星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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古都こと VS YU☆KI★NO

 

 ついにこの日は来た。古都こと VS YU☆KI★NO。私がYUKINOに挑む、ということはすでに公表しており、ファンからは各上への挑戦として受け入れられていた。

 

 Venusプログラムの順位としてはYUKINOが圧倒的に上。そう見えるのも仕方のない事だ。かく言う私自身もYUKINOのパフォーマンスの方が上だと思う。

 

 だけどそれはこれまでの話だ。このライブバトルのために仕上げてきたパフォーマンスは、星見プロダクション独自の採点AIでもYUKINOを越える点数を叩きだすことができた。だから勝てる、なんて驕る気はないが、それでも私の中である程度の自信になった。

 

 後は、私の想いを全力で見せるだけ。

 

 そんな想いを胸に、私はステージへと上がった。

 

 

 私がステージ上に上がると、たくさんの歓声と共に青白いサイリウムがぽっと光る。私の瞳の色と同じ空色だ。

 

 応援してくれる彼らに応えるため、私は手を振り、笑みを浮かべる。皆の想いは伝わっていると伝えるように、そしてその想いに少しでも応えられるように。

 

 しばらくすると、歓声は鳴りやみ、司会者が私に目を向ける。自己紹介の合図だ。

 

「皆様、お久しぶりです。そして、お初にお目にかかります。古都こと、古い都にことと書いて古都ことと申します」

 

 お客さんの反応はまちまちだ。今日の会場では、やはり私のファンより、YUKINOのファンの方が多いらしい。でもそれは想定内だ。

 

「今回のようなステージを開催いただいたこと、そしてこの場所に足を運び頂いた皆様に最大限の謝辞を。誠にありがとうございます」

 

 両手を前に重ね、浅く頭を下げる。そして言葉を続ける。

 

「新参者の身ですが、ここにいる皆様が来てよかったと思っていただけるようなそんなステージにしたいと愚考しております」

 

 アイドルにしては固い言葉だとマネージャーにも言われた。だけどこの口調は、風見家で慣れ親しんだ私の個性の一つだ。そこは変えるつもりはない。

 

 だからこそ、ここで一つ余興を入れる。

 

「皆さま、楽しんでいってくださいね」

 

 私は中指と薬指、そして親指を合わせお辞儀をするように手首を下げた。不思議そうにしているお客さんにそっと微笑んでおく。

 

 何をしているんだ?という声が聞こえてくるようだったが、そんな言葉は実際には耳にしていない。幻聴だろう。

 

 挨拶が終わった後、私は指定の場所へ立つと、対戦相手であるYUKINOの登場を待つ。

 

 司会者のムードを高める言葉の後、彼女らを呼び込む声が上がった。その言葉と共に、二人は姿を現した。

 

 黒を基調にした衣装は、フロントにスリットが入っていて彼女の長い脚がすらりと除く。胸元に覗く深紅のアクセサリーは彼女の中に潜む炎のように静かに燃えていた。

 

 彼女は黒い長髪を靡かせながら、気だるげに、いつも通りのぼんやりとした音色で口を開いた。

 

「久しぶりー。YUKINOの有希だよ」

 

 その言葉に会場が湧く。それに合わせて彼女は、彼らに応えるように手を振った。

 

 そして、もう一人。有希の後ろから少女が姿を現す。

 

「みなさまーお久しぶりでーす!元気にしてましたかー?YUKINOの季乃です★」

 

 ベージュ色のセミロングにした髪型で、丸っこく黄色の瞳。衣装は有希とは対照的に白を基調にし、フリルの付いた可愛らしいドレスだ。胸元には水色のネックレスが、ステージライトに反射して美しく輝く。

 

 彼女は人懐っこい愛嬌のある笑みを浮かべて、言葉を続けた。

 

「知っていますか皆さん!実は今日はYUKINOが結成して丁度一年なんです!記念日ですね!」

 

「あ、そうなんだ」

 

「そうなんだ、じゃないですよ!有希ちゃんは覚えていてください!明日感謝祭なんですから!」

 

 良く響く、明るい声だ。同時に場を作り出すことが上手いなと感じた。さすがは有希の相方なだけある。

 

「だからこそ、そんな記念日に戦いを挑んできた不届き者は私が成敗します!きしゃー!」

 

「はいはい、煽らないの」

 

「痛い!?」

 

 季乃さんは煽るように私を指さし、有希に頭をチョップされていた。随分と慣れ親しんだ動作だ。もう何度もこんなやり取りを続けているのだろう。

 

 でも、そんな風に煽られるのならば、私も言い返す言葉はある。

 

「有希、季乃さん、あなたたちと戦える日を私はずっと待ち望んでいました」

 

「私もだよ、こと。……あぁ皆にもわかるように説明すると、私とことはアイドルになる前からの友達でね。だから、こうやってアイドルとして戦えることが本当に楽しみだった」

 

 楽しみ。彼女がそう口に出すことは今までにもあった。それはどれもが勝負事で、侮れない相手に挑む時だ。

 

 その台詞を私に向けて言うということは、彼女が私を侮れないと認めてくれているのだろうか。だから、彼女は私がライブバトルを挑むのを心待ちにしていたのだろうか。

 

 答えはわからない。でも、有希がそう思ってくれているのならば、それに応えれるような存在でありたい。

 

「有希、全力で勝負しましょう」

 

「全力で……うん、じゃあまずはその全力を出すに相応しいか見せてもらうよ」

 

 そう言って、彼女は濁った笑みを浮かべた。狂気じみた、相手を威圧させるような笑みだ。

 

「ちょっとちょっと!私もいるんですけど!」

 

「季乃さん、でしたか」

 

「はい!あなたのアイドル、斎木季乃です★」

 

「頑張りましょう」

 

「うっす!私への興味無し!季乃は悲しいです」

 

 うえーんと季乃さんは泣き真似を見せる。事前に知ってはいたが、彼女はかなりのお調子者だ。とはいえ、悲しませるのは本意ではない。

 

「すみません。……良き戦いにしましょう」

 

「フォローになってないですよ!あなた嫌いです!ライブバトルでぶっ潰します!」

 

 むかーと言わんばかりに表情を変え、私を睨みつける。感情表現が豊かな元気な子だ。

 

 それから私たちはいくつか説明を挟み、会場を降りた。次に登るときはライブの時だ。

 

 今回のライブバトルでは私が先行だ。だから私が先にこのステージに立って、ライブをすることになる。

 

 そう思うと少しだけ不安になる。私は有希との約束を果たすためにここまでやってきた。だからこそ、このステージで私の全てを見せなければいけない。最大限の力を見せないといけない。失敗なんて許されない。

 

 会場の準備が終え、ステージに上がるように伝えられる。私は一度深く深呼吸を挟み、ステージへと目を向ける。緊張への取り組み方はすでに学習済みだ。震えが表面上に現れることはない。

 

 それでも、私の心には色んな想いが渦巻いていた。それら全てを一つ一つ認識し呑みこむと、私はステージへと足を踏み出す。

 

 古都こととして私はステージに立った。

 

 

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