星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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 if『星に願いを、花に祈りを』投稿開始します。

 今日だけ19:15 20:15に投稿。
 明日以降は8:15 19:15にそれぞれ投稿予定です。

 ※ これは二話目です。


鏡の花は芽吹く

 

 私、風見(かざみ) 鏡花(きょうか)が有希と出会ったのは、幼少期のころ行われた風見電力設立記念の祝賀会の場だった。

 

 白亜の壁に赤いカーテン、幾何学的な模様が描かれた立派な柱等、現実とは外れた装いがなされた会場で、私はお父様に連れられ、各関係者への挨拶周りを行っていた。若輩の身ながら、風見家の次代の後継者の一人となることはすでに理解していたため、そこに不満はなく、ただ自らの為すべきことのため、連れられるまま挨拶を続けていた。

 

 ただ、そこに待ったを掛けたのがお母様だった。お母様はお父様と話すと、私の手を取って、同い年くらいの少女の前に案内した。綺麗な黒髪で、鋭くとがった真っ赤な瞳が印象的な少女だった。

 

 それが、長年の友となる御堂(みどう) 有希(ゆき)だった。

 

 会話の内容はそれほど覚えてはいない。とりとめのない内容だったように思える。ただウマが合ったのだろう。彼女と話すのは、今まで話した誰よりも楽しくて、つい長話をしてしまっていた。

 

 そこから彼女との交流は続き、齢十七歳。世間で言う高校三年生の頃。彼女はアイドルになった。

 

 YU☆KI★NO。有希と、彼女のクラスメイトである斎木(さいき) 季乃(きの)が織りなすグループ。理想と現実をコンセプトに、有希のダンスの表現力と、季乃さんの圧倒的な歌唱力が特徴だった。

 

 新人大会とされるNextVenusグランプリでも善戦し、その後も着々と人気を伸ばし、そしてI-UNITYと呼ばれる対規模な大会にも参加。クォーターファイナルまで勝ち進み、当時のアイドル業界のトップの一角であるⅢXと対戦を迎え、YUKINOは棄権した。

 

 それを機に、有希は変わった。彼女が常に纏っていたダウナー気な雰囲気が鳴りを潜め、代わりに狂気とも思える笑みを浮かべるようになった。彼女の踊りもがらりと変わり、派手な動きを好むようになった。

 

 何かがあったとはすぐに気が付いた。ただ、私がそれを尋ねても彼女は何でもないよと話を逸らすばかり。

 

 私は、私自身が土俵に立ててないことに気が付いた。きっと彼女はアイドルとして何か大きな変化があった。だから、アイドルではない私では彼女に寄り添うことすらできない。

 

 ただ、そこまで理解できても私はどうすればいいかわからなかった。きっとそれは、あの日、彼女が唐突に現れるまでは同様だったと思える。

 

 

 

 

 

 その日は、夏の暑さが盛期を迎える八月上旬の事だった。風鈴の音を耳にしつつ、私は書道に徹していた。

 

 風見家の任を解かれ、自由に過ごすように言われ、早四ヶ月。私は学業をこなしつつ、いつでも風見家の任に戻れるよう芸術から帝王学まで、様々な自己研鑽に励んでいた。

 

 この書初めもその一環だ。

 

 『夢』

 

 たった一文字を書いた私は、その字を注意して見つめる。完璧にはまだまだ程遠い。修正すべきところがたくさんある。

 

「夢……」

 

 課題の一文字を書いた私は、ふとその言葉が気になった。そういえば、私にとっての夢はなんだったんだろうか。

 

 考えても何も思い浮かばない。今朝、素手で魚を取る夢は見ました、と心の中で呟いた。

 

「わぁぁぁ!!」

 

 そんなときだった。縁側の外でそんな声が響いた。高く朗らかな少女の声。屋敷では聞いたことがない声に、私は立ち上がり、その声がした方角へ足を進める。

 

 その先にいたのは、明るい茶髪をしたポニーテールの少女。彼女は屋敷の裏口に挟まるような形で、倒れこんでいた。勢いよく上げた顔から、ルビーのような赤い瞳と目が合った。

 

