私の策は順調に功を成し、古都ことの知名度は徐々に高まっていった。ただ知名度を上げるだけでは意味がない。私を知ってもらった彼らに、夢中になってもらい、ファンになってもらう必要がある。
そのために必要なのが、ライブや交流会だ。そこでの対応で道が変わる。
だからこそ私はこの身が為せる全身全霊の力で、ライブを行った。私が願う、皆に喜びを与えたい、その一心を指先に込めて私は舞い、胸いっぱいに歌った。
そのおかげだろうか、私のファンはかなり増えた。徐々に大きなステージにも立てるようになり、そのステージでも満席になることが増えていき、更に更にと大きなステージに立つことができるようになった。
それは星見プロとしても誤算だったようで、マネージャーは笑みを浮かべつつも日に日にクマが深くなっていった。申し訳なさを感じ、お弁当を作って昼食に持っていくと彼は大層喜んでくれた。ただ、なぜか他の星見プロの子にじと目で見られてしまった。なぜだろう。
そんなこんな、私も忙しい日々を過ごしていると、突然芽衣にレッスン室に来てくれとお呼びが掛かった。
断る理由もなかったのでそこへ向かうと、手を振って出迎えてくれた芽衣と、すずの姿がそこにあった。
「鏡花ちゃん!」
芽衣は私が表に出るときはことことちゃんと、裏では鏡花ちゃんと呼び分けてくれる。無邪気そうに見えて、彼女はしっかり者だ。
「芽衣、すず、どうしました?」
「どうもこうもありませんわ!鏡花、いえ、古都こと!審判ですわよ!」
「ふむ」
よくわからない。とりあえず懐からレッドカードを取り出し、すずに上げておく。
「すずにゃん退場ー!」
「なんでですの!その審判じゃありませんわよ!!」
続けて、人差し指を上げ、回転を加えながら勢いよくドアの外を指さす。
「すずにゃんたいじょーう!!」
「競技が違うという意味でもありませんわーー!!というか、芽衣が私を呼んだのでしょう!」
「そうだっけ?」
「そうですわよ!」
全くもう、と嘆いているすずを横目に私はレッスン室を見渡してみる。
二人の他には誰も居らず、一つだけラジカセがあるだけだ。
「芽衣、私はどうして呼ばれたのでしょう?レッスンのお付き合いならば問題ありません」
「え、いいの?やったぁ!……じゃなくて、今日は鏡花ちゃんのライブについて聞きたいことがあったんだー」
「はい、なんでもお答えしますよ」
「ありがとう!えっとね……」
「単刀直入にお聞きしますわ。古都こと、あなた長瀬麻奈様を知っておりますわね」
すずは真剣な表情でそう問いかけてきた。それがどういった意味を持つのかは不明だが、彼女が本気ならば誠実に答える必要がある。
「はい。知っています」
星見プロダクションに入って、その名前は何度も耳にするようになった。星見プロの元アイドルであり、星降る奇跡と呼ばれた伝説のアイドル。琴乃の姉であり、さくらの心臓の持ち主。莉央さんのライバルだった等々、調べれば情報は沢山出てきたし、話もたくさん聞いた。
すずが麻奈さんのことを尊敬して、夢見ているというのも同様に知っている。だけど、それがどう話に繋がるのかは見えてこなかった。
「でしょうね。星見プロに入ってその名を知らないはずがありませんもの。麻奈様はアイドル業界の、いえ、全世界の人々を照らす……」
「すずにゃーん」
「めーいー、ほっぺをつねらないでくだだいましー」
すずは芽衣を叱りながらも、脱線していたのを自覚していたようで、恥ずかしげに咳払いをし、言葉を続けた。
「ともかく、麻奈様のライブとあなたのライブが似ておりますの!それは意図的にやってらっしゃるの?」
「似てる?」
長瀬麻奈のライブは映像で見たことがある。彼女と私では性格が違く、ライブで使う楽曲も演出も違う。似ている要素があっただろうか。
「芽衣も思ったよ。鏡花ちゃん見ていると、麻奈ちゃんみたいだなぁって時々思う」
「芽衣は麻奈さんとお会いしたことがあるのですか?」
「ある……な、ないよ!!」
「ふむ」
なぜ嘘をついたのか不明だが、芽衣は麻奈さんと会って話したことがあるのだろう。となると、私が似ている点は容姿や性格ではなく、その立ち居振る舞い。つまり所作に似ている箇所があるということだろうか。
「具体的にどのような箇所が似ていますでしょうか?」
「うーんとね……オーラ?」
「オーラ」
芽衣らしいざっくりとした回答だ。ただ彼女の洞察力が高いことはすでに理解できている。外れた回答ではないのだろう。
「私も感じておりますわ。ステージでの在り方が、麻奈様に似ておりますもの」
「在り方、ですか」
私がステージに立つときに思っていることは、ただ一つ。ここにいる全ての人々を笑顔にして喜ばせたいそれだけだ。それが、麻奈さんのステージでの想いに似ているのかもしれない。
「わざとやっているわけではありませんの?」
「はい。一度たりとも彼女の真似をしようとは思っておりませんので」
「そ、そうだったのですね……」
何やら勘違いさせてしまっていたみたいだ。私のライブは私だけのものだ。例え相手がどれだけ凄いアイドルだとしても、誰かの真似は絶対にしない。
「でも何でだろうねー?鏡花ちゃんが麻奈ちゃんに似ている理由って」
「さぁ?」
「鏡花ちゃんは気にならないの?」
「はい、例え誰に似てると言われましても私は私です。その芯がブレることはありません」
「おぉ!かっこいいね!芽衣も言ってみたい!」
「芽衣も十分カッコいいですよ。ステージでの姿は見惚れます」
「そう?えへへ、直接言われると照れちゃうかも」
それからせっかくなのでラジカセで私の曲を流し、お二人に見てもらうことにした。レッスンではなく、本気で彼女らにライブを見てもらうつもりで、歌い、踊った。
お二人は何度も手を叩き私を褒めてくださったが、まだまだというのは自分が一番わかっている。彼女たちのパフォーマンスにも強く及ばないだろう。
応援してくれる皆のためにも、有希のためにも、私はまだまだ強くなる必要がある。
改めてそう思えた。