私が告げた、アイドルになりたいとの言葉。即決はしてくれなかったものの、いくつかの面接と実技の後、正式に星見プロダクションに所属することになった。
お父様とお母様、そしてお兄様には私の口からこと細やかに説明した。お父様もお母様も背中を押してくれ、お兄様に関しては、目に涙を浮かべながら応援してくれた。そのことが嬉しくて、同時に有希も同じことを思っていたのかと思うと、胸が痛んだ。
星見プロダクションに所属するとなって、一番に行った事が引っ越しだ。星見プロではアイドルたちは一部を除き、一同同じ寮に住んでいるとのこと。各アイドル同士の日常風景を見てお互いに刺激を与えあうため、そして結束を高めるための取り組みらしい。私も反意はなかったため、それに従うことにした。
星見プロの東京寮には私を除き述べ十七名のアイドルたちが住んでいる。先日お会いした芽衣さんや、成宮さん、伊吹さん、佐伯さんも当然ここに住んでおり、私がアイドルになりここに住むことになって大層喜んでくれた。その期待に応えられるように頑張りたいとそう思えた。
全員との挨拶を終えると、ようやく荷解きを始める。荷物はそれほどなかったはずなのだが、いつの間にか段ボールの数が増えており、中からは実家から送られたきたと思わしき生活用品や便利グッズが大量に出てきた。置き場所に困ったので寮の共有スペースに置いてもらうことにした。
時間を確認すると、すでに時計の針が五を回っている。朝から作業進め、お昼はもう過ぎた。思いのほか時間が掛かってしまった。
七時からは私の歓迎会があると聞いている。せっかくだし皆集まって大々的に、とのことだったが、人気アイドルである彼女たちに全員が集まれるような時間もないことは理解していたため、丁重にお断りし、小規模で集まれる人だけで行ってもらうことにした。それでも、来たい、と言ってくれる人が結構いたが。
時間的にそろそろ準備が始まるころだろう。私も何かできることがないかリビングへと降りた。
「あ、鏡花ちゃん。まだ準備中だからもうちょっと待っててね」
リビングのキッチンでは佐伯さんがすでに食材の準備をしていた。ならば買い出しを、と思ったが、同タイミングで玄関の扉が開き、そこから一人の少女が姿を現す。
「飲み物買ってきたから冷蔵庫入れておくな~……ってあれ?」
赤みがかった茶髪のハーフツインテール。黄色のたれ目は不思議そうに私を見つめた。
「鏡花ちゃんまだゆっくりしといてええよ。準備は私たちがやっときます」
京美人らしくおしとやか声。TRINITYAiLEの鈴村優さんだ。彼女の言葉に私はかぶりを振った。
「いえ、私も手伝わせてください」
「でもなぁ、鏡花ちゃん自身の歓迎会なんよ?本人に手伝わせるのもなぁ」
「私の性分なのでお気になさらず」
「へぇ……じゃあ頼らせてもらいます」
彼女は見定めるように私を見た後、笑顔を浮かべた。合格だったのだろう。
それから私は料理や盛り付けの手伝いを行い、粗方終えた際に、寮に帰ってきた芽衣さんと一緒にリビングの飾りつけを手伝った。おかげで小規模ながら随分と派手な仕上がりとなっていた。
「色々と手伝わせちゃってごめんね。鏡花ちゃんの歓迎会なのに」
「いえ、先も申しましたが私の性分ですので。問題ございません」
「ふふ、ありがとう」
佐伯さんはそう言って笑みを浮かべた。
「今日集まるのって今いる人だけ?」
今いるメンバーは、芽衣さん、佐伯さん、鈴村さん、伊吹さん、成宮さん。私含めて六人だ。これでも良く集まった方だろう。
「さっき連絡入ってたけど、瑠依ちゃんとすみれちゃんも遅れて参加するみたいやね」
「じゃあ……えっと八人?」
「そうなりますね。お忙しい中、恐れ入ります」
「鏡花ちゃん固いよ!」
固い。私の口調のことだろう。ただ、この口調は私が物事つく前から両親に教えられた言葉遣いだ。今更それを変えられるとは思わないし、変えたいとも思わない。
とはいえだ。
うんうん、と賛同するように頷いている成宮さんを見ていると思うところがあるのも確か。この口調で怖がらせるのも本意ではない。
「……少しずつ改善します」
「あはは、慣れている口調が一番だし、あんまり無理しなくていいからね」
「伊吹さん、ありがとうございます」
「それ!それもだよ!」
「それとは?」
「さん付け!」
「あ、それは私も気になっていたかなぁ」
完全に無自覚だった。確かに星見プロの方々は皆親密な関係に見える。それはおそらく、普段の言葉遣いも要因の一つになっているのだろう。
「わかりました。以後、気を付けます」
「一回呼んでみて!」
「芽衣」
「うんうん!いいね!すずにゃんと渚ちゃんも!」
「成宮、伊吹」
「こ、怖いですわ!すずで構いませんのでやめてくださいまし!」
「なんか先生に急に当てられたみたいだね……私も渚で大丈夫だよ」
「すず、渚」
私の言葉に二人は笑みを浮かべた。これでいいということだろう。
「優ちゃんと遙子ちゃんも!」
「うちも名前でええよ」
「私もよ。気軽に遙子ちゃんでいいからね!」
「優さん、遙子さん」
「「どうして?」」
それからいくつかやり取りはあったものの平穏に事は進み、私の歓迎会は始まった。話の主役になったのはやはりというべきか、私自身で、今まで風見家で過ごしてきた日々を話した。
その代わりに、皆さんもアイドルとなって楽しかったことや、面白かったことをたくさん話してくれた。笑顔で話す彼女たちを見るに、彼女たちは皆アイドルが好きでやっているのだと改めて実感した。
遙子さんがワインを飲んで酔っ払ってしまったり、すずが盛大に転んだトラブルはあったものの、歓迎会は無事進み、途中参加した瑠依やすみれも合わさって盛大に盛り上がった。
ただ一つ、心残りがあったといえば、私自身が全力で楽しめなかったということ。
きっとそれは、心に引っかかっていることがずっとあるからだ。苦しんでいる人がいるなかで、自分だけが楽しむことを、私自身が許していないのだろう。
深夜、片付けも終えて部屋に皆寝静まった中で、私は一人決意を新たにした。