「ご、ごめんなさい!猫ちゃんが屋敷の中に入って行っちゃったから、芽衣も気になって覗いていたの。そしたら転んじゃって……」

 

 彼女はばさっと立ち上がると、頭を下げ口を開いた。バツの悪そうな表情、誠実に頭を下げる姿、その口調も含め、嘘や誤魔化そうといった空気は見られない。

 

 私は彼女に近づくと、髪についていた土をそっと払い落とす。

 

「お怪我はありませんか?」

 

「うん!大丈夫だよ!」

 

「そうですか。それはよかった」

 

 彼女はぽわっとした表情で私を見つめると、すぐに取り繕うように目を離し、屋敷へと視線を移す。

 

「すごく大きい屋敷だね!ここに住んでいるの?」

 

「はい、父と母、私と兄。そして使用人の方々がここに住まわっています」

 

 風見家の屋敷は母屋といくつかの離れがあり、かなりの敷居面積がある。庭園には、草木や池などが配されており、古き良き日本屋敷といった構えだ。

 

「そうなんだ!すごいなぁ。芽衣も住んでみたいなぁ」

 

 彼女はそう呟くと、はっとした様子を見せ、慌てて言葉を続けた。

 

「ごめん!自己紹介してなかったね。私、早坂芽衣!芽衣って呼んで!あなたは?」

 

「風見鏡花と申します。お好きに呼んでいただければ」

 

「じゃあ鏡花ちゃん!」

 

「構いません」

 

 距離感が近く、フランクな子だ。だけど持ち前の明るさからか嫌な感じはしない。ただ、一つだけ気になることがあった。

 

「早坂芽衣……。もしやですが、月のテンペストの?」

 

 新聞で目にしたことがある。アイドルやその界隈には詳しくはないが、その名は直近の話題で有名になっていたから聞いたことがあった。

 

 彼女は私の言葉を聞くと、苦い顔を浮かべた。

 

「あはは、バレちゃうかぁ。芽衣がここにいたのは秘密にしてて!お願い!」

 

 月のテンペスト。つい最近、BIG4というトップアイドルの一角になったアイドルだ。そのメンバーの一人が、彼女、早坂芽衣。有名人である以上、その所在が世間にバレるのはあまりよろしくないというのも理解できた。

 

「承知いたしました。ただ……」

 

 このまま帰そうとしていたが、彼女がアイドルだと聞いて、気になることがあった。もしかすると、悩みの解決する糸口になるかもしれない。

 

「私にアイドルについて教えていただけますでしょうか」

 

 芽衣さんは、私の言葉を聞いて一瞬目を丸くして、そしてすぐさま頬を上げ、喜ぶような表情を浮かべた。

 

「もしかしてアイドルに興味があるの!?じゃあ芽衣が案内してあげる!」

 

「いえそういうわけでは……」

 

 すぐさま否定の言葉を告げたが、そんな私の声は聞こえなかったようで、あっという間に手を取られ、どこかへ連れられて行く。どうしようか悩んだが、今日は特段予定があるわけではない。大人しくついていくことにした。

 

 

 

 しばらく歩き、都心のビジネス街の辺りまで来る。道中からもしかしてという思いもあったが、そのもしかしてが当たっているらしく、彼女は星見プロダクションと記載されたビルディングへと足を運ぶ。

 

 エレベーターで指定の階まで来ると、受付のボタンも押さず、私を連れ中に入っていった。

 

 道中、様々なアイドルとすれ違う。私でも知っているような人気のアイドルたちだった。彼女たちは一様に不思議そうな表情で私を見つめていた。

 

 そして、椅子に座っているスーツ姿の男性を前にして、彼女はやっと足を止めた。

 

「マネージャー!聞いて聞いて!アイドルになりたいって子がいたから連れてきた!」

 

「え?」

 

 彼はその言葉に素っ頓狂な声を漏らし、振り向いた先に居た私の姿を目にして驚いた表情を浮かべる。

 

 事態が読み込めないのは私も同様だ。ただ、とりあえず自己紹介だけしておくことにした。

 

「風見鏡花と申します。以後、よろしくお願いいたします」

 

 

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