無罪で姫野の謀略によるものだったんだが、謀略の一環で元YUKINOのマネージャーも解雇され、そこに転がり込む形で俺が配属された。
……今思うと、あれはたぶん母の力…御堂紫穂の力を借りたかったんだろうなって思う。だから新人の俺がYUKINOのマネージャーになった。
でも、新人故に出来ないことも多く、色んな失敗もしてきた。俺も無理が祟って事故にあってあいつらを心配させてきたしな。
「そうだったのか」
「うん、でも俺はあの一件が無くてもマネージャーになっていたんだろうなって時々思う」
「どうしてだ?」
「俺はアイドルが好きだからだよ。表面上だけでなく、その裏側も含めて尚、な」
アイドルとは決して輝かしいだけのものじゃない。見えないところでの努力、裏側での熾烈な争いがあって、表舞台に立てている。そして表舞台ではその努力や戦いを一切見せず笑顔をパフォーマンスを振りまく、それが如何に美しいか。
「皆の頑張りを応援するだけじゃなく、サポートしたい。その夢を叶えたい。そう思ったからこそ、マネージャーを今も続けている」
……鏡花をスカウトしたときも同じような言葉を告げた気がするな。自己を育むため、とは鏡花は言っていたが、とっくに自己は育っていて、皆の夢になりたいと願うようになった。その過程がサポートできていればいいなと心から思う。自己評価としてはまだまだだけど。
「立派だな。……やっぱりすごいよ御堂は」
「そんなことねぇよ。俺から見たら牧野のほうがよっぽど立派だよ」
「そんなことないよ。だって俺は、皆を勝たせることができなかったから」
そう言って牧野は両手を固く結んだ。……そういう真っすぐなところが立派なんだよ。俺にはもうできないから。
「……そうじゃないって言うのは、俺から言うべき言葉じゃないんだろうな。何も言わないよ俺は。だから」
先程から足跡は聞こえていた。丁度十人分で、こっちに来るだろうなというのは容易に想像できた。
「励ますのは任せた。月スト、サニピ」
背後にいたのは、月ストとサニピの面々。彼女らは一様に険しい表情を浮かべ、そして口を開いた。
「「「マネージャーをいじめないでください!」」」
「…………あ、俺!?」
急な言葉に驚き、そして今の状況だけを考えて、思わず声が漏れた。