if『星に願いを、花に祈りを』投稿開始します。
冷たい光からの分岐です。
今日だけ19:15 20:15に投稿。
明日以降は8:15 19:15にそれぞれ投稿予定です。
プロローグ 冷たい雨
その日は酷い雨だった。
土砂降りの雨が窓の外を覆い尽くし、濁ったような空気が部屋の中にまで押し寄せる。
「遅い……」
外は真っ暗で、こんな天気だから月明かりさえ見えない。私は視線をスマートフォンに移し、電源を入れた。23:50。もう日付が変わりそうな時間だった。
そのままスマホを操作し、メッセージアプリを開く。たくさんのトーク履歴を遡り、目当ての人物とのトークを開く。
20:02 既読
何時に帰ってくるの
20:15
十時過ぎくらいになりそう。
20:16
大会も近いんだし先に寝てていいぞ
20:18 既読
言われなくてもそうするけど
20:19
お兄ちゃんの帰りを待ってくれててもいいんだぞ
20:20 既読
きも
20:20
泣いた
22:16
今電車?
22:50
なんで無視すんの
23:10
ねぇ
23:12
怒るよ?
23:13
お母さんにも言いつけるから
23:30
なんかあったの?
23:50
返事してよ
メッセージは変わらず返ってこない。それどころか既読さえつかない状態だ。
前にも一度こんなときがあった。お兄ちゃんが家出して、しばらく帰ってこなかったときだ。あの時も今と同じように何度メッセージを送っても返ってこなかった。結局お兄ちゃんは連絡を返さないまま三日後に帰ってきて、怒りを越えて呆れた記憶がある。その時と状況が一緒だ。
どうせあいつのことだから、スマホを会社に忘れたとかで取りに戻っているんだろう。すぐに帰ってくる。
そんなことを考えながら、でもどこか落ち着かず何度もスマホの電源を点けては消してを繰り返していると、唐突に家の受話器が鳴り響いた。
幼いころに父を亡くしてから、うちは母と兄と私の三人で暮らしてきた。母は私たちが自立できる年齢になってから仕事に復帰し、現在は海外で働いているため不在。なので、実質私と兄の二人暮らしだ。
ただ、私がアイドルをやっていて、兄がマネージャーをやってくれていることもあって、日中どころか夜も仕事で不在のことがある。だから緊急の連絡以外は、基本的にそれぞれの携帯電話に繋がるようにしていた。そのため、受話器が鳴るのは不自然だった。それにこんな時間だ。私はその電話に嫌な予感を覚えた。
「……間違い電話でしょ」
そんなことを呟きつつ、私は受話器を取る。電話先の相手は丁寧な言葉遣いをした女性だった。兄と私の関係性を聞かれ、妹だと告げると彼女は真剣な声音でその言葉を告げた。
『落ち着いて聞いてください。御堂慎二さんが、先ほど事故に合われました』
そこから先はあまり覚えていない。
気が付くと私は病院にいて、治療室の前で、ただただ立ち尽くしていた。
しばらくすると、中から白衣を着た男性が出てきた。彼は私の姿を見ると、頭を深く下げ、そしてすまないと一言だけ呟いた。
――その日、私はお兄ちゃんを失った。